クリスマスの特別─後半
「 公務で遅くなるんじゃ無かったの? 」
「 うん……早く終わったから急いで迎えに来た 」
間に合って良かったと嬉しそうに笑う。
今は皇太子殿下専用馬車に乗り、向かい合って座っている。
遠方に公務で出掛けるから迎えには行けないと言われていた。
だから……
来てくれるとは思わなかった。
最後までお1人様を楽しもうと。
「 こんなに綺麗なお姫様を1人で帰す訳にはいかないだろ? 」
おどけた様に言う皇子様にドキドキする。
もしかしたら……
ドキドキするのは私だけ?
只今、マリアンヌの言葉が頭の中でぐるぐると旋回中。
そうよね。
アルは……
あんな事が出来る位に大人なんだから。(←当然ながら気になっている)
私みたいなお子ちゃまでは……
私の精神年齢は20歳なんだけれども、3度も人生を繰り返していながらも、恋愛経験は0。
ただただ皇太子殿下に恋い焦がれていただけのつまらない女。
「 レティ? 何かあったの? 」
レティは何か聞きたそうに顔を上げるが……
やっぱり止めようと俯いたりと、何だかモジモジとしている。
「 レティ! 言いたい事があるならちゃんと言って! 言ってくれないと分からないよ 」
ん?……と、眉を上げて……レティの顔を覗き込む。
チラリとアルベルトを見たレティはやはりモジモジとする。
「 あのね…… 」
「 うん? 」
「 ……アルは私といてマンネリだと感じてない? 」
えっ!?
また何を言い出すんだこの子は?
「 何でそう思うの? 」
「 だってね、マリアンヌ様が……婚約して1年以上も経てば、マンネリ化して、会ってもドキドキしないって言うから…… 」
マリアンヌって……
何時も一緒にいる令嬢の1人だな。
「 それで、レティは僕といてドキドキしないの? 」
「 私は……何時もドキドキしてるけど……アルは……私みたいなお子ちゃまといても……ドキドキしないのかなと思って…… 」
手を膝の上に置いて、ギュッと握りしめている。
やれやれ……
何の話をしてきたのか。
「 おいで…… 」
アルベルトは自分の隣をポンポンと叩く。
ドレスの裾を持ち、そこにちょこんと座って来たレティの小さな掌を自分の胸に押し当てた。
「 ドキドキしてない? 」
「 ………してる…… 」
「 僕は何時もレティといるとドキドキしてる 」
そのままレティの顔を覗き込む様にして顔を近付けていく。
「 それに……お子ちゃまって……君の精神年齢は20歳なんだろ? 」
「 ……そうだけど…… 」
「 僕より1つ歳上なんだよね? 」
「 だけどね、恋愛経験が無くて……その…… 」
「 じゃあ……もっと経験してみる? 」
「 それは……まだ…… 」
真っ赤な顔をしながら、頭をブンブンと横に振るレティが愛しくてたまらない。
「 レティが好きだよ……こんなにドキドキしてるのに、マンネリなんかある筈が無い 」
そう言ってアルベルトはレティの唇に口付けをした。
***
2人を乗せた皇太子殿下専用馬車は公爵家に行った。
レティのお1人様の寂しいクリスマスパーティーのやり直しを家族でしようと、ケーキや七面鳥を焼いてレティが帰るのを待っているのだと言う。
「 お帰り! 」
「 ただいま、あら!? エドとレオも呼んだの? 」
「 折角だからな 」
エドガーとレオナルドも来ていて、彼等は既に飲み食いを始めていた。
レティはマーサとドレスを着替えに自分の部屋に行く。
「 迎えに行けたんだな? 」
「 ああ、何とか間に合った 」
アルベルトは、コートを執事のトーマスに渡しながらドカッとソファーに座る。
「 大変そうだな 」
3人よりも、一足先に大人の世界に入ったアルベルトは随分と大人びて見える。
学園を卒業したと言っても、ラウル達はまだ学びの中にいるのだから。
絶対君主制のシルフィード帝国は、全てに皇帝陛下の決裁が必要である。
アルベルトが学園を卒業してからは、皇太子が決裁出来る案件を増やして行っている。
まだ政治の経験の無いアルベルトは、その勉強熱心で真っ直ぐな性格も相まって、いい加減な決裁が出来ないが為に各地を走り回って確認をしに行っているのである。
だから、どうしても遠出をする事が多くなるのであった。
レティが着替えて戻って来ると、もう1度皆で乾杯をして5人でのクリスマスパーティーが始まった。
アルベルトからレティへのクリスマスプレゼントは、可愛らしいピンクのファーの帽子。
街を馬車で走ってる時に、ウィンドウに飾られていた帽子がレティに似合うと思って購入したのだと言う。
アルベルトはレティにポスッと被せて……
「 まあ!可愛らしい 」
……と、言いながらチュッと唇にキスをした。
ウフフ……似合う? 似合う似合う……と、言いながら甘~く見つめ合っている2人に……
「 おいおい……俺達は空気か? 石ころか? 」
ラウル達が呆れ顔だ。
レティからのプレゼントも偶然にも帽子だった。
髪の毛がすっぽり隠れる様な大きめの黒のニット帽。
この目立つキラキラのブロンドの髪を隠せるかと。
街での手繋ぎデートをしたいんだと可愛い事を言いながら。
そして……
色違いの帽子が兄達にも贈られた。
ラウルには紺。
エドガーには茶。
レオナルドにはグレー。
皆は、こんなのが欲しかったと喜んだが、アルベルトは不服そうだ。
何でこいつらと同じなんだと。
「 あのね……アルにはほら……ここに……」
見ると、ピンクの刺繍が小さくある。
ハートの……多分ハートであろう小さな刺繍。
今回はこの刺繍を頑張ったのだ。
ローズに刺繍を習っているのに、何より大切なアルベルトへのプレゼントの刺繍がどんどん小さくなるのはどうしてか。
「 アルのは特別 」
「 有り難う。嬉しいよ。レティが被せてくれる? 」
レティに帽子を被せて貰いながら……
その可愛い特別が嬉しくて……
アルベルトはまたもやチュッとレティの唇にキスをしたのだった。
レティ! 俺にも帽子を被せてとレオナルドがチューの口をしている。
じゃあ俺も俺もと、エドガーが帽子をレティに差し出しながらチューの口をする。
「 馬鹿かお前らは! 」
アルベルトが2人のチューの口をつまみ上げるのを身て、ラウルとレティがケラケラと笑う。
お酒を飲んで、美味しい料理を食べて……
皆でギャアギャアワチャワチャと騒ぎまくる楽しいクリスマスになった。
良かった……2人に蟠りは無い様だ。
ルーカスが奥のソファーから、イチャイチャする皇子と娘を目を細めて見ていた。
皆が元気だ。
ルーカスの前にいるローズのグラスにも酒を注ぐ。
何時もお酒を飲まない彼女だが、今夜は少しルーカスに付き合ってくれて、お酒を口にしながらワチャワチャしている子供達を見て楽しそうにしている。
ルーカスは……
こんな平和なクリスマスを迎えられた事に安堵したのだった。
読んで頂き有り難うございます。




