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4度めの人生は 皇太子殿下をお慕いするのを止めようと思います  作者: 桜井 更紗
第4章

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魔力使いの操り師

 



 私を追い掛けて来て……

 海に突き落とした男がそこにいる。




「 ……………アル……アル……… 」

 レティはアルベルトの胸にすがりながら、ガクガクと震え出した。


「 レティ!? どうした? レティ? 」

 アルベルトは震えるレティを抱き締めた。


「 あの人……今、話してる……あの人が…… 」



 私を……殺した人だ。



 声が出ない……

 震えて声が出ない。


 追い掛けて来る時の狂気な顔。

 私の腕を掴んだ時の狂喜な笑み。


 怖い……

 怖い怖い怖い。


 冷たい海に落ちて……

 息が出来なくて……

 苦しくて……苦しくて……

 もがいて、もがいて……



「 苦しい……息が……出来ない…… 」

 空に上げた手が何かを掴もうとしてさ迷っている。


 レティはフラッシュバックを起こしていた。



 死ぬ時の瞬間を思い出しているのか……

「 クッ! 」


 アルベルトは甲板の手摺に凭れて座り、崩れ落ちたレティを自分の足の間に抱き寄せた。

 そしてその小さな背中を優しく撫でる。


「 レティ! 俺がいるよ。大丈夫だ! 絶対に俺が助けるから! 」

 すると……

 閉じられたレティの目尻からスーッと涙が流れる。

 アルベルトは親指の指先でレティの涙を拭い、額に唇を寄せる。


「 俺がいる……側にいるから…… 」


 フーー

 レティはゆっくりと息を吐いた。

「 そうだ……ゆっくり息をして…… 」


 ふぅぅ……

「 上手いよ……良い子だ…… 」


 やがて……

 レティはゆっくりと目を開けた。

 涙で濡れた綺麗なピンクがかったバイオレットの瞳が、アルベルトを見て微笑んだ。


「 有り難う……アル…… 」

「 大丈夫か? 」

 アルベルトは、腕の中にいるレティの頬を包み込むようにして、優しく唇にキスをした。

 覆面をしているからキスをしにくかったが……



 レティはアルベルトの胸に顔を埋める。

 ここが……

 私の1番安心出来る場所。

 ここにいれば何があっても絶対に大丈夫なんだと。



 暫く2人で抱き合っていると……

 レティがふぅっと一息吐いて話し出した。


「 あの人が……私を………海に突き落とした人なの 」

「 !?……… 」


 アルベルトはレティが指摘した男に視線をやった。


 あいつが……

 俺のレティを……


 怒りが込み上げてくる。



 レティは殺気だったアルベルトを見た。


 男に雷を落とすつもりだ。

 魔力が指に込められていくのが分かる。


 殺る気だ。

 これだけの魔力を含んだ雷を頭に落とされたら即死する。


「 駄目よ! 彼はまだ何もして無いわ!! 」

 レティはアルベルトの腕に手を回して止める。



 男は皆に感謝の言葉を述べて挨拶を終えた。

 周りから拍手が沸き起こり、ピューピューと指笛を鳴らされている。

 そして、再び音楽が演奏され、楽しげな音楽と共に人々が笑いあっている。



「 今、殺れば未然に防げる 」

 魔力を込めた指を上に上げる。


「 そんな凄い魔力じゃ死んじゃうわ! 近くにいるお兄様や皆も死んじゃう! 」


 アルベルトは尚も指先に魔力を込める。

「 魔力の調節は出来る様になった。あの男しか狙わない。レティ、下がってろ! 」


 もの凄い殺気だ。


「 皇子様がそんな事をしたら……駄目っ!! 」

 レティがアルベルトの魔力の込められた手を両手で包み込んだ。



 その時……



 アルベルトの指に集中していた魔力がスッと消えた。


 !?

 魔力が消えた?


 レティ……

 君が……

 今、君が吸いとったのか?



 アルベルトは慌ててレティの手を調べた。


 熱くは無い。

 白くて小さくて可愛い手も変わらない。

 良かった……


「 レティ? 何か変わった事とか、身体に異変は無い? 」

「 ? ………さっきの事ならもう大丈夫よ。ごめんね、心配を掛けて…… 」

 レティは息が出来なくなった事を心配されてるのだと思った様だが……


 魔力を吸いとった彼女に何ら異変は無い様だ。

 アルベルトは安堵の息を吐いた。



 レティが、魔力を回復させる事が出来るヒーラーだと言う事は最近分かった事。


 だけど……

 彼女は魔力を回復する能力だけで無く、奪う事も出来ると言う事か?


 魔力使いの操り師。

 そんな言葉があるのかどうかも知らないが……

 レティは魔力使いの魔力を自由に操れると言う事になる。


 レティ……

 君は一体……



 アルベルトはレティを見ながら固まっていた。




「 あの男はジャック・ハルビンと知り合いなんだわ 」


 だったら何故?

 レティを見つめるアルベルトの横で、手を頬にやり記憶を辿る。



 あの男がジャック・ハルビンの持っている物を奪おうと船室から追い掛けて来たのよ。


 ……で、奪われそうになった時に……

 たまたまそこにいた私に渡した。

 何かを言いながら。


 子供の頃からある、レティに生じる『たまたま論』は健在だった。

 彼女は昔から、色んな事に遭遇する子であったと言うのはルーカス談だ。



 ジャック・ハルビンが発した言葉が何かが分からなくて、彼の国のサハルーン語を彼の甥であるノアに習っていたが……

 やはりその言葉に行き着く事はまだ出来ていない。


 もはやレティの記憶には、その言葉の響きだけが残っているだけで、特定する事が不可能な事が難点だ




 その時……


「 お父様! 」

 ミリアがレティを殺した男に抱き付いた。



「 お父様? 」

「 !?……… 」


 私を殺した人がミリアのお父さん?



 セレモニーは甲板の真ん中付近で行われているが、レティとアルベルトは船の1番端にいる。

 頭上には灯りはあるが、セレモニーの場所よりはこちらはかなり暗い。



「 アルはそこで待っていて! 」

「 !? 」

 レティは走り出した。

 ミリアのお父さんの元へ。


「 あっ! リティエラ様! 探していたんです 」

 お父様を紹介させて下さい。

 ……と、言うミリアに頷きながら、レティはミリアのお父さんを見た。

 じ~っと見た。


 やっぱり……

 私を海に突き落とした(ひと)だわ。

 強い香水の匂いがする。


 あの時嗅いだ匂いでは無いわね。



 近い……

 ミリアの父親は後退りする。


「 リティエラ・ラ・ウォリウォールですわ。リティエラとお呼び下さい 」

「 こほん……貴女様がリティエラ様ですね。私はガスター・ストロングと申します。娘が公爵令嬢様と懇意にして頂いている事は……」


 レティは、まだじ~っとミリアの父を見ている。

 その迫力にミリアの父はジリジリと後ろに下がる。


「 あの……いつぞやは娘を助けて頂き有り難うございます 」

 ……と、言って頭を下げた。



 レティ達が1年生の時に……

 学食で、ミリア達が上級生貴族の男女に絡まれていた所を、レティがガツンと言い負かした事がある。



「 私の最愛の娘が受けたご恩は一生涯忘れませんよ 」

 船にミリアの好きな猫のマークまで付けている程だ。

 彼は良い父親なんだろう。


 狂気の顔をしながら……

 娘と同じ歳の私を海に突き落とした男は……

 普通の子煩悩な父親だった。



 1度目の人生では、料理クラブには入部しなかったからミリアを知る事も無かった。


 だけど……

 今は違う!


「 そうです! ご恩は忘れてはいけませんよ! 貴方は私に恩があるのですよね? わたくしはミリアのお友達なのを忘れてはいけませんわ 」

 ホホホとレティが、片手を口にやった。


 レティは……

 娘の友人、その友人に恩を感じる事で……

 決して自分を殺さないだろう作戦に出た。



 未来は変わってる。

 そして……

 建国祭や火事や卒業プロムの出来事で、未来を変えれる事が判明しているのだから。




 楽団の音楽がさよならのメロディに変わる。


「 何をやってんだよ! 帰るぞ! 」

「 あっ! さっきのはパーティーの終わりの挨拶だったのね 」


 レティはラウルとタラップを降りて……

 覆面男は……

 タラップを降り様とする覆面男に、この後飲みに行きましょうと声を掛けてくる女性が群がっていた。


 あんたらカップルで来たんじゃ無いのか!?

 今すぐタラップを掛け上って蹴散らしてやりたいが、ミリア達がいるから駆け寄れない。


「 あの人カッコいいわね。覆面を取って欲しいわ 」

 ミリア達も覆面男にうっとりとしている。


 どうやら皇子様とバレ無かった様だ。

 良かった……

 レティはホッと息を吐いた。



 ミリア達とサヨナラをして公爵家の馬車を見ると、ラウルはジャック・ハルビンとお姉様と、パーティーで意気投合した誰だか分からない男と4人で、皇都に戻って酒を飲むと言って公爵家の馬車で行ってしまった。


 港から皇都までは馬車で2時間程である。



「 レティ……おいで 」

 レティはアルベルトの乗って来た馬車に乗った。

 ミリア達とバイバイしている間にしつこい女性達を振り切れた様だ。



 1人で来たと言っても……

 御者の横にもう1人座っている。

 フードに顔を隠して。


 影ね。

 御者もフードを被っているから影ね。

 2人共アルの影だわ。


 生徒会をしてる時に……

 いつの間にか準備や片付けが出来ていたのは影が働いていたからだとレティは確信している。


 昨年の生徒会では私も準備や片付けを手伝った。

 アルが生徒会長をしてる時みたいにスムーズにいかない事を、他の生徒達から手際が悪いと揶揄されていた事から。

 可哀想に……



 レティは影の顔を見ようと、御者側の窓を開けた。

 そして……

 声を聞こうと頭を窓から出して話し掛ける。


「 こんばんは 」

 ウフフ……と笑いながら御者の2人に話し掛けた。


「 ………… 」

 軽く会釈をして、レティに見られない様になのか……

 サササとフードを更に深く被って顔を隠す御者達。


 殿下……

 早く妃様を何とかしてくださいよ~


 影はレティの事を妃様と呼んでいる。

 しかし……

 決して影は爺達では無い事を断言する。

 爺達と同じ妃呼びをしていても。



 顔を見せろとばかりにレティは窓から身体を乗り出す。

「 知っていますわよ。貴方達は学園祭の後夜祭の時に、落ち葉を……キャア!? 」


「 全く君の好奇心は恐ろしいね? 」


 窓に身体を突っ込んでいるレティは、アルベルト側から見たらお尻だけを残したおよそ令嬢らしく無い格好だ。

 今更だが……


 覆面を取り、ボタンを外してマントを脱ぎ終わったアルベルトにレティは引き戻されて、そのまま膝の上に乗せられた。


 膝に乗せられてジタバタとしながら……

「 だって! 影でしょ? 」

「 シークレット! 」

 アルベルトはレティの唇にシーっと人差し指を当ててウィンクをした。


 知らなくても良い事もあるのだと、耳元で甘~く囁かれたレティは、アルベルトに耳元で囁かれる事に弱い。


 顔を真っ赤にして耳を隠しながら抗議の声を上げるレティを、可愛いと思うアルベルトは確信犯だ。



 ホッと胸を撫で下ろした御者達は……

 そっと後ろの窓を閉めた。




 ***




『 リティエラ嬢のヒーラーとは……誰かを助けたいと強く願う気持ちが起こす奇跡のエネルギーでは無いかと思われます 』


 アルベルトはルーピンの言葉を思い出していた。

 膝の上で、ウツラウツラとしているレティの頭をそっと撫でながら。


『 その誰かとは殿下なのでは? 』

 思い出されるルーピンの言葉に胸の鼓動が激しくなる。



 レティは……

 また、俺の為に開花したのか……



 あの時……

 俺は本気でレティ殺したあの男を殺るつもりだった。

 怒りに任せて……


 レティは俺の暴走を止める為に、魔力を吸いとる力を発動したのだろう。


 どれ程俺の事を想ってくれているのか……



 3度も死に……

 4度も人生をやり直していると言う数奇な運命を背負って……

 あれ程の苦しみの中にいるのに、それでも尚、俺の事を想ってくれるレティ。


「 レティ……これ以上君を好きになるのが怖いよ 」


 アルベルトは……

 口を開けて、アホ面をしてグーグーと寝ているレティの頬に唇を寄せた。



 2人を乗せた馬車は……

 カラカラと音を立てながら皇都に向かって夜の街を走って行った。









読んで頂き有り難うございます。

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