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舞踏会も波乱

 



「 レティ……あの時のオルレアンの王女とのハグは…… 」

「 別に……気にしてないわ 」


 いや、気にして欲しい。


 アルベルトは不安になってレティの顔を覗き込む。

「 気にならないの? 」

「 だって何時もの事でしょ? ハグと腕を絡められてる事の何が違うのかしら? 」


 顎を少し上げて目を細める仕草が何だか怖い。


 それを言われたら……

 返す言葉も無い。


 皆は女性達が寄って来たらどうやって回避しているのか?

 アルベルトは額に手をやった。



「 それに……第1位なんだから仕方無いわ 」

「 ? 何が1位なんだ? 確か昨夜も2位がどうとかと…… 」


 おっとぉ~

 私が王子様ランキングの冊子を買ったのは内緒。

 因みに……

 アルの10歳の頃の美少年皇子様の写真を買ったのも内緒。


 レティは口を両手で隠してアルベルトのひざの上から降りようとする。

 抱っこされたまま、皇太子宮のアルベルトの部屋に連れ込まれて、ソファーに座ってもまだアルベルトの膝の上に乗せられていた。



「 何か隠しているな? 」

「 何も~ 」

 こら言え! とアルベルトはレティの鼻を摘まんだ。

 何でも無いわ!と逃げるレティを抱き締めながら2人でキャアキャアと戯れる。


 良かった。

 怒って無い。

 アルベルトは心底ホッとした。


「 じゃあ、わたくし……仕事に戻りますわ 」

 レティは文官のスカートのシワをササッと直して部屋からそそくさとアルベルトの部屋から出て行った。


「 ? 」

 王女とのハグは怒って無い様だったのに……

 まだ何かあるのか?


 レティに少し違和感を感じながらも、嫌われていなかった事にアルベルトは安堵した。

 また、口も聞いて貰えなくなるのは耐えられなくて。





 ***




 建国祭の当日の夜の舞踏会は、招待した王族や要人達とシルフィード帝国の高位貴族達が集う宮中舞踏会。

 シルフィード帝国の貴族達による1番華やかな夜の宴である。


 両陛下によるファーストダンスが終わると……

 シルフィード帝国の若き皇太子と婚約者によるラブラブなダンスが始まる。


 しかし……

 アルベルトとレティのダンスは昨夜と同じで、ホール中をリズミカルなステップで駆け巡るダンス。

 本当は昨夜と違うロマンチックなワルツを踊る予定だったのだが……

 レティの希望で変更になったのだった。



 その後はアルベルトは来国している3人の王女達と、昨夜に引き続き踊らなければならなかった。

 王女と踊る事は重要な公務。

 建国祭のお祝いの舞踏会に華を添える為に。


 アルベルトと浮気疑惑のあるオルレアン国の王女がアルベルトの耳元で囁く。

 まるで噂が真実の様に。



「 気になる? 」

 レティのいるテーブルの椅子に股がってジャファルは、背凭れに肘を乗せてレティを見つめている。


「 皇子が公務をしているのです。何を気にする必要がありますのかしら? 」

「 でも、王女の方はアルベルト殿を狙ってる様だが? 」

「 それは我が国の皇子様が素晴らしいからですわ 」


 ジャファルはこの上なく嬉しそうな顔をする。

 こんな風に女性とポンポンと会話をする事が楽しい。

 母国ではまず無い事なので。



「 そなたに私の妃になって欲しいと言ったのは、女性の地位の向上の為の魁となって貰いたいと思ったからなんだ 」

 ジャファルはそう言うと熱く語りだした。


 サハルーン帝国の女性達の地位がシルフィードや他国に比べて低い事を嘆いた。

 そして……

 国の代表である皇太子妃が頭脳明晰で、文武両道なら女性達の目標になるとだろうと。




 そんな風に、すっかりと話し込んでいる2人にアルベルトは気が気では無い。


 ダンスの間はパートナーを見つめると言うマナーを完全に忘れて、顔を寄せ合って話している2人を見つめる。

 およそ皇子様らしく無い所作である。


「 アルベルト様? ワタクシがジャファル皇太子のお相手を務めましょうか? 」

 王女はクスクスと笑ってアルベルトの耳元で囁いた。


 彼女は昨夜、ジャファル皇太子がレティに求婚したと言う話を聞いていた。

 昨夜のアルベルトとの最後のハグで彼女は吹っ切れていた。

 最後のハグはそれなりに効果はあった。



「 えっ!? 」

「 ワタクシがダンスを申し込めば、彼はワタクシと踊らずにはいられないわ 」

 驚いたアルベルトに王女は自信たっぷりに微笑む。


 そうだ!

 ホスト国だから、舞踏会の華を添える為に俺が王女と踊るのだが……

 他国の王族同士が踊るのも有りだ!


「 そなたの意のままに 」

 そう言ったものの……

 内心ではジャファルと仲良くなってくれればと、アルベルトは願ったのだった。



 アルベルトとのダンスが終わり、カーテシーをした王女がジャファルの元へと向かった。


「 ジャファル様。ワタクシと踊っていただけますか? 」

 ジャファルとレティは王女を見た。


 王女はジャファルに向かって右手を差し出していた。

 女性から手を差し出されれば、手の甲にキスをしての挨拶をするのはこの世界では当然のマナー。


 だけど……

 ジャファルは無視をしてレティの手を取った。


「 今からリティエラ嬢と踊るのだから邪魔をしないで貰いたい 」

「 なっ! 」

 みるみると顔が真っ赤になる王女。


「 ワタクシの手を取るのがマナーですわ 」

 王女はジャファルの腕を掴んだが、その手を凄い勢いで払われた。


 その勢いで倒れそうになった所を……

 アルベルトが抱き抱える。

 豪華なドレスにハイヒールを履いているのだから、1度バランスを崩したら倒れてしまう。



「 ジャファル殿! 王女……いや、女性に対するその態度は捨て置けないぞ! 」

 アルベルトの怒気を孕んだ声が響き渡る。


 ホール中の人々の目が4人に集まった。

 丁度ダンス曲が終わったタイミングと重なり、辺りはシンと静まり返った。



「 嫌な事は嫌だと態度で示しただけだ! 私はアルベルト殿と違うからね 」

 ジャファルはレティの手を握りながら、レティの手の甲に唇を落とした。


「 なんたる侮辱……ワタクシに恥を掻かせるとは…… 」

 王女は目に涙を滲ませガクガクと震え出した。


 王女をこのままにしては置け無い。

 レティを頼むと、近くで護衛をしているエレナ騎士に目配せをして、アルベルトは王女の肩を抱いた。


「 取りあえず場所を移動しましょう。送ります 」

 後から侍女がハンカチで目頭を押さえながら2人の後を追い掛けている。

 主君が侮辱されたのが悔しいのだろう。



 人々は騒然となった。

 楽士達も楽器を弾かずに成り行きを見ている。


 いくら帝国の皇太子でも……

 王女にあんな態度は如何なものなのかと。

 我が国の皇子のそんな態度は見た事が無い。



 そんな会場のざわめきなど無視をしてジャファルは悪びれずにクックッと笑う。

「 あらら……素敵な皇子様は、婚約者のそなたより王女を取ったんだね。アルベルト殿は誰にでも優しいねぇ~ 」


 ジャファルは気分直しに今から踊ろうと、ずっと握っていたレティの手を引いた。



 そう……

 ローランド国のウィリアム王子も、グランデル王国のアンソニー王太子も……

 レティの知る王子達は皆、高慢で横暴だった。


 ジャファルの様にあからさまな態度こそしなかったが。

 多分王子と言う人間はそうなんだろう。


 だけどアルは違う。

 女性達に本当に優しく接する。

 あの様相で優しくされたら……

 誰もが恋に落ちる事を分かっているのだろうかと思う程に。


 それが嫌だな~って思っていた。

 私の男に手を出すなと言ってしまうのもそんな思いから。


 でもね。

 女性の手をいきなり振り払ったら、か弱い彼女達は倒れてしまうわ。

 ジャファル皇子……貴方が何時もしてる様に。



 そんな皇子は嫌だ。


 臣下として、か弱き者に優しく出来ない皇子なんか敬う気になんてならない。

 だからこそ……

 我が国の皇子様は国民にこれ程愛されているのだろう。


 そう……

 優しい皇子様だから……

 私はずっとずっと……

 3度の人生でもお慕い続けたのよ。



 そして……

 レティはアルベルトとジャファルの決定的な違いを知ってしまった。


 侍女達の通訳の合間に、ドラゴンの討伐の時の事をもっと詳しく聞きたくて、ジャファルに質問をした。


 だけどどうも話がチグハグなので追求したら……

 彼はドラゴン討伐には行かなかったと白状した。


 対外的には皇太子がドラゴンを討伐した事になっていたが。


「 私が危ない目に合う訳には行かないだろ?私は皇太子だよ?何の為に騎士や兵士達がいるのかい? 」

 守られる存在である自分が尊いのだと、当然の様に開き直った。



 確かにそうだ。

 平常時なら守られて当然の立場。

 我々は皇族を守る為に存在してるのだから。(←レティは騎士)



 だけど……

 我が国の皇子は昨年ドラゴン討伐に出向き、ドラゴンの首を切り落とせなくて苦戦している騎士達を押さえて……

 皆を守る為に、国を守る為に……

 残っていない魔力を剣に込めて、ドラゴンの首に気を失う程の一太刀を浴びせたわ。


 3度目の人生でも……

 ガーゴイルの討伐に向かって出陣した。


 同じ帝国の皇太子でもこんなにも違う。


 国が危険に晒された時に、真っ先に矢面に立ってくれる頼もしい皇子だからこそ、我々は彼を敬い守るのだ。



 そしてアルは……

 学園で暴漢に襲われた時に……

 私を助ける為に真っ先に駆け付けてくれた。

 ローランド国でジャック・ハルビンの手下に襲われた時も、前に出て1人で戦ってくれた。



 この糞皇太子とは……


 比べるまでも無い。



「 何が……女性の地位の向上よ? 」

「 !? 」

 レティはジャファルに取られていた手を思いっきり払った。

 ジャファルは少しよろめいた。

 毎朝剣を振り、弓矢を射るレティの腕っぷしは強かった。



「 さっきわたくしに言ったのは戯言なの? 」

「 何を…… 」


「 自分が1番女性を蔑視しているくせに綺麗事を並べるんじゃない!! 我が国の皇子様は優しいわ。優しくて何が悪いの? 女性を大切にして、思いやってくれて、尊重してくれる素敵な皇子様だわ。それから……国民が危険に晒された時は、身を投げ出して矢面に立ってくれる皇子様よ! 貴方みたいに高みの見物などしないわ!そんな素敵な皇子様からわたくしが離れるとお思い? おととい来やがれ! 」


 レティは拳を握り締めて足を一歩前にダンと出して……

 凄い勢いで啖呵を切った。

 ジャファルを睨み付ける瞳はこれ以上は無いと言う冷たい瞳で。

 それがまたゾッとする程に美しくて。


 ジャファルは青い顔をして……

 口をパクパクとさせている。

 口でレティに勝つものなどいやしない。



 うわ~

 やっぱりキレてる。


 アルベルトは王女を彼女の国の護衛騎士に渡して直ぐに引き返して来た。

 すると……

 ホールの真ん中でジャファルと対峙する様に啖呵を切っているレティがいた。



「 ジャファル殿! 彼女の発言は全て私が責任を持つ。それにこの娘は絶対に貴殿には渡せない。私の妻になる女性だから! 」

 アルベルトはレティを抱き寄せ、キッパリと拒絶の言葉を口にした。


 だけど……

 おととい来やがれは皇子に対して不敬だよと言いながら、レティに『めっ』とした。


「 ご免なさい……言い過ぎました 」

 レティは素直にジャファルに頭を下げる。



「 良いね。若いって……本当に熱い熱い 」

 皇帝陛下の声が響いた。


「 ジャファル殿、うちの嫁を許してやっておくれ。それに……そなたは今、何をすべきか分かっておろうの? 」

 固唾を呑んで成り行きを見ていたホールの人々が、皇帝の言葉に安堵する。


「 さあ、楽士達よ、音楽を奏でておくれ。我々は建国の夜をまだまだ楽しもうぞ 」

 皇帝陛下が片手を上げて楽士達に合図をした。


 音楽が流れると皆は踊り出した。

 皇帝陛下の声は国民にとって絶対的である。



「 父上……お騒がせして申し訳ありませんでした 」

 アルベルトとレティが皇帝に頭を下げると……


「 退屈な舞踏会が盛り上がればそれでよい 」

 皇帝もお祭り好きだった。


 ジャファルは、苦虫を潰した様な顔をしながら皇帝陛下に頭を下げると直ぐにホールから出て行き、アルベルトも皆の視線から逃れる為にレティを連れてホールを後にした。



「 有り難うレティ。僕の事をあんな風に言ってくれて…… 」

「 ………… 」

 手を繋いでゆっくりと庭園を歩く。

 レティの可愛い手の消毒は先程気の済むまでやった。



 またやってしまった。

 今度は帝国の皇太子殿下相手に……

 レティは叱られて耳が垂れた仔犬の様にシュンとしている。


「 外交問題にならない? 」

「 大丈夫だよ。今頃ジャファル殿は王女に謝罪に行ってるだろうね。彼も馬鹿では無い 」

 そう言ってアルベルトはレティに向き直る。


「 ハグして良い? 」

 レティはコクンと頷いた。


 優しく愛し気にレティを抱き締める。

 間違った噂を掻き消す様に……

 愛し合う2人は黙ったまま長い間抱き締め合った。



 2人がホールに戻ると……

 ジャファルとオルレアン王女が踊っていた。

 楽しげに笑い合いながら。


「 良かった……仲直りしたんだわ 」

「 僕らも踊ろう! 」

「 ………… 」


「 レティ? 」

「 私はもう帰ります。明日は学園だし…… 」


 時間を見れば……

 まだそんなにも遅い時間では無く、デビュタントの令嬢や学園生達も、楽し気に踊ったりお喋りをしたりしている。



 色々あって疲れたのだろう。

 ダンスが大好きなレティが踊らずに帰ると言うのだからよっぽどだ。


「 分かった。じゃあ送って行くよ 」



 こうしてレティの建国祭は終わったのだった。









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― 新着の感想 ―
[良い点] レティがブチ切れたところ。ジャファルは横暴すぎましたね(-_-;) [一言] アルベルトの良い点をレティもちゃんとわかっているのがいいです。ただの見た目だけじゃなくて。王女とくっついちゃう…
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