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クリスマスの特別─前半

 



 学園のクリスマスパーティーは夕方から開催される為に、午前中に授業が終わると、貴族棟の生徒達はドレスアップの為に一旦自宅に帰る。

 庶民棟の生徒達は全寮制なので、寮に戻って着替えて来る事になる。



 今年はアルベルトがいない為にレティはパートナーがいない。

 一昨年はラウルと行き、昨年はアルベルトが公爵邸に迎えに来てくれて会場入りをした。

 今年は1人である。


 まさか婚約者がいる身で他の殿方とパートナーになる訳にはいかない。

 ましてやレティは皇太子殿下の婚約者なのだから、誰もお誘いする事はしない。

 勿論、お誘いを受けても断るのだが。



 そう言えば……

 私って全然モテないのよね。

 学園に入学して、今までラブレターの1つも貰った事は無い。

 確か……

 3度の人生ではかなりのラブレターを貰った。

 なのに4度目の今はさっぱりだわ。



 当時の交際の申し込みは、親を通して釣書を送って申し込むか、手紙を書いて本人に渡すのかのどちらかが多かった。


 アルベルトとレティの恋愛事情は特種なケースで、アルベルトが皇子だからバンバンレティに迫っていったのだ。


 勿論、皇子が恋愛結婚をするなんて事は世界的にも稀有な事で、だからこそ帝国民達から熱狂的に2人の恋を支持されているのであった。



 出会いの場の少ない貴族の令息令嬢達にとっては、学園生活の4年間は婚活の場。

 レティも4度目の人生の今は、叶う筈の無い皇太子殿下をお慕いする事は止めて、ボーイフレンドを作ろうと思っていたのだから。



 レティが入学して直ぐの頃には、凄く綺麗な公爵令嬢が入学して来たと、他クラスや上級生達がレティを見ようと1年B組に押し寄せていた。

 

 しかし……

 直ぐに帝国最強のオスがその美しい令嬢に狙いを付けた。

 ライオンに睨まれたハイエナ共は退散するしか無い。

 そんなオス共の攻防戦があった事はレティは当然知らない事。


 レティは指に嵌めているアイスブルーとバイオレットの小さな宝石の付いた2つの指輪にキスをした。

 どちらもアルベルトに貰った婚約指輪。


 今夜のパーティーは、壁の花となってドレスのリサーチでもするわ。




 会場入りをして直ぐに、マリアンヌがレティの側にやって来た。


「 あら? 婚約者様は? ご一緒しなくて良いの? 」

「 うちは、もう1年以上ものお付き合いだから…… 」


 そう言ったマリアンヌは、会場に着くとクラスの友達の所にさっさと行ってしまった婚約者を、遠くから一瞥した。


 えっ!?

 うちも1年以上経つけれども……


 

 そこに、部長とユリベラのカップルが入場して来た。


「 うそ!? 部長ったら……エスコートしてない! 」

 部長はユリベラの手も取らず、腕も組まずに少し離れて歩いている。

 レティとマリアンヌの2人は呆れて顔を見合わせた。


 そして……

 クラスメート達に囲まれて……

 冷やかされている部長の横でユリベラは真っ赤になっている。

 しかし……

 それが何とも幸せそうで。



「 初々しいわ……もう私達にはあんな気持ちは無いわ 」

 最近は会ってもあまり楽しく無いのだとか。

 マンネリ過ぎて……と、言ってマリアンヌは溜め息を付いた。


 マリアンヌは妄想好きで、何時も夢を見ている様なふわふわとした令嬢だった筈。

 何が彼女をこんな女にしたのか……



「 リティエラ様はそんな事はありませんか? 」


 私は……

 会えばドキドキするし、何時も楽しいし……


 私の顔を見て察したのか……

「 リティエラ様の婚約者様は皇子様ですものね 」

 皇子様は特別で別格で……

 何時も素敵で格好良くていらっしゃる。


 それからはマリアンヌの愚痴をネチネチと聞かされた。

 会っても会話さえ無くなった今は倦怠期だとか……

 いや、長年連れ添った夫婦じゃあるまいし。


 それよりも……

 マリアンヌは妄想好きで……ふわふわしていて……



 ダンス曲が流れると……

 そんなマリアンヌの元に婚約者がやって来た。

 差し出された手に手を添えて彼女は嬉しそうにホールの真ん中へ行った。


「 嬉しそう…… 」

 やっぱり大好きなんじゃないの。

 レティはフフンと笑った。



 今夜は誰もが特別。

 皆が特別になれる素敵な夜。



 お一人様の男子生徒に、次々にダンスに誘われて中央のホールに行く女子生徒達。


 お誘いを待ってソワソワと立っている女子生徒達の横で、今日は踊らないつもりでいるレティは、壁際のソファーにどっしりと腰掛けている。


 デビュタントがまだの1年生と、レティの様に学園に婚約者のいない女子生徒達は、こうやってソファーに座ったり、軽食コーナーで食事をしたりして、雑談をしながらパーティーを楽しむ事になっている。


 庶民棟の生徒達も然りだ。


 レティも、ドレスのリサーチをしながらカップルウォッチングをして、お1人様を楽しんでいた。



 部長もどうやらユリベラと踊るらしい。

 見ているこっちが赤面しちゃう位に初々しい。


 もしかしたら……

 つい最近にお付き合いをする事になった2人は、手を繋ぐのは今が初めて?

 キャア……なんて素敵。


 音楽が奏でられダンスがスタートした。


 うわっ!?

 部長ったらカチコチじゃない!

 ユリベラの足を踏んでるし……

 ペコペコと頭を下げて謝ってるし。

 ユリベラが泣きそうになってるわ。


「 …………… 」


 こんなのを見ていると、どれだけアルがダンスが上手なのかが分かる。

 どれだけ令嬢達とのダンスを数多く踊って来たのかと。


 アルが上手にリードしてくれるから、私もちゃんと踊れるんだわ。

 建国祭の舞踏会ではアルの足を沢山踏んじゃったし……


 私もちゃんと習いたい。


 レティもそこそこ踊れるが、それは父や執事のトーマスに習ったもので、本格的にダンスの講師に教わったものでは無かった。


 貴族の社交界では無くてはならないダンス。



 そんな貴族棟の生徒達を、庶民棟の生徒達がうっとりとして見ている。

 彼等は皇宮の舞踏会や貴族の主催する夜会に行く事は無い。

 学園にいる期間にだけ見れる華やかな貴族社会を垣間見ているのであった。

 



 ***




 今年も平民達のダンスを取り入れている。

 ジャーンと軽快な音楽が鳴ると、待ってましたとばかりに庶民棟の生徒達がホールの中央に出て来た。


 人の輪は3重にもなり、そこに貴族棟の生徒達も加わり、皆で踊り始めた。

 軽快なステップを踏みながら、手を繋いでぐるぐると回る。

 前に行ったり後ろに下がったりしながら、手を繋ぐ相手が次々に代わって行く。

 勿論レティも輪の中に加わってキャアキャアと踊った。


 カップルで無くても楽しめる平民達のダンスは、昨年にアルベルト会長の生徒会で導入したものである。


 何時も貴族棟の一部のカップルだけが楽しんでいた様なクリスマスパーティーが、平民達も楽しめるクリスマスパーティーとなったのだった。

 これには先生達も大層喜んだ。


 お1人様のレティも、存分に踊って笑って楽しむ事が出来た。



 そして……

 楽しいクリスマスパーティーは終わりを迎える。




 すると……

 ざわざわと扉の向こうが騒がしくなった。



「 皇太子殿下のお越しでございます 」


 帰り支度を始めてる生徒達に緊張と喜びが走る。


 バーンと扉が開けられると、皇子様が護衛騎士達を従えて講堂に入場して来た。


「 全校生徒諸君。皇太子殿下に礼を尽くしなさい 」


 令嬢達はドレスの裾を持ちカーテシーをし、令息達は胸に手を当て頭をたれ、それを見ていた庶民生徒達は、慌てて床にしゃがんで頭を下げた。

 

 そして……

 皆が皇子様の前をザザーっと開けて人垣を作れば。

 その先には………

 婚約者の公爵令嬢がいた。


 頭を下げる生徒達の間を通って、皇子様はゆっくりと公爵令嬢に向かって進む。

 後ろには護衛騎士達が続いて歩く。


 素敵な場面に、周りはキャアキャアと大騒ぎである。



 皇子様が公爵令嬢の前に来ると、公爵令嬢は美しいカーテシーをした。

 ドレープの沢山入ったドレスなので、それはそれはふわりと綺麗に広がって、その美しい所作に皆は息を飲む。


 嬉しそうに微笑んだ皇子様は……

「 私の婚約者のお迎えに上がりました。どうかお手をどうぞ 」

 そう言いながら手を差し出した。


 公爵令嬢はそっと皇子様の掌に手を乗せると、皇子様は公爵令嬢の手の甲に口付けをする。


 キャーッと大歓声が上がる。


 そして……

 見つめ合いながら、2人は手を取り合って扉に向かってゆっくりと歩いて行く。


 部長の横を通り過ぎる時……

 レティは部長を見つめ、婚約者はこんな風にエスコートをするのよ!と、無言で大きな目を更に見開いて教えたのだった。


 早く手を取れよ!カーッ!!


 レティの殺気に部長は慌てて横にいるユリベラの手を取った。

 それに気付いたユリベラが、頬を赤らめて嬉しそうにレティに手を振った。



 婚約者が学園にいない生徒達は、クリスマスパーティーが終わると、婚約者がお迎えに来る事が決まり事の様になっていた。

 アルベルトもそれに習いレティをお迎えに来たのである。


 しかし……

 皇太子と言う立場から、こんな派手な登場になってしまうのは仕方の無い事。

 本来ならば、会場の外で自分の婚約者が出てくるのを待っているだけなのだが。



 レティは……

 何時も特別な立場なので、今宵は特別じゃ無い自分を存分に楽しんでいたが……


 やはりこの婚約者が特別な人なので、最後に1番特別になったのであった。









読んで頂き有り難うございます。

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