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2つの公爵家

 



 お妃教育で皇族史を紐解けば、ウォリウォール家の歴史にも大いに関係する。


 ウォリウォール家、ドゥルグ家、ディオール家は、代々皇族を支えてきた、シルフィード帝国がまだ王国だった頃からの3大家臣の貴族である。



 シルフィード王国には、王弟が臣籍降下して誕生した公爵家と、王女が降嫁して誕生した公爵家の2つの公爵家があった。


 王女が降嫁して誕生した公爵家が、今のウォリウォール公爵家である。


 当時侯爵家だったウォリウォール家の嫡男に王女は熱烈な恋をしたそうだ。

 従兄弟である公爵家に降嫁する予定であったが、どうしても侯爵家の嫡男しか嫌だ宣言をして、王命で侯爵家を公爵に陞爵して嫁入りさせたのだと言う。


 この王女は剣を持ち、馬に乗る程のお転婆で、レティは王女の再来かもと専門家達は囁いている。


 そして嬉しい事に、この王女はなんと7人もの子供を産んだと言う。

 側室制度が廃止された今、レティは勝手に期待の星とされていた。

 皇太子殿下が寵愛してる事もあって。




 王女が降嫁して公爵家となったウォリウォール家。

 当時の王は、この王女を大層可愛がっていたこともあり、王都の近くにある広大な領地をウォリウォール公爵に与えた。


 ウォリウォール公爵領地となった土地は、平地で恵まれた気候である事から、ウォリウォール当主は沢山の農民達に土地を与えて農作物を収穫する事に力を注いだ。


 やがて、帝国の命と言われる程の収穫を誇り、それが戦乱の世でも、戦士も国民も飢えさせる事無く戦えた事が、帝国の勝利に繋がったと言われている。



 そんな領地の当主として、代々優れた手腕を発揮して来たウォリウォール家だが、実はもう1つの顔がある。


 脳筋で戦いの強さを誇るドゥルグ家に、話術で相手の懐に入る事に長けているディオール家。

 ウォリウォール家は策略家で軍師の家でもあった。


 常に王や皇帝の傍らにいて、戦乱の世では軍師としてその戦略を発揮して、シルフィード帝国を勝利に導いて来たのである。


 それが子孫であるルーカスやラウル、レティに受け継がれているのは言うまでもない。





「 ウォリウォール家は軍師だったんですね? 」


 レティは図書館の一室でお妃教育中である。



「 そうですね。 貴女のご先祖様の功績により、我が国は帝国になり今に至るのです。その頭脳は今でも、ウォリウォール宰相があらゆる分野で発揮されておられますね 」


 帝国史には必ずや3大貴族の話が出てくるが、こうして身内である父親の事を話されるのは何だか嬉しい。




「 もう1つの公爵家が無くなったのは何故ですか? 」


 今、シルフィード帝国で公爵家はウォリウォール家だけである。




 もう1つの公爵家。

 王弟が臣籍降下して出来たバーロン家がかつて存在した。



 王弟。

 当時は生き残る子供が少ないのは貴族や王族も同じで、第2王子が生まれると、第1王子のスペアの為に第1王子と共に大切に育てられる。

 しかし、第1王子が王太子となり王に即位すると、途端に邪魔になるのが王弟なのである。



 当時の王と、バーロン公爵の兄弟は大変仲が良く、他国との戦いも共に手を取り合って戦っていた。


 暫くは王家とバーロン公爵家のそんな良い関係の時代が続いたが、バーロン公爵家に1人の野心家が現れた。



 彼はバーロン大公と名乗り、密かに貴族達を自分の家臣にする事に力をいれていた。


 国同士の戦いも激しくなり、王は、ウォリウォール公爵、ドゥルグ侯爵、ディオール侯爵を引き連れて他国への遠征に出向く事が多く、帰国もままならない状況が続いていた。


 ある時の遠征時に、大公は国を守る為に戦いに行く事を拒み、国に残る事を希望した。

 それを了承したのが間違いであったのだが。



 この遠征は長引く事が予想された。

 戦いが長引けば国が狙われる事もある為に、大公に留守を任せる事にした。


 城内の兵士達も他国を警戒はするが、まさか大公がクーデターを犯し、城を占拠するとは思っても見なかった。

 城内の騎士達も戦ったが、王妃や王女を人質に取られてはどうしようも無かった。



 大公が自分に妻子がいるにも関わらず、美しい王妃に恋心を抱いていた事は、日頃の大公の態度から王妃も薄々勘づいていた。

 王妃は自分の身を差し出す事で、王女達や残った城内の者達に危害を加えない事をバーロン大公に約束させた。


 王座の椅子に座り、王の部屋を我が物顔で使う大公の横暴は2か月あまり続いた。


 それでも誇り高き王妃は、食糧支援などに力を入れ、立派に王の留守中である城と国民を守った。



 やがて……戦いを終え、クーデターを知る事となった王……

 その怒りは凄まじかった。

 帰城した王は、あっと言う間にバーロン一味を一網打尽にしてその首を並べた。


 戦いに長けているウォリウォール、ドゥルグ、ディオールの兵士達は、赤子の手を捻るが如くに呆気なく彼等を捕らえたのだった。


 そして……

 最後にバーロン大公が放った言葉が王を凍らせた。


「 王妃の腹には俺の子がいる!ハハハハ…… 」


 クーデター一味を処刑したその夜。

 辱しめを受けた王妃は、離宮の棟から飛び降り、絶命した。



『 直ぐに命を絶つべきでしたが、国民や城内の者達の命を守る為に、そして王子の無事と、陛下のお顔を最後に一目拝顔したいが為に、恥ずかしくも生き伸びてしまいました事をお許し下さい 』



 その手紙を読んだ王は嘆き悲しみ、バーロン家、そしてクーデターに参加した貴族達の子供や赤子にいたるまでの一族全てを処刑した。

 貴族達への見せしめの為に……


 こうしてバーロン公爵家は消滅したのだった。




 帝国史にはバーロン公爵家は流行り病で消滅したと小さく記されているが、皇族史には悲しい歴史だとして伝えられている。


 それ以来、王弟が存在すれば伯爵の爵位を授け、ウォリウォール公爵家、ドゥルグ侯爵家、ディオール侯爵家の下に置くことで、力を持たせない様にした。



 この時……

 王と王妃の嫡男である王子は、バーロン大公の代わりに戦いに出向いていた。


 あの時……戦いに出向かなければ……

 僅か14歳で初陣を果たした王子は悔やんだ。

 しかし……

 あの時、父王の元で戦いを学びなさいと進言したのは、他の誰でもない母である王妃だったのである。


 もし……

 王子が城に残っていれば……

 間違いなく1番先に殺されていた筈。

 敵は……最も信頼していた親戚だったのだから。


 国民を思う立派な王妃だった。

 戦乱の世でありながらも王とも仲睦まじく、王子の下には2人の王女がいた。


 何か嫌な予感がしたのだろうか……

 大切な我が子である王子を守った王妃だった。



 そして……

 この時に、父王に同行して戦いの術を直に学んだこの王子こそが、後にシルフィード王国を帝国に導いた皇帝、シルフィード一世である。





 レティは泣いていた。

 側にはいつの間にかアルベルトが来ていて、レティの手を握っている。


「 王様のその後は? 」

「 彼は……王子が王太子になった後に退位して、シルフィード王国が帝国になるのを見届けたら、残りの余生を王妃の墓に花を添える事を日課にしていたらしい。最期は王妃の墓の前で、王妃からの最期の手紙を大事そうに握り締めて亡くなっていたそうだ 」


 生涯後添えを娶る事の無かった王は、その遺言通りに王妃と同じ墓に入っていると言う。


 アルベルトがレティの涙を拭いながら静かに話してくれた。



「 2人は永遠に一緒よね? 」

「 ああ……勿論。それに……あの2人が居てくれたからこそ……僕が今、ここにいる…… 」




 皇族史として語り継がれる最も悲しい出来事であった。





 ***




 現在のウォリウォール公爵家の当主はルーカスである。

 先代は、ルーカスがローズと結婚して、ローズが妊娠し幸せいっぱいの頃に、領地にいた彼等は夫婦そろって流行り病で他界した。


 ルーカスは僅か22歳でシルフィード帝国の3大貴族であるウォリウォール公爵家の当主となった。


 悲しみに包まれた領地に、玉のような元気な嫡男ラウルが生まれた事は、領地民の最大の喜びとなった事は言うまでも無い。


 ルーカスには弟がいたが、弟は怪我が元で幼い頃に亡くなっていて、当時は医療の未熟さから、大人も子供も生き残るのには難しい時代であった。


 2度目の人生で勉学に励んだレティが医師になる事を選んだのも、祖父母や幼い子供が、病気や怪我で亡くなった事を聞いていた事も関係している。



 寂しい事だが……

 皇族がアルベルト皇子だけである様に、公爵家も跡取りはラウルのみ。


 こうした貴族の減少も国の政策として悩みの種であった。



 ウォリウォール家は皇族の血を引く家系。

 アルベルトはレティとの間に子が成されなければ、ラウルの子を皇子にと考えてる事もあり、側室制度を廃止した今、必然的にラウルに期待が寄せられていたのだった。


 なので……

 帝国の要人達からは、ラウルのお相手にも感心が寄せられていた。


 皇太子妃になるレティに公爵家の当主になるラウル。

 ウォリウォール兄妹は、シルフィード帝国の未来の為に勝手に期待をされていたのだった。





 そんな公爵令息のラウルの様子が、最近何だかおかしい。


 お店を持ったばかりなので、その疲れが出てるのかと様子を見れば……

 何だか思い詰めてるみたいに落ち込んだり、はたまた異様にテンションが高い時もあり、家人達が心配し始めた頃。



「 俺……好きな人が出来た。 彼女と結婚をするから!! 」



 ラウルは、家族で夕飯を食べてる時に、突然の告白をした。



 ブーーッッッ!!

 レティは食べてる物を吹き出した。










読んで頂き有り難うございます。

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