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公爵令嬢は断罪を断罪する

 



 季節は3月。


 学年末試験も終わり、生徒会行事の缶蹴り大会も終わり、後は卒業式を迎えるだけとなった。



 因みに缶蹴り大会は男女ペアでの参加。

 レティは誰かとペアになって参加する気満々だったが……

 アルベルトにダメ出しをされて見学となった。



「 当たり前じゃないか! 男女ペアで手を繋いで走るんだよ? 絶対にダメ! 」


 ブン剥れのレティに……

「 じゃあ、僕が他の女子生徒と仲良く手を繋いで参加しても良いの? 」

「 ………それはダメ……分かった。見学します 」

「 良い子だ 」


 レティは、マリアンヌペアと、昨年は見学していたユリベラと騎士クラブの部長のペアをひたすらに応援したのだった。


 この缶蹴り大会を、男女のペアで参加と決めたのは昨年の生徒会会長のアルベルトの独断で。

 レティと、ただ手を繋ぎたかったのだけが理由であると言う事は、レティは知らない。





 ***





 卒業式が終わり、夕方からは4年生の卒業プロムが華やかに行われていた。



「 俺は君との婚約を破棄する! 」


 学園生活の最後の時間を各々の思いで過ごしている卒業生達がいるホールで、それは突然に始まった。


「 何を……いきなり…… 」



 婚約を破棄すると言ったのは皇太子で……

 破棄されたのは公爵令嬢……の筈はない。


 何故なら……

 この国の皇太子は公爵令嬢を溺愛してるのだから。



 破棄すると言ったのは侯爵令息で言われたのは伯爵令嬢。

「 ジュリエッタ! 君は日々、この可愛いマリリンを虐めていたそうだな 」

「 ………… 」


 侯爵令息の腕にぶら下がっているのは男爵令嬢。

 見た目は可愛いが、どこから見てもアホそうでしかない令嬢だ。


 彼女は平民上がりの男爵令嬢で、貴族としてのルールやマナーは習っていないし、習おうともしない令嬢である。

 侯爵令息である高い身分の彼との結婚なんか出来る筈も無いのだが……


 脳内お花畑の彼等にはそこまでは考えてはいない。

 ただ……

 目の前にいる2人の邪魔をする婚約者を排除したいだけなので。



「 彼女を虐めたのは、俺への嫉妬からか? 」

「 ……… 」


 侯爵令息と伯爵令嬢のどうでも良いような断罪が始まった。

 これが皇太子と公爵令嬢なら国を揺るがす一大事になるのだが。



「 彼女の鉛筆を隠したり、ノートに落書きしたり、昨日はトイレから出られない様に前に立っていたそうだな! 」


「 他人のものを取ろうとするからですわ! 」

 ジュリエッタはしょーも無い苛めを本当にやっていた。


「 だけど……マリリンもワタクシの鉛筆を折ったり、教科書に落書きをしたり、トイレに行かせない様に通せんぼをしたわ! 」

 マリリンもちゃんと仕返しをしていた。

 それも若干ジュリエッタよりも強め。



「 煩い! 侯爵の俺に向かって口答えをするな! 」

「 ロミオ様! 」

 侯爵の名はロミオ。


「 婚約者がいる身で他の女に手を出すなんて酷いですわ 」

「 お前は一緒にいてもつまらない女。その点マリリンは俺の心も身体も癒してくれたんだ 」

「 まあ! ロミオ様ったら恥ずかしいわ 」

 2人は見つめ合い今にもキスをしそうだ。


 カァーっと頭に血が上ったジュリエッタは、マリリンに掴み掛かる。


 その時、ロミオはジュリエッタを突き飛ばした。

「 俺の大切な女に何をするんだ! 」

「 ロミオさま~怖いですぅ~ 」

 アホそうなマリリンの甘ったるい声が講堂に響き渡る。


 お前は喋るな!

 事の顛末に興味津々のギャラリーは、マリリンに興味は無かった。



「 キャア 」

 強い力で突き飛ばされて、悲鳴を上げて床に倒れるジュリエッタ。


 キャア! 止めてーっ!

 女の子に何をするのよ!

 会場からも悲鳴と怒号が上がる。


 ロミオは騎士クラブの強者で身体もデカイ。

 最上級生の4年生の中では、侯爵令息は彼1人。

 誰もロミオを止める事は出来ない。


 しかし……

 騎士クラブの部長が彼を止めようと駆けて来ていた。

 騎士クラブは実力主義。

 ここには身分や学年は存在しない。

 エドガーが3年生から部長だったのはそう言う事。



 そしてカァっと頭に血が上ったロミオが、更にジュリエッタを蹴り上げ様とした時に、彼の脇腹にドロップキックが決まった。

 ロミオは横に吹っ飛んで、尻餅を付いた。


 ロミオにドロップキックをかましたのは……

 何と……公爵令嬢だった。


「 やった! 吹っ飛ばせたわ…… 」

 シュタっと片膝を付いて、ニコリと満足そうに笑った公爵令嬢の美しさに皆が見惚れた。


 次の瞬間……

 ここで公爵令嬢が登場すると思わなかったギャラリーは狂喜乱舞した。

 ましてやいきなりドロップキックで登場したのだ。

 もう……ヤンヤヤンヤの大騒ぎ。



「 女性に暴力を振るうなんて最低ね 」

 手をパンパンと叩きながら、公爵令嬢は床に尻を付いて横っ腹を押さえているロミオを睨み付ける。

 その睨み付ける顔がまた美しい。


「 お前は…… 」

 女に恥をかかされたと逆上したロミオが、レティに飛び掛かろうと彼女を見ると……

 彼女の周りには、同じ騎士クラブの4年生達が彼女を守る様に立っていた。


 そう……

 卒業後に騎士養成所に入所し、将来は騎士団に入団しようと思っている彼等にとっては、もうレティは護衛する対象だったのである。



 直ぐにカッとなる性格のロミオは、この時思いとどまった事で命拾いをした。

 レティは皇太子殿下の婚約者。

 準皇族に当たる彼女に危害を加える事は、本人だけでは無くその一族全てが処刑される事になるのだから。



 侯爵令息よりも上の貴族は公爵令嬢のレティただ1人。

 レティは腕を組んでロミオの前に立ち、断罪を始めた。


「 騎士クラブに所属していながら女性に暴力を振るうなんてもっての他ですわ。恥を知りなさい! 先ず、婚約破棄するなら自宅で2人だけですれば良いのに、わざわざ皆が楽しんでいる卒業プロムでやる理由は何?」


 皆はそうだそうだと拳を振り上げた。



「 くっ………… 」

「 それはまあ、置くとして……婚約者以外に好きな人が出来る事は仕方が無い事だと思いますわ 」


「 そうだ! これは仕方ない事だ 」

「 黙りなさい! だからといって婚約者を蔑ろにするのは全くのお門違いですわ。新しい恋をするなら、先ずは婚約者に誠意を持って説明をして…… 」


「 したよ! したけどジュリエッタは納得してくれないんだ。だから皆の前で婚約破棄を突き付けたんだ! 」

「 昨日言われただけで、納得なんか出来るわけないでしょ? 」

「 俺がマリリンと恋仲だったのは知っていた筈だ! お前もこうなるのは分かっていた事だろ?」


 ジュリエッタは泣き出した。

「 お父様が……それでも結婚をしろと言うから……あの女を苛めながら我慢をしてたの 」

 貴族社会は家長である父親の権限は絶対だった。



「 こんな奴にまだ未練はある? 」

「 政略結婚でも……好きだったの……だけどもう良いわ! 婚約破棄を受け入れます 」

 ウォリウォール様のキックで吹っ飛んだゴミの様なこいつにはもう未練は無いわ!……と、ジュリエッタは立ち上がって、ロミオにカーテシーをした。


「 素敵よ。格好良いわ 」

 レティがジュリエッタを抱き締めた。

 後の事は公爵家に任せて!貴女のお父様を説得してみせるから。


 公爵家が間に入るなら百人力である。



 そして……

 おどおどと立ち尽くしているマリリンに言った。


「 婚約者がいると知っていながら、他人のものを取って恋仲になる貴女は最低よ! そして、婚約者がいるのに他の女に手を出す様な奴が……ましてや騎士クラブに所属しているくせに、女性に平気で暴力を振るう様な奴が、この先、貴女に誠実であるなんて思わない事ね 」



 レティはそう言ってジュリエッタを連れて行き、ロミオは騎士クラブの部長が連れて行った。


 青ざめたマリリンは……

 女生徒達からの冷たい視線を避ける様にして、ロミオの後を追った。




 レティは卒業プロムでこの断罪事件が起こる事を知っていた。

 4年生に進級すると、クラスメート達がこの話でもちきりだったのだ。

 暴力を振るわれたジュリエッタは、当たり所が悪かったのか……

 鼓膜が破れると言う酷い目にあっていた。


 当たり前だ。

 騎士クラブに入っている様な屈強な男に、か弱い令嬢が暴力を振るわれたのだから。

 彼の罪は侯爵家が権力で握り潰したのだと言う。


 だから……

 3年生ではあるが、レティはこっそりとプロム会場に忍び込んでいた。

 彼女を助ける為に。



 そして……

 ロミオ・ラ・ブリッゲンと言う男。


 この男こそが……

 レティの3度目の人生で、騎士団に入団した頃にレティに難癖を付けて突き飛ばし、暴力を振るおうとして、グレイに半殺しの目に合った男なのであった。





 ***





「 それで……俺には何も言わずに1人で行ったんだ…… 」


 今……

 レティは自分の部屋で、アルベルトから断罪されている真っ最中である。


 卒業式には、花をプレゼントする為に3年生も出席するが、プロムは卒業生だけの出席なので、レティは家にいる筈だった。

 だから……

 当然護衛騎士は付けられていなかった。



「 だって……皆もいるし…… 」

「 だけど、そのロミオって言う奴は、3度目の人生ではレティにも暴力を振るったんだろ? 」

「 突き飛ばされただけで、殴られる寸前にグレイ班長が止めてくれたわ 」


「 グレイがそこにいなかったら、君は暴力を振るわれていた。直ぐにカッとなる奴だと知っているのに、1人で行くなんて……どうかしてるぞ! レティ! 」

「 ごめんなさい…… 」

 シュンと耳が垂れているレティをアルベルトは睨み付ける。


「 お尻を叩こうか!? 」

 レティは慌ててお尻を押さえた。


「 おいで 」

 その仕草が可愛くて、アルベルトはレティを膝の上に乗せた。


「 全く……あいつらがいなかったらどうなってたか……」

「 うん……先輩達には感謝してる 」


「 ブリッゲン侯爵……議会議員の息子か…… 」

「 どうするの? まだロミオは何もして無いわよ? それに彼は強いわよ 」

「 いくら強くても、直ぐにカッとなる奴や、女性に暴力を振るう様な奴は騎士団にはいらない! それだけで排除の理由になる。皇太子の名で騎士養成所の試験を落としてやる 」



 グレイにだけ格好良い事をされてたまるか!

 本当は俺も半殺しにしたい位だが。


 アルベルトは、ちょこんと膝の上に乗っているレティにチュッとキスをした。

 ある想いを抱えて……




 そして……

 ロミオ・ラ・ブリッゲン侯爵令息は、その後にある騎士養成所の試験に落ちる。


 文官養成所でもそうだが、騎士養成所も入所試験がある。

 学園の騎士クラブに所属していた者が、騎士養成所の入所試験に落ちる事は今まで無かった事。



 卒業プロムでバカな真似をしたロミオは、公爵令嬢と揉め事を起こした事で皇太子に疎まれた。


 父親のブリッゲン侯爵は議会議員だった事でその対応は早く、ロミオは父親から領地行きを命じられ、侯爵家の爵位を継ぐのは次男となった。



 しかし……

 そうなったからと言って、侯爵令息が平民あがりの男爵令嬢との結婚なんかは有り得ない事で、彼等が婚約をする事は無かった。


 いや……

 正確には男爵令嬢が逃げたのだ。

 いくら好きでも、女性に暴力を振るう男なんて嫌だったからで。


 レティの3度目の人生では……

 元婚約者の鼓膜を破る程の事をしても、侯爵家の名と議会議員の圧力とで、無かった事にして騎士団に入団出来たロミオだったが、レティの4度目の人生ではそうはならなかった。

 皇太子殿下の影響がどれだけ凄いのかと。



 因みに……

 半殺しの目に合わせて、グレイが懲罰を受けたレティの3度目の人生でのロミオはお咎め無しだった。

 騎士団団長であるグレイの父は、自分の息子には厳しかった。

 まあ、半殺しにされたのだからそれで十分だが。




 あの時……

 グレイ班長が殴ってくれたけど……

 本当は私が殴りたかったのよね。


 レティはロミオにドロップキックをしてスッキリしたのであった。







 


この話で第3章の、レティが17歳でアルベルトが19歳の話は終わりです。


第4章は18歳になるレティと20歳のアルベルトの話になります。


レティが何度も死ぬ運命である4度目の人生での20歳までは後2年。

3度もループしているレティの数奇な運命を知ったアルベルトと、益々その運命と抗う事に邁進して行くレティ。


この物語は恋愛物です。

物語も後半に入りました。

2人のイチャイチャ、モヤモヤ、イライラ……と、これから繰り広げられる色んな人達との出逢いにお付き合い下されば嬉しいです。


第4章の本編までは、書き足りなかった事や書きたかった事を閑話で少し書くつもりです。


これからもレティとアルベルトを宜しくお願いします。



誤字脱字報告も有り難うございます。

面白い、続きが読みたいと思った方は

ブックマーク、下の五ツ星の評価をしてくだされば嬉しいです。


読んで頂き有り難うございます。





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― 新着の感想 ―
[一言] これからもレティが20歳を超えるまでのイチャイチャモチャモチャを楽しみに致しております。 ・・・が。 モヤモヤやイライラがあってもその後にそれ以上スッキリしてくれればいいなと心より思っており…
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