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魅了の兄妹

 



「 うわ~っ!! …………あれが皇太子…… 」


 両陛下が観覧に来ると言う事は事前に通達があったが、皇太子殿下が劇場に来る事は想定外だ。


 美人で妖艶な歌姫アイリーンは、初めて見る皇太子に魅了された。


「 あれで19歳…… あの色気は何処から来るの? 」

 お兄ちゃんより色気のある男は初めて見たと、アイリーンはアルベルトを眺めながら興奮気味に捲し立てた。



 バルタン24歳、アイリーン22歳。

 2人共に水色の髪にシルバーの瞳は切れ長である。

 長身で細身のスラリとした妖艶な美男美女の兄妹。


 平民である彼等は『魅了』を使って人々を翻弄して、婚約をしている貴族のカップルや夫婦を別れさせ、ざまあをして楽しんでいた。


 彼等がシルフィード帝国に来る前に、ローランド国の隣の国であるナレアニア王国で騒動を起こして来たばかりである。

 多くの高位貴族の夫婦や婚約者をしてる2人を別れさせ、1番の標的であった王太子と、その婚約者である公爵令嬢を破談にさせて来たのだった。



 この『魅了』は魔力では無く魔術。


 魔術は、生まれながらにして身体に宿る魔力とは違い、誰かから伝授されるか、自分で習得する奇術である。


 特に魅了の魔術は、邪悪なマヤカシで人々の心を操り、翻弄する事から世界中で禁止されている。

 これを使う者は即刻処刑。

 人々の心を操る事はそれだけ重罪な事であった。



 彼等は何時も他人を操って行動させて、その醜態を高みの見物をしながら楽しんでいた。


 だから……

 彼等が直接手を下さない事で捕まえる事が難しく、国が滅茶苦茶になった後で、もしかしたら魅了の魔術師の仕業だったのかと、その時初めて気が付くと言う本当に質の悪い犯罪をしていた。




 シルフィード帝国も皇太子と公爵令嬢が婚約中だと聞いた兄妹は、破談にさせる為にやって来た。


 そう、これはレティの3度の人生では無かった事。

 3度の人生では、まだこの時期の皇太子は王女とは婚約をしていなかった事から、この兄妹がシルフィード帝国に来る事は無かった。


 

 オペラ観劇は、貴族や金持ちの平民達の娯楽である事から、彼等は何時も劇場に住み着き、先ずは劇場に足を運ぶ貴族の夫人達を魅了した。


 夫人達は用心深い事からかなり入念な下ごしらえが必要で、10回劇場に通い、魅了のこもったサイン入り色紙を持たせる事で何時も自分の事を考える様にして行き、10枚集めればとどめのハグをすると言う手順を踏んでいた。


 その後……

 バルタンが流し目に魅了を込めてハグをすればその女性は彼の虜になるのである。



 アイリーンはもっと簡単に魅了出来ると自信満々だ。

 男なんて……

 腕を絡ませ、胸を擦り付け、上目遣いで見れば誰でも簡単に落ちるのだから。



 現に……

 シルフィード帝国の宰相の息子がもはや私の虜。

 何時もよりはちょっと手こずったけれども。


 宰相の息子の人脈を辿れば、直ぐに政治の中枢に入り込め、最大の目標である皇太子と婚約者の破談に一歩近付ける。

 ましてや彼は婚約者の兄で皇太子の親友なのである。


 アイリーンはラウルがクラブを経営してる事を嗅ぎ付け、週末の舞台に向けての歌の練習だと称して、無料で歌姫として毎夜歌わせて貰っていた。


 毎夜店にいて魅了の歌声を聴かされたので、流石のラウルも彼女に魅了されてしまったのだった。




 ***




「 今夜は、皇帝陛下の予定が皇太子殿下に代わったから、皇后陛下と皇太子殿下が来場なさる。皆、気合いをいれて対応する様に! 」


 彼等にとって、皇太子が来ることは千載一遇のチャンスである。

 皇太子と婚約者を別れさせる事が目的なのだから。



 皇族が来場される時は、遅くとも3日前には連絡があり、前日に騎士達が来て劇場の全てをチェックする。


 皇后陛下と手を振る皇太子殿下。

 遠目でも分かる絶対的なオーラ。


 各国を渡り歩けば、シルフィード帝国の皇太子は世界一の美丈夫だと噂されていた。

 どんな男かと楽しみにしていたアイリーンは、想像を遥かに越えた男に心を鷲掴みにされた。




 バルタンは手応えの無い観客を前にお芝居をしていた。

 おかしい……

 今日は10回目の公演。

 ここにいる夫人達を虜に出来る筈なのに……

 彼女達は何処を向いているのか?


 観客は、2階席のロイヤルボックスのアルベルトとレティが気になり、兄妹の歌や演技に集中してられなかった。


 そして……

 肝心のアイリーンも全く集中出来ていなかった。

 最大の見せ場である2人でデュエットでも、彼女は上の空でロイヤルボックスをチラチラみているのである。


 全く………

 今日は一体どうしたと言うのだ?




「 アイリーン! 今日は全く集中出来て無かったのはどう言う訳だ!? 」

「 だって……皇太子が気になって…… 」

「 今日は仕上げの日だったんだぞ! 」

 バルタンは嘆いた。




 ***




「 支配人! 皇后陛下と皇太子殿下に直接お目にかかって、ご挨拶をしたいのですが…… 」


 皇后と皇太子に焦点を当てる作戦に変更した。

 こんなチャンスは逃せない。

 歌声や芝居の声よりも、直接目を見る方が魅了の魔術に掛けやすいのだから。


 今まで瞳を合わせて、魅了に掛からなかった事は皆無であった。




 護衛騎士に囲まれて階段を下りてくる皇后陛下。


 流石にオーラが違う。

 その気品と気高さは生まれながらの王族のもの。

 そして……

 王妃よりも高い皇后と言う位にいる事で、彼女は更に輝きを放っているのだった。


 平民ならば目も合わせる事が出来ない高貴なお方。

 なのでバルタンは目を合わせられなかった。

 駄目だ! 高貴過ぎて身体が震える。



 隣の夫人。

 皇太子の婚約者の母親なら、宰相夫人である。

 彼女は俺のサイン入り色紙を何枚も手に持っていた。


 落とせる……


 夫人には流し目を送る。

 流し目……流し目……おまけにウィンク。


 あれ!?

 普通の顔をしているのは何故?



 ローズは熱が覚めていた。

 あれだけ素敵だと思っていたのに、近くで見たら大した事無い。

 殿下の方が素敵よね。

 ローズは元々アルベルト推しだった。



 じゃあ……

 気を取り直して若い皇太子の婚約者に……

 彼女を見れば……俺を見返してくる。


 いける!


 流し目……ウィンク……流し目……ウィンク……


「 貴方……目が乾燥してるの? 」

「 ………… 」


 何で通じないんだと思っていたら、横にいる皇太子が凄いオーラを放ちながら睨み付けてくる。


 うわ!チカチカする。

 改めて皇太子の全身を見てみれば、男の俺でも惚れてしまいそうな綺麗な顔。

 何と言う美丈夫!

 背も高いし……がたいも良い。

 溢れ出る色気と圧倒的なオーラ。

 これは……どの国の王子にも無かったもの。



 駄目だ!

 こんなのが側にいたら魅了なんか掛かるわけがない。



 妹を見れば……

 皇太子の魅了に惚けていた。




 ***




「 わたくし、姿絵まで集めてましたのに……ガッカリですわ。近くで見ると普通過ぎて………殿下の方が断然素敵ですわね 」

「 まあ! ローズったら……オホホホ…… 」

 本人を前に失礼な事を言うローズに、息子を誉められて嬉しそうにする皇后陛下。



 こちらのカップルを見れば……


「 アル! 妖艶で美人だからって、見すぎよ! 」

「 睨んで来たから、睨み返しただけだよ。レティこそあの俳優を見ていたじゃないか! 」

「 だって…そっくり兄妹だから間違い探しをしてたのよ 」

「 だからって、僕以外をあんなに見つめたら駄目だ! 」

「 アルは………」


 皇后御一行様は、ギャアギャア言いながら劇場を後にした。



「 間違い探し?」

 呆然と立ち尽くす兄妹を見比べて、ニヤケタ支配人は肩を揺らした。



 シルフィード帝国の皇太子殿下は、魔術師の発する魅了より強い魅力の持ち主だった。


 この日……

 劇場では兄妹の魅了により、一気に大勢の人間の心を操れる筈だった。


 しかし……

 アルベルトの登場により実現出来なかった。

 彼はその存在自体が帝国の太陽だったのである。


 そして……

 レティとのイチャイチャも人々の注意を反らすのに大いに役立った。


『 皇太子カップルのイチャイチャを見ると幸せになる 』

 その噂通りに、劇場にいる皆が幸せになった。





 ***




「 私……決めたわ皇太子を頂くわ! 」

 彼に抱かれたい。



 誰も買いに来なかったサイン入り色紙を見ながらバルタンが驚く。

「 おいおい自分で行くのか? まさか皇太子妃になるつもりじゃ無いだろうな!? 」


「 そうね……帝国民に手を振り、高価な宝石や贅沢なドレスに囲まれて、毎夜あの皇太子に愛される日々も悪くないかも 」



 そう……

 人々を魅了し、操る事が出来る彼等にはそれが容易く出来るのである。


 アルベルトに本気になった魅了の魔術を使う歌姫アイリーン。



 今、正に………

 国が崩壊するかも知れないと言う、帝国の危機が迫っていた。








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