皇太子殿下、出入り禁止となる
「 身体が3つ欲しいってどう言う事? 」
語学クラブの帰り道、2人で並んで歩きながら殿下が聞いてきた。
「 モーリス先生から『虎の穴』の研究員にならないかと誘われたの 」
「 虎の穴? 」
「 ウフフ、皇立特別総合研究所が長たらしい名前だからね、私が付けたの 」
「 勿論、『虎の穴』に行きたいんだけれども……学園生活が出来なくなるのは嫌なのよね 」
「 私の事だから、きっと研究に没頭して『虎の穴』に籠ってしまうかも知れない 」
「 レティは、その…虎の……穴?………ちょっと言うのが恥ずかしいんだけど…… 」
「 あら、秘密っぽくてピッタリなネーミングだと思うわ 」
良いネーミングなんだから殿下も使って使って~と尻尾をパタパタする。
「 その……虎の…穴では何がしたいの? 」
まだ、言いにくそうにしている。
「 薬草学 」
「 ああ、前に図書館で本を開いていたね、薬草学に興味があるんだ? 」
コクンと頷いた。
………絶対にやり遂げなければならない事がある。
それは言えない事なんだけれども………
「 料理クラブも語学クラブも辞めたく無いし……… 」
「 出来れば週一位で行ければ良いのだけれども………そんな片手間では直ぐに追い出されちゃうわよね 」
「 なる程………」
そう言うと殿下は押し黙った。
何か考え事をしている様だった。
やがて、兄の待つ馬車に着いた。
「 殿下、有り難うございました……それに、あの……寝ちゃってご免なさい 」
「 可愛い寝顔を見れたから寧ろ得をした気分だよ、じゃあね 」
殿下はおどけた様に笑った。
馬車に乗り込んだらやはり兄は眠りこけていた。
私は窓を開けて殿下に手を振った。
私にヒラヒラと手を降って………
殿下は握った手を口元にあてながら、まだ考え事をしている様だった。
***************************
語学クラブで、皇太子殿下が先生として講義していたと、学園中に知れ渡った。
その為に、何と100名近くもの入部希望者が殺到し、収集がつかないとして顧問の先生が
学園の掲示板に
『 アルベルト皇太子殿下が、今後、語学クラブにお越しになる事はありません 』
………と張り出され、アルベルトは語学クラブへの出入り禁止となったのである。
勿論、それを見た入部希望者は皆、入部を取り下げたのだが………
なので、アルベルト皇太子殿下の講義はたった1度だけの幻の講義となったのである。
その幻の講義の時間の殆んどを眠りこけていたレティは、心底後悔したのであった。
そして………
掲示板に張り出されてしまった事で
「 俺が何か悪い事をしたみたいじゃないか! 」
………と、アルベルト皇太子殿下は憤慨していたのである。




