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回る歯車

 


 建国祭の前日は、各国最後の交流で皆が忙しくしている。

 皇帝陛下は王族との会談で、皇后陛下は王女達とお茶会。

 アルベルトは各国の要人達との外交で忙しい1日の予定だった。



 レティは騎士団の早朝訓練が終わると、昼過ぎまでは何の予定も無いので、皇宮病院に行く事にしていた。



 訓練場では、この日は剣を使わせて貰えなかったので弓矢の練習。

 騎士団の第2練習場はだだっ広く、馬に乗って弓矢を射る

 騎射の練習が出来るのである。


 今日はグレイ班長を始め、ロンやケチャップ達にも騎射のやり方を教えた。


 馬上での注意、姿勢………

 おかしいわ……

 私はグレイ班長から教わったのに、何故グレイ班長に教えているのかしら?




 アルベルトも思う。

 何故グレイがレティから教わっているのか?

 じゃあ、レティは誰から教わったのか?


 もう、疑問だらけでどんな仮説を立てても答えは出ず、色んな事が八方塞がりだった。




 この後レティは皇宮病院に行くと言う。

 今の皇宮は人の出入りが激しい。

 それも外国の要人達の秘書や側近や侍女達もいるので、知らない顔ばかりで注意が必要である。

 警備の者も、騎士団の団員達も総出で警備に当たってはいるが。



 何だか嫌な予感がするので、本当は大人しく部屋にいて欲しかったが、じっと部屋にいる筈もない令嬢である。

 こっそり脱け出されたら余計に面倒な事になると思い、アルベルトはレティに護衛を付けた。


「 良いかい、決して1人で行動してはいけないよ 」

「 うん、分かった 」


 朝食を一緒に食べた後で2人は別れた。



 アルベルトは昼食もレティと取りたかったが、それさえも出来ない程に貪欲に各国との外交に力を入れた。

 それはどの国も同じで、次は何時会えるか分からない相手との最後の交渉に全力を注いだ。




 ***




 皇宮病院にいても、今日は昼間の騎士団の訓練が無いことから平和だった。


 これが庶民病院ならば入院患者の1人でもいるのだろうが、往診する貴族達は自宅療養が基本で入院する事は先ず無かった。

 入院するとなれば大きな手術がある時位である。


 患者はいなくとも、カルテを見ながらレティは熱心に勉強をする。


「 やあ、勉強熱心だね 」

「 あっ、ユーリせんぱ……先生ごきげんよう。 」

 思わず先輩と言ってしまいそうになり慌てて言い直す。

 まあ、医師になった今では、ユーリが先輩には違いないが……


 それから暫くは、ユーリに色んな事を聞きながら最新医療を学ぶ。

 ユーリはローランド国に交換留学をして、かなり自信が付いた様だった。


 しかし……

 やはり3年後の未来を経験したレティの知識の方が上。

 さりげなく……さりげなーく医学書で読んだとしてユーリに教えたりしていた。



「 お嬢様、もうお部屋にお戻りになる時間でございます 」

 タオルやシーツの洗濯物を取り込んで来たマーサが、慌てている。


「 時間が過ぎるのが早いわね 」

 夕方前には部屋に戻って、夜の舞踏会に出る準備をしなければならない。


 今日治療したのは火傷をしたと言う他国の侍女だけ。

 それを日誌に書き、ユーリにまたねと言って皇宮病院を後にした。





 ***





 次の会談の準備をしているアルベルトの元に、レティの護衛をしていた騎士が現れ報告を受けた。

 彼女は、皇太子宮の客間である自分の部屋に入ったと。

 後は舞踏会の準備をするだけだから、もう護衛は不要だと言う。


 良かった。

 何だか分からないざわざわとした嫌な予感がしていたのだが。

 皇太子宮に戻ったのなら安心である。

「 分かった。ご苦労だったな 」


 アルベルトは次の会談へと、クラウドと女官達を連れて移動した。





 ***





 レティが部屋に戻るとおやつがいっぱい用意されていて、歓喜の声を上げた。

「 やはり頭を使うと甘いものがひたすら食べたくなるのよね 」


 私の成長が遅いのもこれだからかも知れない。



「 リティエラ様はお医者様なんですよね? 」

「 ………? そうよ 」

 おやつをモグモグと食べている可愛らしいレティと、彼女が皇宮病院から持ち帰って来た分厚い医学書を、レニーとマイラは交互に見ている。


「 これでも医者なんだから 」

 笑いながら医師である証明の認定手帳を見せる。

 本物だわ……と、皆が興奮する。

 こんな可愛らしい令嬢がお医者様だなんて……


「 あら、お腹だって切っちゃいますよ 」

 侍女達は、そんな可愛らしい顔で言わないでとキャアキャアと悲鳴をあげる。



「 あっ! お嬢様! 昨夜の晩餐会での事が新聞に載ってますよ! 」

「 ええ!? 」

 新聞を手に取ったマーサが皆の前で広げ、皆で新聞を覗き込む。



 ───────────────────────────



『 我が帝国の未来の皇太子妃は頼もしい 』


 皇太子殿下に尚も求婚をする他国王女達に、一歩も引けを取らずに私の男に手を出すな!と啖呵を切った姿に惚れたと、匿名希望のある国の王子はインタビューに答えた。

 詳細は明かしてくれなかったが、ある侍女の話では、それを聞いた皇太子殿下は嬉しそうに婚約者の手を取り「 僕のお嫁さんは勇ましい 」と言ったそうだ。

 2人は政略結婚では無く、学園で愛を育んだ結婚である事が微笑ましい限りだ。

 帝国民は世紀の御成婚を待つばかりである。



 ───────────────────────────





「 …………… 」


 誰だ?匿名希望のある国の王子って?



「 うわ~!お嬢様!私のインタビューも載ってますぅ~ 」


 !?……この侍女はお前かぁ!?


 これは不味いわ……

 お母様に絶対に叱られる。


 レティは頭を抱えた。

 母の怒りが何より怖いレティであった。



 この記事により、レティは帝国民からの人気が更に高まったのは言うまでも無い。





 ***





 忙しい昼間のスケジュールをこなして、やっと一息ついた。

 昨夜の事が新聞記事になってるとクラウドから聞いたので、ざっと目を通してみる。


 誰だ?

 この匿名希望のある国の王子って?

 俺のレティに惚れたって何だよ?



「 皇子様、湯浴みの準備が出来ております 」

 侍従のテリーが浴室から出てきた。


「 レティは部屋にいるのか? 」

「 はい、楽しい笑い声が廊下にも聞こえて来ております 」

「 そうか…… 」


 彼女のいる所は何時も笑いが溢れているな。


 上着を脱ぎながらクスリと笑っていると……

 その脱いだ上着を受け取りながらモニカが言う。


「 皇子様、夜会服の準備は出来ておりますので、湯浴みを終えられましたら、直ぐに夜会服に着替えて下さいませ。わたくし、リティエラ様の所にいますので……何かあったらお呼び下さいませ 」

 モニカは頭を下げてそそくさと部屋を出た。


 ?

 何時もは夜会服に着替える手伝いはモニカがするのだが?


「 リティエラ様が美肌の講習をしてらっしゃるそうですよ 」

 テリーがクックッと笑う。


「 皆もすっかりレティにやられたな 」

 アルベルトは湯浴みをする為にシャツを脱ぎながら……

 やがて来る賑やかな未来に思いを馳せた。





 ***





「 リティエラ様、皇子様が部屋に戻られ夜会の準備にはいりました 」

 モニカが部屋に入って来て報告をする。


 レティはもう準備が出来上がっていて、今はスキンクリームの宣伝中だ。


「 リティエラ様は本当にお肌が透き通る様に白くて美しいですわ~ 」

 侍女達が羨ましいとレティの顔を覗き込んでいる。


「 このスキンクリームは母にも好評で、皇后様にも注文を承けているのよ 」


 皇后様と聞いて、皆が更に食い付く。


 伸びがあるから………朝晩………

 レティの説明に侍女達は食い入るように聞いている。

 何時の世も女性達の感心は美である。


 特にまだスキンクリームなど無かったシルフィード帝国では、このレティの考案したスキンクリームはやがて大ヒットするのである。





 ***





 アルベルトは準備を終えてレティの部屋に来ていた。

 少し時間があったので2人でソファーに座り、会場入りを呼ばれるのを待っている所である。



「 そのクリームが無くてもレティの肌は綺麗だろ? 」

 皇子様にそんな事を言われたら何だか恥ずかしい。


「 女性は日頃の手入れが大事なのよ 」



 レティはこのスキンクリームは今は自分が作っているが、人気が出たら大量に作る為に、いずれは工場を立てて貧しい人達を雇い入れて働いて貰うと言う。


 確か……

 道路を作る時も貧しい人達を雇えば良いと言っていた。


 更にレティは嬉しそうに話を続ける。

「 国民が豊かになれば、税収も増えるでしょ? そうしたらまた道を作って、立派な橋を作ったら……そこに人々が暮らす様になり、また税を払い……そうなればより国を豊かに出来るわ 」


 目から鱗とはこの事を言うのだろう。

 俺の御代が見える気がする。


 帝国民の貧しい人達の事を考えている彼女は、もう立派な皇太子妃で、皇后ではないか……

 アルベルトはやがて来る自分の御代に、こんな考えのレティがいる事が嬉しかった。


 彼女にそっとキスをした。



「 まあ! 皇子様! リティエラ様にキスをしましたね!? 」

 いくらリティエラ様がお美しくてもそこは自重して下さらないと困りますわ!……と、侍女達に叱られる。


 折角リティエラ様に塗った紅が取れたと彼女達は怒り心頭である。

 


「 ………す……すまない……… 」


 レティは皇子様の唇に付いた紅を拭いてあげながら、クスクスと笑った。





 ***





 夜会は定刻通りに始まった。




「 今……何時かしら? 」

 レティは珍しく時間を気にした。








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