表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
311/641

私の男に手を出すな!

 



 分かち合う?


「 何ですと!? アルを分かち合う? 」

「 そうですわ。皇太子妃と側妃でアルベルト様からの愛を分かち合えば良いんですわ 」



 私と王女で?

 あの優しい眼差しも、逞しい胸も、甘いキスも……


 分かち合う?



 彼女の何かが切れた。



 レティは長い扇子を剣を持つ様にして王女達に向けた。

 そしてバッと広げた。


 長い!

 長いからデカイ。

 あんなデカイ扇子は見たことが無いぞ!


 いつの間にかこのホールにいる皆がレティ達を注目していた。



 ええ!?いつの間に扇子を?

 アルベルトはそれがディオールの港町で購入した武器……いや扇子だと分かった。


 よく見ると、レティの足元に侍女のマーサがいる。

 彼女がこっそり手渡したんだ……

 何かの合図を出したのか?

 凄い連携プレイだな……


 柱に凭れていたアルベルトは身を乗り出し、クックッと笑いながら成り行きを見ている。



 レティはパチンと扇子をたたみ、足をバンと開いて仁王立ちになった。

 顎をクイッっと上げ………腰に手をやり悪役令嬢の構えになる。



 えっ!?

 もう扇子をたたんだの?

 何で開いたの?


 レティは扇子を見せたかっただけである。



 レティの声のトーンが低くなる。


「 殿下に相応しいとか相応しくないとか随分と煩い事………では、お聞きいたしますが………王女様は、王女様と言うお高い身分以外に殿下に何が出来ますの? 」


 レティが目を細め王女達を睨むと、ゾクゾクする程に美しい顔になる。


「 わたくしは、殿下が怪我をすれば針と糸で縫うことも出来るし、心臓が停止すれば心肺蘇生も出来るわ。病気になれば薬を煎じる事が出来るし、毒を盛られれば解毒剤を作って助ける事が出来ますわ 」


「 殿下が無人島に流されお腹が空けば料理を作って差し上げる事も出来るし、独り寂しく路頭に迷ったらわたくしがお金を稼いで面倒も見れますわ! 」


「 それに……敵が襲って来たら剣で殿下をお守り致しますし、遠くから狙われたら弓矢で敵を打ち落とす事も出来ますわ。殿下が倒れたら命の炎を注げるのはわたくしだけですわ 」



「 さあ! 王女様達は、殿下の為に何が出来ますの!? 」



 会場から拍手が沸き起こった。

 貴女は素晴らしいと。


 だけど……

 殿下は無人島には流され無いし、路頭にも迷わ無いし、敵に襲われてもドラゴンを倒す程の強さですから。

 命の炎の件は何なのかよく分からないけど……

 そこは違うだろ!……と、ギャラリーは突っ込みをいれる。



 王女達はレティの機関銃トークに口をパクパクさせて何も言い返せない。


 図星なのだ。

 王女達には王女である事を威張り散らす事しか能が無いのであるから。



「 それに…… 」

 開きかけた長い扇子をパチンと閉じる。


「 アルは私のものよ! 私だけの男なんだから、分かち合うとか側妃とか馬鹿な事を考えて貰っちゃ困るわ! 」


「 公爵令嬢! 私の男だなんて! アルベルト様に対して失礼だわ! 」

 アリアドネ王女が叫んだ。


「 何と思われても構わない! アルは私1人のもの! 誰にも渡さない! 私の男に手を出すな!! 」


 ドンと一歩右足を前に出し扇子をバッと広げた。

 アッパレれじゃあ~ヒラヒラ~



 言った……

 殿下を私の男だと言った。

 王女に向かって手を出すなと言った。


 可愛らしい……

 好きだ。

 結婚して欲しい。

 公爵令嬢が王女達に見事な啖呵を切る姿に男達は悶絶した。


 会場には割れんばかりの拍手と歓声が鳴り響いた。



 うそ!皆が公爵令嬢の味方なの?

 我が国の大臣達は何をしてるのよ!?


 王女達はレティの渾身の一撃に何も言い返せない。




 しまった!!!

 大変な事を言ってしまった。

 つい頭に血が上って……

 どうしょう……



 レティはアッパレ扇子を広げたままで固まっていた。

 ダラダラと汗が流れる……



 そこにアルベルトが長い足でカツカツと歩いてきた。


 アリアドネ王女は、アルベルトが学園での騒ぎの時みたいに助けに来てくれたんだと思い、涙ぐむ真似をした。


「 アルベルトさまぁ……王族を侮辱……… 」

 そう言い掛けた時だった。


 アルベルトはクックッと笑いながら、広げたままのアッパレ扇子をパチンと閉じて、固まっているレティを抱き締めた。

 嬉しくてたまらないと言う顔をして。


「 僕のお嫁さんは勇ましい 」

 その一言に場内は笑いに包まれる。


 アルベルトはレティの手を取りホールから退出して行った。



 残された王女達は呆気に取られて動け無い。


 いつの間にか王女達の前には皇帝陛下が来ていた。


「 うちの嫁の無礼を許しておくれ、あれはどうやら皇太子の事になると熱くなる様じゃ 」

 さあ、姫達を別のサロンに案内して差し上げなさいと、皇后に向かって手招きをした。


「 うちの嫁は可愛いでしょう? 」

 嬉しそうに言う皇后陛下に、場内はほっこりした空気に包まれた。



 これがクラウド達が言っていた「 私の男に手を出すな! 」なのじゃな。


「 余も一度は言われたい台詞じゃ 」

 皇帝陛下が皇后陛下に向かって嬉しそうに話す。


「 まあ!……フフフ……アルはさぞや嬉しいでしょうに……」

 皇后陛下はコロコロと笑い、案内をする皇后の侍女と共に王女達をお茶会のサロンに連れて行く。




 この場にいる王子達の誰もが皇太子殿下を羨ましいと思った。


 自分達も他国の王女との政略結婚は仕方無いと思っていたが………


 皇太子と公爵令嬢。

 2人は恋愛をしているのだ。

 高貴な公爵令嬢に私の男に手を出すなと言わせる位の恋愛を。


 アルベルトもそうである様に、王子達も政略結婚は仕方無いと思っていた。

 だけど……

 自分もあんな風に愛されたいし、愛したい。


 婚約者である公爵令嬢と手を繋ぎ、嬉しそうに会場を後にする皇太子の後ろ姿を見ながら、王子達は複雑な思いを抱いていた。





 ***




 レティの部屋に戻って来ていたアルベルトは、レティを膝の上に乗せてキスをしていた。


 王女達をぐうの音も出ない程にやり込めたレティ。

 王女達に私の男に手を出すなと言ったレティ。

 もう、愛しくて愛しくて食べてしまいたい位だった。


「 私……王女達にあんな事を言っちゃったわ…… 」

「 嬉しいよ。有り難う。僕は君が側にいると何があっても安心だね 」

 レティの顔じゅうにチュッチュッとキスをしまくっている。


「 罰せられるかしら?」

「 君は僕の婚約者だから問題は無いよ 」

 尚もチュッチュッと。


「 外交問題にならない? 」

「 こんな事ではならないよ。外交は僕が頑張るし…… 」

 更にチュッチュッと繰り返しキスをする。


「 良かった……… あら…… 何? 止めてよ! 」

「 止めない。レティを好き過ぎるから…… 」

 自分の顔中にキスをしているアルベルトに気付いたレティは文句を言う。

 膝の上にいるレティの顎を持ち顔を上向かせ……


「 あんな事を言ったんだから……きっとお父様に叱られるわね 」

「 レティ……もう、黙って僕にキスをされて…… 」

 アルベルトは尚も喋ろうとするレティの唇を自分の唇でふさいだ。



 レティは、暫くアルベルトからのキス攻撃を受ける羽目になったのだった。





 ***





 他の王女達は、もはや諦めモードだがアリアドネ王女は違った。


 王女は……

 アルベルトがレティの手を取り、2人で笑い合いながらホールから出て行くのを見ていた。



 何故王女の自分がここに残されているのか……

 あの時はワタクシの手を取ってくれたじゃない。


 怒りと嫉妬で爆発しそうな位に顔を真っ赤にして爪をギリリと噛んだ。




 この日から3日間の休日に入った帝国民はお祭り騒ぎをしている。


 明日は建国祭の前夜祭。

 皇宮では、招待した要人達との華やかな舞踏会が開かれるのである。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] レティアッパレです❗   よくぞ、王女様達に皇子様への思いを言ってくれた とてもカッコ良かったです [気になる点] アリアドネ王女は、自分の都合の良い良うに考えるのはいつもの事ですがその為…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ