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お妃教育

 



 レティの本格的なお妃教育が始まった。


 本来ならば学園を卒業してから行われるはずだったが、アルベルトの意向でこの春から既にお妃教育は始まっていた。

 勿論、お妃教育は名目で、レティ会いたさにごり押しをしたからであったが。


 アルベルトとお茶をするだけのお妃教育だったが、レティに準皇族としての立場を分からせる為に、この秋からきちんとお妃教育が行われる事となった。


 これはレティの無鉄砲さに、危機感を抱いた父親でもある宰相ルーカスが強く望んだ事。

 今や自分の娘と言うより、皇太子殿下の婚約者としての立場を優先するルーカスであった。



「 子供じゃありませんのに、そこまでしなくても立場は分かっておりますわ。でも、アルとお茶をするだけのお妃教育よりは有意義ですわね 」

 そう言って呑気にホホホと笑っている。

 授業が楽しみだと言うレティの発言に、ショックを隠せないアルベルトを前にして。


「 レティは僕と会いたく無いの? 」

「 それは会いたいけれども……お勉強は大事よ 」


 アルベルトとしては、ちゃんとしたお妃教育が大切な事は分かってはいるが、レティとの2人の時間が減る事が嫌だったのだが……




 そんなこんなで、この日から一週間に1度のお妃教育が始まった。



 レティの頭の良さは証明されているので、他の勉強は勿論だが、皇太子妃としては欠かせない外国語の勉強も共通語が既に話せるので、改めてする必要は無かった。



 先ずは皇族史の勉強から。

 皇族の事を理解し、皇族の一員になる為の下準備。

 これは皇族の話なので秘密裏の授業となる。


 講師はトラス先生。

 歴史学者として皇族史を教える。

 レティが昨年の帝国史の試験で、100点満点で200点を取った天才だと言う話は、教育関係者には知られている事であった。



 場所は皇宮図書館の一室。

 日当たりの良い明るい部屋で、皆で議論が出来る様な大きくて長いテーブルが真ん中に置かれている。


 豪華なソファーもあり、時間の合間に本を借りてきて読書をするには丁度良い部屋でもある。


 それに廊下を挟んだドアを開ければ、虎の穴に続く廊下がある。


 レティはこの部屋を大層気に入った。

「 何時間でもここに滞在出来そうだわ 」


 テーブルの上にノートを広げて、キラキラした目で見つめてくる皇太子殿下の婚約者をトラスは好ましく思った。

 向上心のある生徒は大好物である。


 天才だと聞き及んでいたのでどんな令嬢なのかと思っていたのだが、美しいだけでは無く、会話をすれば楽しくて、本当に愛らしい令嬢である。


 この令嬢を選んだ皇太子殿下を改めて見直したのだった。



 皇族史は帝国史と平行であるので、帝国史もちょいちょい入れながらの講義ではあるが、帝国史を熟知しているレティなので授業はやり易かった。


 1時間の授業はあっと言う間に過ぎ、2人でお茶をしようとベルを鳴らせば、待機していたかの様にメイドと赤い塊が先を争って入室して来た。

 何やら揉めている。



「 妃様! 」

「 爺ちゃん!? 」

 トラスは爺達に弾き飛ばされた。


 赤い塊は爺達だった。

 虎の穴が直ぐ側にあるのだ。

 暇をもて余している爺達が来ない訳がない。


 メイド達は、爺達にお茶を追加された事で、レティとお喋り出来ない事にムカついていた。

「 甘い物も忘れずに! 」

 ニヤリと薄笑いを浮かべながら、爺達にそう言われて余計にムカついていたのである。


 それでも皇宮のメイド達は優秀だ。

 直ぐに10人分も追加をしてレティの側に急ぐ。


 彼女達は、レティの作ったあのスキンクリームの話をしたいのであった。




 ***




「 うわっ!? 何だこの部屋は? 」


 レティの様子を見に来たアルベルトが驚くのは無理もない。

 10人の赤の塊と、メイド達がレティを囲んでキャアキャアと席取り合戦をやっているのだから。



 皆が一斉に立ち上がりアルベルトに頭を下げ、礼を尽くす。

 メイド達は直ぐに部屋を後にしたが、爺達は居座る。

 1歩もレティの側を離れる気は無い。



「 殿下は、何しに来られたのじゃ? 年寄りの憩いを邪魔しおって…… 」

「 妃様とここのソファーで何をするつもりじゃ!? 」

「 年がら年中発情しおって…… 」

 アルベルトが発情してもしなくても煩いジジイ達。

 ジジイ達はレティとの時間を邪魔された事が気に食わない。



「 お前ら……いい加減にしろ! 」

 爺達の悪口は、他国で毒を吐きまくっていた事でパワーアップしていた。



「 トラスは? 」

「 殿下、ここにおります 」

 トラスは腰を押さえながら爺達の後ろから顔を出す。

 彼は、先程ジジイに弾き飛ばされてダメージを追っていた。

 ジジイは他国で思う存分飲み食いをして来たので、パワーがあった。

 身体も口も絶好調の、元気いっぱいのジジイ達であった。




「 どうだ? 初授業は? 」

「 妃様は素晴らしいですね。頭脳明晰で……授業が楽しいです 」

 爺達に感化されたトラスも、いつの間にかレティを妃呼びをしているが、アルベルトも爺達の妃呼びが気に入っているので訂正はしない。


「 そうか…… 」

 嬉しそうに爺達と話をするレティを見つめるアルベルトだった。


「 爺! そこを退け! レティの横には俺が座る! 」

 アルベルトも席取り合戦に参加した。



 トラスはアルベルトの教育係であった。

 アルベルトの小さい頃からここで教えていたのである。

 もう、学園を卒業した殿下に自分は必要は無いのだと、最近将来について悩んでいた。


 だけど……

 将来は虎の穴の物理学研究員になる事も悪くないと思うのであった。

 ジジイ達よりかなり若いが……





 ***




 お妃教育の初日が終わり、アルベルトがレティを公爵邸に送っていく。


 手を繋いで仲良く歩く2人を、城の者は微笑ましく見ていた。



「 どうだった? 」

「 うん……まだ始まったばかりだけれども……知らない世界を知る事は楽しいわ。 」

「 トラスは僕達の先生の1人だったんだよ 」


 アルベルトの教育係は5人いた。

 1人の凝り固まった教育だけでなく、老若男女の色んな人からの考えや教えを受け、幅広い見解を持つようにと考えられた教育システムだった。

 勿論、ルーカスの考えで。


「 達? 」

「 ああ、ラウルやエドガー、レオナルドも一緒だったんだ 」

「 まあ! お兄様達も? 」

「 ラウル達の悪戯の被害を一番受けたのは、当時は一番若かったトラスかな 」


 アルベルトは懐かしそうに目を細めた。




 2人の逢瀬の時間が無くなったので、アルベルトはレティにもう1日会える時間を作る様にと言う。


「 友達との学園帰りの寄り道の日は楽しみなんだから止めないし、料理クラブも語学クラブも騎士クラブも辞めないわ 」


 因みに……

 学園は週休2日制であり、レティは30分の語学クラブの後にお妃教育を受けている。

 皇宮は24時間体制であるのでシフト制だが、世間の休日は帝国が決めている休日以外は適当であった。




「 じゃあ、2日間ある騎士クラブを1日だけにするとか……」

「 1日だけでは、身に付かないわ。それに今年からグレイ班長が弓矢を教えに来てくれてるのよ? 騎士クラブに行くのが2日間だけでも足りない位なのに…… 」


 勿論、土日はたまにデートもするし、夜には公爵邸に足を運びレティの顔を見に行くつもりだ。

 だけど……

 アルベルトは確約した会える日が欲しかった。



 キッパリと否定をするレティが気に食わない。

 自分との時間は大切では無いのかと。

 学園時代と違って会える時間が極端に少ないのだ。

 それに……

 自分との時間よりもグレイを優先するのも……カチンと来た。



「 もう、君が剣や弓矢を習う必要は無いんだよ。ガーゴイルの襲撃は僕や騎士団で何とかするから。医者だってやる必要は無い! 君が感染したら大変だ。僕があらゆる手を使って特効薬を作らせるから 」


 レティはこのアルベルトの発言に衝撃を受けて、立ち止まる。



「 レティを危険な目にあわせる事は出来ない 」

「 私に高みの見物をしろと言うの? 」

「 そうだ! 何度でも言う! 僕は君を危険な場所に行かせない! 」


「 一緒に頑張ろうって言ったじゃない! 」

「 君は、君の記憶を正確に僕に伝えてくれるだけで良い。流行り病の患者を診る必要は無いし、ガーゴイルの出現する地に行く必要も無い! 勿論、船に乗る必要も無い! 」


「 そんな…… 」

 あまりにもの上から目線の言いように、レティは涙をボロボロと流した。



 今まで頑張って来たのは何の為?

 私がループしてるのは何の為?

 高みの見物をしてれば私はもうループしないの?


 否だ!

 違う!違う!


 船の爆発も……

 私が船に乗らなかった2度目と3度目の人生でも、船は爆発して沢山の人が怪我をしたり亡くなったりしたのだ。


 流行り病も……

 3度目の騎士の人生の時でも流行って沢山の人が亡くなった。

 私が医者で無い3度目の人生でも流行ったのだ。


 それに……

 2度目の人生で私が死ぬ前に……

 医師である私が助けた命も沢山ある。


 私が逃げていては駄目なのよ!



 色んな想いが頭の中を駆け巡り、何が何だかもう分からなくなった。

 ただただ悲しかった。

 自分のループの人生なのに……

 自分が必要無いと言われた事が。


 ループの話をしてもしなくても、結局同じ壁にぶち当たるのだ。



 レティはアルベルトと繋いでいる手を振りほどく。

 一歩、一歩と後ろに下がりながら流れる涙を拭う。



「 それは命令なの?………アルに話すんじゃ無かった! 」

「 アルなんか嫌い! 大っ嫌いよーーっ!! 」


 レティは泣き叫びながら駆け出した。



「 レティ!! 」






 城の者達は大慌てで右往左往している。

 あれだけラブラブで仲の良い2人が喧嘩をしているのだから。


 さっきまで甘い顔をして歩いてましたやん……









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― 新着の感想 ―
[良い点] 久し振りの赤い10人のキューピッド達に癒やされました。 [気になる点] ああ…アルのレティを危険な目に遭わせたく無い気持ちは分かれど、レティも責任感強いから… 故のすれ違いですね。 [一…
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