ナレアニア王国の悲劇
「 君との婚約は破棄させて貰う! そして彼女と新たに婚約をする事にした 」
ナレアニア王国の王太子が、婚約者に向けて言い放った。
王太子の名はフェルナンド。
婚約者の公爵令嬢の名はクリスティーナ。
2人はクリス、フェルと呼び合い、同じ時間を共に過ごして来たのであった。
同い年の2人は幼馴染みで、早くから婚約をして、共に王太子と王太子妃になる為に勉強をしていた。
フェルナンドの御代には、国を統べる国王と王妃になる事を同じ夢として、国民も仲睦まじい2人の成長を見守っていたのであった。
学園の4年生である2人は、卒業をすると直ぐに結婚式を挙げる事から、結婚式の準備は大方終わっていて、2人は勿論の事、国民の皆も結婚式を楽しみにしていた。
その卒業を間近にした頃の突然の婚約破棄だった。
いきなりだった。
フェルナンドは何の前触れもなく、突然に大切な婚約者に向かって婚約を破棄すると言ったのである。
フェルナンドの腕には平民の少女がぶら下がっていた。
綺麗でも無く……どちらかと言えば不細工。
スタイルも悪いし、頭も悪そうで、とてもじゃ無いが何の癒しにもなりそうもない平民の娘。
対して公爵令嬢は、将来の王妃になるべく育て上げられた公爵令嬢。
共通語は堪能で、行いも所作も何もかもが美しい何処に出しても恥ずかしくない令嬢。
そんな婚約者と比べて、こんな平民が他国とも交流をしないとならない王太子妃や王妃になれる筈も無いのである。
何より……彼女は不細工だ。
誰もが、何故王太子がこんな不細工を好きになったのかが理解出来なかった。
「 俺は真実の愛をみつけたんだ 」
そう言って、あろうことか婚約者の目の前で、この不細工とキスを交わしたのである。
もう……
身体の関係もあるとか……
2人は堂々と恋人宣言をした。
「 分かりました……婚約の破棄をお受けいたします 」
公爵令嬢は見事なカーテシーを披露して、堂々と立ち去った。
国王や王妃がどんなに説得をしても、フェルナンドはこの不細工な平民を離そうとはしない。
常に何かに取り付かれた様に、彼女を慈しむ様な目で見つめ続けるのだった。
クリスティーナの悲劇はそれだけでは無かった。
慰めてくれる筈の両親が突然の離婚。
仲睦まじかった父も母も愛人を作ってしまったのだ。
国王や王妃は、可愛がっていたクリスティーナの身の上に嘆いたが、何故か大臣達は上の空である。
何故なら彼等も他人事では無かったのだから。
貴族達が離婚を巡って人情沙汰になり、殺された者もいた。
騎士達は平民の女の取り合いをして、決闘騒ぎとなり、何人もの命が落とされた。
愛人に現を抜かし、領地経営もろくにしなくなった貴族もいた。
この状況に手をこまねいている国王に、国民からは失望の念が湧き始めていた。
また、国民の希望である王太子が、国民の皆が慈しんで来た立派な公爵令嬢を捨てて、あんな綺麗でも何でも無い平民の女を婚約者にした事にも不満があった。
何故あんな平民を敬う事が出きるのか……
それでも国王と王妃は、王太子が好きならばと、不細工を男爵家に養子にして貰う様に手配した。
王族は平民とは結婚出来ない決まりがあったのだ。
しかし……
不思議な事に、この不細工を養子にしようとした男爵夫婦が次々に離婚して、不穏な空気になっていた。
誰かの陰謀か?
そんな考えが浮かんで来た頃に、不細工のお妃教育が始まった。
「平民だったんだから、出来ないのは仕方無いでしょ? 」
………と、不細工な顔で言うのである。
教育をしようとした先生も彼女の世話をする侍女達も、彼女そのものを嫌悪して次々に辞めていった。
似合わない宝石を付け、似合わない豪華なドレスを着て、ただはしゃいでいるだけの彼女は、社交界に必要なダンスも覚え様とはしなかった。
これでどうやって外交に出せると言うのか……
そんな時にフェルナンドの言った言葉が……
「 クリスが側妃になり、外交や王太子妃の仕事を全部やれば良いんじゃないか? そうしたらこの子と俺はずっと一緒にいられる 」
そう言って、フェルナンドの腕にぶら下がっている不細工を愛おしげに見つめた。
正妃になる不細工を教育しようともせずに、これ以上にまだ公爵令嬢を苦しめるのかと皆は呆れた。
この発言を受けて流石に国王は王太子を見限った。
フェルナンドは一体どうしてしまったのか……
国を統べる力量はもはや彼には無くなったと判断して、王太子を廃太子とした。
王太子には妹である2人の王女がいた。
2人の姉妹王女は、以前シルフィード帝国にもやって来た王女達である。
彼女達もアルベルトに淡い恋心を抱いていたが……
第1王女を王太女にして、第2王女をその補佐として置き、第1王女を将来の女王にさせる事を定めた。
王太女となった王女には、将来の王配となる侯爵家の次男を婚約者に決め、今、この2人に帝王学を学ばせている所である。
今現在のナレアニア王国は、国王の努力で何とか落ち付きを取り戻して来たのであった。
廃太子となった王子は……
城を出ると直ぐに不細工とは別れた。
まるで憑き物が落ちた様にまともになった王子は、己の罪を恥じて、王族から去る事を父である国王に申し出た。
彼は国王から侯爵の位を与えられ、王都よりもずっとずっと遠い領地でひっそりと暮らしている。
前の領主がろくでも無い領主だった事から、荒んでいた領地は新しい領主によって少しずつ活気を取り戻していた。
王都から遠い遠い場所にある領地民は、新しい領主が元王太子だとは気付いてはいない。
彼は何時もマントを深く被り、ドルーア侯爵と名乗っていた。
ドルーアは母である王妃の実家の名。
そして……
独りひっそりと暮らしていた侯爵の元には……
いつの間にか……
クリスティーナと言う名の美しいお嫁さんが来ていたのであった。
***
アハハはは……
「 上手くいったな。何組別れたんだろう? 」
「 それよりも、これで3ヶ国目よ 」
「 ナレアニア王国が1番面白かった 」
「 あの不細工な平民と王太子……あの組み合わせが最高だったわね 」
2年がかりでナレアニア王国を弄んだ兄妹が港にいた。
「 まさか王太子を廃太子にするとは思わなかったよ 」
「 流石に平民を王太子妃には出来なかったのね 」
アハハははは……
2人は高笑いをした。
「 次はどうする? 」
「 そうだな……シルフィード帝国の皇太子が婚約者を寵愛してるらしいな 」
「 確か……アルベルト皇太子は世界一の美丈夫だとか……遊びごたえがあるわね 」
「 じゃあ、シルフィード帝国に決定! 」
港にいる2人は帝国行きのチケットを購入し、シルフィード帝国にやって来たのである。
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