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渾身の一撃



少しグロテスクでエグイ表現があります。

注意して下さい。

 



 シルフィード帝国はもうずっと平和の御代が続いていた。

 皇帝、皇太子自らが戦いに出る事なんかはここ何代も無い事であった。


 国境でのいざこざは多々あったが、ここで皇帝や皇太子が出陣すればそれこそ戦争になってしまう事から、大臣達が話し合いで上手く終息させて来た。


 そして、たまに出現する魔獣は皆小物ばかりで、各地に配備されてる騎士や私兵達の対応で十分であった。


 まさか……

 まさかこんなメガトン級の魔獣が海を渡って来るとは誰もが思ってもみない事だった。



 レティは思う。

 記憶を辿れば、ドラゴンの襲撃なんか3度のどの人生においても無い出来事であった。

 あればそれこそ記憶にある筈である。



 更にレティは考える。

 これは前哨戦?

 ガーゴイルと戦う時に備えての前哨戦かも知れないと思うのであった。


 知識と経験があると言う事は戦いにおいては何よりも有利なもの。

 無知な状態で戦いに及んだ3度目の人生とは明らかに違うだろう。


 それにしてはいきなり凄い物と遭遇したわ。……と、彼女はほくそ笑むのである。



 そんな事を考えていたら後ろにいるアルベルトに、顎を彼の方に向けられキスをされていたのである。


「 ………!? ☆*※×# 」




 ***





 キス!?


 殿下を見れば馬の上でリティエラ様とキスをしていた。


 マジか……

 世にも恐ろしい魔獣が迫って来ているこんな時に、我等の皇子様は婚約者様とイチャイチャしてる。


 さっきまでの勇敢な顔付きの殿下は何処へ行ったのか。

 彼女を見つめる目も言葉も限り無く甘い。


「 よし! 今のキスで魔力が高まった 」

「 そんなのぜーーったいに嘘ね 」

 クスクスと笑い合う2人。



 もしもし?

 ドラゴンが雄叫びを上げながらこっちに向かって来てるんですけど。


 呆気に取られるも……

 騎士達は恐怖感が無くなり、身体の震えが嘘の様に消えていた。

 身体に熱い気力がみなぎって来る。

 何だか分からないが負ける気がしなくなった!




 レティは弓を持ち矢を射る構えをする。

 シュッと矢が射られ飛んで行く。

 すかさずアルベルトの剣から稲妻が放出された。


 矢が黄金色に輝きどんどん飛距離を伸ばして行き、その威力もそのままに、翼を広げたドラゴンの胸にズバーンといきなり命中した。


「ギグギァァァァ」

 叫び声を上げたドラゴンが一瞬黄金に輝き……海に落ちた。

 ザバーン!!!

 もの凄い音と波飛沫が上がる。


 たった1本命中しただけで凄い効果だ。

 飛行系の魔獣には弓矢が効果的であるのだ。



 わぁーーーっ!!!

 大歓声が後ろの陣から起こる。

 高台のディオールの邸宅の方から見ている領皆達からも凄い歓声が聞こえてくる。



「 アル。凄いわ!」

「 ちょっと魔力を込め過ぎたかな? 」

 まだ、魔力の使い方がしっくり来ないなと、アルベルトは剣を見ながら首を傾げる。



 やった!やった………

 さあ!ドラゴンどうする?

 皆が固唾を呑んで海面を見つめた。



 すると次の瞬間ザバっとドラゴンが海から飛び上がった。


 人々がギャーーっと悲鳴を上げる。

「 出てきたぞーーっ!! 」


「 グキャアアアアア 」

 叫び声を上げながらドラゴンは一気に飛ぶスピードを上げた。



「 次は額を狙うわ! 」

「 オーケー 」

 シュッ!!

 黄金色に光る矢がドラゴンの額に命中する。


「 ンギグャァァァァアア 」

 額から青い血が吹き出し金色に輝いたドラゴンの羽ばたきが止まり、その大きい巨体が再び海に落ちた。


 後ろにいる騎士達から、邸宅から見ている領民達から、また歓声が上がる。



「 また命中した! もしかしてアルが方向をコントロールしてる? 」

「 君の腕が良いんだよ 」

 レティは後ろにいるアルベルトに顔を向けた。

 見合った2人はチュッと唇にキスをする。



 ザバーン!!!

 暫くして再び海から姿を表したドラゴンは、見る限りではボロボロになりヨロヨロとしている。



「 効いてる効いてる……アルの雷で弱ってるわ 」

「 額を狙ったのは良かったかも 」

 アルベルトはレティの頭にチュッチュッとキスをする。


「 もう一本いきますか……女神様 」

「 女神じゃ無いわ! アーチャーよ! 」

「 アーチャーじゃ無いよ。僕の大好きな婚約者だよ 」

 クスクスと笑い合いながらレティは弓を射る構えをする。



 いや……

 俺達は何を見せられているのか?

 緊張感の無い2人のイチャイチャが………尊い。



 シュッ!!!

 バスン!!………と、黄金色に輝く光の矢が次々とドラゴンに命中して行く。

 2人が放つ光の矢は百発百中だった。


「 ギャアアアアア 」

 海に落ちてはまた飛び上がりを繰り返すドラゴンは、怒り狂いながら雄叫びを上げて至近距離まで飛んで来た。



 やはりデカい……翼を広げたドラゴンのあまりにもの大きさに怯みそうになるのは仕方が無い。

 逃げ出したい気持ちと格闘しながら騎士達は踏ん張っている。



「 グレイ! 次の矢が刺さったらお前の出番だ!! 」

「 御意 」


「 サンデイ、ジャクソン、ケチャップ、ロン! お前達も心してかかれ!! 」

「 御意 」


 主君の清んだ迷い無き声が、家臣達の気持ちを奮い立たせ心を1つにする。


 皆が剣を持つ手をギュッと握り締める。



「 引いて……まだだ……」

 ドラゴンの羽ばたきに吹き飛ばされそうになりながら、レティは弓を引いて何時でも射れる事が出来る様に構える。


 吹き飛ばされそうな小さなレティの身体を支え、馬の手綱を握り、コントロールをしながらアルベルトはその瞬間を待つ。



「 レティ! 射て!! 」

 シュッ!!!


 剣にありったけの魔力を注ぐ。

 剣は黄金色に輝いた。

 そしてその剣を、今射られた矢に向ける。


 凄い光が矢に融合した。


 もう目の前にまで来ていたドラゴンの胸に命中し、バリバリバリと言う音と共に感電させた。

 動きが止まったドラゴンはそのまま穴を掘った砂浜に落ちる。

 その瞬間にドスーーンと凄い地響きが起きた。



 アルベルトは馬の手綱を引き、レティを乗せたままに一気に土手から砂浜に駆け下りる。


 それと同時に、グレイが木を蹴り飛び上がった。


 感電して痙攣を起こしているドラゴン。

 痙攣をしていても目だけはギョロリと動いているのには恐怖しかない。


 グレイは両手で剣を握り締めながら、ありったけの力を込め渾身の一撃でドラゴンの喉を斬り裂いた。


「 グキャアアアアア…………… 」


 ドラゴンの断末魔の叫び声と青い鮮血が辺りに吹き上がる。

 普通の生き物ならこの一太刀で間違いなく絶命している。


 続いてサンデイ、ジャクソン、ケチャップ、ロンが血飛沫を浴びながらドラゴンの首を斬り付けて行く。


 だけど………

 首は切り離せない。


 横たわったドラゴンの目はまだ少し動いているのが分かる。


 すると………

 繋がっている首からシュウシュウと不気味な音が鳴り、再生しようと筋肉や血管が伸びて来る。


 吹き出していた青い血は止まり、エネルギーが首に集中してるからか首から凄い熱を発している。


 見ればレティが今まで射った8本の矢は何処かへ行き、傷ももう無くなっていた。

 もの凄い再生能力である。



 早く首を斬り落とさなければ………


 ここで再生されたら一貫の終わりだ。

 焦る騎士達。

 グレイも他の騎士達も束になって何度も何度も首に斬り付けた。

 だけど再生力の方が勝っていて、どんどんと首が繋がって行く。


 早く

 早く………



 その時………


「 お前ら! 下がっていろ! 」


 見れば横たわっているドラゴンの身体の上にアルベルトが立っていた。


 手に持っている剣が黄金色に光っていく。

 アルベルトが剣に魔力を込めているのだ。


 そして……


 トンとドラゴンの身体を蹴り、高く高く飛び上がる。

 光輝く剣は更に輝きを増しドラゴンの首に振り下ろされた。


 ズザーン!!!


 凄まじい閃光が辺りを照らし………見事ドラゴンの首が落ちた。



 辺りは静寂に包まれる……

 次の瞬間にワッと大歓声が沸き上がる。


「 落ちたぞーっ!! 」

「 殿下がドラゴンの頭を落としたぞーーっ!! 」


「 我々の勝利だーーっ!! 」

「 エイエイオーーーッ!!! 」



 勝鬨を上げたその時……



 アルベルトの身体が崩れ落ちて行った。



「 殿下ーーっ!? 」

「 皇子ーーーっ!!」



 限界を越えて魔力を使い切ったのだ。


 何も考える事さえ出来ない程に身体にはもう何も残ってはいなかった。


 崩れ落ちていく瞬間にも思い浮かべるのは愛しい愛しい彼女の顔。



「 レティ……… 」








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― 新着の感想 ―
[良い点] アルとレティの矢でドラゴンがいきり立つシーンですが、ドラゴンになりきってるマウスが頭にちらついて、所々笑ってしまいました^^ ドラゴンに対峙するみなさんカッコよくて、とてもワクワクする回で…
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