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4度めの人生は 皇太子殿下をお慕いするのを止めようと思います  作者: 桜井 更紗
第3章

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知ってる未来

 



「 ドネ! シルフィード帝国の建国祭には、私と妃が参加すると言う返信を出したんだから、お前は行けないよ 」


「 嫌よ! ワタクシも絶対に行くわ! アルベルト様にどうしてもお会いしたいの! 」

 そう言ってアリアドネ王女は兄である王太子の腕を掴み、ポロポロと涙を溢した。


「 義理姉様! お願いだからワタクシの願いを叶えて下さい 」

 王女は王太子の横にいる義理姉にあたる王太子妃の手を取った。



「 ドネ……これは外交非礼に値する事になるんだよ 」

「 殿下……それでもドネの為に何とかして貰えませんでしょうか? 」

 王太子妃は、王女がシルフィード帝国から帰国以来元気が無く、最近ではアルベルト皇太子殿下の姿絵を抱き締めながら泣いているのを知っていた。


 アリアドネ王女には、妻と死に別れた12歳年上の他国の第3王子……今では公爵となった元王子との婚姻話が、水面下で進んでいる事も、彼女が今回何がなんでもシルフィード帝国に行きたいと願う所以である。



「 分かった……ドネが同行する事は、父上には帰国してから報告をする事にしよう。 」

「 お兄様、お義理姉様……有り難うございます 」

「 だけど、皇太子は婚約者を寵愛してると聞く。私が見て駄目なら諦めるんだぞ! 」

「 ……………はい……分かりました 」


 絶対に振り向かせて見せるわ。

 最後のチャンスを無駄にはしない。



 こうしてイニエスタ王国のアリアドネ王女は、一世一代の大勝負に勝つ為に、急遽無理矢理王太子夫婦に同行したのであった。





「 ご機嫌ようアルベルト様 」


 王女が驚いた顔をしているアルベルトに向かって、右手の甲を差し出す。


「 あら?………キスをして下さいませんの? 」


 イニエスタ王国からは王太子と妃殿下が来国すると聞いていたのだからアルベルトが驚くのは当然である。



「 これは……失礼 」


 そう言って王女の手の甲にキスをした。



 ………のは、赤のローブを着たジジイだった。



 イニエスタ王国に特使として滞在していた爺達が、赤のローブを着てシルフィード帝国に帰って来た。



 昨年の春にローランド国に特使として旅立ち、アルベルトとレティの再会を見届け、飲み食いをし、イニエスタ王国で飲み食いをしつくした赤のローブの10人の爺達。


 王太子夫婦がシルフィード帝国に向かうと聞き付けて、無理矢理船に乗り込んで来たのだった。




「 !?何でお前達がシャシャリ出てくるのよ! 」


「 殿下! お久し振りでございます 」

「 爺か!? お前達……戻って来たのか? 」

 王女の問い掛けをスッパリと無視した10人の赤のローブの爺達が、うじゃうじゃとアルベルトの周りを取り囲む。



「 御仁達! これは失礼では無いか!不敬罪で罰するぞ! 」

 王太子の声が荒らぐ。


「 我々の主君にご挨拶をして何が悪いのじゃ? 」

「 久し振りの対面に釘を指すのがイニエスタ流か!? 」

「 こんな老いぼれに不敬罪だと?イニエスタ王国の王太子は我が国の皇太子殿下と違って小さいのう 」


 赤のローブの爺達は口々に論ずる。



 呆然としている王女の手の甲にキスをしているジジイは、頬を赤らめながらまだチューっとキスをしている。


「 ちょっと止めなさいよ! 気持ち悪いわね 」

 我に返った王女が手を引き、ハンカチでごしごしと拭いている。


「 うちの妃様と違って気が荒いのう 」

「 顔も……性格がそのまま出とる顔じゃ 」

「 これでは何処からも貰い手が付かんのは仕方無いのう 」


 図星を突かれた王女が真っ赤な顔でキイキイと怒っているが、爺達は論ずるのを止めない。


 爺達は何時もどんな時も100━0である。

 勿論、シルフィード帝国全てが100で他国の全ては0。


 船旅の間、王太子と王女は無理矢理乗って来た爺達に、常にケチョンケチョンに言われ続けて来たのだ。



 それにしても……

 会話を聞く限りは爺達と王太子と王女はかなり仲が良さそうだが……


 シルフィード帝国の長年の重鎮であった彼等なので、格下の国であるイニエスタ王国は、たとえ王であろうとも彼等を邪険には出来ない存在。


 実際にイニエスタ国王は爺達には手を焼いていた。

 今回、王太子と共に船に乗って帰国した事を心底喜んだのである。


 爺達は常にシルフィード帝国が100でその他は0。

 そんな愉快な爺達は、宰相ルーカスの期待どおりにシルフィード帝国とイニエスタ王国との関係改善に役だった……多分……いや絶対に……



「 公爵令嬢が妃って……まだ結婚もしていないのにおかしいわ! 」

 王女が、私だってまだアルベルト様の妃の候補だわと凄い剣幕で言う。


「 なーにを言っとるのか? この性格が顔に出てる王女は? 」

「 殿下はのう、常に妃様に発情をしとるのじゃ! 」

「 妃様を前にすると、もう猛り狂うて仕方なくなるのじゃよ 」


「 なっ!? 御仁達! 我が妹に向かってなんて事を言うのか! 」

 王太子がワナワナと震える。


「 王太子はまた怒っておるぞ! 」

「 こんな死にかけの老いぼれになんと言う小さい事を……」

「 だからあれも小さいのじゃ!その点うちの殿下は……… 」



「 お前達! 止めないか!! 」

「 御意! 」

 呆れ顔のアルベルトだが、赤のローブの爺達は主君には従順だった。


 都合が悪くなると死にかけの老いぼれとなり、悪口が天下一品の爺達は常に100━0である。





 ***





 アルベルトは王太子から事情を聞く。


「 妹は皇太子殿下にお会いしたくて、我々に同行して参りました 」

 王太子は正直にアルベルトに伝えた。


「 ………兎に角、先ずは皇宮に移動しましよう 」

 ここでする話では無いと思い、アルベルトは王太子夫婦に馬車に乗るように促した。


 面倒なことになったと、フーッと1つ溜め息を付く。



「 アルベルト様……エスコートをしてくださいませんの? 」

 馬車に乗る王太子妃に王太子が手を添えているのを見ながら、王女はアルベルトに馬車に乗せてくれとせがむ。


 仕方なく王女に手を添え馬車に乗せたのは………


 赤のローブの爺だった。


「 ワタクシはアルベルト様に言ったのよ! 」

 キイキイと騒ぐ王女を、赤のローブの爺達は無理矢理王太子夫婦の乗る馬車に押し込んだ。


 アルベルトは赤のローブの10人の爺達に囲まれている。


「 キイキイ煩い姫じゃな 」

「 ほんに、うちの妃様とは大違いじゃ 」

「 殿下も王女では猛らないとハッキリ申すべきじゃ! 」


 爺達のエロさは健在だった。




「 殿下! 改めて帰国のご挨拶を申しあげます 」

 そう言って爺達はアルベルトに片膝を付き、頭を垂れる。


「 長きに渡る視察の旅ご苦労だったな。 お前達の無事の帰国が何より嬉しいぞ 」

「 有り難きお言葉、身に余る光栄にございます 」


 爺達は顔色も良く丸々と太っていた。

 後に……

 イニエスタ王国から目玉が飛び出る程の多額の請求書が、アルベルト宛に届く事になるだろう。


 爺達には皇都まで行く辻馬車を2台手配する。

 港から皇都までは辻馬車があるので、お金さえ払えば何処にでも走らせてくれるのである。




「 今から王太子両殿下を護衛し、皇宮に向けて出立する! 」

「 御意! 」


 赤いマントを翻して青い騎士服を着用した白馬に乗ったアルベルトは、馬車と護衛騎士達を引き連れて皇宮まで走り出す。


 王女は馬車の窓から凛々しいアルベルトを眺めた。


 白馬に乗った私の皇子様……

 やっぱりアルベルト様は誰よりも素敵。

 貴方に相応しいのはワタクシよ。

 そして………

 ワタクシに相応しいのは貴方。



 沿道から歓声が上がり馬車は港街から皇都へ続く道をカラカラと進む。


 アルベルトが騎乗し先頭を駆けているので、グレイ達も沿道の人々を統率するのにかなりの神経を使う。

 皇宮騎士団の第1部隊の1班はアルベルトの周りを駆け、第2班は王太子夫婦と王女の乗った馬車の横を駆ける。


 声を張り上げ統率しながら駆ける彼等の連携は見事なものであった。



 いよいよ皇都の街に入る。

 人混みが更に増えて危険度がかなり増す。

 アルベルトの手綱捌きもかなりのものである。


 その瞬間……

 アルベルトは近付いて来た乗り合い馬車の停留場に、惹き付けられる様な感じがして目をやった。


 そこにいるのレティ。

 沢山の人垣の中にいるにも関わらず、アルベルトにはレティがハッキリと分かった。


 こちらを見てニコニコしながら手を振っている。

 可愛い……


 ああ……確か彼女の店がこの近くにあったな。



 アルベルトは手を口にチュッとやり、レティに投げキスをしながら彼女の横を通り過ぎた。

 すると歓声が更に大きくなり、キャアキャアと黄色い声も聞こえてくる。


 横で今の投げキスは私に向けてしたわ……と女性達が争い出した。

「 私と目があったんだから私によ! 」

 違うわ、目が合ったのは私だと更に揉めている。


 マーサが小さい声で

「 何で自分に向かってとか思うんですかね?図々しい! 」

 ここにお嬢様がいるからに決まってるでしょ!……と、声を大にして言いたいわと腹を立てている。


 レティは……

 悪い皇子様ねとクスクスと笑う。




 格好良い……


 赤いマントを翻して、駆けて行くアルベルトの後ろ姿を目で追いながら……ふと通り過ぎる馬車を見る。


 馬車の窓からは、王女が身を乗り出すようにして先頭を駆けるアルベルトを見ていた。

 先程の黄色い歓声が気になったのか……





 王女………



 来た。



 やっぱり来たんだ。



 レティはこの建国祭に王女が来る事を知っている。

 この建国祭の1年後に、アルベルト皇太子殿下とアリアドネ王女は婚約を発表するのだ。



 しかし今は私がアルベルト皇太子殿下の婚約者。

 知ってる未来の筈なのに……

 どうなるか分からない未来に……心が震えた。








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― 新着の感想 ―
[良い点] さすが、ジジイ達は良い仕事しますね。 [気になる点] この勘違い王女様は、王族版ジルにしか見えない。 必死なのは分かるけど、自分の気持ちだけ押し付けてがっつく女性は美しくないです。 [一…
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