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彼女の聞きたい事

 



「 私の婚約者のリティエラ・ラ・ウォリウォール公爵令嬢だ 」


 鳩が豆鉄砲を食った様な顔をしたジャファル皇太子にカーテシーをする。


 ジャファルを見つめながら……

 レティはその美しい顔でニヤリと笑った。

 悪い顔はぞっとする程に美しい。



「 き……君は…… 」

「 先程まで文官をしておりました。リティエラ・ラ・ウォリウォールでございます 」


 さあ!

 どう出る糞皇太子め!



「 失礼しました。そなたの美しさに……言葉を失ってしまいました 」

 ジャファルは柔らかな笑顔をレティに向けて……

 レティの手を取り、手の甲にキスを落とした。



 何かある。

 何だ?

 アルベルトはジャファルの眉毛に吹き出しそうなのを堪えて……

 2人を交互に見た。



「 わたくし……皇太子殿下にはお伺いしたい事がございますのよ 」

「 ほう、それはどの様な事で? 」

「 ドラゴン討伐の事、絹の生産の事、そして……ある人物の事でございますわ 」


 ジャファルはレティを見ながら目を眇めた。

「 よかろう。明日時間を取らせよう。私も話したい事がある 」

「 有り難うございます 」

 レティが頭を下げるとジャファルは笑いながら去って行った。

 それはもう楽しそうに。


 レティもつられて笑う。

 あの顔……驚いてたわ。

 ホホホホ……



 ホホホホ……

 まだ笑っているレティの手をアルベルトが引っ張って行く。

 行き交う人々が頭を下げる。

 そろそろ立食パーティーも終わる時間なので、帰宅する人々が廊下に出て2人を見ている。


 階段下まで来ると、アルベルトはレティを抱き上げて一気に駆け上がって行く。


 舞踏会では無いので豪華なドレスでは無いが、そこそこのドレスを着てるレティを片腕で抱き上げて、階段を駆け上がって行く様は格好良いの何者でも無い。

 皇子様はどれだけ鍛えているのか……


 階下では2人の行く先を目で追いながら……

 相変わらず仲のよろしい事で何よりだと口元を押さえて人々は微笑んでいた。




 怒ってるわよね。

 勘の良いアルなら……

 何かあると思う筈。


 そのまま皇太子宮の自分の部屋までレティを運ぶ。

 そう、これは運んでいるのだ。

 厄介な荷物を。



「 さあ、レティ。ジャファル殿と何があったのか聞かせてくれ! 」

 レティをそろりとソファーに下ろす。

 宝物を下ろす様に……


 そして直ぐにタオルでレティの手をゴシゴシと吹いてキスをした。



 レティとジャファルがサロンで話をした事は、護衛騎士達の報告書で明日には知られる事になる。


 なので話す事には抵抗は無い。

 だけど……

 何処までアルに言えば良いのか。

 糞皇太子に正妃にと狙われて、拐われ様としてるとは今は言えない。


 アルベルトはまだレティの手にチュッチュとキスの消毒をしている。



 この和やかな雰囲気を台無しにはしたくない。

 後から叱られ様とも。

 昨年は……

 あんな事があったのだから。


 糞皇太子は……

 私が皇太子の企みを知った事を知ったので、改心するかも知れない。



 レティは、昨年の温泉施設への視察の時に、ドゥルグ領地のジャック・ハルビンの店にいた変な外人がジャファル皇太子だと言う事を話した。


「 !?……そうだ……あの変な外人だ! 何処かで見た事があるとずっと思っていたんだよ 」

 あの時のジャファルは髪を長く伸ばしていて、レティも今の短髪なジャファルとは気付かなかった。


 あんな場所で、あの胡散臭いジャック・ハルビンと一緒にいるのが皇太子だとは思わないのは当然だ。


 胸のつかえが取れたとアルベルトは胸を撫で下ろした。



 それから……

 サハルーンから来た10人いる侍女の内の3人が側妾だと言う事も話す。


「 それは……侍女が側妾になったのか……側妾を侍女にしたのか? どちらなんだろうか? 」

「 えっ!? 気になるのはそこ? 」

「 いや……じゃあジャファル殿はもう3人も妻がいるんだね 」

 ちょっとホッとした様な顔をする。



「 あいつは父上や母上の前で言ったんだよ。君に求婚するかも知れないって 」

「 ええええ!! 」

「 まあ、冗談だろうけれどね 」

 アルベルトはそう言って笑った。


 あの糞皇太子は……

 両陛下やアルの前でそんな事を……

 冗談じゃ無いから笑えない。



「 それだけ?」

「 それだけ 」

 綺麗な顔が覗き込んで来る。

 まだ何か隠してる様だと言って。


 アルベルトから目を反らすレティが、分かりやす過ぎて笑いが込み上げて来る。

 隠している事は気になるが……

 また追々聞けば良いだろう。



「 明日、ジャファル殿と会うの? 」

「 ええ……ドラゴンの事とか……絹の事とか……後はジャック・ハルビンの事も聞きたいの 」

 ねぇ……

 会っても良いでしょとレティはおねだりの顔をする。


「 分かった……後から僕にちゃんと話の内容を教えるんだよ 」

 アルベルトは両手でレティの頬を覆い、オデコをコツンと合わせた。

 どの話も興味がある話だった。

 



 ***




 アルベルトはレティとジャファルの話の場を、正式な会談として扱う事にした。


 サハルーン帝国の皇太子とシルフィード帝国の皇太子殿下の婚約者の会談だとして。


 そこに……

 なんとラウル、エドガー、レオナルドを同行させた。


 レオナルドは通訳として。

 総務省にいるラウルは記録官として……

 エドガーにも文官の服を着せてレティのすぐ側にいさせた。


 3人に、この興味深い話を聞いて貰いたかった事もあって。

 ドラゴン、絹、ジャック・ハルビン。

 どれも帝国の未来に関わる話。



 そして……

 レティの護衛にエレナが就けられた。

 彼女は騎士クラブの先輩。


「 今日と明日の2日間。リティエラ様の護衛を仰せつかりましたエレナ・ラ・マコールでございます 」

「 エレナ先輩…… 」

「 リティエラ様。ここでは先輩は無しですよ 」


 アルベルトにも思う事があったのか、お手洗いにも同行出来る様にと考えての事だ。


 何時もならとても嫌だが……

 ジャファルに狙われている今回は正直言って有難い。

 1人でも闘う事は出来るが……

 やはりどんな時も誰かが側にいるのは安心出来る。



 レティは今生では騎士にはならない。

 だから……

 どうしても彼女の姿に自分を重ねてしまう。

 彼女の騎士としての振る舞いに何だか涙が出そうだった。




「 ドラゴンを討伐した時の事をお聞かせ下さい 」


 会談はレティとラウル達3人。

 ジャファルは側近と何故だか侍女を連れて来ていた。


 ドラゴンは火を吹く赤いドラゴンで近付く事も出来なかったそうだ。

 人々は逃げ惑う中……

 日中は火を吹きながら街を焼き付くし、破壊して……

 空を飛び、海からやって来たドラゴンは皇都までの街を焼き付くしながら進み、皇都で暴れた後に夜になると山に消えて行った。


 もうここで殺るしかないとドラゴンを追い掛け、大きな洞窟で眠っているドラゴンを発見した時は歓喜したらしい。

 そして……

 洞窟に蓋をして蒸し焼きにし、窒息させて弱らせた後に首を切り落とし絶命させたのだと言う。



 やっぱり……

 赤い火を吹くドラゴンだった。

 最強のドラゴン。


 皆で青ざめた。

 特にレオナルドは真っ青になっていた。


 あの時……

 アルベルトがディオール領地にいなかったら

 旅先でアルベルトに出会って無かったら。

 ディオール領地から皇都に至るまで、どれだけの被害が出ていたか。


 人類最強だとされる雷の魔力を持ったアルベルトでさえ、命を掛けてドラゴンの首を切り落としたのだ。


 そして……

 あのドラゴンが火を吹くドラゴンで無かった事もラッキーだった。

 あれが火を吹くドラゴンだったならどうなっていたか分からない。




 次は絹についてだ。

 これは侍女が話してくれた。

 前もって聞きたい事を伝えていたからか、ジャファルは絹に詳しい者を連れて来てくれたのだった。


 サハルーン帝国の女性は大概が機を織るのだと言う。


 絹はシルクワームと言う虫が繭を作る際に口から吐き出される糸から作られ、その蚕を育てる農家があると言うのだ。



「 我国に招待をするよ。来年にはその方がサハルーンに来て我が国の特産を視察をすれば良い 」

 何なら我々が帰国する際に一緒に行くのも悪くないよと言う。

 ジャファルの金色の瞳が妖しく光る。


 行きたい!

 シルクワームと言う虫。

 繭から糸を紡ぐ様を見てみたい!

 絹の機織りも……


 もう、全てがレティの興味のどストライク。



 レティの目が輝いたのを見てラウルが口を挟む。

 記録係の文官なのに口を挟む。


「 お前は学園があるだろ? 」

「 文官は口を挟むでない 」

「 俺はこいつの兄だ! 」

「 じゃあ、そなたはウォリウォール公爵の息子か? 」

「 ああ…… 」


 成る程。

 よく似ている。


 ジャファルは2人を観察した。

 一筋縄ではいかない顔をした兄妹だ。



「 来年には行っても良いですか? 」

「 レティ! 勝手な事を言うな! 」

「 だって…… 」

 ラウルだけでなく他の2人にも叱られた。


 サハルーン帝国に拐われるかも知れない事を、すっかり忘れてしまっていたレティだった。



 コホン……

 レティは姿勢を正して興味深そうにレティを見つめるジャファルに向き直った。


「 では……ジャック・ハルビンとはどう言う関係ですか? 」

「 友人だが? 」

「 彼は胡散臭いですよね 」


 ジャファルがクックッと笑う。

「 確かに……彼は胡散臭い 」



「 皇太子殿下が変装をしてシルフィードのドゥルグ領に来られていた理由を聞いても良いですか? 」

「 お忍びなら、そなたの婚約者もローランド国に行ったんじゃ無いの? そなたにプロポーズする為に 」


 これは発表されてる事だから否定のしようも無い。


 私も彼女にプロポーズをしに行ったんだよと横に座る侍女の肩を抱いた。

 侍女……いや、側妾の顔は綻んだ。


 この嘘付きめ!

 彼女は外国に来たのは初めてだと昨日言ってたぞ!



 結局……

 ジャック・ハルビンの事は胡散臭い男だと言うだけに終わった。




 ***




「 サハルーン帝国もドラゴンが海を渡って来たのか…… 」

「 ちょっと変だと思わないか? 」

「 ドラゴンが海を渡る意味が分からないよな 」

「 それも同じ様な方法で帝国に来るなんて 」


 誰かがドラゴンを操ったのでは?

 ……と言う所までアルベルトを交えた5人で話をしていた。


「 誰が? 」

「 魅了の魔術師とか…… 」

 4人の話に可愛らしい声が入って来た。


「 レティ! その話は止めてくれ! 」

 ラウルが頭を抱える。


「 操ると言えば魅了の…… 」

「 レティ! 怒るぞ! 」


 ラウルはまだ引き摺っていた。

 アルベルトも気まずそうだ。


「 わたくしちょっとお手洗いに行って来ますわ 」

 ふーんだ。

 そんなに怒らなくたって良いじゃない。

 レティは口を尖らせてサロンから出て行った。


 ジャファルとの会談の内容をアルベルトを交えて話し合っていたのだった。



「 あいつ……もう何とも思って無いのかね? 」

「 アルの濡れ場を見たのに…… 」

「 エドガー! 黙れ! 」

 アルベルトが声を荒らげるとエドガーは両手を上げて肩を竦めた。


 昨年の魅了の魔術師の事件は、今も尚関係者を苦しめていた。

 それ程に人の心を操る事は罪な事だった。




 レティがパウダールームにいる時に……

 それは聞こえて来た。



「 昨年の舞踏会の事を思い出すわ 」

 喋っているのはメイド達。


「 あの爆発音が響いた時に、皇子様と王女様がホールの真ん中でキスをしてたのよね 」



 お喋り好きなメイド達。



 聞きたくも無い話が……

 知らなくても良い話がレティの耳に入って来た。









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