閑話─皇子の切り取られた過去
子供に性的虐待をしようとする大人の記述が入ります。
不快な方はスルーしてください。
それは皇子が騎士団で剣の稽古をし始めた10歳位の頃。
そろそろ皇子の身の回りの世話をするのに、侍従を付け様としていた矢先にとんでもない事件が起きた。
皇子のお風呂の世話をしている侍女は何時も2人体制。
何かあってはいけないからだ。
その日はベテランのモニカと手伝いの若い侍女。
モニカは皇子の赤ちゃん時代から世話をしているベテラン侍女である。
お風呂の世話が終わり、皇子の着替えた物を持って2人が部屋から出て行くと……
暫くしてその若い侍女と若いメイドが皇子の部屋に入って来た。
皇族の部屋は、何かあると直ぐに警備員が駆け付けられる様にと、中からは部屋に鍵を掛ける事は無い。
当然皇子の部屋の前には警備員が2人いた。
入室して行ったのは何時もの侍女とメイドなので、警備員達は2人を怪しむ事も無く部屋に入れた。
部屋の中にいる皇子はベッドに座り静かに本を読んでいた。
侍女とメイドが、声も掛けずに部屋に入って来たから変だとは思ったが、何か忘れ物をしたのだろうと、顔を上げるでも無くそのまま本を読み続けていた。
すると……
侍女とメイドは、冷たいジュースをグラスに入れて皇子に飲むようにと言って渡した。
本に夢中になっていた皇子は、本から目を離さずにグラスを受け取り、喉が乾いていた事もあってゴクゴクと飲み干した。
暫く本を読む事に夢中になっていたが、ふと気付くとまだ侍女とメイドは部屋にいて、皇子をうっとりとした目で見つめていた。
最近は、こんな目で自分を見られる事に気付くようになった皇子だが……
まだ10歳の皇子に、それが欲情している目だとは気付く筈は無い。
それでも何か妙な感じがして……
まだ、声変わりもしていない可愛らしい声で言った。
「 もう、いいから下がれ 」
その時……
側に寄って来た侍女が皇子の口にタオルを押し込んだ。
「 !? な……×*#※×」
欲情した目をして、ニヤリと笑った侍女が皇子をベッドに押し倒して馬乗りになった。
逃れ様と足掻いたが、何だか身体に痺れを感じて上手く動けない。
すると……
サイドにいたメイドから腕を押さえ付けられた。
皇子に馬乗りになった侍女が皇子の寝間着のボタンを1つずつ外していく。
侍女の欲情している目と視線が合う。
彼女は何時も皇子の側にいて、世話をしてくれていた侍女。
どうして?
「 本当に綺麗な顔……綺麗な瞳……そんな目で見られたら……もう我慢出来ないわ 」
侍女は自分の衣服を脱ぎ出した。
「 ほら……アタシを見て! 女人の裸を見るのは初めてでしょ? 」
顔を赤くし、とろんとした女の目が自分を見詰めている。
嫌だ……
気持ち悪い。
皇子は先程まで読んでいた本を手に取り、痺れて行く身体に残ったありったけの力を振り絞ってナイトテーブルの上のランプに投げた。
すると……
本に当たったランプが、床に落下してガチャンと音が鳴って割れた。
「 皇子様! 何かございましたか? 」
「 何でも無いわ! ご苦労様 」
扉の外にいる警備員に侍女が答えた。
「 分かりました 」
ああ……
絶望の中……
欲情した上半身裸の侍女は、皇子の口に押し込まれたままのタオルを取り、自分の顔を皇子の顔に近付けて来た。
止めろ!
誰か……
痺れて声が出せない。
その時……
ガチャガチャと扉のノブを回す音が聞こえた。
鍵が掛かっている!?
何故?
先程の何かが割れる音。
何だかおかしいと感じた警備員が、様子を伺う為に部屋に入ろうとしてドアのノブを触ったのだった。
直ぐにガンガンと鍵を壊す音がして……
警備員達の怒号が聞こえた。
助かった……
その時……
痺れ薬が全身に回ったのか、皇子の意識が無くなった。
本当なら……
皇子が眠りについた時に襲う予定だったが、欲情した侍女とメイドは見目麗しい皇子を前にして、我慢出来なくなった。
しかし……
これが功を奏した。
結果的に未遂に終わったのだから。
この事件に1番激怒したのは、勿論母である皇后だった。
知らせを聞いて駆け付けた皇后は……
ベッドで眠る皇子を見てワナワナと震えた。
裸同然の姿で縄を掛けられている侍女とメイドの頬を張り倒した。
何度も何度も……
皇帝陛下が止めに入るまで……
何時も温和な皇后が、これ程までに怒りを露にしたのは後にも先にも初めての事。
侍女とメイドは直ぐに処刑され、その家族も処刑された。
勿論この事件は、事が事だけに詳細は伏せられたが。
皇族に危害を加える者は、その家族に至るまでが処刑されると言う事を帝国民に知らしめて震え上がらせた。
それ以来、皇子宮には皇后陛下に仕えた事のある信頼の置ける年齢のいった既婚者の侍女やメイドが配属され、皇子の身の回りの世話をする侍従が急遽付けられた。
目が覚めた皇子には何事も無かった様に皆が接した。
僅か10歳の皇子に、あれを思い出させて話をさせる事は出来なかった。
あれは悪い夢だったと思わせる事に。
しかし……
それがかえって皇子の心を蝕んだ。
消化出来ない心の傷に無理矢理蓋をしたのだ。
時間の経過と共に皇子は事件を忘れて成長していくが……
女性に対しての認識が変わって行く。
側に来られ様が触られ様が何も感じなくなった。
何も感じなくする事で、あれは大した事では無かったのだと、無理矢理自分を納得させたのかも知れない。
アルベルトが……
女性達に腕を絡められても胸を押し付けられても、振り払う事すらしない理由はここにあった。
どんなに熱い潤んだ目で見られようと……
彼は何も感じない。
全ての女の……
自分に向ける視線は皆同じ。
それは……
ある少女と出逢うまでの事。




