閑話─側近は苦労する
クラウド・ラ・アグラス秘書官はアルベルト皇太子殿下の側近である。
皇太子殿下のマネジメントを一手に引き受けている。
侍女と女官を統率するのも彼の仕事だ。
皇子の幼い頃から護衛騎士だった彼が文官養成所に入所し直して、護衛兼秘書として皇子に仕える様になったのも皇帝陛下の一存で。
元々秘書官とは政務を担う女官達の長であった。
しかし……
皇子が侍女に襲われたあの事件があった事から、クラウドに侍女達の統率も任される事になったのだった。
皇子の護衛であった事から、当然ながらラウル、エドガー、レオナルドも小さい頃から面倒を見て来た。
今回はアルベルトの初の外遊にこの3人も、後学の為にと親達が同行させたのである。
正直、勘弁してくれって思った。
クラウド自身も外遊は初めての事で、やる事があり過ぎて手一杯なのに……
あの悪ガキ共の面倒まで見なければならないとは。
実際クラウドはこの悪ガキ共に掛かりっきりになった。
彼等はまだ文官の卵で、エドガーも騎士団に入団したばかりの騎士の卵。
その彼等に大臣クラスの政務を担わせるのだ。
クラウドが掛かりっきりになるのは仕方無い。
本来ならばレティのマネジメントもしなければならない所なのだが、彼女の事はラジーナ女官長に任せっきりになった。
リティエラ様なら上手くやるだろうとの思いから。
アルベルトならば一を聞いて十を知る所か、その一までをも納得が行くまで自分で調べる。
彼は完璧主義者だ。
しかし……
この3人は馬耳東風、暖簾に腕押しなのである。
資料を渡しても読んでいるのかいないのか……
なのに……
ラウルは、人を煙に巻く天才かと言う程に弁が立つ。
脳筋のエドガーは兎に角質問責めをする。
どうでも良い事まで。
レオナルドは退屈したら、サハルーン語で質問しては慌てる要人達を見て面白がるのである。
大臣達であろうと無かろうと全く意に介さない3人。
そんな3人に対しては……
度が過ぎるとアルベルトは咎める事もあるが、大体は涼しい顔をして彼等を見ている。
最後に綺麗に纏めるのがアルベルトの役目なのかと。
殿下……
お願いですから早く彼等を戒めて下さい。
クラウドの胃は何時もヒリヒリしていた。
子供の頃なら……
目に余る悪戯は木に吊るしたりした事もあったが。
「 こいつら……マジで木に吊るしたい 」
……と、クラウドは頭を抱えるのであった。
しかし……
彼等に書かせている報告書にはちゃんと要点を書いている事から、やはり彼等も優秀なんだろう。
そんな彼等なのだが……
適当に生返事だけする要人達もいる事から、ミレニアムの要人達からは好感を持たれている。
気軽に夜の街に繰り出して、皆と飲んで歌ってミレニアムを楽しんでいる事もあって。
何気に……
アルベルトの外遊の影の力になってくれているのであった。
だが……
彼等を野放しにはしておけない。
「 夜の街に繰り出す事も文化交流の一環だ! 」
そう言って夜の街に繰り出す3人。
要人として来てるのに、何か間違いでもあったら大変だからとお目付け役として一緒にいく羽目に。
この場にアルベルトがいないのはやはりレティがいるからで。
彼女を連れて来た甲斐があったと言う事だ。
アルベルトがいるといないのとでは警戒レベルが違う。
流石に若いだけあって連チャンでも平気で。
エドガーは兎も角、体力の無さそうなラウルとレオナルドも平気なのが恐れ入る。
自分も若い頃は無茶をしたが……
歳を取ったなあと改めて思うのだった。
そして……
側近として一番神経を使い、気を付けなければならないのが女性関係。
皇子と言えども健康な男子だ。
何時そう言った関係になるとも限らない。
年頃になるとピリピリしていたが……
幸いな事に早い内から皇子に想い人が出来て……
その想い人が公爵令嬢だと知った時はどれ程安堵した事か。
そして……
アルベルトは公爵令嬢を一心に想い、他の令嬢には見向きもしない程の一途さだ。
だからと言って女性達が彼への誘惑を止める筈もなく。
特にアルベルトとダンスを踊った女性達には警戒をする。
アルベルトに恋をした夫人や令嬢達が夜這いに来る事があるのだ。
『 一生の思い出に 』と涙を流しながら。
いや……
そんなん知らんがなと言いたい。
殿下が何故にお前らの思い出に協力せねばならないのかと。
地方に行くとこれがクラウドの悩みのタネで……
早くレティが一緒に公務に来て欲しいと願うのはこんな理由もあって。
そうしてこの外遊にはレティが同行した効果絶大で、しつこいアプローチをして来る女性は皆無だった。
舞踏会の時も……
皇子とのダンスを、無難なデビュタントの令嬢とのダンスにしたのも裏にはそんな理由もあって。
側近は苦労しているのだ。
皇子を守る為に。
婚約者に不愉快な思いをさせない為に。
ただ……
皆が彼の予想を遥かに越える行動をしてくるだけで。
本日は2話更新予定です。
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