殿下、ご自重を
それ程までに彼女に会いたかったのだろう。
殿下の一途な思いに胸が痛くなった。
一昼夜馬で駆けてウォリウォール領地の館まで着いた。
館に付いて
馬に水を飲ませようと川に近付くと
執事のセバスチャンがいた。
殿下が来た理由を説明すると
お嬢様が川におられるから後はお願いします、と言って慌てて屋敷の中に駆け込んで言った。
川に?
まだ夜明け前なのに川で何をしてるんだろうか?
殿下は先に川に行った様だ。
近付くと………
マジか…………
令嬢は魚釣りをしていた。
令嬢が魚釣り…………
驚愕した。
そう言えば
500点満点の試験で600点を取るような規格外の少女だと殿下が言っていたな………
クックッと笑う
確かに
想像以上に美しい女性だった。
まだあどけなさが残る顔透明感のある少女だ。
でも、雰囲気は落ち着いていて高位貴族の気品を携えていた。
暫くみてると
魚が釣れた様だ。
「 殿下の下手くそーっ! 」
「 逃げられちゃったじゃない! 」
「 ご………ご免 」
おっ………
驚いた。
殿下を怒鳴り付けた……………
この国の皇太子殿下を怒鳴り付ける令嬢がいるとは…………
殿下の周りの令嬢と言えば
着飾ってシナを作り、上目遣いで自分をアピールしたり、
或いは何故かお高くとまっている様な令嬢達ばかりである様に思う。
それよりも
殿下の彼女を見る目が、熱く、甘く、蕩けていた。
こんな顔をする殿下は初めてだった。
これはもう、完全に彼女に惚れきっているではないか………
お相手としても
最高の身分の令嬢だ。
何の障害もない。
そう思っていたら
ラウル様と母君が現れて
リティエラ嬢が母君に抱き付き泣いていた。
話を聞くと
ここに来てから食事も取れず、夜も寝れない程に
何かを思い悩んでいる様子だと聞かされた。
でも
まだ、15歳の少女で
何不自由の無い令嬢が、それ程までに思い悩むのは………
まさか………原因は殿下?
「 まさか、殿下が何かしたのですか? 」
………と聞いたら
「 何にもするわけが無いじゃないか!ラウルと同じ事を聞くな! 」
殿下は眉を潜め、どいつもこいつもと呟いていた。
「 まだ何もしてないよ 」
「 まだ? 」
…………後から何かするつもりなのか?
「 殿下はリティエラ嬢を好きですか? 」
「 ああ、好きだよ 」
「 殿下、ご自重を 」
「 ……………… 」
「 宰相がこれ程までに大切に大切に、溺愛されているご令嬢ですぞ 」
「 宰相の思いを尊重して、彼女が成人するまではご自重するべきです 」
「 分かっているよ!むしろ俺は彼女に近付くハイエナ共から彼女を護ってるんだ!ルーカスには感謝して貰いたいね 」
殿下の彼女へ送る熱っぽい甘い視線を想像したら
いや、ハイエナはどう考えてもお前だろうが!
………と言いたかったが、かろうじて飲み込んだ。
私は皇太子殿下の側近の優秀な秘書官兼護衛官だ。
そんな話をしながら
2度目の視察から戻って来たら
彼女が目覚めたと侍女が報告して来た。
ふと見ると
彼女の部屋に押し掛けた殿下とラウルが
うるさい、早く出て行けと怒鳴り付けられ、部屋から叩き出されていた。
もう、可笑しくて腹を抱えて笑った。
彼女は最強だ!




