愛あればこそ
この話も前の話と同じ様に場面の展開が激しいです。
宜しくお願いします。
アルベルトは、イニエスタ王国のアリアドネ王女をエスコートしながらホールの中央に向かう。
「 貴女の一時を私と共に…… 」
「 光栄ですわ。 ワタクシの一時も貴方と共に 」
レティを探しに行きたいが……
王女に土下座をさせる訳にはいかなかった。
これで全てのダンスは終わる。
これで……
アルベルトの黒の夜会服には赤の豪華な刺繍。
王女の真紅のドレスには黒のレースをふんだんに取り入れ、胸の谷間をこれでもかと強調する程深く開いた胸元には、豪華な大粒のダイヤモンドが光っている。
王女の長い銀髪の髪はサイドの髪は垂らして、後ろの髪をアップにしていて、頭にはティアラの様なヘアーバンドをしているのが、人々の目を引いた。
知らない人が見たら、色を合わせたお揃いの衣装を着た2人はお似合いのカップルだと思うだろう。
帝国の皇子と王国の王女の最高の組み合わせだと。
音楽が流れて2人は踊り出す。
***
「 レティ! 危ない! 」
身体を張って命懸けでレティを守ったのはグレイだった。
彼のマントは炎に包まれる。
レティが慌てて炎に包まれたマントをグレイの首から外す。
マントの外し方を知っているのはレティも騎士時代に着用していたから。
「 グレイ班長! 無事ですか? 」
「 ああ、何とか無事だ、君は? 」
「 はい、私も何とか無事です 」
まるで騎士時代に戻った様な会話だった。
リティエラをレティと呼ぶのは、家族とエドガーとレオナルドとアルベルト。
そして、騎士時代のグレイだけであった。
グレイは咄嗟に出たのだろうか……
懐かしいわ……
その呼ばれ方……その響き。
いや………懐かしんでる場合じゃない!
いち早く投げたグレイの短剣が魔力使いの肩に突き刺さっていた。
肩から血がにじみ出て、顔を歪ませた女は突き当たりの横にあるドアから逃げる。
「 グレイ班長追い掛けて! 」
レティを庇うように抱き締めたままのグレイ。
「 私は大丈夫だから早く捕らえて! 彼女は炎の魔力使いだから気をつけてね! 」
「 直ぐにサンデイやロン達が来るだろうから、ここで待っていて下さい 」
グレイはレティの頬に、まるで宝物に触るようにそっと手を添えた。
そして立ち上がり、剣を抜き魔力使いの後を追い掛けて行く。
レティも立ち上がり、ボイラー室のドアを開けて中に入った。
***
「 アルベルト様はワタクシをお好きでしたよね? 」
「 勘違いさせてしまっていたなら謝罪をする。私は貴女と出会う前から彼女の事が好きだった 」
アルベルトとアリアドネ王女はホールの真ん中で踊っている。
「 でも……あの時はワタクシを名前で呼び、手を繋いで2人っきりでデートもしてお茶も楽しんだわ。あれも勘違いだったの? 」
アルベルトにとっては皇后に言われた公務で、紳士としての当たり前の事を王女に対して行っただけなのだが。
自分に自信満々の王女は、このアルベルト皇子が自分に好意を持ってるんだと思い込んでいたのである。
「 すまない……勘違いだ 」
「 では、学園で生徒達から苛められている時に、公爵令嬢よりワタクシの側に駆け付け、手を取って下さったのは? 」
「 貴女の手を取ったのは外交的な理由からでしかない 」
アルベルトにその全てを勘違いだと否定をされるが、王女は必死だった。
このまま帰国すれば、年の離れたバツイチの公爵になった元第2王子に嫁ぐ事になるかも知れないのだから。
「 じゃあ……公爵令嬢がいなければ、ワタクシを選んでくれました? 」
「 それは絶対にあり得無い。たとえ彼女が居なくても、私が貴女を選ぶ事は無い! 」
アルベルトはハッキリと王女を否定する。
たとえ政略でもこの王女はごめんだと思っていた。
「 貴女は彼女が私に釣り合わないと言うが……彼女は、我が帝国で皇族に次ぐ大貴族のウォリウォール公爵家の令嬢だ。ウォリウォール家を侮辱する貴女を、皇太子妃にする訳にはいかない 」
アルベルトは王女の手を取り、細い腰に手を添え、緩やかに踊りながら更に続ける。
「 そして彼女は常に帝国民の事を考えている。学園でも平民達と分け隔てなく接している姿は、もう既に立派な皇太子妃であり、未来の皇后の器である。私は彼女を側妃にするつもりは無い 」
「 そ……そんな……ワタクシは……ワタクシ達は生まれながらの王女と皇子よ? 崇められなければならない立場よ。易々と平民達と接する事なんて出来ないわ! 違う? 」
「 そうだね……民から崇められ税金で暮らしているのが皇族であり王族だ! だからこそ我々は国民を守る立場にある。彼女は不敬罪を覚悟で、間違った事をした貴女を戒め、平民生徒を守った我が国の最高位の公爵令嬢だ! 」
更にアルベルトは自分の思いを確かめる様に話を続ける。
「 私は身分差別で我が国民を攻撃する女性に私の隣に立って貰いたくは無い! 彼女こそが私の隣に立って貰いたい女性。だから私は、彼女がいなければ何処までも彼女を探し求めるだろう……何度生まれ変わろうとも…… 」
そうだ……
レティのいない世界なんて俺にはもう考えられない。
「 貴女は気付いていないかも知れないが、学園には平民生徒達が半数はいて、その彼等には親も祖父も親戚もいる。今、私が何処かの王女を皇太子妃にして彼女を側妃なんかにしたら、それこそ彼等は私を許さないだろうね。」
そう言えば……
彼女は学園に侵入して来た暴漢相手に、平民生徒を守る為に命懸けで戦った事もあったと、嬉しそうに語るアルベルトの瞳にはもうレティしか宿してはいなかった。
ああ……
早くレティを抱き締めたい。
王女は……
あの時レティに言われた言葉が思い出されていた。
「 仮にもこの国の皇太子妃になりたいと考えてるのなら、国民に好かれる人でいなさいよ! 」
***
宮殿に警備員や騎士達がいなかったのには訳があった。
あちこちで小火があったのだ。
時間をずらしてあちこちで火の手が上がり、彼等はそこに駆け付け消化にあたっていた。
レティが警備員や騎士達に合わなかった理由である。
グレイ達第1部隊の面々は怪しい不審火の追跡調査をしていた。
そこに真紅のドレスのレティを見掛けたのだ。
豪華なドレスの裾を持ち、ただならぬ悲壮な顔をして駆けて行くレティを。
何があった?
直ぐに彼女の後を追う。
ん?
ここを曲がればボイラー室だが?
「 キャアーっ!! 」
………と言う悲鳴と共に、赤い炎が目の前を通り過ぎて行く。
何だ!?
走るスピードを上げる。
「 炎の魔力使い! 」
「 私に攻撃をするのは何故? 」
レティの叫ぶ声が聞こえる。
攻撃をされているのだ!
腰に携帯していた短剣を手に取った。
門を曲がれば……今、正に炎が彼女に向かって飛んで来ていた。
「 レティ! 危ない! 」
女に向かって短剣を投げ、彼女の腕を引き寄せながら彼女を抱き込み、床に伏せた。
それは何時も心の中で呼んでいる愛しい女性の名前。
咄嗟に出てしまっていたのを彼は知らない。
***
アルベルト様にあんな事を言われたら、もう成す術がない。
頼るのは侍女。
彼女は炎の魔力使い。
だけど……
アルベルト様とのダンスが終わってしまう。
侍女から渡された懐中時計を胸の谷間から少しだけ引き出して……こっそりと見れば時間はまだ7時では無い。
「 姫様、いいですね? 私が申し上げる事は1つだけです。ただ、7時にあの場所にいてくだされば結構ですから 」
「 何が起きるの? 」
「 それは知らない事です。 誰も…… 」
「 そして、必ずや皇太子殿下とあの場所にいて下さい 」
折角アルベルト様と一番に踊ると言う国力の差を見せ付ける絶好の機会を棄ててまで、仮病を使って順番を譲ったのに……
どうしたら良い?
***
グレイは、炎の魔力使いの飛んで来る攻撃をかわしながら、魔力使いを追い詰めていく。
魔力使いの肩に刺さった短剣が功を奏してか、狙いを定められない様だ。
ドレスを着てる魔力使いにグレイが追い付くのは直ぐだった。
魔力使いに剣を突きつける。
「 動くな! 動くと切り捨てるぞ! 」
魔力使いは観念した様に地面に崩れ落ちた。
***
何処だ?
このボイラー室に何か爆弾が仕掛けられている?
レティは時間が無いと焦る中、慎重にボイラー室を調べた。
見渡すと、沢山の管の所々に魔石の入った箱がある。
確か……
以前にシエルさんが説明してくれたわね。
季節毎に魔石を入れ換えていると。
魔石の入った箱を開ける………異常は見受けられない。
あちこちの魔石の入った箱を開けたが、どれも異常は無い様だ。
「 ここでは無いのかしら?」
違うなら急がなくては……
もうタイムリミットの7時までには時間が無い。
部屋を出ようとすると……
天井に近い壁にある異常な光に目が行った。
箱は燃やされ、魔石が露になり、その魔石が赤や黄色、緑に変わったりと今にも爆発しそうなのである。
この国の錬金術とは魔石に魔力を融合させ、魔道具を作る事で、錬金術の難しい所は魔石に魔力を融合させる時だと、以前シエルさんが言っていた。
「 見付けた………これだわ 」
でも……どうすれば良いんだろう?
私の背ではあれには届かない。
しかし考えてる時間は無い!
もう7時までそんなに無いであろう。
矢を射れば……ここで爆発をするかも知れない。
だけど……
これを放置すればアルが怪我をする。
レティは弓矢を構えた。
狙いを定めて渾身の力を込める。
そして……
矢を魔石に射った。
***
「 良い一時だった。貴女の幸せを願っている 」
アルベルトはそう言って、ダンスの終わりの挨拶をした。
「 私の幸せには貴方が必要よ! 」
アリアドネ王女はそう叫びながら、アルベルトの逞しい胸に抱きついた。
「 なっ……!? 」
アルベルトの首に手を回して、アルベルトの瞳を見つめながら……
その唇に唇を寄せた……
その瞬間……
バーーン!!!…………と、もの凄い爆発音がした。
読んで頂き有り難うございます。




