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会員ナンバー5番

 




 バーン!!


 学生食堂の扉が勢いよく開いて1人の女生徒が走って来た。

 いや、逃げて来たと言うのが正しい。


 驚いた生徒達が彼女を見る。


 走って来たのは公爵令嬢。

 彼女は立ち止まり、踵を返した。



 すると……



 バーン!!


 次に勢いよく登場して来たのは……

 何と……皇子様。



 キャーーーっっ!!


 学生食堂はもう蜂の巣をつついた様な大騒ぎとなった。

 皇子様を初めて見る者もそうで無い者も、立ち上がったり椅子の上に乗ったりして2人を見ている。


 廊下で皇子様と公爵令嬢の追い駆けっこが始まったものだから、昼食が終わって廊下を歩いていた生徒達や各教室に戻っていた生徒達も学食にやって来て、大変な騒ぎとなっている。



 何? 何?

 皇子様と公爵令嬢じゃん。

 今から何が始まるんだろうと大興奮だ。

 また、皇子VS公爵令嬢が見れるのかもとワクワクが止まらない。

 


 皇子様が長い足を一歩前に出すと、公爵令嬢が後ろに一歩下がる。

 また、皇子様が一歩前に出すと、公爵令嬢は一歩下がる。



 睨み合った2人のジリジリとした攻防戦が続く。


 食べ掛けの昼食をテーブルの上に置いたまま、ナイフとフォークを握り締め、固唾を呑んで2人を見守る生徒達。



 その時……

 皇子様がニヤリと笑い公爵令嬢に向かって走り出した。

 その妖艶な顔に女生徒達はキュン死寸前だ。


 この奥は、ビュッフェの料理が置かれているカウンターがあるだけで逃げ道は無い。


「 キャーーッッ!! 」

 叫びながら駆け出した公爵令嬢を追い掛ける皇子様。


「 もう逃げられないぞ! 」


 キャーーッッ!!

 皇子様の声に更にギャラリーのボルテージが上がる。

 皇子様は声も素敵なのだから。



 追い詰められた公爵令嬢は皇子様に腕を捕まれ……

 そしてヒョイと抱き上げられた。


「 下ろして! こんな……皆の前で止めてよ! 」

「 逃げる君が悪い 」


 じたばたする公爵令嬢だったが……

 逞しい皇子様の腕は、がっちりと小柄な公爵令嬢を抱いて離さない。

 やがて……

 観念したのか、公爵令嬢は大人しくなって皇子様の首に手を回した。


 ギャーーッッ!!!

 皇子様の首に手を回したわ!

 もう、ピンクや黄色い声が飛び交いお祭り騒ぎである。



 皇子様の進む道には自然と道が出来る。

 皆が後退りして頭を垂れている。

 学生食堂の扉の前まで来ると、皇子様が止まってくるりと振り返った。


「 午後のひと時を邪魔したな。すまない 」


 そう言って公爵令嬢を抱き上げたまま踵を返して学食を後にした。

 公爵令嬢は恥ずかしいのか皇子様の肩に隠す様に顔を埋めていた。


 皇子様の登場と、相変わらずラブラブな2人に学生食堂は暫く大騒ぎだった。





 ***





 アルベルトはもう何日もレティに距離を置かれていた。


 挨拶の頬にキスも遠くから待ったを掛けられる。

 お妃教育を覗くと、いつの間にか退室していて姿が無い。

 公爵邸に来たら部屋から顔だけを出して喋ろうとする。


「 レティ? 俺は何か怒らせる様な事をしたか? 」

 部屋の前まで行くと……

 ドアをパタンと閉めて、レティの声は遥か遠くの方から聞こえる。

 彼女は何処で喋ってるんだ?



 もう何日もレティを抱き締めていない。

 キスもしていないし、手を繋ぐ事さえしていない。



 以前に、目も合わせてくれない程に怒らせてしまった事がある。


 あの時、レティが怒っていた理由は……

 魅了の魔術使いの女を口説いた事だとラウル達から指摘された事から、レティの口からは怖くて聞けないでいた。(勿論そんな理由では無いが)

 もう、あれを蒸し返したくは無い。



 しかし、今回は……

 目を合わせてくれるし、喋ってもくれる。

 遥か遠くからだが……



「 一体何なんだ? 」



 皇子様は……

 また悩まされるのであった。





 ***




「 お前ら、また喧嘩してるのか? 」

「 いや、前と違って目も合わせてくれるし、喋ってもくれる……でも、凄く距離を置かれてるんだ 」


 距離と言っても心の距離では無い。

 本当の距離だ。



 アルベルトはラウルとレオナルドと3人で、食堂で昼食を取っている。

 文官になり皇宮務めとなったラウルとレオナルドとは、最近よく昼食を共にする様になった。

 時間が合えば、騎士団にいるエドガーもここに来て、一緒に食事をする事もある。



 ここは皇宮にある大食堂。

 文官や騎士達、宮殿で働いている者が昼食や夕食を食べにここに来るが……

 アルベルトが食堂を利用する事は今までには無かった事。


 学園の学食と同じ様に、セルフサービスで自分で好きな物を取るビュッフェスタイルの食堂だ。


 皇子様が利用する様になり食堂の利用者が増えた。

 皇宮には高位貴族から平民までの様々な人達が働いているが、皇族に会えるのはほんの一握りの人達。


 下働きの者は、運が良ければ遠くにいる姿を拝見出来る程度なのだから、皇子様見たさに食堂に通って来ているのだった。


 もしかしたら……

 皇子様との運命的な出会いが、自分にも訪れるかも知れないと言う妄想を抱いたりして。


 乙女やオバサン達までもがどんな妄想をしてるかなんて、そんな事は知ったこっちゃ無い皇子様の悩みは真剣だ。




「 お前に触られるのが嫌になったとか? 」

「 ………… 」

 身に覚えは……ある。

 アルベルトはレオナルドの鋭い質問に黙ってしまった。


「 もしかしたら、原因は……ニャア! か? 」

「 ………… 」

「 何だ? 教えろ! 」

 ラウルは船上仮装パーティーでの事をレオナルドに教えた。


「 レティには、アルの前ではやるなって忠告したんだけどな 」

「 盛ったんだ 」

 レオナルドが腹を抱えて笑う。


「 あれは……レティが可愛い過ぎて……レティも喜んでやってくれた……から…… 」

「 しつこくニャア、ニャアをやらしたんだろ? 」

「 しつこい男は嫌われるぞ~ 」

 笑いまくるラウルとレオナルドの前で、アルベルトは頭を抱えた。


「 最後は確かに怒ってたよな…… 」





 ***




 翌日。

 文部大臣が学園に視察に行くと言うので、後々の決裁を下さなければならないアルベルトも同行した。


 絶対君主制のシルフィード帝国では、皇帝と皇太子が全ての事を決裁しなければならない。

 病院、学園、虎の穴を管轄する文科省は、その決裁の行使を皇帝から皇太子に委ねられた部署であった。



 昼休み……

 引き合う2人はお約束の様に鉢合わせをする。


 視察を終えて、昼食を取ろうと大臣や学園長達と応接室に入ろうとした時に、レティが教務員室から出て来た。


 学園長の応接室は教務員室の隣だ。



「 あっ!? 」

「 !? 」


「 ごきげんよう 」

 ……と、制服のスカートの裾を持ち、挨拶をしながら後退りをしてアルベルトから離れて行く会員ナンバー5番。


「 レティ…… 」

 アルベルトが一歩前に足を出すと……

 レティは踵を返して駆けて行った。


 逃げるなら追い掛けるぞとアルベルトに火が着いた。


「 クラウド! 後から行く! 」

「 御意! 」

 やっぱり出会った!

 凄い高確率だとクラウドはクックッと笑った。



「 キャー!! 」

 何!?

 追い掛けて来るわ!

 レティは全速力で逃げる。


 逃げる理由を聞き出してやる!

 ……と、レティを追い掛けるアルベルト。


 そうして……

 学生食堂まで追い詰めて、会員ナンバー5番を拿捕したのだった。





「 さあ、どうして俺から逃げるのか説明して貰おうか? 」

「 ああ……もう駄目よ……掟を破ってしまったから除名だわ 」


 誰もいない談話室に連れ込まれたレティは、アルベルトに壁ドンをされている。


「 掟? 除名? 」

「 そうよ! 」

 アルベルトを見上げてキッと睨みながら……

 レティは皇子様ファンクラブの話をした。



 最近、皇子様ファンクラブに入会して、そのサークルの掟が、皇子様には30メートル以内は近付いてはならないと言うものなんだと。


 その掟は『皇子様は遠くから愛でるもの』で、それを破るとサークルから除名されると言う。



「 き……君は……馬鹿か? 何で俺のファンクラブなんかに入る必要があるんだよ? 」

「 そ……それは…… 」

 そこに皇子様ファンクラブがあったからだとは言えない。


「 ズーっと、掟を守って僕と距離を置くつもりだったの? 」

 アルベルトの話し方が甘くなる。


「 そ……それは…… 」

 アルベルトの甘い顔が近付いてくる。


「 僕はレティを抱き締められなくてどんなに寂しかったか……レティは違うの? 」

「 そ……それは…… 」


「 僕とキスをしたくないの?」

「 そ……それは…… 」



 その後……

 何日か分の抱擁とキスを、たっぷりとされた会員ナンバー5番だった。




 入会して直ぐに掟破りをした会員ナンバー5番は、掟どおりに皇子様ファンクラブから除名された。


 ただ……

 会員が4人になるとサークルの活動費を貰え無くなるので、会員ナンバー5番は名誉会員となり名前は残された。



「 アルのせいよ! まだ入会したばかりだったのに 」

 会員ナンバー5番を貰ったばかりなのにと、アルベルトの膝の上に乗せられているレティは恨めしそうだ。



 2人はレティの部屋で、皇子様ファンクラブの除名の書類を見ている。

 取るに足りないサークルなのに、そこはきっちりしていた。

 流石は将来文官を目指す喪女達である。



 アルベルトは名誉会員になってるレティに吹き出した。

 何になっても可愛いな……



 本当に……

 分かってるのかな?

 俺を遠くから愛でる女性(ひと)は沢山いるけど……

 近くで愛でる事の出来る女性(ひと)はレティだけなんだよ?



 アルベルトは……

 まだぶつぶつ文句を言っているレティの頬にキスをした。













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