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4度めの人生は 皇太子殿下をお慕いするのを止めようと思います  作者: 桜井 更紗
第3章

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公爵令嬢の秘密

 



「 ん? 眠れないの? 」

 ドアを開けたアルベルトが、廊下に立つレティの手を握り優しく中に入れた。


 勿論、扉の前には護衛騎士がいる。

 何時もならアルベルトの部屋の前には警備員がいるのだが、この夜は警備を強化する為に、騎士が配置されていた。



 いくら婚約をしてるといっても……

 こんな時間に不謹慎だと思われても仕方ない。

 ましてや令嬢が殿方の部屋を訪ねるなんて……

 だけど……

 どうしても今夜じゃなきゃ駄目な話をしなければならないのだから。



 アルベルトの部屋に入るのは初めて。

 寝間着のドレスの上にケープを羽織てやって来た。


 レティは緊張をしていたが……

 緊張をしているのは初めて入ったアルベルトの部屋のせいでは無かった。



「 何か飲む? 」

 アルベルトは、レティが自分の部屋に来た事が嬉しくてたまらない。

 ここで2人で暮らす事を夢見て、早く結婚をしたいと思っている可愛い皇子様なので。


 テーブルの上に置いてあるティーポットから紅茶をカップに注ぐ。

 先程戻って来たので、風呂に入っている間に侍女が用意をしてくれていたものだ。

 

 レティは黙ったままアルベルトからカップを受けとると、両手でカップを持ちながらコクリと一口飲んだ。


「 怪我の具合はどう? 」

 あんな怖い目にあったんだから眠れないのは当然だ。


 アルベルトは先程見た光景を思い出していた。

 炎の魔力使いからの攻撃なんて、どんなに怖かっただろうか。


 確か……風の魔力使いからの攻撃も。

 あの時は楽しそうに飛ばされて行ったが。

 何で彼女ばかりが……

 レティを思えば不憫で胸が苦しくなる。


 しかし……

 アルベルトの心配は無用だった。

 レティにとっては武勇伝。

 彼女は騎士であるのだから。




「 うん……怪我はこの通りよ 」

 これは走っている時に転んだ傷よと、無造作に寝間着の裾を捲り上げた。



 うわっ!?

 白い太腿まで露になり、アルベルトは慌てて目を反らした。


 レティの両足の膝には白い絆創膏が貼られていて、それが痛々しいのだが。


「 それから……ここは炎の魔力使いから攻撃をされて火傷をしたの 」

 今度はケープを脱ぎ、寝間着の袖を捲り上げ細くて白い腕が露になった。

 ケープを脱ぐと寝間着……ネグリジェである。

 腕にも絆創膏が貼られていた。



 俺を殺す気か!?


「 痛い? 」

 アルベルトは心臓がバクバクしながらも、捲り上げられたレティの寝間着のドレスの裾を整え、ケープをレティに着せた。


 緊張している彼女は思い詰めた顔をしていて、心ここにあらずである。


「 私の作った薬はよく効くから、もう痛くないわ 」

「 凄いね、薬師レティは 」


「 …………… 」

 それからレティは何か言おうとして、顔を上げてはまた俯いたりして……

 とても緊張をしている様だった。


「 僕に何か話したい事があるの? 」

「 ……………… 」



 長い沈黙の後で彼女は意を決した様に口を開いた。


「 あのね……信じて貰えないかもしれない話なんだけれども…… 」

 今から話す事は、私に起きている奇妙な事で……兎に角、先ずは聞いて欲しいと……


「 うん……聞くよ……何もかも……君の全部を話して…… 」

 アルベルトはやっとレティの秘密を話してくれるのだと、姿勢を正した。




 レティは、今回の事件で、自分が何故あのボイラー室に行ったのかの説明が出来なかった。


 今までは何とか無理矢理誤魔化せてはいたが、これは事件。

  自分が何故ボイラー室に行き、魔石を弓矢で射ったのかの説明を取り調べ官にしなければならないのだ。

 もしかするとその取り調べ官は宰相のお父様かも知れない。


 嘘を付くと……お父様に迷惑がかかる。


 アルならば……

 アルに全てを話したら上手く誤魔化してくれる。

 信じてくれるならばだけれども……


 レティは面倒な事をアルベルトに丸投げしようとしていた。



 そして……

 もう、アルにも……嘘は付きたくない。


 彼はある程度は人の心が読めると言う。

 きっと私の嘘は分かっている筈。

 私から嘘を付かれた時の……

 アルの悲しそうな顔を見るのが辛かった。



 レティは静かに話した。

 先ず、自分は3度も死んで、3度も生き返り、今は4度目の人生を歩んでいるのだと。


 何故か3度の全ての人生が20歳で終わり、14歳の学園の入学式の日に殿下が壇上で祝辞の演説をしている時にループしてしまうのだと言う。


 アルベルトは勿論信じられなかった。

 だけど……

 確かラウルが、入学式の朝と帰宅してからのレティは明らかに別人だったと言っていた事がある。



「 ループって……一体どう言う感じになるの? 」

「 学園の入学式の日の私に戻る………と言うか……憑依すると言うか……気が付いたら殿下の入学式の祝辞の挨拶を見てる自分になってるのよ 」


 20歳で死ぬんだけれども、20歳の私が14歳の私の身体にいるの。

 ……と、レティは少し恥ずかしそうに言う。


「 じゃあ….君はずっと20歳の君で……」

「 そう、2度目の人生と3度目の人生も……今も……」

「 君は……今も20歳の君なの? 17歳の君では無いのか? 僕より年上? 兄であるラウルより年上? 」


 アルベルトはもう何が何だか分からなくなっていた。



「 最初はね、違和感が凄くあったの……だって14歳の身体に20歳の私がいるんだもん 」

 だけど……

 過ごしているうちに段々と同化していくと言うか……

 魔石じゃ無いけど、融合してると言うか……

 今はちゃんと17歳……なんだと思う……多分。


 アルベルトも何が何だか分からないが、レティも何が何だか分からないのだと言う。

 受け入れるしか無いのだと。


 アルベルトはレティが遠くにいる様な気になり、向かい合って座っていたソファーから立ち上がり、レティの横に座りぎゅっと抱き締めた。



「 20歳を3回もしてる私は……嫌い? 」

 アルベルトの腕の中で上目使いに見てくるレティ。

 これを他の令嬢にやられると虫酸が走るのに……

 レティなら可愛くて仕方ない。


「 好きだよ、レティはレティだ……どれも僕のレティだ 」

 まだレティの話を理解してはいないが。



「 それは嘘だわ! 」

 急にレティはプンプン怒りだした。


 全ての人生で俺は彼女に見向きもしなかったと言う。

 特に1度目の人生では俺のハーレムの中の一員だったのにと。

 いくら努力しても……

 いくら近くにいても……

 少しも見てはくれない切なさ。


「 嘘だよ! 僕がレティに見向きもしないなんて…… 」



 どの人生も殿下はアリアドネ王女と恋をして、婚約をするのだと。

 婚約発表はレティが18歳の時。

 この建国祭から1年後。


 そしてどの人生でもこの建国祭前夜の舞踏会で俺が怪我をするらしい。

 正に昨夜の事である。(今は深夜の12時が過ぎている)


 レティは舞踏会に参加していなかったが、翌日の新聞記事と、帰宅したルーカスの言葉を思い出し、俺が怪我をする事を思い出したのだとか。


 うむ……

 レティが参加していないのは俺の婚約者では無かったんだから、参加はしないよな。

 前夜祭の食事会や舞踏会は、要人達と帝国の大臣クラスの貴族のみの参加なのであるから。


 アルベルトは1つ1つ確認をしていく。

 これは明日の取り調べにも大切な事。


 爆発する場所と時間も。

 あの時は2回爆発したらしい

 今回は1回だったから、2回爆発してたら怪我をしたのかもと。


「 アルは1度目の爆発音がした時は何処にいたの? 」


 困った……

 イニエスタ王国の王女と踊った後に、彼女に抱きつかれ、キスをされそうになっていたとは……

 口が裂けても言えない。


 レティの唇にチュッとキスをして……

「 ホールにいて、爆発音に驚いていた 」……と、だけ言った。



「 有り難うレティ……君が魔石を破壊しなければ、シャンデリアが落ちて大惨事になっていた所だよ。僕も怪我から逃れられた 」

 レティは英雄だと言ってまたチュッとキスをした。



 やっぱり……

 レティの言うとおりに彼女はループしているのかと考える。

 知る事の出来ない少し先の未来の事だったのだから。


 いや……予知夢である事も考えられる。

 アルベルトはまだレティのループは信じられなかった。



 しかし……

 それからレティが話した1度目の人生。

 2度目の人生。

 3度目の人生の話は衝撃的だった。

 彼女の死がそこにあるのだから。


 だけどそれなら分かる。

 彼女が16歳で店を持ち、オーナーになれた理由。

 医師として医療行為が出来た事も。

 彼女は皇宮騎士団の団員だったのだから剣を扱い、弓矢を射る事が出来るのにも納得がいく。



 この時間になるとレティはうとうととし始めた。

 時間はもう3時である。


 ソファーでうとうととするレティをお姫様抱っこで抱き上げ、アルベルトのベッドにそっと寝かせた。


 ドキドキする……

 俺のベッドにレティが寝てるなんて……


 いや……

 そんな事よりも、彼女の壮絶な死に心が震えた。

 彼女がこんな凄い人生を送って来たのかと。



 アルベルトはレティの横に添い寝をして、彼女の前髪をかき分けながら聞いてみた。


 学園時代は俺を好きだったと言っていたが……その後は?

 俺は王女と婚約をして……

 レティはデザイナーとして、医師として、騎士の道を進んだ。


「 レティ? 君は卒業してからは誰を好きだった? 」

 ユーリとグレイだと言われる事を覚悟する。

 もしかしたら付き合っていたのかも知れない……



「 殿下なの……ずっとずっと……王女と婚約をしても……殿下だけをお慕いしていたの。 ずっと……今も…… 」

 レティは目を少し開けて微笑んで、また目を閉じた。


 嬉しさのあまりに涙が出そうだった。

 ずっと気になっていた事だ。


「 嬉しい 」

 まだまだ聞きたいことはあったがレティはもう限界の様だ。


 スウスウと可愛い寝息をたて始めたレティのおでこにそっとキスをした。


「 お休み、僕のレティ 」




 この夜。

 初めてアルベルトとレティは同じベッドで眠った。








やっとレティが、自分自身に起きているループの話をアルベルトにする事が出来ました。

レティもですが、私もホッとしておりますw


建国祭の話はもう少し続きます。


読んで頂き有り難うございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] あぁ、やっとアルに話せましたねえ。 作者さま、アル、読者様がたと同じく私もホッとしております。
[一言] 私もほっとしましたー!!涙
[良い点] レティがやっと皇子様に自分の今までのル―プの話しが出来て良かったです。 これからは、皇子様と一緒に困難に立ち向かえるね。 良かったです❗
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