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ティアラの威力

 



「 こんな綺麗な婚約者を披露出来るのが嬉しいよ 」


 甘~い甘~い顔をした皇子様が……

 ティアラを付けた婚約者に見惚れている。


「 僕の妃は天から舞い降りた女神の様だね 」

「 今夜の月の光にも勝る美しさだ 」


 歯の浮くような台詞をずっと言われ続けているが……

 ティアラを付けられたレティは、より一層の責任感と緊張でそれどころでは無い。



「 本当は誰にも見せたく無いから閉じ込めて僕だけのものにしたい 」

 レティの手の甲にチュッチュッとキスをするテンションの高い皇子様。


 確か……

 両陛下も緊張なんかした事が無いって仰ってたわよね。

 この皇子も緊張なんかした事が無いんだから、今の私の気持ちなんか全然分からないんだわ。


 甘~い顔をしながら腰を折り、レティの顔を覗き込んで来る皇子様が何だか憎たらしい。


「 痛いよ……何レティ? 急に 」

 気が付くとギュ~っと両手で皇子様の頬っぺたを捻っていた。


 皇太子殿下にこんな事をするのはレティだけである。


 女官や騎士達が肩を揺らせて笑う。

 他国なので2人を護衛する距離が何時もの距離よりも近い事もあって、どうしても会話を聞かれてしまうのだ。


 2人でわちゃわちゃしていると……



「 シルフィード帝国の皇太子殿下並びにウォリウォール公爵令嬢の入場です 」


 入場のアナウンスが入り、2人は気合いを入れる。


「 レティ! 行くぞ! 」

「 はい 」



 扉が開き……

 入場して来た2人を見て会場からはどよめきが起きた。



 婚約者がティアラを付けている。



 シルフィード帝国のティアラの意味は、属国であるミレニアム公国も知っていた。


 皇后陛下と皇太子妃殿下のみが付ける事を許された対のティアラは、たとえ皇女や他の妃であろうとも付ける事の出来ない特別な物だった。



 これは皇后陛下が皇太子妃を気に入り、妃として認める事が前提であり、ある代では渡され無かった皇太子妃もいたそうな。


 そんなシルフィード帝国の皇太子妃のティアラを、まだ結婚もしてない公爵令嬢が付けているのである。


 その意味は……

 彼女はもう皇太子妃と言う存在なのだと言う事になる。


 皆のレティを見る目が変わった。



 そして……

 彼女をエスコートしている皇太子殿下の甘い顔。

 両頬が赤くなっている理由が気になるが……


 殿下が婚約者を寵愛してると言う噂は本当だったんだと。


 そう……

 晩餐会が始まっても皇太子は横に座っている婚約者を見つめたままだ。

 嬉しそうに……

 愛おしそうに彼女の食べる姿を眺めている。

 時折横にいる大公と話しながらも、話が途切れると直ぐに彼女を見つめる。


 どれだけ好きなのか。




 ミレニアム公国では食後の後に酒を飲む習慣がある。

 寒い国ならではの習慣で、デザート代わりなのかそのお酒はかなり甘い酒だと言う。

 そして……

 特産物である燻製とも相性が良い。


 甘いものが大好きなレティは、目をキラキラさせてその甘い酒を飲もうとグラスに注いで貰っている。



「 聖なる魔石に神の加護を 」と、言いながら飲むらしい。

 流石に魔石が採れる国である。


 皆が口々に「 聖なる魔石に神の加護を 」と言いながら乾杯をしていた。


 隣のテーブルで飲んでいるラウル達は、甘い~と叫んで悶絶している。

 レティがコクコクと飲めば……


「 美味しいわ! これ……お土産にしたい 」

「 我が国の特産品を気に入って頂けて光栄ですぞ 」

「 アルコール度数は6%位なんですよね 」

「 おお! よくご存じで 」


 大公の6人が各々酒の入ったビンを持ってレティの周りにやって来た。

 レティのグラスに注ごうとすると……

 アルベルトが手でグラスを塞いで、もう片方の手でチッチと指を2本立てて横に振った。


「 どうして?アルと一緒なら飲んでも良いのでしょ? 」

「 この後、舞踏会があるから、もう、おしまい 」

「 ………分かったわ 」


 確かに……

 ダンスを踊るならあまり飲んでは駄目よね。

 ミレニアム公国のダンスも習って来たのだ。

 ゴンゾーに。

 踊らない訳にはいかない。

 私はダンスが大好きなのよ。




 ***




 舞踏会の会場はシルフィードの皇宮の大広間の半分も無い会場だった。


 王族がいないので、ファーストダンスは無い。

 楽団による音楽が奏でられると皆が各々のパートナーと踊り出すそうだ。



 アルベルトはデビュタントの令嬢達と踊る予定である。

 6人兄弟には皆夫人がいるが、この国は結婚している女性は夫か親族以外とは踊ってはいけない決まりがある。

 男性は勿論自由だが。


 シルフィードはそんな決まりは無いが、結婚して他の男性と踊れば、よからぬ噂になる元凶を作るだけなので夫人は他の男性と踊る事は無い。


 公務として踊らなければならない皇族は別だが。



 クラウドが吟味した結果。

 丁度デビュタントの令嬢が8人いると言う事で、アルベルトと踊る令嬢は彼女達に決まった。


 他の令嬢達の落胆は計り知れないだろう。

 皇子様と踊れる千載一遇のチャンスだった言うのに。

 幼い頃から……

 誰もが1度は皇子様と舞踏会で踊る事を夢見るのだから。



 アルベルトは公務以外では踊らない。

 これは彼のポリシーだ。


 地方での領主主催の夜会でも、前もってクラウドが決めた女性とのみ踊っている。

 その夜会に華を添える為にも、招待された皇子が誰とも踊らない訳にはいかないからで。




 楽団による柔らかな音楽が奏でられダンスが始まる。

 この日のデビュタントの令嬢達はラッキーだ。

 公務以外には踊らないアルベルトは、シルフィードでもデビュタントの令嬢とは踊る事は無いのだから。



「 貴女のデビュタントのお相手が出来て光栄です 」

 ダンスの前は熱い言葉を囁いて相手の瞳を見つめるのがマナー。


 皇子様は優しく令嬢を見つめながら手を取り中央へ。

 16歳のうら若き乙女は真っ赤になる。

 大人なダンスをする皇子様に恋に落ちた瞬間だ。


 中央には誰もいない。

 勿論どのカップルでも踊れるのだが。

 皇子様のダンスを見たいが為に皆は壁際へ。


 中央に出てきたのはアルベルトのカップルと……


 レティのカップルだ。

 レティのダンスのお相手はあの6人兄弟。


 何だこの差は?



 レティも公務で踊らなければならない。

 華を添える為に。


 アルベルトが何故8人かと言えば、レティが大公の息子達の6人と踊らなければならないからで。

 色々と調整する側近のクラウドも大変であった。



 先ずは長男。

 レティの手の甲にキスをする。

「 見目麗しい貴女と踊る事が出来て光栄でございます 」


 アルベルトと同じ様な事を言っているが……

 少しも心に響かない。


 2人は見つめ合う。


 美しい……

 そんな大きな綺麗な瞳で見つめ無いでおくれ。

 私には妻子がいるのだよ。


 違う!


 レティの間違い探しが始まった。

 こんなに近くで観察出来るのは有難い。

 あの侍女の双子は未だに判別出来ないでいる。

 帰国までには間違い探しを完結したい。



「 見目麗しい貴女と踊る事が出来て光栄でございます 」

 次男がレティの手の甲に口付けをする。


 さっきも同じ様な言葉を言わなかったか?


 双子でも無いのに何でこんなに似てるのかしら?

 6人は背が低く、レティよりも少し上に顔がある背の高さ。


 だから……

 踊りやすいと言えば踊りやすい。

 ゴンゾーの言うとおりだわ。

 私とアルは背の高さが違い過ぎるから……

 アルは私とは踊りにくいかも。



「 見目麗しい貴女と踊る事が出来て光栄でございます 」

 三男が長男と次男と同じ角度でレティの手の甲にキスをする。


 おい!

 三つ子か!?

 台詞まで一緒だぞ。



 4男、5男になると……

 もう何だかよく分からない。


「 さっきわたくしと踊ったでしょ? 」

「 初めてですよ 」

「 2回目に踊りましたよね? 」

「 だから、私は6男です 」

「 4男でしょ? 」


 踊りながら揉めていると……

 誰かがクスっと笑った。


 いつの間にか皆も踊っていた。

 ラウル達も令嬢と踊っている。

 見目麗しい彼達もモテモテだった。



 笑ったのはアルベルト。

 レティ達の近くで踊っていたのだ。

 どうやらレティの声が聞こえていたらしい。


 チラリと見れば……

 上目遣いの可愛らしい令嬢と踊ってる。


 まあ! 次から次へと若い令嬢と踊って楽しそうだ事。

 私は同じ顔とばかり踊っているのに。



 踊り終わってレティが戻る席は上座に設けられた席。


 シルフィードでは両陛下や皇太子が寛ぐ為にとソファーとテーブルが置いてある。

 そこに……

 高位貴族の夫人達が挨拶に行くのである。



 その席にレティが座る。

 同じ顔で同じ台詞を言うのなら、踊るのは1人で良くないか?

 後でクラウド様に文句を言いに行こう。


 大体私も16歳の成人になった令息でも良いじゃないか。

 ほら……

 壁際に初々しいのが沢山いるのに。

 何だか納得がいかない。



 アルベルトが初々しい令嬢と踊るのをぼんやり眺めていると、夫人達がゾロゾロとやって来た。


 夫人達は次々にやって来てはレティにカーテシーをして挨拶をして行く。


 えっ!?えっ!?

 どうしましょ?

 レティはオタオタとする。


 この世界では、カーテシーは身分の高い皇族や王族に対して女性が行う挨拶であった。

 普通の淑女の挨拶よりは深く足を引き、床すれすれまでにしゃがむのである。


 レティは皇族では無い為にされた事は無い。

 だから……

 オタオタとしてしまったが。


 そんな謙虚さが、ミレニアム公国の貴族達からは好感を持たれる事になったのだった。



 挨拶も終わり……

 更にぐったりとしていると……

 ドリンクを手にしたアルベルトがやって来た。


 8人と踊ったのに息1つ乱れていないのは流石にプロだわ。

 ……と、レティは思った。



 皇子様なんだから仕方無いと諦めてはいたが。

 本音は……

 アルベルトが公務と言えども女性と踊るのは嫌だった。

 皇子様はダンスが上手で実に素敵に踊るのだから。



 しかし……

 実際に自分が公務として踊ると……

 知り合ったばかりの男性と上部だけのつまらない話をしながら、あれだけ身体を密着して踊るのである。


 レティは公務の大変さを少し理解した。

 それにしても楽しそうに間違い探しをしながら踊っていたが。



「 お疲れさん 」

 レティにオレンジジュースを渡して、アルベルトは少し度数強めのカクテルを飲んだ。


 レティの手にアルコールでキスをして消毒したいが……

 流石に皆のいる前では出来ない。



「 リティエラ嬢……私と最後のダンスを踊って頂けませんか? 」

 アルベルトはレティの前で片手を前に差し出して片膝を付いた。


「 喜んで…… 」

 差し出されたアルベルト手にそっと手を乗せた。

 アルベルトはレティの手の甲にキスをする。


 これなら怪しまれずにキスが出来る。

 消毒、消毒。


 レティはくすぐったいとキャッキャと笑う。


 ああ……

 可愛い。


 見つめ合ってホールの中央へと。

 2人が出て来たのを見て、皆が壁際に行った。

 皇子様と婚約者の本当のカップルのダンスを見ようと。



 音楽が奏でられると……

 レティは優雅なカーテシーをした。

 ドレスの裾がフワッと広がりそれは綺麗なカーテシーだ。


 レティは騎士であるから屈伸が得意で腹筋も鍛えてあるので、カーテシーの時に深く膝を曲げれるので、誰よりも深くしゃがむ事が出来る。

 なので、動作が大きく、より優雅に見えるのだった。


 皆からため息が漏れる。



 アルベルトがレティの細い腰を抱き寄せる。

 今からキスをするかの様に……


 優しく見つめ合ったままの、背の高い皇子様と小さな婚約者の甘いダンスが始まる。

 もう何度も踊っている息の合ったダンス。

 ゴンゾーから教わったダンスだ。



「 私は皇族じゃ無いのにカーテシーをされちゃったのよ 」

「 良いんだよ。そのティアラを付けてる君はもう僕の妃なんだから 」

 カーテシーをされてドギマギとして戸惑うレティが可愛いかった。


 そう……

 君は僕の妃だ。


 踊りながら……

 アルベルトは何度も何度もレティを抱き締めた。

 皇太子妃の証であるティアラを付けてるレティが愛しくてたまらない。


 ラストにはレティを抱き上げてくるりと回ると、会場からは感嘆する声と割れんばかりの拍手が鳴り響いた。




 ティアラも勿論だが……

 殿下の寵愛が、何よりも彼女の立ち位置を高める事になるのだろうと、常に2人を見守っているクラウドは思った。


 まあ、殿下はそんな事は関係無しにリティエラ様にベタ惚れだがなとクスリと笑った。



 ミレニアム公国の滞在期間は後1週間。


 皇太子殿下御一行様は……

 いよいよ本来の目的である魔石の発掘場所へと向かう。











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