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秘密の部屋

 



 ヤング医師とダン薬師。


 彼等は、昨年の温泉施設への視察に行く前に立ち寄ったボルボン伯爵領地の、小さな診療所にいた医師と薬師。


 あの時……

 平民の医師である事に挫折をしていたヤング医師と、診療所の庭に薬草畑を作っていたダン薬師が……

 2年後の流行り病が猛威をふるう中、特効薬の薬草を発見したのだ。



『 奇跡の花! 流行り病の救世主 』


 新聞には、このタイトルと2人の名前と花の絵だけが記載されていただけ。


 この記事を見たレティが、特効薬が出来て良かったと思っただけで、どんな薬なのかを調べる事をしなかったのも仕方の無い事。

 彼女はこの時は騎士であり、医師では無かったのだから。


 

 花を根ごと掘り出し、植木鉢に入れて虎の穴に急いだ。

 この花を調べる為にだ。


 ずっと探し求めていた特効薬だ。

 レティの歓喜はどれ程のものか……




 虎の穴の薬学研究員になってから2年以上経った。

 医師としての知識も豊富な事から、彼女のスキルは学生ではあるがかなり高い。


 白のローブを羽織り、薬学研究室でこの花の分析に没頭した。



 あの新聞記事が……

 過去のものなら彼等に聞けば良い。


 だけどあの記事は未来のもの。

 奇跡の花をそのまま煎じて飲むのか、その花と何かと調合して飲むのか、花そのものなのか、茎なのか、根なのかが分からないのだ。



 そして……

 イニエスタ王国にあった花が何故彼等の手元に渡ったのだろうか?


 ヤング医師は……

 いい歳をして引きこもりがちな医師だった。

 平民医師である事から差別をされたとかで、皇宮病院にも皇宮図書館にも行かず、最新の医学を学ぼうともしなかった医師だ。


 その彼がイニエスタ王国に行ったとは思えない。

 だったら何故彼等が?


 そんな事を考えながら……

 レティは夢中で花を調べた。




 あの時……

 少しでも医療に関心を寄せていれば、薬の正体を調べていたのであろう。

 私は医師だったのに……と、レティは自分を責めた。



 5度目の人生の為にも……

 その知識を頭に刻まなければならない。


 5度目の人生の始まりの時に……

 陛下やお父様に預言をするのだ。


 あれ?

 預言?

 5度目の人生は預言者でも良いわね。


 レティは預言者が気に入った。

 5度目の人生は釣り師になるつもりだったが。




 コンコンコン……

 机を叩かれた。


 本から目を離して顔をあげれば……

 いつの間に来たのかアルベルトが立っていた。


 今日は公務で外出だと聞いていた。

 本当はデートの予定だったが、アルベルトに急遽公務が入ったが為に、レティの予定が空いたのだ。



「 アル……… 」

「 レティ……熱心なのは良いけど、お昼は食べなくっちゃ。もう…… 」


「 アル! アル! 聞いて! 聞いて! あのね……預言者が……花が……特効薬が……あの2人が……預言者に……」

 もう、キラキラお目々のハイテンションでキャイキャイ言いながらアルベルトに飛び付き……襲っている。


「 レティ!? 落ち着こう! 一旦落ち着こう! 」

 アルベルトの首に腕を回して、チュッチュッとキスをしそうなレティの腕をバリっと剥がし、両肩を優しく撫で、あやすようにレティを見つめた。



「 どうした? 」


 一体何事だ?

 預言者?

 預言者って2回も言ったよな?


 2人だけなら喜んでされるがままになるのだが……

 流石にここは皇宮図書館。

 静かな場所での突然始まった激しいイチャイチャは、流石に皇子様でもTPOを考える。



 レティは研究の休憩がてらに、花の正体を調べに来ていた。

 休日だから親子連れもいたりする。

 騒ぎの元が皇子様だと気づくと、皆は慌てて頭を垂れた。



「 兎に角移動しよう 」

 レティは読んでいた本をそそくさと本棚に戻して、小さく縮こまりながら先に歩くアルベルトの後を追った。



 恥ずかしい事をしてしまったわ。

 どうしましょう。


 図書館にいる人々の視線が痛い。

 皇子様になんて事をするのだと。

 罪人は俯いて皇子様の後ろを歩いた。



 入った部屋はレティが何時もお妃教育をしてる部屋。


「 さあ、おいでレティ! ここなら思う存分僕に抱き付いてキスが出来るから 」

 最近は積極的で嬉しいよと、アルベルトが甘~い顔をしながら両手を広げてレティに向き直った。



「 キャー!!違うのーっ! 」

 レティを抱き締めて、キスをしようと顔を近付けてくるアルベルトの口を両掌で塞いで阻止をする。


「 アル! 聞いて! 流行り病の特効薬の薬草が分かったの! 」

「 !? 」

 レティに口を塞がれたままアルベルトは固まった。


「 朝ね、咲いた花を見て…… 」

 レティが説明しようとアルベルトの口からそっと手を離すと……

 まだアルベルトに抱き締められているレティは、結局、チュッと唇にキスをされたのだった。



「 詳しく聞かせて!……それに預言者って何? 」

 そう言いながらアルベルトが片手を上げると……

 数分後にワゴンに乗せてお茶と軽食が運ばれて来た。


 公務から戻り、レティが来てる事を門番から聞いて虎の穴に来ると、昼食も食べずに何かの研究に没頭していると薬学研究員から聞き、侍女に軽食の用意を申し付けていたのだった。



 だから……

 何処に侍女達がいるの?

 レティはキョロキョロとした。


 皇宮の不思議である。




 ***




「 それで……その花の正体は分かったの? 」

「 まだ確かめた訳では無いんだけと……毒があるかも知れない 」

 だから図書館で毒草についての記述を調べていたのだとレティは言う。



 このお腹の空き具合から、お昼はとっくに過ぎている様で、レティは出されたサンドイッチやパンケーキにパクついている。


「 それで……預言者って何? 」

「 私……5度目の人生は預言者になろうかと思って…… 」

 ナプキンで口をススと拭きながら真面目な顔で言う。



 預言者は髭を生やし、白のローブを纏い、杖を持ち、大聖堂で人々の前で預言をするの……と、言いながらうっとりとしている。


 多分……

『魔法使いと拷問部屋』に出てくるんだろう。

 大体、我が国には大聖堂なんか無いからね。

 釣り師から随分と変わったもんだとアルベルトは笑った。



 彼女の5度目の人生……と言う事は……

 彼女は死ぬと言う事だ。

 彼女の語る未来は……

 死んでからでなければ訪れ無い未来。


 預言者になる事を熱く語るレティ。

 アルベルトは胸が痛くなり……

 泣きそうになった。





 ***




「 レティ……ちょっと付いて来て 」

 食べ終わったレティの手を取り歩き出した。


 また図書館に入って行く。


 いや……さっきの今で……

 ここに来るのが恥ずかしいのですが。



 チラリと受け付けのお姉さんを見ると……

 綺麗なお姉さんはチラチラと皇子様を見ていた。

 赤く頬を染めて……


 私の事なんか眼中に無いのね! ああそうですか!

 何時も何時も本当にウザイ視線だわ!


 レティは1人でプリプリするも、アルベルトはレティの手を引いて、図書館の奥に向かってずんずんと歩いて行く。


 この辺りは、医学に関係している本がズラリと並んでいて、誰も居ない。



「 ここで待ってて 」

 アルベルトが突き当たりの本棚の前に立ち、何やら本を動かすと……

 カチャリと音がした。


 そして……

 その本棚を片手で押すと……

 なんと……ガガガっと、本棚が後ろに動いた。



「 おお……秘密の部屋! 」

『魔法使いと拷問部屋』にも出てきたわ!


 何これ……何これーっ! 素敵!

 素敵過ぎる!



「 随分と久し振りだ 」

 アルベルトは中に入って行き、暗い室内に灯りを灯した。


 開いた本棚から顔を覗かせて……

 自分の頬を両手で押さえて、キラキラした目のレティに、おいでと手招きをする。


「 ここは皇族だけが閲覧出来る蔵書だ 」

 うんうんとレティは頭を縦に振った。

 物語には必ずあるのよ。

 王族や皇族の秘密の部屋が………


 ゴクリと唾を飲み込んで、辺りを警戒する。

 何も無さそうだが……

 足が一歩前に出ない。

 出しては引っ込め……出しては引っ込め………



「 入っておいで 」

 アルベルトがクスクスと笑いながら手招きをする。


「 部外者が入ったら呪われない? 」

「 呪いなんか無いよ……失礼だな。それに…レティは僕のお嫁さんになるんだから部外者じゃ無いよ 」

「 そう? 」

 レティはソロリソロリと足を踏み入れた。



 暗く閉ざされた部屋は、かび臭い独特の匂いがする小さな蔵書。


「 ここには父上か俺と一緒でなければ入れない。開け方を知っているのは父上と俺だけだからね 」


 本棚は壁に沿って並んであるだけで、本自体はそんなに多くは無い。

 窓が無い事から人の侵入を拒む程の禁書がある事が分かる。


 ソファーとテーブルが置いてあるが、綺麗な状態である事から最近皇帝陛下が入室した事が伺える。



 魅了の魔術使いの記述を調べる事で、父上とルーカスが入室したのだろうとアルベルトは思ったが……

 勿論レティには言わない。

 思い出して欲しくない事であるのだから。



 レティはキラキラした目で、禁書の本棚に夢中だ。


「 この部屋は母上も入室は出来ないんだよ 」

「 !? 」


 昔……

 皇后と側室の争いが勃発して、皇后が側室を毒殺したと言うおどろおどしい事件があった事は、レティもお妃教育の皇族史で習った事。


 その時、事件は伏せられ、皇后は病気療養として離宮に移され、残りの生涯をそこで過ごしたと言う。

 皇太子の母を処刑には出来ない事から。


 離宮に移される時……

 皇后は晴れやかな顔をしていたと言う。


 皇后と側室。

 彼女達にどれだけの心の葛藤があったのか……



 その事件以来、皇后はこの部屋には入室禁止になった。

 女の嫉妬は……

 一国の皇后であれども夜叉に変えてしまうのだから。



「 僕はレティだけだよ 」

 頬に……

 アルベルトから唇を寄られたレティは、嬉しそうに笑った。




 さて……

 肝心の毒草だ。


 毒草の記述書を探していると……

 本棚に医学書があった。

 禁書の医学書だ。

 読みたい!


 思わず手に取ろうとしたが……

 ここは我慢。

 今日は毒草を調べに来たのだから。



 レティは毒の記述書の本棚の前に立った。









読んで頂き有り難うございます。

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