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何かがおかしい

 



「 俺……好きな人が出来た。 彼女と結婚をするから!! 」



 ラウルが家族で夕飯を食べてる時に、突然の告白をしたのだった。


 ブーーッッッ!!

 レティは食べ物を吹き出し、ルーカスは喉を詰まらせて咳き込んでいる。


「 キャー! ごめんなさい 」

 メイド達が慌てて、台拭きを持って拭いてくれる。



「 ラウル! 何を突然に…… 」

 噎せながらも、慌てるルーカスにラウルは本気だと言う。


「 相手は? 」

「 それは……まだ告白してないから今は言えない 」




 マジか……

 正式に皇族の側室制度が廃止になってから、お兄様宛の釣書が増えた。


 それに、学園の女生徒達が私に好意的な目を向けて来る。

 明らかにお兄様狙いだと分かる素振りで。


 勿論、公爵令嬢の私に直接には何も言っては来なかったが、側室制度の廃止前は、私にライバルを見る様な目を向けて来た令嬢達が、今は媚びる様な視線を向けてくるのだ。



 アルが駄目ならお兄様って……

 いくらなんでも……

 アルの婚約者として、ラウルの妹としては、そんな野心家で下品な女はお断りだ。

 私の目が黒いうちは、ウォリウォール家の敷居は跨がせない!


「 オーホホホホ 」


 あら? 悪い事を考えると、つい悪役令嬢になってしまうのは学園祭でやり過ぎた後遺症か?


 しかし……

 何時もなら私の悪役令嬢を、可愛いと言って頭を撫でてくる兄はもういない。


 兄は虚ろな目をして……

 ホンワリと頬を染め、愛する女性(ひと)の事を考えている様だ。


 あの、煮ても焼いても炙っても食えないお兄様をこんなに骨抜きにする令嬢って……



「 お相手は誰なのかしら!? 」

 お父様と顔を見合わせて考える。


「 まあ、ラウルもそろそろ婚約者ぐらいはいても構わないだろう 」

「 相手によるわ! 」


 お父様がどんな縁談を持ち込もうが、私が認め無い女との縁談は絶対に阻止してやる!




 ***




 お母様がおかしい……

 お兄様の結婚宣言に、1番反応する筈のお母様が全くスルーしている。


 口にするのは……

 あの劇場の俳優さんの事ばかり。


 これは……

 いくらなんでも変じゃない?


 何やかんや言っても、お母様はお兄様が可愛くて仕方無いのである。

 なのに……

 スルーってどうよ?

 最愛の息子より、あんな何処の馬の骨か分からない奴が良いなんて……


 これは1度あの俳優を見に行ってみる必要があるわね。



「 お母様! 今週末はわたくしも劇場に参りますわ! 」

「 あら! 嬉しいわ~ わたくしね、後2回劇場に行ってサイン色紙を集めればハグして貰えるのよ。レティのサイン色紙を頂戴ね 」


「 お母様!! 」

 お父様の前で………

 なんて事を。


 お父様は苦笑いをしていた。



 見てやろうじゃないの!

 お兄様より、お父様より良いと言う俳優を!




 ***




「 嘘でしょ!?」



 レティはローズと劇場に来ていた。

 あの俳優を見る為に。


 そして……

 劇場がキャアキャアと騒がしくなったと思って、皆が見ている方向を見れば……

 ロイヤルボックスにアルベルトがいた。



 劇場に到着したら、道路にもロビーにも劇場の中にまで騎士達が大勢いるので、皇族が来場するのは分かっていた。

 皇后陛下かしらとローズと話していたのだ。


 まさか……

 アルだったとは……

 だったら当然、何処かの国の王女か令嬢のエスコート。


 見に行かないって言ってたのに……

 何処かのボンキュッボンの王女か令嬢にねだられて、チャンスとばかりに、あの美人で妖艶な歌姫を見に来たんだわ。



 許せない……

 私が来ないと知ってるからって。


 席でワナワナと怒りに震えていたら……


「 ウォリウォール公爵夫人とご令嬢様……こちらへ起こし下さい 」

 劇場のスタッフがやって来て、付いてくる様に言われる。

 どうやら2階のロイヤルボックスに案内される様だ。



 婚約者がある身で……

 いくら公務でも……

 こんなデートみたいな事をするかな?


 怒り狂っているレティには状況が見えない。

 2階のロイヤルボックスの扉の前に立っているアルベルトの上着の襟をいきなり掴んだ。


「 来ないと言ったくせに!! 」

 レティは騎士クラブで鍛えているから本当に強い。


「 レティ! 違うよ、落ち着いて! 」

「 誰と来てるのか言いなさい! 」

「 母上だよ! 」

「 母上って誰よ! 」

 アルベルトの胸ぐらをグイグイと揺する。


「 レティちゃん 」

「 レティ! 止めなさい! 」

「 !? 」

 扉の向こうから皇后陛下が姿を現し、レティの後ろからローズが叱る。



「 皇后様…… 」

 レティはアルベルトから手を放して、慌ててドレスの裾を持ち………カーテシーをする。


「 アル! 貴方は日頃の行いが悪いからレティちゃんが勘違いをするのよ! 反省しなさい! 」


「 レティ! なんて失礼な真似を……殿下に謝りなさい! 」


 2人揃って母親に叱られているのだった。




 ***




 支配人がアナウンスで、皇后陛下と皇太子殿下が来てる事を伝え、会場にいる皆がロイヤルボックスにいる2人に拍手を送る。


 レティとローズも観客に手を振る2人に、少し離れて侍女や護衛騎士達の側で頭を垂れて礼を尽くす。

 先程の無礼など無かった様な顔をして。



「 アルは日頃の行いが悪いの? 私が誤解する程の何の悪い事をしてるのよ? 」

「 何もしてないよ! 何だよ日頃の行いが悪いって……母上のせいだろうが! 」


 母親同士は1人席に各々が座り仲良く話していて、アルベルトとレティはカップルシートに座って………

 まだ揉めている。



「 来ないって言ったくせに…… 」

「 母上のエスコートだから仕方無いだろ? それだったらレティだって行かないって言ったろ? オペラが苦手なくせに…… それでも俳優を見に来たかったんだ? 」


 興奮してるからかかなり大きな声なので、劇場の皆がクスクスと笑っている。


「 違うわよ! 私にも理由があるの! 」

「 貴方達! いい加減にしなさい! 」

「 皆から笑われていますよ 」

 皇后陛下とローズが2人を見据えて、呆れた顔をしている。

 見れば観客からの全視線を浴びていた。



 劇場が暗くなり、緞帳が上がる。


「 理由って何? 」

「 お母様が変なのよ 」

「 何処が? 」


 そう言えば……

 お母様は普通だわ。

 何時ものお母様。


「 あのね…… 」

 レティは最近起きた公爵家の色々を話した。

 オペラが始まっているので、2人は顔を近付けてひそひそ話をしている。


 たまにアルベルトが、暗闇を良い事に一生懸命話すレティの頬や目尻にチュッとキスをしたりして……

 可愛い顔が直ぐ側にあるのだがら仕方無い。



「 ラウルが!? 」

「 しぃぃーっ! 」

 アルベルトのすっとんきょうな声に、皇后陛下やローズが睨み、下にいる観客達が少しキャアっと小さい声で囁いた。


 皇子様は声も素敵なので。

 皇子様が来てる事で、観客は何気にソワソワしていた。



 アルベルトはラウルのお相手を知らない様だし、ラウルが悩んでいるのも知らなかった。

 出会って直ぐに結婚を考えるとは……

 自分に相談してくれないのがショックだった。


「 そう言えば……最近会って無いかな……エドやレオとも 」

 今夜にでも、ラウルの店に行ってみるよとアルベルトは言う。

 多分エドやレオもいるだろう。




 ***




 気が付くとレティは寝ていた。

 アルベルトの肩に凭れかかり、コクりコクりとやっている。


 たまに、アルベルトはレティのオデコに掛かる髪をかき分けながらチュッとキスをする。


 2人の甘い世界が、会場に広がっていた。



 勿論、あのイケメン俳優のバルタンと、美人で妖艶な妹のアイリーンは舞台に出ていたが、この日の主役はやはり皇子様と公爵令嬢であった。



 舞台が終わって周りが明るくなる。

 勿論レティは目を覚ましていた。

 いや、私は寝ていないと言い張っている。



 支配人が俳優バルタンとアイリーンを連れて、皇后陛下と皇太子殿下に挨拶に来た。


「 彼等は各国を渡り歩く旅芸人です 」


 バルタンは最高の笑顔と流し目を皇后陛下とローズとレティに披露して、アイリーンは妖艶な瞳と声でアルベルトに挨拶をする。



 そして……

 挨拶が終わると……

 皇后御一行様は劇場を去っていった。


 皇后陛下とローズは、クスクスと笑ってお喋りをしながら。

 皇太子殿下と婚約者は手を繋いだまま、ギャアギャアと何やら揉めながら。


 その後ろをぞろぞろと侍女や騎士達が続く。



 俳優バルタンと歌姫アイリーンは、その場に呆然と立ち尽くしていた。



「 俺のスマイルと流し目が通じ無かった 」

「 私の瞳と声を以ってしても、全く駄目だったわ 」




「 おかしいぞ? 俺達兄妹の魅了が効かないなんて 」














読んで頂き有り難うございます。

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