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そして歯車は動き出す

 



 毎年10月にある建国祭。

 シルフィード帝国で1番大きな皇室行事で、帝国全体でお祝いするのは勿論だが、交流のある国々に招待状を出してシルフィード帝国の建国を祝って貰うお祭りだ。



 大国シルフィード帝国。

 かつては近隣諸国は全て帝国のものであった。


 まだ世界が戦争に明け暮れていた頃。

 国に攻め入り勝利すれば、その王家、重臣達の一族諸共処刑にし、国と国民を自分のものにする事が主流だったが、シルフィード王は違った。


 王家を存在させ、シルフィード王国の属国に置いた。

 属国は同盟国としてシルフィード王国と共に他の強国と戦い、次々に手中に治め巨大帝国を築いたのである。



 戦いの日々に終わりを告げる時代になると、属国は独立をさせたが同盟国としての関係は今でも続いている。


 そして……

 近隣の小国は今でもシルフィード帝国の属国である事を希望し続けており、シルフィード帝国と敵対する隣国タシアン王国の脅威から守って貰っている国もある。


 北のミレニアム公国や南のルノール国、ザンガ国がそうである。




 昨年は皇太子殿下と公爵令嬢の婚約式も兼ねての建国祭だったが、今年は例年通りの規模……の筈だったが……


 アルベルト皇太子が、帝国の被害が無いままにドラゴンを討伐すると言う驚異的な出来事が世界各国に知れ渡り、今年は例年に無く世界各国から要人が来国する事になった。



 建国祭は外交の場でもある。

 皇帝陛下や大臣達が行う会談では、国の国益を掛けて数々の駆け引きや取引が水面下で行われる。


 今回からはアルベルトも外交に加わる事になり、他国との会談が予定されている。


 若き皇太子の外交デビューに大臣達から期待を寄せられ、帝国の最強の雷の魔力使いアルベルト皇太子の名は、外交デビューするには最高の舞台であった。





 ***





  建国祭が近付くとロイヤルブルーの帝国旗があちこちに掲げられ、街は花で色とりどりに飾られた。


 今年は皇太子殿下がドラゴンを討伐した事を記念して、ディオール領地の海辺の街の象徴である色とりどりのリボンの吹き流しが設置され、そのリボンの吹き流しの彩りが建国祭を一層華やかにした。



「 うわ~ディオールの街みたい 」

 今回はドラゴン騒ぎで街をあまり楽しめなかったが、また何時か行きたいわ。


 結局あのドラゴンは何処で発生し、何故シルフィード帝国までやって来たのかは分からずじまい。

 他国も被害が出ていない事から、何処かの無人島で発生し、たまたま帝国にやって来たのだと言う大方の意見に着地した。



 建国祭の3日間は祝日となるが、その3日間だけで無く、1週間位前から続々と皇都に集まる人が増えて来ていた。

 見慣れた皇都の街を歩けば浮かれた人々が酒を飲み、皇帝陛下万歳と歌を歌うのであった。



 皇太子殿下の婚約者としてのレティの役割は、この祝日の3日間に毎夜ある夜会に出席する事。


 昨年の建国祭の一連の行事の後で、アルベルトとレティの婚約式が行われた事もあり、昨年は舞踏会に参加しただけのレティであったが、今回は婚約者として全ての夜会をアルベルトに同伴する事になっていた。



 初日は貴賓達との晩餐会。

 2日目は貴賓達と政府の主要関係者の舞踏会。

 3日目は建国祭の後に行われる、貴賓達とシルフィード帝国の貴族達も出席する大舞踏会である。



 用意したのは3着のドレス。

 1日目の晩餐会はサーモンピンクと白の色合いのドレス。

 2日目の貴賓達との舞踏会は真紅と黒。

 3日目の大舞踏会はロイヤルブルー。

 そして、その全てをアルベルトの夜会服と色を合わせた。




 この日は建国祭の5日前。

 レティは出来上がった舞踏会用のロイヤルブルーのドレスを取りに行く。

 母の分も合わせて。

 貴族の家なら邸宅にまで届けて貰うのが普通だが、自分の店なので自分で取りに行くしかない。


 勿論、店の店長や従業員達にも『パティオ』のオーナーが皇太子殿下の婚約である公爵令嬢である事は伏せてある。


 レディ、リティーシャ若干20歳はミステリアスな若きデザイナーとしてモード界に浸透していた。



「 奥さま嬉しそうでございましたね 」

 お供のマーサが乗り合い馬車から街の賑わいを目で追いながら楽しそうに話す。


 昨日はローズの誕生日だったが、お祝いの席にはルーカスはいなかった。

 だけど……

 遅く帰宅したルーカスからネックレスをプレゼントされたと、ローズは朝からご機嫌だった。

 子供達を初め家人達から誕生日を祝って貰っても、昨夜は何気に寂しそうだったが。



 お父様もなかなかやるわね。


 建国祭を取り仕切る宰相ルーカスの毎日は死ぬ程忙しい筈だが、どんなに忙しくても妻への愛を怠らない彼は、ラウルもレティも呆れる程の愛妻家である。




 乗り合い馬車は店の直ぐ近くで止まるので、移動が本当に楽になった。

 店に到着すると直ぐ様ドレスの最終チェックを開始する。


 ドキドキして仕上がりのチェックを待つのはお針子さん達。

 自分がデザインした通りに出来ているのかをチェックする事がレディ、リティーシャの仕事である。


「 うん!良く出来ているわ 」

 急なオーダーに良く頑張ってくれたわ……と、ボーナスを弾むわねと言えば、彼女達は手を叩いてワッと喜んだ。




 店の仕事を終え、丁度乗り合い馬車が停留場にやって来る時間である。


 レティは、ドレスの入ったトランクを持ったマーサと共に、停留場で乗り合い馬車の到着を待つ事にした。


 馬車の停留場には屋根がありその下にはベンチが置いてある。

 利用する全ての皇都民が、乗り合い馬車を導入してくれた皇太子殿下に感謝するのだった。





 ***





 アルベルトはこの日、要人を出迎える為に白馬に騎乗し港に向かった。


 早い国で建国祭の1週間前から来国して来る国もある。


 招待した国の大臣や大使が来国する際はこちらも大臣か大使が出迎えに行くが、王族が来国する場合はそうはいかない。

 皇子であるアルベルトが空の馬車と皇宮騎士団第1部隊と共に、港まで出迎えに行く。



 この日は建国祭の5日前。

 王太子と王太子妃を乗せた船が港に到着する予定であった。


 国の王太子夫婦が動くとなると、自国から大臣や大使達も同行し、勿論護衛達もやって来るのでかなりの大所帯になる。

 港から皇宮までの道のりが整備され、帝国あげての歓迎をする事になる。


 その指揮を取るのが皇太子であるアルベルトだ。

 騎士団を引き連れ白馬に乗り駆けて行く皇太子殿下を、一目見ようと沿道には沢山の人々が集まった。



 アルベルトが港に到着すると丁度船が着岸した所だった。


 荷物が先にどんどん下ろされ荷物専用の馬車に運ばれる。

 甲板に、連れて来た侍女や騎士達が並び、護衛騎士に続き、王太子殿下と妃殿下が手を取り合いタラップを下りて来た。



「 この度は我が国の建国祭にお出でくださり有り難うございます 」


 年上の王太子と言えども立場はアルベルト皇太子の方が格上である。


「 ご招待して頂き恐悦至極に存じます。皇太子殿下におきましてはこの度のドラゴン討伐、誠に感嘆の極みでございます 」

 王太子はアルベルトから差し出された手と握手を交わした。


 続いてカーテシーをして挨拶をする妃殿下が頬を赤らめているのは、アルベルトを見たのは初めてだから。

 シルフィード帝国の皇太子は他国の王太子妃まで虜にする皇子なのである。



 挨拶をし終わると2人の後ろから1人の女性が現れた。




「 ご機嫌ようアルベルト様 」


 声の主はイニエスタ王国のアリアドネ王女。

 彼女は、驚くアルベルトに右手の甲を差し出した。



「 あら?………キスをして下さいませんの? 」








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[一言] またこの手のパターンかー
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