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閑話─プレミア級の姿絵

 



 まだ写真が存在しない時代には絵師はかなり貴重な存在であった。

 勿論似顔絵を書く事が彼等の仕事である。



 貴族には家族の姿絵を出す事が義務付けられていて、子供は16歳の成人になると姿絵を皇宮に提出しなければならない。


 これは貴族を把握し監視する事が目的であり、貴族名鑑とし皇宮で厳重に管理され保管されている。

 政略結婚の多い貴族では、お相手の顔を知る為にこの姿絵を利用する事は可能であった。



 絵師には、目の前に本人を座らせて書く仕事と、人伝に聞いたり、見たままに動きのある姿をさらさらと書く仕事がある。


 因みに、レティが大事に持っている皇太子殿下の白馬に乗った姿絵は、さらさらと書いた方の絵だ。



 世間には舞台俳優の絵も出回ってはいるが、なんと言っても1番人気は皇子様の姿絵。


 アルベルトの姿絵が皇室から正式に出されたのは、やはり他の貴族と同じ16歳の成人になってから。


 まだ自衛の出来ない子供の頃には、誘拐や殺害を警戒して姿絵を出す事はしなかった。

 同じ歳のラウル達が皇宮で皇子の側にいたのも、皇子がどの子なのかを瞬時に分からない様にする為でもあった。



 その皇室から出された姿絵に地方の女性達は熱狂した。

 噂には聞いていたが、我が国の皇子がこれ程までの美丈夫だったとは……


 皇族が平民と会う機会は極端に少ない。

 式典の時にバルコニーに立つ時か、視察に行く時に限られている。


 バルコニーに立つ時はそこに出向いたとしても、既に皇都民で溢れ返っているので、遠くから豆粒を見る位しか出来ない。


 だから地方では特に皇子様の姿絵は人気があった。

 結構お高い物ではあったが、この姿絵欲しさに一生懸命お金を貯めるのが平民達の楽しみなのである。



 その中でも爆発的に人気の絵がある。

 それは……

 婚約式での2人のキスシーンの姿絵。



 レティの姿絵は彼女がまだ学生である事から、まだ皇室からは正式には出されてはいない。

 なので皇太子殿下の婚約者の顔は、人伝に聞いて書くしか手は無かった。

 だからあの目と目と間が離れたデタラメな姿絵が出回ってしまったのだが……(←勿論本人のせい)


 それ故にレティの顔は今一本人とは違っている事は仕方の無い事である。




 あの婚約式の場に絵師はいなかったので、人伝に聞いた事で絵にした物だが、帝国史上最も美しいキスシーンと語り続けられる程の2人を書いた姿絵。


 シルフィード帝国には印刷技術は既にあったので、書いた絵を印刷する事は出来るが、それでも大量に印刷出来る筈もなく、今では予約しての順番待ちである程だった。


 勿論、絵師が直接書いた現物の絵はプレミアが付き、貴族達でも中々手に入らない代物になっていた。




 ポンコツ旅の1番初めの宿泊で野宿をした時の話。


 レティが民家にトイレを借りに行って、仲良くなった奥さんの部屋には、皇子様の姿絵が大切に飾られてあった。


 この奥さんの趣味は皇子様の姿絵を集める事。

 内職を一生懸命して貯めたお金で、皇子様の姿絵を皇都まで買いに行く事が奥さんの何よりの楽しみであった。


 今1番欲しいのは勿論あの婚約式での皇子様と公爵令嬢のラブシーンの姿絵で、これはなんとしても手に入れたい一品。



 皇子様の姿絵を毎日眺めていても、実物とはやはり違うので(実物はオーラが凄いので印象が違う)見た事があると思っていても、このアルベルトが皇子様だと気付く事は無かった。

 大体、本物の2人がこの家に来るなんて事は夢にも思わない事なのだから。



 そして……

 台所で料理をしている2人を見に行ったら……


 なんと2人はキスをしていた。


 料理をしている彼女を後ろから抱きしめキスをしているのである。

 窓から入る朝日の光に包まれたラブシーンはドキドキする程のそれはそれは美しいものであった。



 あらあらまあまあ……お熱いこと。

 若いって良いわねぇ……

 確か婚約中だと言っていたわね。

 ここはそっとしときましょ……と、手を口に当てて奥さんはそっと台所を後にした。



 皇子様と公爵令嬢のプレミア級の生ラブシーンを見た奥さんは……

 婚約式のラブシーンの姿絵を手に入れる為に、今日もせっせと内職に励むのだった。







本日は2話更新予定です。


読んで頂き有り難うございます。

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