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皇太子宮の初めて─前編

 



 シルフィード帝国にいる魔力使いは、光、水、炎、風、雷の5種類の魔力を各々持っている。


 魔力使いは世界中にもいるが、シルフィード帝国でもそうである様に、その数や魔力の種類はシークレットだ。


 魔力使い達は戦争時の戦力にもなる事から、貴重な彼等は他国から拉致される恐れがあるので、国で管理され庇護されているのである。


 アルベルト皇子が雷の魔力使いだと世界に向けて公開したのは、彼が戦いの抑止力になると考えた皇帝陛下とアルベルトの考え抜いた事。


 魔力の中でも特に攻撃力のある雷の魔力使いは、かつては戦争に駆り出されその命を落とした。


 それから長らく雷の魔力使いはシルフィード帝国には存在しなかった。

 アルベルトが開花するまでは。



 魔力使いは同じ魔力使いの魔力を感じる事が出来る。

 水の魔力使いである虎の穴のルーピン所長が、アルベルトが10歳になった頃から何らかの魔力があると感じていたのはその能力からであった。


 そしてその魔力の能力の大きさも魔力使いによってまちまちだ。

 同じ水の魔力使いでもルーピンの魔力はかなり強く、家一軒の火事をも消し止められる程のものであるが、チョロチョロと水を流す程度の弱い魔力使いもいた。


 その能力の大きさもアルベルトは最大級であるのは、ドラゴンを倒した事でも分かる事だ。




「 ん?」

 次の会談の部屋に向かう為に急いで宮殿内を歩いているアルベルトは魔力を微かに感じた。

 周りを見れば……

 大勢の人々が宮殿内を歩いている。


 まあ、魔力使いのルーピンとて貴族の1人であるので、何処かを歩いていたのかも知れない。


「 殿下? 何かございましたか? 」

 後ろを歩いていたクラウドが、アルベルトのちょっとした異変に気付くのは彼が元騎士であるから。


「 いや、気のせいだ。急ごう 」

 今はそれどころでは無い。

 この日のアルベルトは浮かれていた。



 シルフィード帝国にいる12名の魔力使いの中で、貴族はルーピンと光の魔力使いの2人だけ。


 後の魔力使いは平民出身である。

 彼等は管理上、男爵の爵位を与えられているが、その生活は平民であり、宮殿への出入は虎の穴だけを許されている。


 魔力は武器になる。

 武器を身体に持っている彼等は宮殿への出入りは許されてはいない。

 唯一魔力を発動する時だけ、錬金術師達と共に宮殿に来る事が出来るのであった。




 ***




 その日は建国祭の3日前。

 急遽レティの皇太子宮への入城が言い渡された。


 皇帝陛下とルーカス宰相が相談して、準皇族であるレティの安全と警護の為に、この日から皇太子宮の客室に滞在させる事にしたのだ。


 アルベルトが朝から浮かれていたのはこのせいだ。

 念願叶ってのレティの入城である。



 その命を受けて、皇太子宮の侍女やメイド達はてんやわんやの大忙しとなった。


 この日学園が終わった後、夕方頃には皇太子殿下の婚約者が入城して来るのである。

 客室は、貴族には必ず同伴してくる侍女がいるので、小さな侍女部屋が対になっている。


 聞いているお供の侍女は1人。

 公爵家にしては少ないと思いながらも皇太子宮の侍女長であるモニカは、他の侍女とメイド達を集めて、抜かり無き様にミーティングをする。


 皇太子宮のスタッフにとっては初めて経験する女性の入城。

 いや、それよりも皇太子宮に泊まる人が初めてであった。


 それも皇太子殿下の婚約者。

 将来自分達がお仕えする事になる令嬢である。

 失敗は絶対に許されない。

 自然と気合いが入るスタッフ達であった。





 ***




「 お嬢様……私……宮殿なんかに行けません 」

 馬車に侍女のマーサと乗り込み皇宮に向かって走らせている。


「 何でこんな事になったのかしら? 」

 もしかしてアルの命令?

 昨夜はあんな事を言っていたのだから……


 皇太子宮へ行く事は昨夜遅く帰宅したルーカスから聞かされた。

 警護の都合上だと言うが……



 ガタガタと震えているマーサ。

 彼女が緊張するのは当然である。


『 皇宮の侍女 』

 彼女達は侍女の頂点。

 侍女組合の憧れの存在である皇宮の侍女に会う事になるマーサにとっては、青天の霹靂であった。



 馬車はあっという間に皇宮に到着した。

 玄関には沢山の人々が出迎えに立っていた。



 公爵家の馬車からヒョコッとレティが下りた。

 馬車から荷物を下ろそうとするレティに慌ててメイド達が駆け寄る。


「 リティエラ様! わたくし共がやりますから 」

「 そう? 重いわよ? 」

「 そんな重い物をリティエラ様に持たせる訳にはいきませんから…… 」


 しかし……

 荷物はトランク3個と大きな布の袋が3袋だけ。

 公爵令嬢の荷物としては随分と少ない。


 それに……

 もはや彼女のトレードマークの様なデカイ顔のリュックを背負っている。


 レティはお妃教育の時は毎回デカイ顔のリュックを背負って来ている。

 いや、最近は何処に行くにも背負っている。

 両手が自由になるから便利だと言う理由で。



「 急な申し付けで、何だか訳が分からないんだけれども……少しの間だけど宜しくね 」


 レティがワンピースの裾を持ち、膝を曲げ挨拶をすると皇太子宮のスタッフ達が頭を垂れた。


「 リティエラ様、誠心誠意お仕えさせていただきます 」


 ああ……

 何であんなに緊張したのでしょう。

 リティエラ様ですよ。

 皇子様の婚約者はリティエラ様よ。


 お妃教育に来ているレティがあまりにもフレンドリーなので、彼女達は変な錯覚をしていた。

 皇太子殿下の婚約者とレティが結び付かなかったのである。


 レティの照れた様な可愛らしい笑みに、さっきまでピリピリしていた一同は、ほぇ~っと骨抜きになってしまっていた。


「 皇子様はまだご公務が終わらないので、皇太子宮にはわたくし共がご案内をさせて頂きます 」

「 宜しくねモニカさん 」

「 リティエラ様、モニカとお呼び下さいませ 」

「 ええ……モニカ、この4日間を宜しくね 」

 レティは3泊4日の滞在予定である。



 何度も皇宮には来ていたが、皇太子宮に入るのは数える程。

 皇太子宮に入って直ぐにあるアルベルトの執務室に何回か来た位である。



 皇族の住まいは宮殿の3階でここには皇族以外は入れない。

 王子や王女達王族が滞在する客間は皇宮の2階だから、皇族と顔を合わせる事は無い。


 3階にある皇族が暮らす皇宮と皇太子宮は大体は同じ構造になっていて、奥には皇帝陛下と皇后陛下の部屋があるが、その更に奥には側室達が暮らすフロアーがあり部屋がいくつかあった。


 側室のいない今は使われていないが、皇后と側室……かつてはここで様々なドラマが繰り広げられたのである。


 皇太子宮にも、皇太子と皇太子妃の部屋がある奥のフロアーには側室用の部屋があった。



 今回レティが滞在する部屋は皇太子の部屋の斜め前にある客間の1つ。


 この部屋は皇子の本当に親しい友人達が泊まる部屋として用意された部屋ではあるが、ラウル達は皇太子宮には泊まった事が無いので、今回レティが初めてここに泊まる事になる。


 因みに、王太子夫婦の名代として建国祭に参加するローランド国のウィリアム王子も、警護の都合上学園の寮から皇宮の客間に学園が終わるこの日に移された。

 学園は明日から3日間休日となる。




 荷物を持つマーサも侍女に案内をされる。

 憧れの皇宮の侍女に会えた彼女のドキドキは最高潮だ。


 階段を上り3階に着くと、騎士が2名いる。


 宮殿は城を警備する警備員と、人を護衛する騎士がいる。

 大概は警備員がその警備に付いているが、この皇族のプライベートゾーンへ行く3階の扉の前だけは騎士団が守りに付く。


 警備員は剣は持てない。

 怪しい者の侵入があれば、直ぐに切り捨てる事が出来る帯剣をした騎士が皇族を守っているのである。


 そこのドアからは先へは皇族以外は、専属の侍従や侍女、女官にメイド、警備の者しか入れない仕組みだ。


 扉を開けて中に入る。

 右手に行くと皇帝陛下と皇后陛下が暮らす皇宮本体があり、左手に行くと皇太子宮がある。




 物心が付いた頃からここに独りで暮らしているアルベルトは、この皇太子宮に入る自分の妻である皇太子妃を大切にしようと思っていた。

 たとえ政略結婚であろうとも……



 しかしである。

 アルベルトは愛する妻となる女性を自分で見付けたのである。

 将来を誓い合ったレティを早くここに迎え入れたくて仕方が無かった。

 レティと暮らす皇太子宮はどんなに楽しいんだろう……


 そんな夢が少し叶うのである。

 この話を聞いたアルベルトのテンションの上がり具合は凄かった。

 昨夜レティにこっ酷く断られて、気落ちしていただけに尚更であった。



 そこにレティがやって来た。

 お泊まりの用意をして……











誤字脱字報告を有り難うございます。



読んで頂き有り難うございます。

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