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始まった舞踏会

 




「 姫様、いいですね? 私が申し上げる事は1つだけです。ただ、7時にあの場所にいてくだされば結構ですから 」


「 何が起きるの? 」

「 それは知らない事です。 誰も…… 」





 ***




 両陛下の宴の挨拶と、ファーストダンスで定刻通りに始まった舞踏会。


 次はアルベルトとレティのダンスである。



 打ち合わせをして来た通りに、アルベルトは黒の上下に赤の豪華な刺繍をふんだんに取り入れた夜会服で、レティは真紅のドレスに黒の刺繍。


 肩からの大きな襟が胸元で交差していて、胸元はV字になっていて、お気に入りの真珠のネックレス2連が首元を飾る。

 頭には皇太子妃のティアラがあり、亜麻色の髪はサイドを頭の後ろで結び、後ろの髪は長く垂らしていてとても可愛らしい。



 ドレスの色はどんな色でも構わないが、皇后陛下と皇太子妃とは被らない色を選ぶのが暗黙のルールとされている。


 そこの連絡を密にするのが、お付きの侍女が優秀であるかどうかが決まる程である。

 だから舞踏会には最低でも3枚のドレスを用意する。


 レティはまだ皇太子妃では無いが皇太子の婚約者なので、被らない様にする対象であるが………

 この真紅のドレスが見事に被った。

 アリアドネ王女は真紅のドレスを着て来たのである。


「 あれはわざとに違いない 」

「 婚約者への嫌がらせよね 」

「 まさか……侍女のミスって事はないでしょうから 」

 そんな囁き声が参加者から聞こえてくる。



 しかし……

 今、正にホールの中央で踊ろうとしている皇太子殿下と婚約者の公爵令嬢は甘い甘い顔をして見つめ合っている。

 そんな外野の声なんか関係ないのである。



 新しくダンスのステップをマスターしたレティのリクエストで、今回は少しアップテンポの曲。


 ご機嫌な音楽と共に2人は踊り出す。

 アルベルトのリードで、軽快なステップを踏みながらクルクルと回るレティ。

 真紅のドレスはヒラヒラと揺れ、ホール中を2人で踊る。


 皆の笑顔と拍手と歓声が会場を盛り上げる。


 楽しい。

 いっぱいアルの足を踏んじゃったけれども楽しい。


 それにしてもアルはダンスが上手だ。

 誰と踊ったらこんなに上手くなるんだろう。

 ちょっとそのお相手に妬けてしまう。



 曲が終わり、息も絶え絶えのレティを抱き締めるアルベルトは、爽やかな笑顔で息さえ乱れていない。


「 上手だったよ 」

「 いっぱい足を踏んじゃったわ……ごめんなさい 」

「 レティに踏まれても少しも痛く無いよ 」

 拍手に送られホールの中心から外に出る。


 ホールの興奮も冷めやらぬままに楽団は次の音楽を奏でる。

 次からは一般のダンスである。


 皆がペアでホールに出てきた。

 アルベルトは王女達と踊らなければならない。


 父上も少しはお相手をして欲しいと言ってはみたが、若い姫がこんな年寄りと踊りたいか?

 ……と、言われて脚下されたのは予想の範囲。

 仕方ない……


「 レティ……後でもう一度踊ろう 」

 レティの頬に手をやり、アルベルトは王女達のいる場所に向かった。


 皇子様の顔をして。




「 美しいレディ……次は私と踊って頂けませんか? 」

 声の主はウィリアム王子だ。


「 はい、喜んで 」

 レティはクスクスと笑った。


「 何がおかしいんだよ? 」

「 だって……すましてるんだもん 」

 レティとウィリアム王子は同学生である。


 留学で来国していたウィリアム王子は、この建国祭をもって帰国する予定だ。


 3日間の休日の前には、学園でウィリアム王子のお別れ会をした。

 人懐っこい王子は学園の人気者であった。

 ただ……

 ハーレムだけは好んで作っていたが。



 本人曰く。

 ハーレムは、女子学生達が勝手に寄って来るんだから仕方ないらしい。

 アルベルト皇太子がローランド国に留学中はこんなもんじゃ無かったと、綺麗な女子生徒と次から次へと……

 聞きたくも無い過去の話を聞かされたりもした。


「 止めてよ! 過去の話を婚約者に聞かせて何が面白いのよ! 」

 レティはジルからも学園の1年生のアルベルトはハーレムの中にいたと聞いていた。


 だからなのだ。

 アルベルトに纏わりつこうとする女を徹底的に排除する様になったのは。

 自分がいない過去の事はもう今さらどうしようも無いが、これからは違う。

 自分の目の黒い内は何人たりとも許さないのである。



「 俺は皇太子殿下の真似をしてるだけだ! 」

「 殿下はむやみやたらにキスをしたりしなかったわ 」

 1度目の人生では、そのハーレムの一員だったと言う痛い過去のある当人が証言をする。


 殿下はハーレムの誰かとデートの約束はしていた……自分は選ばれ無かったが……

 聞きたく無かった事を聞かされ、思い出したく無かった事を思い出してしまう。



「 何で君に分かるんだよ。いなかったくせに 」

「 うるさーい! 」


 何時もこんなやり取りをして……

 何やかんやで案外仲の良い2人だった。



 アルベルトを見れば、王女の手を取りホールの中央に出ていた。


 あれ?

 アリアドネ王女じゃ無いの?

 国力からして一番最初はイニエスタ王国なんだけどな。



 アルベルトは、先ずはイニエスタ王国のアリアドネ王女にダンスを申し込みに行ったが、彼女は少し気分が優れないので、最後で良いと申し出たのだ。


 公爵令嬢と同じ色のドレスで、2人のダンスの直後にアルベルトと踊るのは嫌なんだろうと他の王女達は思うのであった。


「 これ見よがしに、同じ色のドレスなんか着てこなければ良かったのよ 」

 アリアドネ王女にだけ聞こえる様な囁き声である。



 アルベルトはオルレアン王女にダンスを申し込む。

「 わたくしと踊って頂けますか? 」

「 はい、喜んで…… 」


 美丈夫であるアルベルトに微笑まれたら誰だって嬉しくなる。

 顔を赤くして手を取られて行くオルレアン王女。


 背が高く逞しい胸に甘い香り……

 見つめ合えば、アイスブルーの優しい瞳に胸がときめき、グイっと腰を引かれ密着すれば誤解をしてしまう。


 もしかして……


 ダンスはパートナーの目を見つめる事がマナーなのであるが。

 それを知っていても、ときめいてしまうのだ。



 音楽が奏でられ……ダンスが始まった。

 

 見つめ合って踊りながら、王女は意を決意して口を開く。

「 アルベルト様……ワタクシを妃にしては下さいませんか? 」

 やっと直接自分の想いをアルベルトに言えたのである。


「 私には愛する婚約者がいます 」

「 でも……シルフィード帝国には側室制度があると聞きました 」


 アルベルトはため息を付いた。


「 では1つ質問をしましょう。貧しい国民がいれば貴女はどうしますか?」

「 ………パンを与えますわ 」

「 そのパンが無くなれば? 」

「 またパンを与えれば宜しいんじゃ無くて? 」


「 では、そのパンを与えすぎて、皇室の財政が苦しくなるとどうしますか? 」

「 税を取り立てれば良いのです 」

「 それでは、更に国民が貧しくなりますね 」

「 だけど、税を納めるのは国民の義務ですわ 」


「 では、貧しくなった国民が税を納められなくなった時は? 」

「 そんな事……ワタクシには分かりません! 」


「 私はこの問題をクリア出来る彼女を、皇太子妃に迎えたいのです。側妃などは必要ありません 」


 ダンスが終わる頃には、王女は泣き出しそうになっていた。



「 素晴らしい一時だった 」

「 アルベルト様……素敵な一時を有り難うございます。どうかお幸せに……… 」



 オルレアン王女は、あの頭の良い公爵令嬢相手では勝てない事を悟り、身を引いたのだった。





 ***





 レティはウィリアム王子と楽しく踊っていた。


「 新聞を見たよ。あの匿名希望のある王子は俺だ! 」

「 やっぱり………そうじゃ無いかと思ったわ。でも、惚れたってどう言う意味よ? 」

「 そのままだが? 」


 はぁ?何を言ってんだか。


「 国には婚約者がいるんでしょ? 」

「 まだ決まった訳では無いし、彼女とは……政略結婚だから…… 」

「 政略でも、今から恋愛をすれば良いじゃない 」


 すると………

 ウィリアム王子は何とも言えない顔をしていた。



 ダンスを終えてホールの中央から出れば………

 ふと、レティは時間が気になった。


「 今……何時かしら? 」

 レティは珍しく時間を気にした。


「 ん? まだ6時30分前だよ 」

 ウィリアム王子は懐中時計を上着から取り出して教えてくれた。



 新聞……時間……7時……

 レティは目を見開き………髪の毛が逆立った。


 そして直ぐに踵を返す。


「 何処へ行くんだよ? 」

「 お手洗い 」

 ウィリアム王子の問い掛けにそう答えると、一目散に駆け出した。




 アルベルトは次の王女にダンスを申し込んでいる所だった。







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