皇宮騎士団入団式
本日は皇宮騎士団の入団式。
1年間の騎士養成所を修了した者は、自動的に騎士団に入団する事になる。
今年は、エドガー・ラ・ドゥルグが入団する。
国防相の父を持ち、叔父は騎士団団長。
従兄弟は第1騎士団所属で、騎士団NO.1の剣の腕前の持ち主。
この世に生を受けた時から、騎士の道に進まなければならないドゥルグ家の嫡男。
騎士であるならば誰もが彼に注目をしていた。
彼は……
どれだけのプレッシャーでこの場に立っている事か。
レティは入団式を見に来ていた。
大広間には新米騎士達の家族達や関係者で溢れ返っていた。
レティも3度目の人生では……
支給された真新しい騎士服に袖を通して、希望に胸を膨らませてこの場に立っていたのだ。
あの頃を思い出して暫し胸が熱くなる。
入団式には、騎士クラブで2年先輩だったエレナ先輩がいた。
彼女は騎士養成所でたった1人の女性だった。
男達の中で胸を張って並んでいる彼女が誇らしい。
レティの3度目の人生では、彼女は騎士の道には進まなかった。
彼女のその後の人生は知らないが。
だけど……
彼女は卒業試合の時に、皇太子殿下と皇太子妃になるレティを守りたいから騎士の道に進むと言った。
レティが皇太子殿下の婚約者になった事で、彼女の人生を変えたのだ。
レティは複雑な思いで彼女を見つめていた。
ラッパのファンファーレが鳴り響いた。
大広間に綺麗に整列した新米騎士達の緊張が一気に高まる。
「 皇帝陛下、皇后陛下並びに皇太子殿下のご入場でございます 」
忠誠を誓い命を掛けて守るべき存在。
それが彼等である。
3人の後ろに……
聖杯と聖剣を持った騎士達が続く。
皇帝陛下が王座の椅子に座り、皇后陛下、皇太子殿下も椅子に着席し、聖杯と聖剣は燭台の上に静かに置かれた。
騎士団団長の挨拶で式典が始まり、やがて式典のメインである騎士の誓いの儀式に入る。
シルフィード帝国最高指揮官が、アルベルト皇太子殿下である。
彼の持つ聖剣に騎士の誓いを立てる儀式が始まった。
これから1人ずつ順番に名前が呼ばれて行く。
1番最初に名前を呼ばれる者は騎士養成所で優秀であった者。
「 エドガー・ラ・ドゥルグ前に出よ 」
「 はっ! 」
エドガーは、皇太子殿下の前に跪き騎士の忠誠の姿勢を取った。
右手を心臓の上に添え、頭を垂れて片膝を付いて跪いている。
その左肩に皇太子が聖剣を当てる。
すると……
銀の聖剣が黄金色に輝いた。
アルベルトの魔力が籠ったのだ。
ワッと大広間に静かな歓声が上がった。
これは……
昨年の入団式には無かった事だ。
俺の魔力が強くなっているのか?
その時アルベルトは貴賓席にいるレティを見た。
彼女はヒーラーだ。
昨年の入団式には彼女は居なかった事から、何か関係があるのかも知れない。
儀式は続いていく。
「 エドガー・ラ・ドゥルグは騎士としてシルフィードに忠誠を誓い、この命ある限り主君と民を守り抜く所存でございます 」
エドガーが騎士の誓いの口上を伸べる。
レティと同じ貴賓席に座っているエドガーの母親が、こっそりと涙を拭いているのが印象的だった。
「そなたはこれよりシルフィード帝国の騎士となる。民を守る事は国を守る事。民と帝国を守る為に己の剣を捧げよ 」
「 御意 」
アルベルトがそう言った後に騎士団団長に視線を送ると、団長が細長い盆に乗せて剣を持って来た。
剣は、騎士養成所の時に自分に合わせて作った特注品である。
エドガーが盆の上に乗っている剣を右手で掴むと、場内から拍手が沸き起こった。
彼等はこの瞬間から何時でも人を殺せる事が出来る様になった。
また……
命令されれば、躊躇する事無く人を切り捨てなければならないのである。
時と場合によれば自らの判断で……
真剣を持つと言う事はそう言う事。
騎士養成所で、口が酸っぱくなる程言われた言葉を思い出して、騎士の卵達の気が引き締まった。
黄金に光った聖剣を掲げた儀式は……
それはそれは幻想的に行われ、騎士の卵達も彼等を見守る家族達も感動に包まれた。
そして……
忠誠の誓いの儀式が終わると、騎士の卵達は各々の家族の元に行き、この日より、家族よりも優先してシルフィードの騎士として生きる事を告げる。
その時に女性から……
母親、姉、妹、親戚、恋人達から……
無事を願って、彼女達の名前を縫い付けた剣帯を贈る風習がある。
贈られる剣帯の数は多ければ多い程良いとされていて。
レティも……
エドガーの無事を願って、自分の名前を縫い付けた剣帯を贈った。
「 エド……入団おめでとう。これ……下手くそだけど…… 」
本当に下手くそだった。
ただリティエラのイニシャルだけが入った剣帯。
母や叔母達から贈られた剣帯は、母や叔母の名前の回りに見事な花などの刺繍が成されていた。
「 有り難う、レティ……大事に使うよ 」
下手くそな刺繍が何だか愛おしい。
エドガーは嬉しそうに手に取った剣帯を見つめた。
3度目の人生ではレティも母から剣帯を貰った。
自分の娘が騎士になるなんて思ってもみなかっただろうに……
ローズの名前の入った刺繍。
あの日……
ガーゴイル討伐に向かった時。
背中には弓矢を背負い、騎乗して駆けて行く時に……
懐に忍ばせた母の名前の入った剣帯を、服の上から何度も何度も握りしめた。
僅か10人の騎乗弓兵隊の1番後ろから、新米騎士であるアーチャーレティは夜の道を駆けて行ったのだった。
***
「 何か思い出してたの? 」
式典が終わり、貴賓席でポツンと座るレティの顔をアルベルトが覗き込んで来た。
「 うん……私の初陣の事を…… 」
「 そう…… 」
レティから、何百ものガーゴイルの大群に僅か10名の弓騎兵が最前線で弓を射続けたのだと聞いた。
壮絶な戦いだ。
ドラゴン1匹だけでもあれだけの恐怖があったのに。
空が暗くなる程の沢山の数の魔獣……
あの時の俺は魔力を使わなかったと言うから……
魔力の開花はして無かったんだろう。
虎の穴に行ったのも……
レティが虎の穴に行くから、俺も行ったに過ぎないのだから。
「 あのね……アルのもあるの…… 」
レティが袋から剣帯を取り出した。
エドガーのは家紋の色の赤い剣帯だったが、アルベルトの剣帯の色は皇族の色であるロイヤルブルー。
レティのイニシャルが刺繍されていた。
「 聖剣には……ちょっと……あまりにも貧相だわね 」
「 有り難う、レティ……嬉しいよ 」
アルベルトはレティをギュウギュウ抱き締めた。
「 実は……さっきレティがエドに贈ってるのを見て……ちょっと嫉妬をしてたんだ 」
アルベルトが恥ずかしそうにレティを上目遣いで見た。
うわ~っ!!
何これ!
可愛い……
皇子様可愛い。
皇子様上目遣い可愛い御輿が担ぎ上げられた。
ワッショイワッショイと上目遣い皇子様が迫ってくる。
「 アル! 」
そこにエドガーとラウル、レオナルドがやって来た。
何だこいつ……
ラウルは、赤くなってボンヤリとアルベルトを見ているレティにデコピンをした。
「 い……痛いわね!! 」
御輿はいきなり下ろされた。
「 あの聖剣の光は魔力か? 」
騎士仲間の皆が喜んでいたと笑う、真新しい騎士服のエドガーが何だか眩しい。
昼からは騎乗弓兵隊の発足式がある。
皆で昼食を食べに行った。
騎乗弓兵隊の発足式で、レティは思わぬ人物と出会う事になる。




