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記憶を辿って

 



「 ……で? このポーションは? 」

 まるで昨年のドラゴンの血を持ち込んだ時の再現であるかの様に、虎の穴の応接室にレティは呼び出されている。

 皇太子殿下に。


 皇太子殿下は長い足を組んで、右手はソファーの肘掛けをトントンと長くて細い指で叩いている。


 ただ昨年のドラゴンの血の時と明らかに違うのは、レティがループの全てを皇太子殿下に打ち明けていると言う事。

 だから……

 もう誤魔化す事も、嘘を付く事もしなくて良いと言う事が嬉しかった。



「 騎士の報告書にある男はジャック・ハルビンだよな? 」

「 そう……開店一周年のお祝いに来てくれて……そのお祝いの品にポーションを貰ったの 」

 アルベルトが不機嫌な顔をしている理由はレティには分かっていた。

 それよりも……

 やはり護衛騎士からは報告されているのが、監視されているみたいで面白くない。

 仕方無いとは思うが。



「 何で開店祝いがポーションなんだよ? 」

「 以前ドラゴンの血を貰った時に、ポーションも欲しいとジャック・ハルビンに言っていたのよ。だって……私は虎の穴の薬学研究員だから…… 」


 白のローブを着たレティが自分の胸をトントンとした。

 そう……

 4度目の人生の彼女は薬師である。



「 あれを持ち出せる、ジャック・ハルビンが怪しいんだよ。 前に、ジャック・ハルビンに会う時は俺も一緒じゃないと駄目だと言ったよな?」

「 だって……向こうからやって来たんだから仕方無いじゃない? 」

 それにジャック・ハルビンは仕入れ業者なんだからこれからも懇意にするわよ。

 もう、隠し事は無いんだからとレティは胸を張る。



 全く……

 護衛騎士や薬師達の報告が無ければ、また秘密にされるところだったかも知れない。


 騎士だけで無く、虎の穴でも、どの研究者達もその日毎に研究した事を報告書に書く義務がある。

 それでポーションの事が分かったのである。


 レティはあの日、ジャック・ハルビンと別れてから直ぐに虎の穴に向かい、薬師達に渡したのだった。

 成分の分析をして貰う為に。



「 1度目の人生の時だったっけ? ジャック・ハルビンとの関係は? 」

 そう言えば肝心なジャック・ハルビンとの事は何も話してはいない。


 いや……

 何も無いのだ。

 ただ乗っていた船で包みを渡されただけ。

 全く理不尽な死である。


 そこをアルベルトに詳しく話す。


「 彼は何をレティに渡したんだろう? 」

「 それを知りたくてジャック・ハルビンを探したのよ 」


 だけど……

 それはレティの記憶だけれども、過去にあった事ではないと言う事がやっかいである。


 過去にあった事ならジャック・ハルビンを問い詰めれば良いのだが……

 未来に起こるかも知れない出来事なのだから、今の段階ではお手上げであった。


 そもそも、レティ自体がもはや記憶に乏しい1度目の人生である。

 12年前の20歳の事であるのだから。




「 そもそも何故君は船に乗っていたんだ? 」

「 それは…… 」

 レティがこもごもと口ごもり、話しにくそうにする。


「 ちゃんと僕に話して…… 」

 アルベルトが優しい口調になる。


「 イニエスタ王国から、リティーシャにウェディングドレスの発注があって……」

 そんなの作りたくないから……

 ローランド国に店を出す予定だと言って、シルフィード帝国から逃げ出したのだと。

 レティは恥ずかしそうに笑った。



 ああ……

 何と切ない理由なんだろうと。

 アルベルトはレティの側に行き彼女を抱き締めた。


「 ごめん……辛かったよね 」

「 うん…… 」

 暫く2人で黙って抱き合っていた。




「 それで、レティを突き落とした奴は誰なのかはまだ分からないの? 」

「 うん…思い出せない 」

 でもね……その船の所有者のマークが『猫』だった事を思い出したのとレティは言った。


「 猫? よっぽと猫が好きなのかな? でも調べたらレティの乗った船の持ち主が分かるよ 」

 港に出入りする船は、全てを登録しないとならないからねとアルベルトは言う。


 直ぐに調べるよと言った彼が、なんと頼もしい存在なのかとレティは嬉しくなる。

 皇太子殿下は百人力だわと。



「 それで、海に突き落とされ、溺死したんだね……苦しかったね 」

 そう言いながらレティをギュッと抱き締める。

 いつの間にか、レティはアルベルトの膝の上に乗せられていた。


「 あの時……最後に見たのは殿下よ 」

「 えっ!? 俺もその場所にいたの!? 」

「 ええ、丁度タラップを駆け上がってる所だったわ 」

 グレイ班長や他の騎士達もいたような気がするとレティは言う。



「 じゃあ……俺は……海から落ちた君を助けなかった? 」

「 死んじゃったから……そうなんじゃない? 」

「 ………………… 」


「 アル? 」

 アルベルトは膝の上にいるレティをギュッと抱き締めた。


「 何で僕はレティを助けなかったんだ!? 」

 そこにいたなら普通は助けるだろ?


「 殿下がいた場所が遠かったから…… 私が海に落ちたのは知らなかったのかもね 」

 甲板は大勢の人がいた様にも思えるし。

 何せ記憶が曖昧だからどうしようも無い。



 海に落ちた時は……

 苦しくて苦しくて……

 もがいてもがいて……

 気が付いたら学園の入学式にいたのだと。


 レティはアルベルトの首に手を回した。


 あの時……

 しがみつけずに広い海で独り死んで行く自分を哀れに思いながら….

 レティはギュッとアルベルトにしがみついていた。


 ああ……

 こうしたかったんだと。




 アルベルトも……

 助けて上げられなかったレティを救う為に彼女を抱き締めた。

 どうにもならないレティの辛くて苦しい記憶が……

 少しでも慰められる様にと。




 ふと……

 クラウド様と目が合った。廊下から見ていた彼は……

 ニコリと笑い、クルリと後ろを向いた。



 嘘……


「 アル! 離して! クラウド様が廊下にいるわ 」

「 ……………… 」

 レティがアルベルトの膝の上でもがくが……

 アルベルトは暫くは離さなかった。



 こんな切ない話をしていた2人だが、外からはイチャイチャしてる様にしか見えない事が残念である。



「 殿下……ご自重を…… 」









誤字脱字報告を有り難うございます。

感謝感謝です。



読んで頂き有り難うございます。

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