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見えない絆

 



 薄い!

 やけに薄く感じるのは旅でずっとあの4人を見ていたからか……


「 やあ! 俺がいない日々は寂しく無かった? 」

「 別に……ホホホ…… 」

 相変わらずの阿呆め!



 学園が始まり、何時もの日常が始まった。

 商人であり、医師で騎士で薬師でもあるレティも、本分はまだ学生である。


 レティの前にいるのはウィリアム王子。

 長期休暇中は母国に帰国していたらしく、顔が薄いのは相変わらずだがややポッチャリしていた。


「 それでどうやってドラゴンなんかを退治したの? 」

「 さあ、……何となく……ホホホ…… 」

 阿呆め!

 あんたも王子なんだから既に聞いているだろうが!



「 まあ、それはさておき、君が悲しむ話があるんだよ 」

 王子は言いにくそうな顔をした。


「 俺の婚約者が決まりそうなんだ 」


 この長期休暇はその為に帰国していたと言う。

 正式に決まれば、来年の春に婚約をして学園を卒業と同時に結婚式を上げるらしい。


「 おめでとうございます 」

 やはり王族の結婚は早い。

 お相手は自国の侯爵令嬢で歳は王子よりは2歳年上。


「 まだ正式に決まった訳では無いんだけどね 」

 王子は政略結婚だと言っているが、それでも嬉しそうに婚約者候補の令嬢の事を話してくれる。


 令嬢は大人しく控えめで、趣味は刺繍で、休暇中には親交を深める為に2人でお茶をご一緒したり、オペラデートを楽しんだらしい。


「 まあ、顔は君程美しくは無いが、性格は君とは正反対の淑女だ 」

「 まあ!! それは聞き捨てならないわね! わたくしも立派な淑女でございますわよ! 刺繍は苦手ですが弓矢は得意ですわ 」

 王子に向かって凄むと、私達を囲んで話を聞いていたクラスメート達からはクスクスと笑われる。


「 リティエラ君は元気が取り柄の淑女ですよ 」

 隣にいたケイン君も笑っている。


 ふむ……

 これは誉め言葉か?

 まあ良いわ……

 皆といると楽しいから。



 虎の穴や皇宮病院など、大人の世界にいる事が多いレティなのだが、学園に来て同級生の友達の顔を見るとやはり本来の自分のいるべき場所にホッとする。


 精神年齢は20歳だが、身体はまだ17歳の少女なのである。

 それに、ループして来た当初は20歳の自分と14歳の自分とのギャップに戸惑う事もあったが、17歳になった今ではそのギャップは無くなりすっかり同化していた。



 早速、ユリベラとマリアンヌと久し振りの学園帰りの寄り道を計画する。

 レティにとってはお妃教育より、友達とスイーツを食べに行く事が何よりも大切な事だった。




 ウィリアム王子は、1ヶ月後に迫ったシルフィード帝国の建国祭に出席した後に帰国するらしい。


 ローランド国は王子にとっては祖父である王が君臨している為に、ウィリアム王子の父君が王太子である。


 今までは王太子と王太子妃が建国祭に出席をしていたが、今回王子として初めて名代を務める事になったらしい。


 婚約に名代。

 長期休暇中にぽっちゃりとした事もあり、見掛けは子供っぽく見えるウィリアム王子も心なしか立派に見えた。






 ***





「 そうか……もう学園が始まったんだな 」

 街には制服姿の学生達がうろうろしていた。


 ラウル達よりも一足早く大人の世界に入ったアルベルトは、毎日を公務に追われていた。

 外出が多くなった事で皇太子殿下専用馬車では無く、最近は普通のお忍び用の馬車を使っている。


 皇太子殿下専用馬車で行くと人々が寄ってくる事から、道の整理に騎士団を同行させなければならなくなるが、この馬車ならクラウドも同乗出来るし、護衛も元騎士団にいたクラウド1人で十分な事から、外出するのもさっと行ってさっと帰って来れるのだった。



 カラカラと繁華街をゆっくり走る馬車の窓からレティが見えた。


「 あっ!? レティ?………… 止まれ! 」


 アルベルトの声で馬車は静かに止まる。


「 きっとウィリアム王子もいますね 」

 アルベルトの前に書類を束ねて座っているクラウドが、ウィリアム王子の護衛騎士が店の外で待機しているのを見付けた。



 本当に……

 店の中にいるリティエラ様を見付けるなんて……

 これは神業に近いぞとクラウドは呆れ顔だ。


 レティと女生徒が2人と……

 王子と取り巻き達2人とケインが一緒にいた。


 騎士クラブにいるケインにはアルベルトが直々にレティの護衛をする様に頼んだのである。

 レティが学園で嫌がらせを受けていたと聞いてから、学園でのレティの警護をする様にと。


 レティへの護衛騎士は彼女が学園の休みの時だけに付けている。

 勿論、レティには内緒なんだが……


「 ケインが立派に護衛の務めを果たしている様ですね 」

 クラウドはケインにバイト料を出すべきかと思案している。



 店から出てきた7人はお腹を抱えて笑っている。

 レティを見れば涙を拭いながら笑っているのだ。


 何がそんなに可笑しいのか……

 本当に君のいる場所は何時も楽しそうだ。


「 殿下、リティエラ様をお呼び致しましょうか? 」

「 いや……良い 」



 アルベルトがじっとレティを見つめていると……

 レティがこっちを見て動きが止まった。

 すると胸の所で小さな手をヒラヒラと振る。


 ああ……気付いてくれた。



「 えっ!? リティエラ様は殿下に手を振ってるのですか? この馬車は殿下の専用馬車では無いのに? 」


 そうなのである。

 皇太子殿下専用馬車なら乗っているのは殿下だと特定できるが、この馬車はそうでは無い。


 ましてや馬車から明るい外は見えるけれども、外から馬車の中までは見えないので誰が乗ってるかなんて分からない筈である。


 しかし……馬車にいるのが殿下だと分かっているなら……

 これも神業に近いぞとクラウドは感心する。



 目に見えない絆。

 そう言えば以前に護衛騎士達が、2人はよく遭遇すると言っていたな……


 手を振るレティを窓から嬉しそうに見つめるアルベルトを見ながら、クラウドは2人には特別な何かを感じるのであった。





 ***





 レティがユリベラとマリアンヌと学園帰りに、何時ものスイーツ店に行くと聞いたウィリアム王子達も、皇都の街に行きたいと言い出して一緒に行く事になった。


 ケインはアルベルトがお願いしたレティの秘密の護衛だから、王子が一緒に行くとなったら彼も同行した。


 彼が王子達から何気にレティを守っているのは、やはり留学先で王子の友人達が彼女にバケツの水を掛けた事が尾を引いているのだろう。



 雑貨店に入ると、姿絵コーナーの壁一面は皇子様の姿絵だらけであった。

 今の主流は軍事式典での姿絵。


 こ………これは……

 軍事式典の時の聖剣に魔力を込め、手を伸ばして放出している時の姿絵。

 あの式典には絵師もいたのだろう。

 かなり正確に画いている。

 格好いい……

 買いです。


 そして……

 私が馬に乗り弓矢を射る姿絵。

 愛馬のショコラが可愛く画けている事が気に入った。

 買いです。


 そしてお母様にもお土産を……

 母は最近オペラ俳優に夢中である。

 確かに……

 格好いいけどアルと比べたら鼻くそみたいだわ。


 殿下の姿絵をこっそりと忍ばせてお金を払っていると、皆がニヤニヤしている。

 良いでしょ。

 格好いいんだから……



 このオペラ俳優の姿絵はユリベラとマリアンヌも買っていた。

「 この俳優は人気なの? 」

「 えっ!? 姿絵を買ってらしたからリティエラ様もファンかと思ってましたわ 」

「 いえ……母がファンみたいなので母へのお土産にと…… 」

「 まあ、そうでしたの…… 」 


 2人から話を聞くと最近デビューした新人俳優で、女性達からはかなり人気があるらしい。

 ユリベラもマリアンヌも観劇に行って、直ぐにファンになったとか………

 まあ、オペラ観劇が苦手な私には関係無いんだけどね。




 そして……

 軍事式典にはウィリアム王子もいたので、椅子に座っている王子様が画かれていた。


 王子の顔は何故か眉毛ボーンのお目々パッチリのまつ毛バチバチの稀有な顔だった。


「 おっ!良く画けているじゃないか! 」


 一同はブーっと吹いた。

 王子は自分をあの顔だと思っていたのか……

 皆が王子とその姿絵を比べて爆笑した。



 店を出る。


 何処からか視線を感じる………

 アル?

 あの止まってる馬車?


 あら?今日は皇太子殿下専用馬車では無いんだわ。



「 お仕事頑張ってね 」

 レティはアルベルトの乗った馬車に小さく手を振る。

 そして、動き出した馬車が見えなくなるまで見送った。



 何故あの馬車の中にアルベルトがいると思ったのかは説明のしようが無い。


 だけど……

 いると感じたのだから仕方ない。


 そしてそれは間違いでは無かった事は事実なのだから。









読んで頂き有り難うございます。

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