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ババ抜き

 




「 アルベルト様。ワタクシもオペラ観劇に連れて行って貰えますか? 」

 イニエスタ王女がアルベルトとオペラを観劇に行った事を聞いて、オルレアン王女も行きたいと懇願する。



「 オペラは私の婚約者が苦手なので、彼女は行かないだろうね 」


 えっ!?

 婚約者も一緒に行くと言う前提での断り?


「 違いますわ! アルベルト様と2人で観劇を…… 」

「 それならばワタクシもお時間を割いて頂きたいわ 」

 ワタクシもワタクシもと他の王女も、アルベルトとの2人だけのデートを希望する。


「 申し訳ないが、私が婚約者以外の女性と2人で行くことは出来ない 」

 イニエスタ王女とオペラ観劇に行った時は婚約者がいない時で、今のアルベルトには婚約者がいるのだから当然の事である。



 ハッキリと言われて……

 気落ちする王女達の中で、イニエスタ王女だけは何故か強気だった。


「 アルベルト様……今は駄目でも何時かはまたワタクシと行く事になりましてよ 」


 意味深に微笑むアリアドネ王女に微かに違和感を覚えるが、彼女の高慢さは何時もの事なのだろう。



「 まあ!その自信は何処から出てくるのかしら? 」

「 それは……ワタクシにはこの通りのアルベルト様に釣り合う程の美貌がありますわ…… 」

「 あら?ただお背がお高いだけじゃございません事? 」

「 何ですって!? 」




 王女達のうんざりするバトルを見ながらアルベルトは想う。


 オペラデート……

 眠くなるからって辛子や頬を捻る為のペンチまで持参して来てたっけ……

 アルベルトはその時の事を思い出し、クスリと笑う。

 結局は、ものの数分も掛からずに眠りこけていた可愛いレティ。



 それに……

 お茶会だと言うのに……

 王女達はテーブルの上のお菓子達に手も付けていない事にアルベルトは憤慨をする。

 これは今までなら何とも思わない感情であった。


 これ……レティがここにいたらバクバク食べるよな。

 キラキラした瞳で、美味しい美味しいと言いながら……


「 お菓子作りはね、凄く手間が掛かるのよ。美味しくしようとすればする程に……だから作ってくれた人に感謝しながら食べるの 」


 前にそんな事を言いながらスイーツを頬張っていたレティは、自分で料理をする。

 だからこそシェフの気持ちが分かるのだろう。


 シェフはレティが来る時は何時も張り切って腕を振るう。

 新作スイーツが出されると、シェフに教わる為に熱心にメモを取る姿がまた可愛らしいのだ。



 アルベルトに以前には無かった感情をもたらされたのはそれだけでは無かった。


 今までなら、女性達に腕を絡まれ密着され様とも何も感じるものは無かったが………今は違う。

 嫌悪感でいっぱいになる。

 何よりレティの嫌がる事はしたくない。


「 私の男に触るな! 」

 ……は、アルベルトへの殺し文句。

 レティから殿下は自分のものだと言われると、嬉しくて嬉しくて仕方がなくなるのだった。



「 それではお時間が来ましたのでこれにて開きに致します 」

 クラウドが予定よりかなり早めに終わりを告げる。

 アルベルトは王女達に見送られ、やっと尋問室の様なサロンを出た。


 マウント取り合戦が終わるやいなや、王女達から趣味や好きな物の質問責めにあったのだった。

 勿論、ドラゴンを討伐した魔力の事も……



「 殿下、途中から適当でしたね? 」

 王女達を見送ったクラウドが執務室に戻って来ていた。


「 もうお茶会なんて2度とごめんだ 」

「 私は面白かったですよ。女性の表と裏の顔を見れた事が…… 」

「 くだらない。それより溜まった仕事を終わらせるぞ! 」

「 御意 」



 殿下が女性に対してあんなに適当に接するとは……

 それも相手は一国の王女達。


 クラウドは皇子が変わった事を実感していた。

 以前はどんな令嬢に対しても、クラウドが苛つく程に紳士的に丁寧に対応していたのだから。





 ***





 夜も更けた頃、公爵家の呼び鈴を鳴らす。

 執務を急ピッチで終わらせたのは一刻も早くレティに会いたかったから。



「 殿下、ようこそお越し下さいました 」

 執事のトーマスが頭を下げ丁寧に出迎える。


「 随分と楽しそうだな 」

「 はい、お坊ちゃんとお嬢様が一緒に遊んでおります 」

 アルベルトが脱いだ上着をトーマスがハンガーに掛ける間も、ラウルとレティの笑い声が聞こえていた。


「 ルーカスはまだか? 」

「 はい、旦那様の帰宅は深夜になると聞いております 」


 やはり……

 身体を壊さなければ良いが……

 この建国祭を取り仕切る宰相ルーカスの忙しさは半端無いのである。



 居間に通されてドアを開けると、ソファーにはラウルとレティが向き合って座り、間にあるテーブルの上にはトランプ。

 2人はババ抜きをしていた。

 2人なのにババ抜きで盛り上がる兄妹。



「 よお!アル。良いところに来たな。お前も加われ 」

 ラウルに軽く手を上げて挨拶をするアルベルトに、レティが驚いた様な顔をしている。



 王女は?


 レティにとっては他国の王女なんかどうでも良い。

 3度の人生で、アルベルト自身が選んだイニエスタ王国のアリアドネ王女だけが気になる存在である。



「 イニエスタ王女はどうなんだ? 昨日来たんだってな? 」

 ラウルがレティの代わりに聞いてくれる。


 昨年のアルベルトと王女の婚姻話が立ち消えになった事はあまりにも有名な話。

 王女の来国はやはりシルフィード国民に衝撃を与え、貴族達は様々な憶測を立てていた。


 本気で皇太子を落としに来たと……

 


「 別に……俺にはこんなに可愛い婚約者がいるから関係無い 」

 アルベルトはレティの頬にキスをした。




 ***




 3人でババ抜きをして大いに盛り上がる。

 どうしても顔に出てしまうレティが何時も負ける。


 ババ以外のトランプを触るとシュンと耳が垂れ、ババを取ろうとすると尻尾をパタパタとしながら目が輝く。


 本人は隠そうとしてツンと澄まし顔をしているが……

 どうしても顔に出てしまうレティがもう可愛くて可愛くて……


 顔や態度に出過ぎるレティにラウルは間抜けだと笑うが……


 アルベルトの顔色を伺いながら歯の浮くような言葉を並べ立てられるが、腹の中はどす黒い物がいっぱいの他国の要人達とのうんざりする会談……



 皇子には幼い頃からの帝王学として、自分の感情を悟られずに相手の心を読むと言う教えを徹底して叩き込まれる。


 それはどんな境遇であろうとも間違った判断をしてはならないと言う上に立つ者として、国民を守る立場の者として、絶対に必要不可欠なもの。


 レティが……

 殿下は心が読めるのでは?……と、たまに訝しげに思う事があるのもそう言う所からなのである。


 腹の探り合いの毎日に疲労困憊しているアルベルトは、こんな裏表の無いレティとの楽しい時間は癒しそのものだった。

 ましてや今日はあの王女達とのお茶会があったのだから。




 勝つまで止めないと言うレティに、無駄だと高笑いをするラウルは風呂に入ると言って消えたので、アルベルトとレティは母親のローズの薦めもあり、公爵家の庭を散歩する事にした。


 ローズは最近レベルアップした自慢の庭をアルベルトに見て欲しいらしい。

 レティの薬草畑は未だに気に食わないが……

 だけど、レティの作るスキンケアクリームはお友達にも好評なのでそこは我慢するのだった。




 10月に入り夜もかなり涼しくなっていた。

 2人で手を繋ぎゆっくりと散歩をする。

 ローズの自慢の庭は、ライトアップもされていて素敵な庭になっていた。




 2人っきりになるとアルベルトが何か言いたそうにしている。

 レティもまた何か聞きたそうにして……

 2人の間に沈黙が流れる。



 王女の事を聞きたいけれども聞けない……聞きたくない。

 だけど聞きたい……いや、聞きたくない。


 アルベルトが真剣な話があると、レティと向かい合い静かにレティの目を見つめた。


 何?

 嫌な話?

 やっぱり王女の事?


 王女は今、アルベルトと同じ宮殿にいるのである。

 いくら婚約者であるレティがいるから王女は関係ないと言われても……

 気にならない訳が無い。



 そして……

 真剣な顔をしてアルベルトが言う。


「 レティ……3日間も連続で皇宮に来るのだから、僕の部屋に泊まるのは………駄目? 」

 1泊だけでも駄目かと眉を上げ、可愛い顔をしながらレティの顔を覗き込んでくる。



 はあ!?

 何を言うのかと思ったら……



「 何もしないから……いやキスはするよ勿論………駄目? 」

 覗き込んでる顔がだんだんと不安げな顔になってるのが可愛い。



 上目遣いで少し頬を染めるて駄目?と聞く可愛い顔に……

 皇子様駄目?御輿が担ぎ上げられた。


 駄目? 駄目? 駄目?

 ………と、お神輿がレティの周りを取り囲む。


 駄目? 駄目? 駄目?

 お神輿に囲まれたレティは逃げられない。


「 駄目? は駄目ーーー!!! 」

 レティは駄目?御輿に打ち勝った。



「 まだ結婚もしてないのにアルの部屋に泊まる事は出来ないわ 」

 アルベルトはたちまち耳が垂れた仔犬の様にシュンとする。


 ましてや他国の要人達が目を光らせているこの期間にする様な行いでは無い。

 節度を遵守しないと……



「 泊まらなくても良いから朝まで一緒にいるのは……駄目? 」

「 それが泊まると言う事でしょ! 」

 尚も食い下がるアルベルトに腰に手を当て叱り付けるレティ。


「 だったら皇太子宮の客間は………駄目? 」

「 駄目! 」



 あの素敵な皇子様だとは思えない姿がそこにあった。


 アルベルトは普通の19歳の健康な男子である。

 何時も何時も好きで好きでたまらない婚約者とイチャイチャしたいと思っているただの男。


 けんもほろろに断わられた皇子様はシュンとしたのだった。



 シュンとしているアルベルトを見れば……

 未来にあるアリアドネ王女に対するレティの不安は無くなっていた。


 アルベルトに愛されていると言う自信が何よりも彼女を強くする。


 この4度目の人生で……

 20歳の時に起こるレティの死に纏わる出来事に立ち向かおうとする事が出来るのも………

 レティを無条件に真っ直ぐに愛してくれるアルベルトがいてくれるからこそだ。



「 アル……大好きよ 」

 アルベルトの腰に手を回すレティに……

「 だったら……一緒に…… 」

「 しつこい 」



 こんな甘い会話をする2人は、シルフィード帝国の皇太子とその婚約者である公爵令嬢。

 2人は政略などの関係では無く学園で愛を育んだ本物の恋人同士。

 シルフィード帝国民からは絶大な人気を誇る2人なのである。




 シルフィード帝国の皇太子殿下の婚約者として……

 リティエラ・ラ・ウォリウォール公爵令嬢を、正式に世界各国の要人達にお披露目する宮中晩餐会は明後日に控えていた。







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