閑話─初めてのアルバイト料
ポンコツ旅が終わって、学園が始まった頃のお話。
レティ……
待ってるだろうな。
「 皇子様がご帰城されました~ 」
玄関の扉が警備員によって開けられ、アルベルトはクラウドと女官長達と足早に宮殿に入って行く。
「 クラウド! 先にレティの所へ行く 」
今日はお妃教育でレティが皇宮に来る日であるのに、アルベルトは外出公務をしていて、約束の時間から大幅に遅れたのである。
書類を抱えたクラウド達は皇太子宮に向かい、アルベルトはレティが待ってる皇宮のサロンへと急ぐ。
サロンの前の廊下ではメイド達が中を覗きながらキャアキャアと騒いでいる。
「 何があった? 」
「 あっ! 殿下……お帰りなさいませ 」
その声に反応して周りのメイド達も姿勢を正して頭を下げる。
声の主は女官のサマンサ。
レティと一緒に旅をした彼女までもが窓に張り付いて覗いていた。
「 可愛い~ 」
「 殿下! 見てください! リティエラ様が…… 」
「 えっ!? 」
何事かと慌てて中を見ると……
「 お金を数えているんです~ 」
「 ………… 」
「 クラウド様から、リティエラ様にアルバイト料をお渡しする様にと言われてお渡ししたのですが……… 」
お札を数える姿が、なんともお可愛らしいのよと、彼女達が可愛い可愛いと頬に手をあてプルプルしている。
廊下のガラス窓からレティを見ると……
ちょこんと椅子に座って、テーブルの上にお札を並べていた。
可愛い……
お札を数えながら、一枚一枚テーブルの上に並べてぶつぶつ言っている。
確かに……これは可愛い。
アルベルトもじんわりとレティの可愛さを噛み締める。
制服姿なのが余計に可愛らしい。
何時もはワンピースに着替えてお妃教育に来るのだが、今日は学園帰りにそのまま馬車で来たのだろう。
後から聞くと……
来月にある学園祭の話を、クラスの皆としていて少し遅くなったんだと。
「 ねっ? お可愛らしいでしょ? 殿下にお見せ出来て良かったですわ~ 」
サマンサとメイド達が皆がほわ~んとレティを見つめている。
奥の厨房からはシェフが鼻の下を伸ばして見ていた。
皇宮の者はすっかりレティに毒されているな。
俺も含めて……
アルベルトはクスリと笑った。
「 これは……お兄様に……それから…… 」
「 沢山貰ったか?」
アルベルトは腰を折り、レティの頬にキスをして、お金が並べられているテーブルの前の椅子に座る。
会った時の挨拶は頬へのキス。
これは2人が決めた……いや、アルベルトが決めたルール。
大勢の人に傅かれて生活をする立場に少しでも慣れる様にと。
何でそれがキスなのかとレティが文句を言ったのだが、アルベルトは取り合わない。
護衛、警備員、侍従、侍女に女官……
皇族の周りには常に人がいる。
彼等を気にしていてはイチャイチャする事が全く出来ないのだ。
レティに少しでも慣れて貰おうと、先ずは頬へのキスから。
最近はレティも幾分か慣れて来た様でアルベルトも満足顔だ。
「 遅くなってごめん 」
「 お帰りなさい。お仕事ご苦労様でした 」
ああ……疲れも吹っ飛ぶ。
毎日その言葉を言われたい。
少し前までは、長旅でずっと一緒にいたのだから余計にそう思ってしまう。
「 ウフフ……ボーナスまで頂いたの 」
ホクホク顔のレティが可愛らしい。
「 頑張ったからね 」
「 ………ううん……皆に迷惑ばかり掛けたわ 」
だからこのお金で、皆にプレゼントを買うのだと言う。
そう言う所だよ。
君の素敵な所は……
「 他には? 初めてのバイトで貰ったお金だろ? 」
「 ……… 」
嬉しそうに訪ねて来るアルベルトにチクリと胸が痛む。
初めてじゃないんですけど……
お金……稼ぎまくっております。
このデカイ顔のリュックも売れに売れて……
ああ……
私は何て擦れた女。
本当は……金儲けを楽しむ女なのよ。
20歳のレディ、リティーシャが身体の中にいる事に、ちょっとへこむレティをアルベルトは首を傾げて見ている。
何でも無いわと首を竦めながら気を取り直す。
「 それからね、お兄様にお店のオープンのお祝いを贈るつもり 」
「 あっ! それは僕も混ぜて! 2人で一緒に贈ろう 」
それならばと、2人で買い物に行く事を約束する。
「 えっ!? でも……今、アルが街を歩いたら大騒ぎになって、買い物所じゃ無くなるわよ? 」
街では、我が帝国の皇太子殿下がドラゴンを討伐したと、お祭り騒ぎの真っ最中様だ。
「 大丈夫だよ、皇室御用達の店があるから、そこに行こう 」
「 皇室御用達の店!? 」
「 そう、一般人は入れない店 」
うわ~高そう……
お兄様には観葉植物でも贈れば良いかと思っていたんだけれども。
でも……
皇室御用達店。
行ってみたいぞ!
「 行きまーす! 」
はーい!と元気に手を上げれば……
アルベルトは目を細めて愛おしげに笑った。
次の休日には、レディ、リティーシャとして皇后陛下に謁見する為に登城しなければならない。
どうしたものかと頭を抱えている頃のお話。
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