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閑話─自慢の息子

 



 建国祭の舞踏会の最後のラストダンスを、アルベルトとレティが踊る。


 何時もは名残惜し気にカップル達が踊るのだが……

 側室廃止が決まった後、2人が踊るのを皆が見ている。



 周りまで蕩けてしまいそうな甘く幸せそうな2人のダンス。

 アルベルトは愛おしそうに、自分の胸の中で踊るレティの額や頭に何度もキスをしていた。




「 まさかアルが側室廃止を考えていたとは…… 」

「 ええ…驚きましたわ 」

 皇帝陛下と皇后陛下が、目を細めて若い2人の幸せいっぱいのダンスを見ている。





 ロナウド・フォン・ラ・シルフィード。

 シルフィード帝国の第15代皇帝。


 シルビア・フォン・ラ・シルフィード。

 彼女は遠く離れたマケドリア王国の第3王女だった。


 この2人は正しく政略結婚。



 マケドリア王国の近くには、あのサハルーン帝国があった。

 かの国は常に侵略を図っていた。

 シルフィード帝国の隣国であるタシアン王国がそうである様に。


 シルフィード帝国はどんどん頭角を表すサハルーン帝国の情報が欲しいとして、皇女をサハルーン帝国の隣国であるグランデル王国の王太子に嫁がせていた。

 グランデル王国もサハルーン帝国の脅威に、シルフィード帝国と親戚になる事を望んだのだった。



 マケドリア王国はグランデル王国の隣国であり、サハルーン帝国を敵対視している事は同じだが、この2つの国は仲が悪かった。

 昔から幾度と無く戦争をして来たのだから、それは仕方ない。


 しかし……

 シルフィード皇帝は、シルビア王女を帝国に輿入れさせることで、グランデル王国とマケドリア王国を親戚にして、同盟を結ばせたのだった。


 こうして……

 シルフィード帝国とグランデル王国とマケドリア王国の3国は、皇女や王女を嫁がせ、輿入れさせる事で強固に結ばれたのである。




 言葉も通じない知らない国に嫁がせられる苦悩。

 だけど彼女は生まれながらの王女。

 国の為ならばと覚悟を決めた。


 それに……

 見せられた姿絵の皇子は……ハンサムだった。

 微妙な顔の王子に嫁がせられた姉達よりはラッキーだと思った。

 それもお相手は帝国の皇太子であるのだから。




 そんなある日。

 毎夜見ている姿絵にそっくりな男性(おとこ)が突然現れた。


「 嘘…… 」

「 私はロナウド・フォン・ラ・シルフィード。私の妃を見に来たよ 」


 そう言って片言のマケドリア語で破顔した皇子の顔に、シルビアの胸がドクンと弾けた。


 旅人のラフな格好で現れた彼の髪は薄茶色、アイスブルーの瞳を持つ背の高い美丈夫。

 その溢れ出る気品とオーラは紛れもなくひとの上に立つ者。



 もう、立太子を済ませた皇太子が、共を付けずにたった1人で遥か遠くの国までやって来たのだ。

 自分に会う為だけに。


 一瞬にして彼に惹かれた。



 王城の庭で、1人で散歩中の王女の前に突然現れた皇子。

 どうやって忍び込んだのか……


「 君の国は良い国だね。私の国も良い国だから安心して私の元に嫁ぐが良い 」

「 はい…… 」


 遠くからシルビアを呼ぶ声がする。


「 護衛が来るから、もう失礼する 」

「 ロナウド様…… 」

 名残惜し気に、初めて呼んだ彼の名に赤面する。

 ロナウドはシルビアの手を取り、手の甲にキスをした。


「 あっ! 警備はもっと強固にした方が良いよ 」

 そう笑って皇子は姿を消した。


「 姫様! 怪しい者がこちらに来ませんでしたか? 」

「 姫様? 大丈夫ですか? 」

 両手を胸の前で合わせ、顔を赤らめていた王女に護衛と侍女が心配そうに聞く。


 フフフ……

 とっても素敵なわたくしの未来の夫が来ましたわ。




 そんな2人の結婚式は豪華絢爛だった。

 皇室からは少し前に、皇女であるロナウドの姉が他国へ嫁いだばかりであった。




 ***




「 そなたには苦労をかけた 」

「 わたくしこそ陛下に感謝しております 」



 政略結婚でもお互いに想い合っていたが、この2人には5年も子が出来ず、ずっと側室を娶れと言われ続けて来たのである。


 やっと第1皇子を授かり、子宝に恵まれたと思ったら、難産で次の子を望めない事が判明すると、皇太子妃を更に追い詰めた。


 皇太子に側室をと言う声が上がり続けたのである。

 それでもロナウドは拒否し続けた。

 シルビア以外を愛する事は出来なかったし、妻に嫌な思いをさせてまで側妃を娶る必要は無かった。


 こんなに可愛いアルベルト皇子がいるのだからと。



「 余が側室制度の廃止を言わなかったばかりに…… 」

「 それでもわたくしは王女でしたから 」


 そう、皇后陛下は生まれながらの王女。

 その高い位から、面と向かっては誰も楯突く事は無かった。


「 だけど……レティちゃんは…… 」

 公爵令嬢と言うだけで、まだ結婚もして無いのに皇太子妃や側妃の話が止まないのである。

 これで結婚したらどんなに彼女を傷付ける事になるのかと。



「 アルは懸命にレティちゃんを守る方法を考えたんだな 」

「 わたくしは息子を誇りに思いますわ 」

 目を合わせて微笑み合う2人。


 2人はアルベルトに他国の王女との結婚は望んでいなかった。

 この建国祭の会談の様に各国が国際会議をして、外交を強化すれば良いのだと。

 もう、皇女や王女を犠牲にするそんな時代は終わった事を世界にもアピールしたかった。



 そして……

 近年、他国に皇女を嫁がせる事で、シルフィード帝国には公爵家もウォリウォール家だけになってしまっていたのだ。


 自国を強化しなければそれこそ皇族が途絶えてしまう。

 自分達の代から変えようと模索している時に、皇子は自分で自国の令嬢を見初めたのである。


 それも……

 嬉しい事に帝国では皇族の次に爵位の高い公爵令嬢だ。



「 ほれ……ルーカスとローズが泣いておるぞ 」

 幸せそうに踊る2人を見つめながら、ルーカスは妻の涙を拭い、自分の涙も拭っていた。


 アルベルトのレティを想う気持ちが嬉しくて。

 そんな子な娘を大切に思ってくれてる事が有り難くて。


 そして……

 生まれた時から、命懸けで守って来た小さな皇子が立派になってる事が嬉しくて……


 ルーカスは男泣き……

 いや臣下泣きをしていたのであった。




 この幸せな時間の後に……

 あんな悲惨な出来事が起こるとは、この時は誰も思わなかった。








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