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公爵令嬢は正義の味方

 



 3月は皇帝陛下の生誕祭がある。


 レティは張り切っていた。

 何故なら……

 舞踏会でダンスを踊るからだ。


 練習をした成果を……



「 ちょっとゴンゾー! 」

「 何よ? 」

「 ダンスを習い初めて1ヶ月半なのに、私はまだ殿下と1度も踊って無いのよ? 」

 来週は舞踏会なのに……


「 たった5回レッスンを受けただけで、殿下と踊ろうと言う根性が浅ましいわ~あ~ヤダヤダ…… 」

「 な……何を言ってるの? 私は婚約者なんだから来週の舞踏会では殿下と踊らないといけないのよ? 」


「 辞退しなさいよ! そんなレベルでアタシの教え子として殿下と踊るなんて、恥ずかしいったらありゃしない 」

「 何で辞退しなきゃならないのよ! 」

 ……と、ギャアギャア揉めながらレティとゴンゾーは踊っている。


 ダンスホールの端では、騎士達と侍女達が笑って2人を見てるのも、見慣れた風景である。



「 さあ! 今度は1人でステップよ! 難しいダンスだから気合いを入れなさい 」

「 はぁい 」

「 何なのその気の抜けた返事は! さあ、アタシの後に続いて! 」


 パートナーと踊る腕の形を取りながら、ゴンゾーの後に付いて行く。


「 ワンツー、ワンツー、はいここは右、右、左左 」

「 ワンツー、ワンツー、右、右、右右 」

「 馬鹿じゃないの!? 右ばっかり出してどうするのよ! 」

「 そんなクネクネ歩きの真似は出来ないわ! 」


 騎士達と侍女達が身体を震えさせて笑いを堪えていた。




 毎回レティのダンスレッスンにアルベルトが来る訳では無いが、来ればゴンゾーだけがアルベルトと踊る。

 頬を赤らめて……

 うっとりしながら……

 レティには、見る事がレッスンだと有無を言わさない激しい口調で制止しながら。


 この日はアルベルトは来なかった。

 機嫌の悪くなったゴンゾーの厳しいレッスンが続いたのだった。





 ***





「 痛たたた……ゴンゾーめ! 」

  アルが来ない時は一段と厳しくなるんだから……


 レティは足を引き摺りながら学園の食堂までの廊下を歩いていた。


「 大丈夫ですか? リティエラ様…… 」

「 まだ痛みますか?」

 一緒に歩いているマリアンナとユリベラが心配そうだ。


「 有り難う。何とか歩けますわ 」

「 わたくしも新しいダンスのステップを習おうと、ダンスの講師の予約を執事にして貰いましたわ 」

「 じゃあ……わたくしもダンスのレッスンの予約をして貰いますわ 」



 新しい曲目が増えれば皆は挙ってダンスのレッスンをする。

 最新ナンバーを踊れる事が社交界の花形になれるのだから。


 特に女性をリードしなきゃならない男性達は、新しいダンスを完璧にマスターしなければならない。

 舞踏会や夜会でいち早く最新ナンバーを踊れる事が、女性達にモテる秘訣でもある。


 ただ……

 レティはまだ新しい曲目のダンスを踊る域には入っていない。

 何故なら、既存のダンスを踊るのに四苦八苦しているのだから。


 私も早く皆のレベルに到達しなければ……



 レティは聖誕祭の舞踏会では皇帝陛下と踊る事になっている。

 陛下の誕生日のお祝いに華を添える役目として。

 しかしこれはサプライズだから、ゴンゾーに陛下と踊るからちゃんと教えて欲しいとは言えなかったのだ。


 まあ……

 前にも1度陛下と踊っているから大丈夫よね。



 レティ達が学食に行くと……

 何やらギャアギャアと騒がしい。


 どうやら生徒同士が揉めている様だ。


 最近は学園で揉め事が多くなっている。

 この学園に皇子様がいた頃はやはり格となる人がいるからか、小さな揉め事はありはしたが、統率の取れている学園だった。


 特に皇子様が生徒会の会長をしてる昨年は、皆が皇子様を注視し、敬い、一丸となって生徒会長である皇子様の学園を盛り上げようとしていた。

 また、お祭り好きのラウル達もいた事で、学園はかつて無い程に楽しく盛り上がっていたのだった。


 今年も、ウィリアム王子がいた頃はやはり統率が取れていた。

 彼もやはり将来はローランド国に君臨する王子だと言う事もあって、統率力はあった。



 彼等のいない学園。

 これが本来の学園の姿だ。

 マウントの取り合い、身分差別、虐め………

 これらが横行して教師達を悩ませていた。


 そして……

 最近は庶民棟の生徒達が横暴になって来ている事も、問題だった。


「 私が平民だからってそんな事を言うのですね 」

「 違うわよ! マナーがなってないから注意をしているのですわ! 」


 どうやら揉めているのは女生徒達の様だ。


「 平民はマナーなんて知らないわ! 」

「 知らないから注意をしているのですわ 」


 彼女達は紫のタイをしているから4年生。

 1人の生徒は白のラインの制服で、もう1人の生徒は赤のラインが入っている事から、貴族生徒と平民生徒が口論をしているのだと直ぐに分かる。


 誰も仲裁に入ってくれる人がいないのも、口論が長引く事になっていた。

 きっと……

 皇子様がいれば……

 彼が学食に入って来ただけで、口論なんて止めるのだが。




 そこにレティ達が近付いてきた。


 公爵令嬢だ。

 彼女は平民の味方だ。

 前にも貴族生徒をやり込めた。

 外国の王女を相手にしても、平民生徒の為に咎めてくれたのだ。


 平民の女生徒はわざと大きな声で騒ぎだした。

「 平民だから差別をするんだわ! 」

「 ち……違うわ…… 」



 貴族生徒は自分が公爵令嬢から咎められると思って俯いた。

 平民生徒は、これから貴族生徒をやり込めてくれると思っているのか、どや顔だ。


 しかし……

 レティは通り過ぎて行った。

 お腹が空いていたので、料理が並べられているカウンターに急いでいたのだ。



「 リティエラ様! 私は貴族生徒に虐められてます! 」


 レティは……

 足を止めて引き返して来た。


 ワクワク……

 平民生徒達は、彼女が貴族生徒をやり込める所を見ようと皆が身体を乗り出して見ている。

 食堂では、貴族生徒や平民生徒達の様々な憶測が飛び交いざわざわとしている。



「 ちょっと貴女! 」

 公爵令嬢が見ているのは………平民生徒。


「 わたくしの名前を呼んで良いと言う許可は出しておりませんわよ! 」

「 えっ!?……あの………その……スミマセン…… 」

 まさか自分が咎められるとは思っていなかった平民生徒は慌てた。


 貴族社会では、高貴な貴族の名前呼びは、本人から許可をされないと呼んではいけないルールがある。

 たとえ平民であっても、そのルールを知らない訳が無い。



 オロオロする平民生徒に向かって、公爵令嬢は腰に手をやり機関銃の様に話し出した。


「 平民だからってルールやマナーを守らなくても良いという理由は無いわ! 貴族はね、小さい頃からルールやマナーを徹底的に厳しく叩き込まれるのよ。それはもう鞭で手や足を叩かれる位に厳しいわ。貴族には貴族であるが故の厳しい毎日があるのよ。私なんか昨日も厳しいダンスのレッスンで足はもうヨレヨレよ! 貴女知らないでしょ? ゴンゾーがどれだけ厳しくて口が悪いのかを。毎回毎回ダメ出しをされて、叱られて……精神的にどれだけダメージを受けているか……… 」



 はあ……

 公爵令嬢は一気に捲し立てると、ため息を付きながらヨロヨロと料理が並べられているカウンターに向かって歩いて行った。



 ゴンゾーって誰?

 あの高貴な公爵令嬢がゴンゾーにダメ出しをされてる?

 あれだけヨレヨレになってまで、ゴンゾーからダンスのレッスンをして貰ってるんだわ。


 貴族は何時も何もしないで偉そうにしていると思っていたけど……

 貴族も大変なのね。


 平民生徒達が大人しくなった。


 貴族生徒達はよくぞ言ってくれたと、皆が歓声を上げた。


 最近は、庶民棟の生徒達が、「平民だから……」と言う言葉を楯に、何をするにも偉そうにしていたのだった。

 貴族生徒達はそれを言われたら何も言い返せ無かったからで。


 そして……

 学園に通う平民生徒達はかなり裕福だ。

 厳しい躾をされる貴族の子供達よりも、自由で贅沢をして育てられている平民が多かった。

 貴族の中には領地を与えられていない貧乏な貴族もある事から、平民に馬鹿にされる貴族もあった。



 学園では、今一番身分の高い貴族が公爵令嬢であるレティだ。

 その上、彼女は皇太子殿下の婚約者なのである。

 彼女の影響力は凄かった。


 勿論、レティはただ学園生活を楽しんでいるだけなのだが……



 レティが去って直ぐに……

 平民生徒と貴族生徒は互いに謝罪をして、この揉め事は一件落着した。




「 今日の放課後は騎士クラブなのよね 」

 グレイ班長が弓矢を教えてくれるのだから……

 いっぱい食べて頑張らないと。


 それにしてもゴンゾーめ!

 ダンスの練習は踵の高いヒールを履いて踊るから、足の疲労は半端ないのだ。




 山盛りの料理をトレーに載せて自分の席に向かって歩いているレティを見ながら……


 公爵令嬢は貴族の味方でも平民の味方でも無い。

 正義の味方なのだと……

 皆は嬉しく思ったのだった。









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