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火種

 



 今宵の舞踏会でアルベルトと踊る予定をしているのはナレアニア王国の王太女と第2王女とオルレアン国の王女。


 ナレアニア王国の姉妹王女は3年前にオルレアン国の王女は昨年のシルフィード帝国の建国祭に来国している。



 ナレアニア王国の2人の王女達は……

 魅了の魔術師兄妹に国をめちゃくちゃにされた事で、彼女達の運命は大きく変わった。


 第1王女を王太女にする事で国も安定し、改めてシルフィード帝国の後押しを貰うために、王太女として妹はその補佐として皇帝陛下に挨拶に来たのであった。 


 彼女達はもうただの王女達では無い。

 国を担う為の覚悟を持って、皇帝陛下やアルベルトとも会談をし、アルベルトも自分と同じ立場の彼女達と未来を語り合う事が出来た。


 次世代の関係はこれから始まる。



 だけど……

 もう1人の王女オルレアン国の王女は昨年にしっかりとフラれたにも関わらず、まだアルベルトに心を残していた。


 もう、アルベルト様の妃になる事は望まないけれども。

 最後に……

 もう1度お会いして、そのアイスブルーの綺麗な瞳にワタクシを映して貰いたい。


 わたくしが誰かのものにならないうちに。

 アルベルト様が誰かのものになってしまう前に。


 人の想いの断ち切り方は人それぞれであって。



 アルベルトとのダンスで熱い視線を送る。


 本当に……

 なんて美しいお顔なのでしょう。

 そして……

 その綺麗な瞳に今、ワタクシがいるのだわ。


 やっぱり……

 こんなにも胸が高鳴るのは貴方だけ。


「 アルベルト様……この後少しお話をしてもよろしいですか? 」

「 ………分かった。時間を作ろう 」

「 有り難うございます 」



 王女と踊り終わると彼女をエスコートしながら庭園に出た。



 アルベルトは少し前にレティがいない事に気付いていたが……

 お手洗いまで同行出来るエレナを就けていたので少し安心していた。

 昨年の襲撃事件の事もあって……

 レティは嫌がるであろうが、問答無用で。


 王女との話が終わったら……

 もう1度レティと踊ろう。



 沢山の要人達がライトアップされた見事な庭園を楽しんでいる。

 その中を飲み物を持ったスタッフ達が忙しそうに行き交っていた。


 少し静かな場所で足を止め王女と向き合った。

 王女が胸の前で手を組みアルベルトの目を見つめて話し始めた。


「 アルベルト様……ワタクシを妃の候補にして頂くと言う考えは今もありませんか? 」


 婚姻者の卒業を待っての結婚ならば……

 もうとっくに成婚の日が発表されている筈。


 王族の婚姻でも1年前には発表される。

 ましてや帝国の皇太子の成婚の日が1年以上前から発表されるのは当然の事だった。

 なのにまだ正式な発表は無い。

 そして……

 つい先日は従兄妹との婚姻の噂も流れた。


 もしかして……

 何か不都合な事があったのかと……

 婚約破棄に至る何かがあったとか。


 物事は常に自分の都合の良い様に考えてしまう事は当然な事で。

 自分中心に生きてきた王女ならば尚更。



「 昨年も言った通りに、私は君の想いには答えられない 」

 きっぱりと断言したアルベルトを見つめて、両手を胸の前で組む王女の手が震えた。


 やはり……

 諦めなければならないのね。

 僅かな希望を持って遥々この地までやって来たのに。



「 分かりました。これで貴方への想いを断ち切る事が出来ます 」

 2人の間に短い沈黙が流れた後に……

 王女は意を決した様にアルベルトを見つめた。


「 最後にワタクシをハグして貰っても宜しいですか? 」


 アルベルトは静かに頷いて……

 そっと王女を抱き締めた。



 王女とのハグはアルベルトにとっては何でも無い事であった。


 過去に何度もこのシチュエーションをやり過ごして来た。

 これで穏便に行くのならと。

 そして……

 実際には多くの女性達は納得して去って行ってくれた。


 別にお付き合いをした訳でも無いのに……

 多くの女性からこれをやられるのだ。


 最初も途中も何も無いのに、何故最後にと言われるのかは理解しかねるが……

 それでも縁があって知り合ったのだから、それで彼女達が納得してくれるならハグ位はお安いご用だ。


 中には……

 最後にキスをして欲しいと言う要望もあった位なのだから。



 アルベルトからハグされたオルレアン王女は、アルベルトの腰に手を回して逞しい胸に顔を埋めた。


 その時……

 王女はニヤリと笑う。



 フフフ……

 あの顔。

 ショックを受けた顔をしていたわ。

 ざまあみろだわ。


 世界中が欲するアルベルト様を公爵令嬢ごときの貴女が一人占めにするんだから……

 貴女もこんなペナルティを受けるべきよ。


 王女は自分なりのざまあをした。

 何の罪も無いレティに。


「 では……アルベルト様……ごきげんよう 」

 オルレアン王女はカーテシーをして上機嫌で立ち去って行った。

 大体王女とはこんなもので……


 レティとグレイが歩いて来るのを見ていたのは王女。


 アルベルトと向かい合った時に、遠くから騎士にエスコートされて歩いて来るレティを見付けたのだった。

 彼女の頭にある燦然と輝くティアラで、歩いて来るのは公爵令嬢だと直ぐに分かった。




 王女が立ち去ってホッとしてふと見ると……

 レティとグレイの後ろ姿があった。


 えっ!?


 何故レティがグレイにエスコートをされているのか?

 いや、騎士なのだから令嬢をエスコートするのは当然だ。


 だけど……


 自分が王女にハグをしてるのを見られた事よりも、レティとグレイが2人でいる事にショックを受けた。


 アルベルトにとって王女とのハグは何でも無いただのシチュエーション。

 それはただの動作に過ぎないのだから。





 ***




 レティはグレイに話したい事があり、ホールに戻るには少し遠回りの庭園を通るルートを選んで歩いて来ていた。


 話したいのは弓矢の事。

 オリハルコンで弓矢を作って貰う事になった経緯をグレイに話したかった。


 レティにとってグレイは剣の師匠であり、弓矢の師匠でもあるのだから。

 今生でもグレイは騎士クラブで弓矢の指導している師。

 時には部員達に剣を教える事もある。



 視線の先にある木々の間に何やら人影が見えた。

 近付いて行くとその影の正体が明らかに。


 黄金の髪がランタンの光に揺れ、背の高いその後ろ姿は間違える筈もない自分の婚約者。


 こんな所で何を?

 もしかして……

 私を探しているの?


 声を掛けようとした時に……

 婚約者の前に誰か人がいるのを見て取れた。

 横を歩いているグレイも話を止めてレティと同じ方向を見ている。


 彼の前にいるのが赤いドレスを着た女性だと気付いた時に……

 彼はその女性を抱き締めた。


 その女性は背が高く逞しい婚約者に隠されて顔が見えない。

 だけど……

 オルレアン王女だと分かる。

 彼女は真っ赤のドレスを着ていたのだから。



 何?

 アルと王女は抱き合っていたのよね?

 ひと気の無いこんな場所で……


 自分の目を疑った。



「 ……… 」

 グレイは言葉が出なかった。

 レティに声を掛けたくても掛けられない。


 主君の醜態……

 いや、これは何と言うか……

 どんな時も主君のなさる事が唯一。

 それが騎士。

 しかし……

 何故こんな場所でリティエラ様以外の者と抱き合っているのか?


 何時も冷静なグレイが頭の中がパニックになっていた。

 声を掛ける所かレティの顔も見られない。


 さっきまでは……

 弓矢の話に花が咲いていたが、2人は無言でアルベルトの横を通り過ぎるしか無かった。




 ***



 

「 エスコートを有り難う 」

「 どう致しまして…… 」

 ホールまでレティを連れてきたグレイは一礼をした。


「 リティエラ様……さっきのは……きっと何か理由があると 」

「 ええ……分かっているわ 」

 レティはニッコリと笑った。


 その笑った顔が今にも泣き出しそうで……

 彼女に手を差し伸べて抱き締めたい。

 慰めたい。

 そんな気持ちを残してグレイは去って行く。



 駆け寄って来た護衛騎士のエレナと、もう1人の護衛騎士にグレイは何やら話をしている。

 レティを見失った事を注意しているのだろう。

 2人はグレイに頭を下げた後にレティの元に駆け寄って来た。


「 ドゥルグ隊長とご一緒でしたか…… 」

「 ご免なさい。少し風に当たりたかったの 」

 かなり探していたのか彼等は安堵の顔をする。


 ホールを見ると一般のダンスが始まっていた。

 デビュタントの令嬢達がぎこちなく、そして初々しく踊っていた。




 レティは壁際に用意された空いている椅子にぼんやりと座った。


 王女とキスをしていたと言う話を聞き、今は自分の目の前で王女と抱き合っているのを見た。

 相手は違うが。


 1年前の出来事と……

 今、実際に見た出来事が頭の中をグルグルと駆け巡る。



 庭園なんかに行かないでさっさと戻れば良かった。

 そうしたら……

 あんな場面に遭遇しなかったのに。


 グレイ班長の言うとおりに何か訳があるのだろう。

 それは分かっている。

 あの……

 魅了の魔術師の事件の時にもちゃんと理由があったのだから。


 あれよりはマシか……

 そう思いつつも心の中が冷たくなっていく。


 見たくなかった。



 レティはため息をついた。


 前を見ればジャファルがこちらに向かって歩いて来るのが目に入った。

 ニヤニヤとして。


 そしてレティに手を伸ばした。

「 わたくしと踊って頂けませんか? 」

「 ……… 」


 公務では無いのでレティとジャファルのダンスの予定は無かったが……

 ジャファルがレティにダンスを申し込むのは想定内だった。

 公務以外では誰とダンスを踊るのも自由なので。


「 はい、喜んで 」

 レティはジャファルに手に自分の手を添えた。



 ジャファルの前でドレスの裾を持ちお辞儀をして、2人は身体を寄せあった。


 ダンスが始まると……

 ドアップになった変な眉毛にイライラして来た。

 確か私を拐うと言ってたわよね。


 レティはジャファルが何か言う前に、医学用語や薬草の事をペラペラペラペラ喋り倒した。

 もう、それはそれは知識をひけらかした。


 男は頭の良い女よりも、少々馬鹿な女を好むものだと劇場のお姉様達が言っていた事を思い出して。


「 あら? 殿下には難しかったかしら? 」

 そんな言葉を所々に挟みながら。


 フフフ……

 嫌がれ嫌がれ!

 私は可愛げの無いこんなに頭でっかちな女なのよ。

 ミレニアム公国の医師達にも言われたんだから。(←根に持っている)



 喋り続けるレティにジャファルは困惑した様な顔をしていた。

 真面目な顔をすればやはり王子様ランキング第2位の顔だった。

 何で眉毛を細くしてるんだろう?

 サハルーン帝国で流行っているのかしら?



 何だかスッキリしたレティはジャファルに最大級のカーテシーをした。


 ドレスは見事にふわりと広がり、床スレスレまでしゃがみ込むレティのカーテシーはそれはそれは美しいものだった。


「 素敵なダンスを有り難うございました 」

 生意気な女は嫌でしょ?

 では、さようなら……細眉毛殿下。



 レティが立ち去ろうとしたら……

 ジャファルがレティの手を取った。


 そしてレティの前に跪いた。

 レティの手の甲に唇を寄せる。


「 リティエラ嬢。私の正妃になって頂けませんか? 」


「 えーーーっ!! 」



 2人のダンスに注目していたホールも大変な騒ぎになった。



 殿下は?

 皇子様は何処にいるんだ!?


 皆がキョロキョロとアルベルトを探した。



 いない……


 大事な婚約者を奪われそうなのに何処へ行かれたのだ?



 殿下ーーっ!!!






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― 新着の感想 ―
[一言] わーーっ! アルベルト!肝心な時にっ! そういうところだぞっ!
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