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交流と交流

 




 ミレニアム公国での最後の夜に大公がお別れ会を開いてくれた。

 いや……

 これは令嬢達の為に開いたのだろうと言う夜会。

 このまま何の接点も無しに、皇子様を帰国させてなるものかの執念で。


 お別れ会と言う名の交流会。

 ……で、立食パーティー。

 これなら皇子様の側に行けるので。


 アルベルトの周りにカクテルを手にした令嬢達が群がる。


 気持ちは分かる。

 この国には王子がいない。

 宗主国であるシルフィード帝国の皇太子とお近付きになりたいと思うのは当然で。


 ましてや世界一の美丈夫だと言う見目麗しい皇子様を眼福しない訳には行かない。

 お目に止まればワンナイトラブもあるかも知れないじゃないか。



「 ………で、皇子達の婚約者は行かないの? 私の男に手を出すなーっ! って…… 」

 退屈なパーティーだから、邪魔してひと暴れして来いとレオナルドが言う。


「 ホホホ……わたくしは公爵令嬢ですわ。淑女は冷静沈着で何事にも動じる事はいたしませんのよ 」

 ホホホとレティはバーンと広げた扇子で口元を隠す。


 何処が淑女だよ?

 強い淑女だと3人は笑いまくる。



「 あっ! 赤のボインちゃんがアルの腕に腕を絡めたよ 」

「 うわっ! 青のボインちゃんはよろけてアルに抱き付いたぞ 」


 母親から公爵令嬢らしく淑女でいなさいときつく言われていた。

 外国で恥をさらすなと。


「 おーほほほほほほほ……平気ですわ 」

 平気だと言っているがしっかり後ろを向いて、アルベルトを見ない様にしている。


 なのに……

 エドガーとレオナルドが実況中継をしてくるのだ。



「 イエローのボインちゃんは…… 」

「 ちょっとぉ! 何でボインちゃんばっかりなのよ! 」

「 アルに群がる女は皆、自分に自信を持った令嬢ばかりだからな。ボインちゃんが多いんだよ 」


「 昔からそうだったな 」

 ラウルも酒を飲みながらうんうんと頷いている。


 レティは皆の足を順番に踏んづけてやった。


「 いてーな!淑女はそんな事をしないぞ! 」

「 ホホホ……ごめん遊ばせ……それよりも貴方達もこんな所にいないで令嬢達と交流をして来たら? 」


「 それは出来ないんだ 」

「 どうして? 」

「 男達が寄り付かない様にレティの側にいろとアルに()()されてるからさ 」



「 なんですってぇ!自分はハーレムを開催してるのに? 」

「 皇子様は嫉妬深いからね~ 」

 エドガーとレオナルドがニヤニヤしながらレティを見下ろす。


 ワナワナと怒り心頭なレティの頭をラウルは撫でた。

「 それだけ愛されてるんだよ 」


 ふん! そうかしら?


「 アルがこっちを見てるぜ。さあ!暴れて来い! 」

 エドガーがレティの肩を持ち、クルリと向きを変える。


 レティはアルベルトの方を見た。

 扇子で口元を隠しながら。


 ムムム……本当にボインちゃんばかりだわ。

 令嬢達はこれでもかーっ!っと、言う程に胸を強調するドレスを着ている。


 これは参考にしなくてはと暫く見つめる。

 レティはデザイナーである。



 しかし……

 ボインちゃんに囲まれていても格好良いのがムカつくわ。


 大人な顔。

 レティにはダンスの申し込みをする時位にしかしてくれない顔。

 それも不満だった。

 自分にもあんな大人な顔と大人な声で接して欲しいのだ。

 たまには……



 このままここにいたら我を忘れて暴れるかも知れないから会場を出る事にした。

 お母様の期待を裏切る訳にはいかない。


「 おっ! 暴れて来るのか? 」

「 違うわよ! お手洗いに…… 」

「 大か小か? 」

「 もう! 何でそんな事をお兄様に言わなきゃならないのよ! 」

「 さっきアホ程食ってたから『大』だな 」

 3人でゲラゲラと笑ってる。


 全く!

 下品な3バカといたら淑女になれないわ!


 レティはプンスカ怒って会場の外に出た。

 勿論『大』では無いので化粧室には行かずに庭園に。



 雪に閉ざされるミレニアム公国の庭園は華々しい物ではない。

 だけど……

 シルフィード帝国から皇太子が来る事で、夏に咲く美しい花々が飾られてあった。



「 ウォリウォール公爵令嬢 」

 暫く歩いていると声を掛けられた。

 振り返って見ると夜会服を着た若い男性が立っていた。


「 突然お声をお掛けする無礼をお許し下さい。私はエイダン・ナ・サーシスと申します。医師の卵です 」


 直ぐにグレイとサンデーがレティの側にやって来た。

「 リティエラ様。何か問題でも? 」


「 いえ……問題無いですわ 」

 確か……

 サーシスは侯爵だったわね。(←相手国の高位貴族を覚えるのは外交の常識)


「 リティエラ・ラ・ウォリウォールです。初めまして 」

 エイダンはレティの手の甲にキスをした。


「 医師である貴女とお話をして見たいとずっと思っておりました。 どうか……私の事はエイダンとお呼び下さい 」


「 まあ! 嬉しいですわ。私の事もリティエラとお呼び下さい 」



「 リティエラ様…… 」

 グレイが心配そうにしているが……


「 構いませんわ。わたくし()色んな方と交流をしてみたいですし、こんな風に交流するのは大切な事ですから 」

 ましてや彼が医師ならば尚更。


 グレイとサンデーは分かりましたと言って、後ろに下がった。



「 リティエラ様が病院に視察に来られた時に……私もあの場所におりました。古ダヌキが貴女様を邪険に扱うのか意味が全く分かりませんね。あっ! 失礼しました 」

 エイダンは言い過ぎたかと頭を下げた。


 あの時にいたのか。

 まだ新米医師のエイダンが意見出来る立場では無い事はレティにも分かる。

 何処の国でもこの古ダヌキが新しい風の邪魔をするものなのだと。



「 古ダヌキ…… 」

 レティはぷぷと口を押さえて笑い、エイダンの人の良さそうな顔に好感を持った。


 基本、ミレニアム公国の人々はおおらかである。

 ただ……

 お国柄か閉鎖的な部分があり変化を嫌う傾向にあった。

 勿論……

 若い彼等には、もはやそんな事は関係無いが。



 それから2人は医療の話に夢中になる。

 エイダンは22歳だと聞いた。

 ユーリと同い年。

 ローランド国と、医師達の交換留学を定期的に行っている今のシルフィード帝国の実情を聞いて大層羨ましがった。


「 私はね、医療はどの国でも共有するべきだと思うの。人を助ける事に国境があってはならないわ 」


 いつの間にか砕けた口調で話す様になり、キラキラして未来を語るレティを、エイダンが熱い目で見る様になるのに時間は掛からなかった。


 なんて素敵な女性(ひと)なんだろう。



「 レティ! 」

 そこにアルベルトがやって来た。


 あら!?

 女性達との()()は終わったのかしら?


 エイダンが頭を下げる。


「 今ね、医師である彼と()()をしていましたの。殿下? ()()は終わりましたか? 」

 どうみても不機嫌な皇子様にあから様な嫌みを言うレティ。


「 ああ……君の()()が終わったのなら一緒に来なさい 」

「 はい 」


 エイダンとの交流なら何時間でも楽しいだろう。

 だけど……

 不機嫌な皇子を追い払う訳にもいかないので、ここでお開きにするしかない。


「 早いうちにお会い出来れば良いですね 」

「 はい! 是非とも。我が国の医療も発展する必要がありますから 」


 レティはアルベルトと手を繋ぎ会場に戻って行った。

 その後に護衛騎士達が続く。



「 皇太子の婚約者か…… 」


 初めて近くで拝顔した皇太子は、横暴で高慢な物言いをすると思った。

 皇族とはこんなにも偉ぶる存在なのかと。

 だけど……

 恋人繋ぎで歩いて行く2人の後ろ姿を見ていると、2人の仲が良好なのが伺える。



「 もっと話したかったな 」

 エイダンは独り言ちた。





「 楽しそうだったな 」

「 ええ。医療の話が出来ましたもの 」



 アルベルトはレティが会場から出て行くのを見ていた。

 レティのいる所ではレティに目がいってしまうのは愛するが故の事。


 直ぐにグレイとサンデーがレティの後を追うのを確認をする。

 取り敢えずは安心するが。

 やはりお手洗いなら心配である。


「 やっぱり女性騎士は必要だよな 」

 アルベルトは呟いた。



「 えっ? 何か仰いましたか? 」

 見ればやたらにケバい化粧をした令嬢が上目遣いで見上げて来ている。

 強い香水が鼻につく。


 昔は令嬢達に囲まれても何とも思わなかったが……

 レティの側にいる様になってからは嫌悪感を覚える様になっていた。



 横を見れば……

 同じ様な顔の令嬢がいる。

 その横にも……その横にも……

 ざっと10人のボインちゃん令嬢達に囲まれていた。


 もうそろそろ()()を終えても良いだろうか?

 彼女達との中身の無い話にウンザリする。


「 殿下ぁ~ワタクシをシルフィード帝国に呼んで頂きたいのですがぁ~ 」

「 あら! ワタクシもですわぁ~」

「 ああ、留学なら大歓迎だ。」


 本当ですか!

 令嬢達がキャアキャアと両手を胸の前に合わせたり、アルベルトの腕に手を添えたりして大袈裟に喜んでいる。


「 そなた達は我がシルフィードの何に興味があり、何を勉強したいのかな? 」


「 えっと……それは…… 」

 興味があるのは殿下……貴方ですわ。

 ……とは流石に言えなくて令嬢達は黙ってしまう。



「 わたくしは……医療を学びたいと思って……おります 」

 少し離れた場所にいる令嬢が声を張る。


「 それは……素晴らしい。私の婚約者は医師だ! 学園を卒業したら我が国に来て学ぶと良い 」


 彼女は舞踏会の時に1番最初に踊った令嬢。

 少し離れた場所にいてこっちを見ているのが気になっていた。



 そう言う事か……

 一緒に踊った時に、レティの話をやたらと聞いて来たのは医師になりたいからか。

 ミレニアム公国には女医がいないと言う。


 それなら……

 彼女の支援を惜しまないぞとアルベルトは思うのだった。




 その話をレティにしようと思うが……

 レティはまだラウル達の所に帰って来てはいない。

 それよりもラウル達も令嬢達と交流中だ。


 レティが居なくなった事から令嬢達が3人の所に押し掛けて来ていた。


 常識のある令嬢ならば……

 婚約者のいるアルベルトよりも、まだ婚約者のいないこの3人にアプローチするのは当然の事なのだが。



 心配になったアルベルトは令嬢達との交流をお開きにする。

「 長い時間私の婚約者と離れている。今から迎えに行くからこれでお開きにしよう。 そなた達と話せて楽しかった。有り難う 」


「 え~まだよろしいじゃありませんか~ 」

 婚約者がいると知っていてこの場にいるのだから、彼女達に婚約者の話をしても響かない。

 寧ろ……

 ずっと婚約者の前で王子様にベタベタ出来たのが小気味良いと思っている位で。



 アルベルトの視線を見計らってクラウドがやって来た。

 令嬢達にはシルフィードの名産品を記念にどうぞと言っている。


「 まあ! 嬉しいですわ 」

 目をギラギラさせながら令嬢達がクラウドの周りに集まると、その隙にアルベルトはその場から離れた。

 ダメ元で寄って来る女性は、簡単に物に釣られる傾向にある事は経験上の事で。



 さて……

 今夜は乱入して来なかった俺の可愛い婚約者は何処へ行ったのかな?

 レティの可愛いやきもちをちょっと期待していたアルベルトだった。


 会場を出て直ぐに……

 さっき離れて見て来ていた令嬢がアルベルトの前でカーテシーをした。


「 殿下……ワタクシを覚えていらっしゃいますか? 」

「 ああ 」


「 あの……医師についてご相談したい事があります 」

 そう言いながら手紙をアルベルトに差し出した。

 差し出された手が震えている。


「 出来るだけ対処しよう 」

 アルベルトは優しく微笑んで手紙を受け取る。


 その時に……

 少し指先が触れた事で、赤い顔をして恥ずかしそうに走っていった彼女を、一生懸命で可愛いと思うアルベルトだった。



 手紙には……

『 ご相談がありますので、今夜9時に庭園の噴水の前でお待ち致しております 』


 そう書かれていた。









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