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お忍びデートの意義

 



「 ジャック・ハルビンから渡されたあの包み……魔石……じゃないかな? 」

「 !? 何か思い出したの? 」

「 …………… 」


 暫くレティはアルベルトの腕の中でボンヤリとしていた。


 何かを思い巡らしている様で、アルベルトはレティの邪魔しない様にと彼女が話し出すのを静かに待った。



 甲板の上は冷たい海風が吹き、道具の点検をしている作業員達が、男が後ろから女をハグをして佇んでいる2人をチラチラと見るも、ロープを手繰り寄せたりと忙しくしている。



 レティがアルベルトの腕の中でもぞっと動く。


「 あのね……ボイラー室で、魔石に光の魔力を融合させる時に……シエルさんが魔石を手に乗せてくれたの…… 」

 あの魔石と質感が似てる気がすると言いながら、レティは自分の掌を見ている。


「 大きさは? 」

「 うーん……私が抱える位の大きさよ 」

「 それだけ大きい魔石ならかなり重いと思うけど…… 」

「 包みに入った物は軽かった様な…… 私が抱えて走れた位だから……やっぱり違うのかも 」

 あの時の私はまだ鍛えていない私だから、重いものを持っては走れないわと、ジャック・ハルビンから渡されたと言う包みを抱える振りをする。



 鍛えて無いレティか……

 1度目の人生の話をしてくれた時に、1度目の人生は公爵令嬢そのものだったと彼女は笑った。

 勿論、刺繍は苦手だったとか……

 ここで刺繍の話が出てくる程に嫌なのかとちょっと可哀想になる。

 ローズや母上には無理強いはするなと言っておこう。



 その時は、ただただお洒落をして……

 俺を振り向かせたかったのだと言う彼女が愛おしい。


「 こんなに綺麗な子が側にいたのに、手を出さなかった俺……それは本当に俺だったのか? 」

「 シルフィード帝国の皇子様はたった1人でしょ? 」

 ……と、レティはちょっと頬を膨らませてむくれたのだった。





「 あっ!? 」

「 あっ!? 」

 レティの被っているピンクの帽子にアルベルトが唇を寄せている時に、2人が同時に声をあげた。


「 魔力が融合されると、軽くなって色まで変わるんだって 」

 あの時……

 ボイラー室で、レティがアルベルトに説明した事を思い出した。



「 魔力を融合させた魔石!? 」

「 融合させて軽くなった魔石なら、あの頃の私でも抱えて走れるわよね 」


 魔力を融合された魔石。

 もしそれが魔石なら……

 何の魔力が融合されていたと言うのか……





 魔石



 それは……

 シルフィード帝国の北にあるミレニアム公国と、シルフィード帝国との境界線となっているエルベリア山脈にある鉱山から採掘される石の事である。


 この魔石は、エルベリア山脈のある一定の場所でしか採掘されない不思議な石で、魔道具に頼っている近年では世界中から買い付けを要望されている。

 石の大きさはまちまちで、大きくなればなる程にその魔石の価値は計り知れない物になっていく。


 小国であるミレニアム公国にとっての大きな資金源であった。


 ただ……

 シルフィード帝国は、ミレニアム公国の宗主国である事から、比較的に多く手に入りやすい環境にあった。


 だから……

 魔石を利用した魔道具の発展により、帝国も発展していっているが、そこには錬金術師達の努力による研究があるのを忘れてはならない事である。



 魔石は無限のエネルギーを宿せる器。

 なので……

 魔力使いが魔力を融合させなければただの石だし、そこに錬金術師達が作った道具がなければ、魔道具として使えない物である。



 シルフィード帝国では、光、雷、水、火、風、の5種類の魔力使いの存在が確認されている。


 雷の魔力は、勿論帝国の皇子アルベルトが宿している魔力である。

 開花させた事で、長らく存在しなかった雷の魔力使いが加わった。


 風の魔力も、あの風の魔女イザベラ唯1人しか発見されていない。

 あの時……

 もし、彼女が処刑されていれば……

 帝国にとっては莫大な損失になった事は否めない。




 レティの話では……

 ジャック・ハルビンとの面識は無く、ローランド国に行く船に乗った理由が……

 俺とイニエスタ王女との結婚式の為の、王女のウェディングドレスの注文を断る口実の為だと言われた。


「 つまらない理由でしょ? 」

 恥ずかしそうに俯いたレティに、どうしようもない切ない感情が重くのし掛かった。


 あの時……

 今の様に彼女を愛していれば……

 彼女に、こんなに辛いループをさせる事は無かったのだろうか?



 そんなレティだから……

 たまたまそこにいただけの彼女が、利用された可能性が高い。

 そう……

 ルーカスが言う、レティの子供の頃からあった『たまたま論』と『そんな子論』説だ。

 彼女は事件や特別な事によく遭遇する子なのだった。



「 しかし……そんな大きな魔石は見たことがない。小さな国が買える値段はするぞ? 」

「 そんなにお高いの? 」 


 それをジャック・ハルビンがそれを持っていて、追われていた理由とは?


 シルフィード帝国からローランド国へ行く船。

 ……と、言う事は……

 我が国にあった魔石………か………

 アルベルトは何やら考えながらブツブツと言っている。



「 !! …… ある!……大きな魔石が…… 」

 アルベルトが目を眇めながらレティに言った。





 ***





 甲板にいると海の冷たい風がどんどんと身体を冷やして行く。

 レティの頬に頬を寄せると……冷たい。


「 レティ……冷えて来たよ。もう下りよう 」

「 ………うん 」

 ちょっと待っててと言って、レティはアルベルトの腕からスルリと抜けた。


 すると……

「 ちょっとそこの貴方! 手摺が壊れたらちゃんと直しなさい! 」

 ………と、船の点検をしてる男を捕まえて説教をしだした。



 いきなり可愛らしい少女に話し掛けられたもんだから、まだ若い作業員はみるみるうちに赤くなっていく。

 それも、壊れてもいない手摺を指で指して、壊れたら修理をしろと訳の分からない事を言っているのである。


 レティは腕を組み足をバンとならして仁王立ちをする。

 もはや悪役令嬢と化して、偉そうである。


「 オーホホホ 」

「 はい……お嬢様の言うとおりに致します 」

 点検員達はひれ伏して信者の様になっていた。



 慌ててアルベルトがレティの手を引いて、その場から離れる。

「 壊れたら直ぐに修理をしなさいよ! 直ぐによ! 分かった!? 」

 クックッと笑うアルベルトに手を引かれながら、まだ悪役令嬢は作業員達に向かって叫んでいた。



 良かった……元気だ。

 自分の絶命した場所に行きたいと言った時は驚いたが。


 温泉地での……

 あの朝、1人で行動した理由も教えてくれた。

 魔獣との戦いの場……

 3度目の絶命した場所に行きたかったのだと。





 ***





 帰りもまた、4時間以上も乗合馬車に乗らないとならないのは憂鬱だったが……


 夕方に乗る乗合馬車もまた面白かった。

 皇都の街に近付くにつれ、日が落ちて辺りは暗くなっていく。


 途中の町からは酔っ払いが乗って来たりして、無謀にもレティに絡む。

「 ありゃりゃ? これは可愛い子ちゃんだなぁ~可愛いお手々をおじさんにも触らせてよ~ 」


 アルベルトと手を繋いでるレティの手を取ろうとするが……

 退屈していた護衛騎士達が待ってましたとばかりに、酔っ払いの腕を捻りあげたりして、周りの人から拍手をされると言う、夜の馬車も中々楽しいものであった。



「 改善点は……寒さと灯りだな 」

 皇太子殿下の実体験は大きい。


 程なくして、馬車の寒さは炎の魔力使いによって暖房がいれられ、薄暗い馬車の中や外を照らす灯りが、光の魔力使いであるノエル達が活躍する事だろう。



 この乗合馬車の導入は、アルベルトが皇太子になって初めてやり遂げた公共事業である。

 だからか、彼のその思い入れは相当なものである。


 それは……

 ローランド国に留学していたレティがその不便さを感じて、誰もが乗れる乗合馬車があれば良いと提案した事から始まったものであった。



 アルベルトは、楽しそうに年配の女性とお喋りしているレティを見ていた。


「 オバサンがね、庶民病院の停留所が病院から遠いって言ってたわ 」

 年配女性に何か不便な事は無いかと、聞いてくれていたらしい。

 あそこは……

 病院の前にはスペースが無く、停留所を作れなかったのだった。


「 病院の敷地の中に停留所を作れば良いんじゃない? 」

 あそこならかなりのスペースがあるからとレティが言う。


 何で知ってるのかと聞くまでも無かった。

 彼女は2度目の人生では、医師として庶民病院で働いていたのだ。



 レティが学園に入学して直ぐに、庶民棟の生徒達しか入らない料理クラブに入部したと聞いて驚いたが……

 彼女がなんの違和感なく平民達と話せるのは、彼女の2度目の人生で、庶民病院で医師をやっていたからなんだろうと今なら分かる。

 庶民病院の医師は平民の患者を診るのだから。



 また……

 彼女が庶民病院に言った理由も……

 皇太子妃の主治医になりたく無かったからなんだと。

「 勿論、スキルアップもしたかったんだけどね 」

 そう言ってレティは笑った。



 もう……

 たまらなくなってレティを抱き締めた。


 レティ……

 好きだよ……

 君の4度目の人生の俺は……

 君をこんなにも好きだよ。


 アルベルトがそう言うと……

 レティは嬉しそうに微笑んだ。




 アルベルトはそんな事を思い出しながら、オバサン達に飴ちゃんを貰っているレティを見ていた。


「 ここでお別れは悲しいよ…… 」

 年配女性とレティは馬車を下りる時には涙ぐんでいた。


 それにしても……

 レティの人懐っこさには脱帽だ。



 こうして……

 レティとアルベルトのお忍びデートは終わった。

 レティが楽しんでくれた事が何よりも嬉しい。


 港町では……

 アルベルトが外人の女性達に囲まれたり、レティがナンパされそうになったりと色んな事があったが……



 こんな風にお忍びで町を歩き、庶民の暮らしを見るのも大切な事だと、皇太子アルベルトは実感したのであった。





 翌日……

 アルベルトとレティは気になっていた魔石の前にいた。








 


誤字脱字報告を有り難うございます。

感謝感謝ですm(__)m


読んで頂き有り難うございます。


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