たまたま論とそんな子論
イニエスタ王国の王太子の事情聴取が終わった。
彼の高い身分から皇太子が直々に事情聴取をする。
彼の罪は、魔力使いの侍女を無断入国させた事。
侍女が何故こんな事を仕出かしたのかは分からないと言う。
続いて王女の事情聴取。
王女にはルーカスが事情聴取を行う。
彼女は何も知らないの一点張りだった。
爆発音がした時は、自分はアルベルト様とシャンデリアの真下で抱き合っていたのだから、魔力使いは2人を殺そうとしたのかも知れない。
だから自分は被害者で無罪だと主張した。
レティの事情聴取。
事情聴取官はデニス。ルーカスが立場上同席する。
何故かいるアルベルトはずっとレティの手を握っている。
炎の魔力で襲われた彼女は精神が不安定なんだと言って。
絶対君主制のこの国は、皇帝陛下、並びに皇太子殿下が最大の権力を持つのである。
最大の謎である……
何故彼女がボイラー室に行ったのかの理由。
たまたまトイレに行ったら怪しい侍女を見かけたので、部屋に戻り弓矢を背負って追い掛けたと。
そうしたら侍女が魔力使いで、炎を放ち攻撃して来た。
そこにグレイ様が身体を張って守ってくれて……
たまたまボイラー室に入ったら魔石が異常だったので、背中には弓矢があったので射たのだと。
レティはたまたま論で通した。
「 なる程……よく分かった。素晴らしい 」
アルベルトが感嘆の声をあげる
えっ!?今のでよく分かったの?
記録官がペンを止めた。
ルーカスが言う。
この子はそんな子だと。
何時もトラブルに巻き込まれるのだと。
たまたま論とそんな子論が認められた。
記録官は深く考えない事にした。
殿下と宰相が納得してるならと……
「 しかし……何故その怪しい侍女がイニエスタ王国の侍女だと分かったのか? 」
最後にルーカスがぶち込んできた。
レティがアルベルトに言って無い事であり、アルベルトは聞いてない事で……かなり焦る。
「 彼女は昼間に皇宮病院に火傷の治療をしに来たのよ。カルテもあるわ 」
「 なる程…… これは決め手になるかも! 」
炎の魔力使いが手に火傷をすると言う事は……
魔石に炎を放ち拒否反応で跳ね返ったんだとアルベルトが言った。
練習をしていたのか……
7時に落下させたくて。
炎の魔力使いの口から7時と言うワードを出させれば……
アルベルトはレティに時間の事は言わないでおくようにと言っていた。
その時間を知っている事の説明は、たまたま論ではどうしても乗りきれない事であるから。
因みにグレイの事情聴取だが……
彼は騎士である。
既に皇太子やデニス、ロバート騎士団団長(←グレイの父親)が報告を受けている事もあり、改めての事情聴取は無かった。
***
皇都ではパンパンと花火が打ち上がり、楽しい音楽が奏でられ、歌ったり踊ったりする笑顔いっぱいの国民達。
お酒を酌み交わし、飲めや歌えの街は1日中お祭りモード一色になり、華やかな建国祭が始まった。
皇宮では式典が始まり、両陛下や皇太子殿下、大臣達や各国要人達、シルフィード帝国の貴族達も宮殿に集まった。
事情聴取が終わったイニエスタ王国の王太子夫婦と王女は、監禁状態は解かれ、侍従や侍女達は彼等の元に戻された。
それでも式典には参加する事は許されず、部屋の回りには騎士達が配備されていた。
建国祭が終わると、捕らえられた炎の魔力使いの取り調べが本格的に行われる予定である。
それでなくても忙しい日であるのに、アルベルトや大臣達は取り調べの作業に追われて大変だったが、何とか建国祭の式典には間に合った。
式服に着替え、謁見の間で両陛下と並んで要人達の挨拶を受ける。
他国の要人達は、イニエスタ王国の王太子夫婦や王女がいない事には気付いていたが、そこにはだれも何も触れずに式典に臨んでいた。
式典は何事も無く順調に進んだが……
シルフィード帝国の騎士団達の警戒は最大級であった。
もしかしたら……
まだ何処かに残党がいるのかも知れないのである。
早朝に集められた全軍に、デニス国防相とロバート皇宮騎士団団長の、ドゥルグ兄弟での気合の入った命が飛ぶ。
「 皇宮騎士団の誇りに掛けて、両陛下、並びに皇太子殿下と婚約者の警備に当たれ! 他の王族の警備も抜かり無き様にしろ! 怪しい者は片っ端から捕らえ、抵抗する者は切り捨てても構わない! 」
「 御意!! 」
こうして物々しい警備の元、建国祭の式典が始まったのだった。
そんな中……
今は両陛下と共にアルベルトはバルコニーに出て、帝国民に手を振っている。
先程からアルベルトがこちらをチラチラと見ている。
レティを探しているのだ。
ここは貴族席。
ルーカスとローズ、ラウルが並んで立っている。
その横には、エドガーのドゥルグ侯爵家、レオナルドのディオール侯爵家の面々が並び立つ。
アルベルトがバルコニーに立つ30分前。
謁見の間での式典を終えたルーカスは、事情聴取が終わり部屋で待機していたレティを連れて公爵家の控え室にやって来た。
レティが襲撃されたとの第一報が公爵家に届いたのは、昨夜遅くだった。
ルーカスは帰宅する事は無く、公爵家の家人達は一睡もせずに不安のまま朝を迎えたのである。
「 レティ! 」
「 お母様! 」
姿を見るなり抱き合う2人。
ローズの目からは涙が溢れている。
ラウルもレティの元気な姿を見て安心し、ルーカスに詳細を聞いた。
ルーカスがざっとラウルに説明をしながらも、ローズに甘えるレティを見てホッと胸を撫で下ろすのであった。
しかし……
感動の再会があったのも束の間の事。
用意された軽食とデザートの取り合いが兄妹で勃発していた。
「 お兄様! 最後の1切れは可愛い妹に譲るべきよ! 」
「 お前! ここでたらふく美味しいものを食ったんだろ? ここは兄に食べて下さいだろうが! 」
「 あら? 怪我をした妹に温情は無いのかしら? 」
「 無いね! 怪我をしたのはお前が勝手に彷徨くからだろうが! 」
「 たまたまなんだから仕方無いでしょ? 」
そこは違うと言いたい所だが、たまたま論とそんな子論を折角アルベルトが無理矢理通してくれたんだから、そう言うしかない。
「 止めなさい! お前達はどうしてそう食い意地が張ってるの!? レティ! 貴女はもう殿下の婚約者なのよ。淑女たるものはそんなにガツガツ食べるんじゃありません! うちにラウルは2人もいりませんよ 」……と、ローズにガミガミと説教をされる。
何時もの賑やかやな我が家の光景に、レティはまだまだうちの子だと目を細めるルーカスであった。
「 両陛下と皇太子殿下がそろそろ、バルコニーにお出ましになる時間でございます。 皆様は貴族席にご移動願います 」
スタッフからの案内があり皆が立ち上がる。
「 あっ! 私は行かないわ! 錬金術師達が魔石に光の魔力を融合させるのを見学したいから 」
お父様、今何時かしらとレティが時間を聞いてくる。
午後2時少し前だと言うと……
「 大変! 早く行かなきゃ間に合わない! 」
レティはそう言って部屋からバタバタと出て行った。
「 あっ! ちゃんと護衛騎士さん達が一緒だから安心してね。それから帰りは一緒に帰りますから、舞踏会が終わっても待っていて下さいね 」
呆気に取られるルーカス達であった。
そう……
彼女はそんな子なのである。
***
「 アルがレティを探してる 」
「 レティは殿下に行くって言って無かったのか? 」
「 心配してらっしゃるみたいよ……レティったら殿下の気も知らないで…… 」
アルベルトは、そこにいる筈のレティの姿が見えない事に不安になり、余計に貴族席の方を見る。
民衆に手を振りながらも、何度も何度も貴族席にいる公爵家を見ているのだ。
その様子を見ていた騎士達が何時もより敏速に動く。
「 皇太子殿下の挙動が変です!! 」
「 確かにおかしい……殿下はあちらに何か不審な者を見付けたのかも知れません! 」
皆で皇太子殿下の視線の先にある貴族席を見る。
「 あそこには婚約者様と大臣達もいる………一同出動!! 」
「 はっ!! 」
何時もより気合が入り、何時もより過敏になっている騎士達が、貴族席目掛けて突進してきた。
「 凄い形相で騎士達がこっちに向かって来るぞ!! 」
「 全く……何時も何時も殿下を振り回しおって…… 」
ドッドッドッ
騎士達は走っている。
周りも異常に気付き、きゃあきゃあと叫びながら避難を始める。
ドッドッドッドッドッドッ
周りの悲鳴に、騎士達が全員剣を抜いて走って来る。
剣を抜いて突進してくる騎士達を見て、ドゥルグ侯爵家の面々も戦闘態勢に入る。
「 親父ーっ!どうするんだよーっ 」
「 ラウル! お前何かしたのか!? 」
ラウルの叫び声に反応したエドガーが叫ぶ。
エドガーの叫び声に反応した騎士達は、ルーカスとローズを庇うように前に立ち、何故かラウルが取り囲まれ剣を突き付けられた。
「 *☆×○※*○☆ 」
ラウルが声にならない声をあげる。
今日の騎士達は過敏だったのだ。
異常を察知したバルコニーに立つ両陛下と皇太子殿下も、騎士達に囲まれながら宮殿内に避難をして………報告を待った。
「 殿下! 婚約者様はボイラー室に行かれたとの事です 」
「 ?? ……そうか…… 」
「 なので、心配ご無用とウォリウォール宰相から申し使って参りました 」
「 そうか……良かった……で、あの騒ぎは何だったのか? 」
「 はっ! 私の勘違いでございました! 」
ラウルに突撃して行った騎士達はルーカスから、皇太子殿下が婚約者を探しているだけだからと言われて剣を収めたのだった。
そして
帝国民を心配させない為にと、何事も無かった様にまた3人はバルコニーに立ってにこやかに民衆に手を振った。
アルベルトが貴族席を見ると………
昨夜、一睡も出来なかった事もあり、もうすっかり疲れきったウォリウォール公爵家の3人がユラリユラリと手を振っていた。
公爵家のそんな子は……
元気いっぱいに瞳をキラキラさせてボイラー室の前にいた。




