閑話─彼女は同僚
本日は2話更新していますので
ここから入られた方はもう1話前もお読み下さい。
船での生活でも騎士達は毎朝稽古をする。
身体が鈍ってしまえば取り戻すのに苦労するのだ。
早朝に甲板にぞろぞろと集まってくる騎士達。
アルベルトが来る前に勢揃いするのは騎士として当然で。
エドガーは新米騎士だが今回は騎士としての同行では無い。
しかし……
アルベルトのすぐ側にいる者として、エドガーに求められるものは彼の警護だ。
他国である事から、その責務は余計に確固たる物にしなければならない。
どんな時でも対処出来る様にと、第1部隊の隊長がエドガーの訓練の参加を要請した。
今回の護衛には第1部隊の隊長と第1班の10名が同行している。
またもや第1班の同行で、第2班の騎士達が嘆く姿が目に浮かぶ。
仕方無い。
第1班には班長のグレイがいるのだから。
皇宮騎士団第1部隊は騎士ならば誰もが憧れるスペシャル部隊。
エドガーはその立場から第2部隊の所属だが、第1部隊に憧れない訳がない。
一緒に訓練をさせてくれる事に張り切っていた。
今までも親の特権をいかして何度も騎士団の訓練に参加させて貰った事はあるのだが、第1部隊の訓練に参加をするのは初めての事。
そして……
張り切っている者がもう1名。
アンソニー王太子との決闘の時にアルベルトから渡された騎士服を着て、騎士団の訓練に参加しようとしている。
騎士服を着て現れたレティの姿にみんなはギョッとするが……
スタスタと歩いてきて、当たり前の様にきちんと整列して並んでいる。
面白いのが並んでる順番。
ケチャップの次にレティ、その次にエドガーだった。
エドガーが憤慨している。
何故俺がレティの後なんだよと。
「 新米なんだから私の後に決まってるでしょ? 」
「 お前は新米でも何でも無いじゃないか!? 」
「 煩い! 」
レティの騎士時代の3度目の人生では、当然ながらエドガーはレティの2年上の先輩騎士である。
レティは騎乗弓兵部隊所属で、エドガーは第2部隊の所属だった事から接点は無かったが。
だけど……
レティの記憶では、彼女は3年前に騎士団に入団している。
エドガーは今年入団したばかり。
当然自分の方が先輩だと格付けをしているのだ。
そこにアルベルトがやって来た。
皆が敬礼をする中。
並び順を見て肩を揺らしてクックと笑う。
エドより先輩なんだ。
グレイも他の騎士達もエドガーより先に並んでいるレティを見て肩を揺らしている。
可愛い。
敬礼してる。
何時も俺の横にいるのが嬉しい(←byケチャップ)
お前はそこにいろとエドガーを威圧する。
レティは騎士達のアイドル。
訓練は基礎訓練。
流石に甲板の上を駆け回る訳にもいかないから柔軟を中心に。
今回は第1騎士団の隊長のブルネイも同行しているので、皆は緊張が走る。
気合いの入った掛け声と共に訓練が始まった。
基礎訓練が終わるとこの日の訓練は体術。
流石にレティは一緒には出来ないので見学をする。
駄目だ。
可愛すぎる。
アルベルトも騎士達も悶える。
レティが皆の体術を見ながら同じ様に真似をしているのだ。
あれ?
こう?
手をこうやって……
こう?
右手を前に、足を曲げ、一歩引いたり前に出たり……
皆はその可愛さに死にそうになった。
***
「 可愛いッスね~リティエラ様 」
ケチャップはレティの熱烈なファン。
いや、ロン、サンデー、ジャクソンを初め、騎士達皆がレティのファンである。
あの時に……
他国の王太子に決闘を申し込んだレティを好きにならない訳がない。
たとえ侮辱されたとしても……
手袋を投げる行為なんて騎士としても中々出来るもんじゃない。
騎士としては誰でも憧れる決闘。
それを小さな少女がやってのけたのだ。
皆は……
アンソニー王太子と死闘を続けるレティを泣きながら見ていた。
あんな小さな少女が懸命に闘ってる姿に涙を流さない騎士はいない。
あの時……
彼女は間違いなく騎士だった。
最後に喉元に剣を突き付けた時には歓喜した。
皆で号泣した。
彼女は騎士では無い。
だけど……
何だか彼女が自分達の同僚の様な気がして……
駆け付けて胴上げをしたかった。
彼女を抱き上げる殿下を見つめる事しか出来なかったが。
「 はぁ……殿下が羨ましい 」
「 俺……グレイ班長も羨ましいッスよ。リティエラ様の剣はグレイ班長の剣ッスよね?」
班長は何時教えたんですか~?とロンとケチャップがグビグビと酒を飲みながら言う。
それはよく言われる事だった。
エドガーにも言われた。
これだけ同じになる程にレティに剣の指南をしたのかと。
彼女と剣を交えたのはそれ程多くは無い。
何故自分の剣技なのかと?
だけど……
何だか嬉しかった。
殿下の剣では無く自分と同じだと言う事が。
グレイは女官達とスイーツを食べながら楽しそうに笑うレティを見ていた。
彼女との旅も明日で終わる。
読んで頂き有り難うございます。




