伝説の皇子様VS悪役令嬢
学園祭がやって来た。
今年は、2年続けて優勝したあの邪魔な『皇子様のご奉仕喫茶』が無い。
昨年は2年生が全クラス総出で4年A組に挑んだが、皇子様に完敗した。
ただドリンクを出しているだけの皇子様に。
レティのクラスは、単独優勝をするつもりで他のクラスをさっさと切り捨てた。
新たな強敵かと思われたウィリアム王子は帰国して既にいない。
野心のクラス3年B組の『悪役令嬢』の天下である。
「 オーホホホホ 」
今年は髪が伸びているので、地毛で縦ロール。
頭の上には白いリボン。
きつ目のメイクをして、ディオール領地で買った武器……いや、長い扇子を手に持ち足をバンと開き、顎をクイッと上げて手を腰にやれば……
伝説の悪役令嬢の誕生。
新1年生達にとっては待ちに待った悪役令嬢の登場。
皇子様VS悪役令嬢の対決は、もはやジラルド学園の伝説であった。
「 オーホホホホ 」
朝の公爵家ではレティが予行練習をしていた。
「 対抗馬は無し! 今年はいただくわ! 」
「 そんなんで優勝して何が嬉しいんだよ? 」
「 あら? 皇子様ってだけで優勝したお兄様に言われたく無いわ! 」
クラス一丸となって、対抗馬のいない今年の優勝を狙っているのだとか。
「 今日は、1日中ピシーンとやるつもりよ!」
レティはやる気満々だ。
「 何だよピシーンって…… 」
ラウルは、レティのクラスは何か勘違いをしてると思うのであった。
***
クラスの前の廊下には行列が出来ていて、3年B組の悪役令嬢は順調だった。
「 オーホホホホ! ワタクシを信じなさい 」
仁王立ちして、顎をクイッと上げて、正座をしている男子生徒の両肩を細長い扇子でピシーン、ピシーンと叩く。
「 感謝します 」
……と、有り難そうに手を合わせ頭を下げる生徒は、もはや修行中の信徒。
「 ピシーンってこれだったのか! 」
「 信じるって何を? 」
「 感謝するって何に? 」
「 可愛いな~ 」
声の主達は、B4。(←ビッグ4)
皇子様、ラウル、エドガー、レオナルドが学園祭に来ていた。
廊下の窓から3年B組を覗いている彼等は、レティの悪役令嬢が大好物なのである。
毎年、ジラルド学園の学園祭には、文部大臣達教育関係者がゲストとして呼ばれるのだが、今年は皇子様とラウル、エドガー、レオナルドが来る事になった。
「 今年は俺が行く! 」
アルベルトの一声でゲストが代わり、皆が集まれる午後にやって来たのである。
周りはB4の登場で……
特に皇子様の登場で騒然となり、キャアーキャアーと大騒ぎである。
そんな騒ぎを知らないレティは、教祖に邁進していた。
「 オーホホホホ、ワタクシを信じれば貴方は救われます 」
クラスの生徒達は真面目な顔をして、修行を終えた男子生徒にお布施を貰おうと箱を差し出している。
今年は優勝の打ち上げをしようとお布施を取る事にしたのだった。
「 お布施をここに………! 払わないと効果はありません! 」
アハハハハハ……
「 こいつらやっぱり馬鹿だ 」
「 救われるって……何から救われるんだよ? 」
「 効果って何の? 」
「 もはや、悪役令嬢が何なのかが分からない 」
アルベルト達は腹を抱えて笑いまくっている。
「 やけに騒がしいわね 」
休憩になったレティが教室から顔を出すと……
「 やあ、可愛らしい悪役令嬢だね 」
アルベルトが破顔してレティを抱き締めると、ラウル、エドガー、レオナルドが、やあと手を上げた。
「 アル……エド、レオ……お兄様……」
皇子様を呼び捨てにし、兄を様付けで呼ぶレティは実に奇妙だ。
「 お兄様は……今朝は何にも言って無かったのに…… 」
「 お前を驚かそうと思ってね 」
「 ビックリした? 」
「 俺達が大臣の代わりのゲストになったんだ 」
「 レティ……綺麗だ…… 」
驚いているレティの頬に、アルベルトはチュッと挨拶のキスをする。
周りからキャアーキャアーとピンクの歓声が上がる。
「 学園では止めてよ!」
「 僕達の挨拶はキスだろ? 」
おどけた様に言うアルベルトが憎たらしい。
「 じゃあ!次はキースのクラスに行こうか? 」
キースはエドガーの4歳下の弟で、学園の1年生。
「 あっ! キー君のクラスは私も行きたい 」
キースは騎士クラブの後輩。
エドガーとキースが並んだ所を見て、間違い探しをしたいとレティはずっと思っていた。
この機を逃してなるものかとテンションが上がる。
1年のクラスは別の棟にある。
キースのクラスに向かいながらも他のクラスに立ち寄ると、皆は大騒ぎだ。
学園が皇子様の出現で大パニックになってしまっていた。
キースのクラスは喫茶店。
丁度喉が乾いていたので、皆で注文をする。
出て来たキースが固まった。
直立不動でアルベルトに挨拶をする。
「 キース! 学園ではそう言う挨拶は無しだ 」
エドガーがリトルエドガーに注意をしている。
レティはギンギンと瞳を輝かせて2人の間違い探しを始めた。
騎士養成所で訓練をしているエドガーは、学生の頃よりぐっと逞しくなっていた。
違うのは……体格と……声。
目がキー君の方が若干丸い。
眉毛は角度まで同じだわ。
「 何?レティ……キースをそんなにも見つめて……」
アルベルトがムッとする。
「 間違い探しをやってるの! 」
「 間違い探し? 」
「 だって……ドゥルグ兄弟がそっくりなんだもの 」
2人の会話を聞いていたレオナルドが笑い出した。
「 それを言うならお前らだってそっくりじゃないか?」
レオナルドはラウルとレティを並ばせる。
男と女の違いはあれど、そっくり兄妹ならウォリウォール兄妹も負けてはいない。
悪そうな顔を2人で披露したら、益々そっくりになり、一発芸が出来ると皆で大爆笑をした。
「 レオと姉ちゃんは違っていたよな? 」
「 俺は母親似で、姉貴は父親似だと言われていたからな 」
兄弟。
同じ親から生まれた不思議な縁である。
***
「 アルにも兄弟がいたら……さぞかし美形な兄弟なんでしょうね 」
皆と別れて、2人仲良く手を繋いで学園祭を楽しんでいる。
「 さあね、いないから分からないよ 」
「 あのね……長年連れ添った仲の良い夫婦も似るんですって! うちの両親も似てるわ……陛下と皇后様も似てらっしゃるかも…… 」
「 確かに……じゃあ、僕達も将来は似て来るのかな? 」
「 そうかもね…… 」
2人の未来を語れない事に言葉が詰まる。
「 絶対にうまく行く!そっくりな夫婦になる為にずっと仲良くイチャイチャしよう 」
「 ………うん 」
アルが言うと心強い。
「 ねぇ……今からイチャイチャしようか? 」
レティの頬をぷにぷにしながら耳元に顔を近付けて囁く。
「 しません! 」
赤くなったレティが、仕返しのつもりでアルベルトの頬を捻ろうとするが、背の高いアルベルトの頬に上手く触る事が出来ない。
そんなレティが可愛くて、腕を回して抱き締める皇子様。
傍から見たらもう十分にイチャイチャしてる様だが。
料理クラブのクッキーをアルベルトに買って貰い、2人で皇子様のベンチに座る。
皇子様のベンチは今も健在で、誰も座る事は無かった。
誰かが手入れをしているのか……他のベンチよりも輝いている。
「 ここに座るのも久し振りだ 」
「 あの時、ここに来たのは……どうして? 」
「 君に会いたくて……君と話をしたくて……一目惚れだったのかも知れない 」
初めてこのベンチに座った事を思い出しながら、照れ隠しの様に、アルベルトはレティの縦ロールの髪を指でくるくるして遊んでいる。
やっぱり唐揚げ効果よね。
皇子様が私に一目惚れするなんて有り得ないわ。
お互いの存在を知っているにも関わらず……
ずっと切ない片想いで過ごして来た3度の人生での長い長い時間は、レティの中では重いものとなっていた。
レティは『魔法の唐揚げやさん』の唐揚げ餌付け説を、何気に有りだと思っていた。
学園祭と言えば、2人がずっと気になって訪れるクラスがある。
庶民棟の……『誰も居ないお化け屋敷』である。
勿論今回も行ってみた。
今回もやっていてやはり誰も居なかったが……
今回は何も無い教室に段ボールが1個置いてあった。
これは仕舞い忘れか、はたまたセットなのかが不気味だと2人で大ウケをしたのだった。
***
楽しい学園祭が終わり、結果発表の為に全校生徒達が講堂に集められた。
表彰は皇太子殿下が行う。
何故かマイクを持ったレオナルドが壇上にいる。
「 リティエラ・ラ・ウォリウォール君! こちらにおいで下さい 」
壇上を見ると、B4がおいでおいでと手招きをしている。
もしかしたら、伝説の皇子様VS悪役令嬢が見れるかも知れないと会場中がワクワクして、皆がレティを壇上に押しやる。
皇子様が下りてきて、公爵令嬢の手を持ちエスコートをして壇上に上げた。
「 さあ、ここに皇子様と悪役令嬢が揃いました 」
レオナルドがアナウンスを始めた。
もう、皆がキラキラした目を輝かせている。
今日は絶好調なんだから何でもやってやるわよ!
レティはやる気満々だ。
すると……
皇子様が跪いた。
キャーーーっと悲鳴が上がる。
「 君の愛は私の愛より少な過ぎるので、もっと君の愛が欲しいのだが? 」
胸に手をやり、レティに向かって手を伸ばした。
リアル告白である。
会場は大歓声で大盛り上がりである。
悪役令嬢は足をバンと打ち鳴らし、顎をクイッと上げ、腰に手を当てた。
「 ワタクシの愛をもっと欲しいだなんて百万年早くてよ! ワタクシの愛が欲しいのなら……… 」
「 欲しいのならー? 」
練習をしたわけでも無いのに皆の声が揃ってる。
「 人前でワタクシにベタベタするのはお止め下さいませ! オーホホホホ 」
長い扇子をバッと開いて口元を隠した。
会場は爆笑した。
皇子様ーー嫌がられてますよーーっ!!
人前で無ければ良いのですかーーーっ?
もう、キャアキャアと大騒ぎである。
「 それは却下! 私は何時でもイチャイチャしたいタイプだ! 」
皇子様は悪役令嬢の側に行き、彼女の手の甲にキスをした。
キャーーーっと、ピンクの声が鳴り響いた。
もっとイチャイチャして下さーい!!
またまた会場に大歓声が上がる。
「 はい、これリアルですからね。それに……皇太子カップルのイチャイチャを見ると幸せになると言う噂が巷で流れていますが……どうやら真実の様です!! だから、公爵令嬢は諦める様に! 」
レオナルドがレティにウィンクをする。
ならばイチャイチャしなきゃなと、皇太子殿下は婚約者を片手に抱き上げて皆に手を振った。
「 キャア!」
皇子様の首にしがみつく公爵令嬢は、頬を赤く染め幸せそうだ。
学園が幸せ色に包まれた。
これを見ている教師達は帝国の未来は明るいと感じ、目を細めていた。
学園は小さな国だと言われている。
学園を1つにした彼等。
彼等は未来の皇帝陛下と皇后陛下になられるお方なのである。
***
皇太子殿下が生徒会会長から渡された紙を読み上げる。
「 今年の優勝は………コホン………『B4のぶらり歩き』 」
アルベルトは言いにくそうにしながらもラウル達に向かってガッツポーズをした。
「 えーーーっっっ!? 」
優勝を確信していた3年B組が絶叫した。
笑いと大歓声が巻き起こった。
「 何よ? B4のぶらり歩きって!? 」
彼等は昼に来た時に、生徒会室に行ってエントリーしていたのだった。
ラウル達は、またもや皇子様ってだけで優勝をした。
「 歩いてるだけで優勝? それも生徒じゃ無いでしょ? 」
思わず叫ぶ悪役令嬢であった。
こうしてジラルド学園の学園祭は、B4の登場で盛り上がり、幕を閉じたのだった。
読んで頂き有り難うございます。




