表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
289/641

ドラゴン襲来

 



「 すげえな……アルは…… 」

「 俺なんか小便チビりそうになったぜ 」

「 …………… 」

「 エドは何泣いてんだよ!? 」

「 お前らこそ泣いてるだろうが…… 」

 3人は腕で溢れる涙をゴシゴシと拭いた。


 ラッパの音が鳴り響いてからはラウルとエドガーとレオナルドは蚊帳の外にいた。

 それは当然の事。

 彼等はまだ子供だった。


 楽しいだけのポンコツ旅の途中で突如起こった魔獣との戦い。

 サハルーン帝国の街を壊滅状態にしたドラゴンが……

 何万人もの人々を負傷させた生き物が……

 今、正に海を渡りシルフィード帝国に向かって飛んで来ているのだ。


 怖くて怖くて……

 震えが止まらなくて……

 彼等は立っている事がやっとであった。



 アルベルトはシルフィード帝国の皇太子殿下。

 普段は護衛騎士に守られているが、最高指揮官である彼は、開戦すれば誰よりも高い場所にいなければならない。

 そして……

 打って出る時には先陣を切って聖剣を振るう。


 己の決断には決して間違いがあってはならない。

 少しでも間違いがあれば騎士や兵士達が全滅する。

 そしてそれが帝国を滅ぼす事に繋がる。


 肩に乗った重い責任。

 彼はそんな重圧を生まれながらに背負った皇子なのである。


 そして……

 この瞬間、彼は騎士達の先頭に立ち手腕を発揮させる力が備わっていた。


 同じ時間を生きてきた自分達と、あまりにも違う場所にいるアルベルトに彼等は不覚にも涙が溢れたのだった。



「 あんた達……何ビービー泣いてるのよ? 」


 そして……

 この女。

 何故あんな場面で堂々とアルの横に立てるのか?


「 お前、本当に俺の妹か? 」

「 何言ってるのよ、同じ様な顔をしてるくせに 」


 それよりお兄様達に頼みがあるのと、この最悪の事態に笑顔さえ浮かべて何だかウキウキしているレティに、恐怖すら感じた兄達なのである。




 ***




 アルベルトはリンデンが用意した軍服に着替えていた。

 グレイを始め、サンデイ、ジャクソン、ケチャップ、ロンも騎士服を着て邸宅から外に出る。



 外には街や村から避難してきた人々で溢れかえっていた。

 本来ならば魔獣の襲撃には一塊にならない方が生き残れる可能性はあるが、彼等はそれを知らない。


 無知が人々を恐怖に突き落とす。

 遠くに見える魔獣に彼等の恐怖はいかばかりの物か……



 しかし……

 それは彼の姿を見た瞬間に勝利を願う事が出来た。


 騎乗し、騎士達を引き連れ人々の横を通り過ぎて行く我が国の皇子。

 何故ここに?

 皇都にいる筈の皇子が何故この場にいるのか?


 だけど彼は間違いなくアルベルト皇子。


 人々は歓喜した。

 彼がこの場にいる奇跡に手を合わせ泣き出す人もいる。

 物凄い声援と歓声が沸き上がる。

 希望を乗せて……




 ***




 海岸沿いに陣を敷く。

 今日は満潮である為に海水は海岸沿いの近くまで来ている。


 ドラゴンが真っ直ぐにこちらに向かって来るように、狼煙を上げ続ける。

 方向転換なんぞされたら目も当てられない。



 この戦いで一番重要で危険なのはグレイ。

 彼の剣の腕に掛かっているのだ。


 一太刀に威力を発揮する為に重力を利用しようと彼は側にある木の上に陣取る。

 落ちたドラゴンの上から斬りかかるのである。

 斬り付けるのは喉。


 2番手3番手以降は、やはり阿吽の呼吸で連携の取れる彼の部下達4人サンデイ、ジャクソン、ケチャップ、ロンが選ばれた。



 見ればドラゴンの姿形がどんどんと大きくなってくる。

 狼煙を目標にしているのか、ドラゴンは確実にこちらに向かって飛んで来ている。


 人間対人間の戦いでは無い得体の知れない恐怖を胸に、逃げ出しもせずそれでも任務を全うする騎士達が誇らしい。




 さて……俺の女神様は……

 そろそろ準備をしなければならない……のに…

 アルベルトはレティを探した。

 こんな時でも俺はレティを探しているぞ……と笑いが込み上げる。


 あっ!いた……ラウル達と何かを運んでいる。

 彼等は箱を何箱も運ばされている。

 ラウルが俺が見ている事に気付き、行けと手を上げた。


「 レティ! おいで 」

 俺が手を広げると慌てて駆けてくる。

 可愛い……


 乗せてと手を伸ばして来る彼女を馬の上に引き上げる。

 やはり堪らなく可愛い。


「 そのリュックは背負わなきゃ駄目なのか? 」

「 うん……これは必需品だからね 」



 軍事式典の時は、的中していた矢に魔力を融合させただけだが、今回は飛ばしてる矢に魔力を込めないとならない。


 練習は出来ない。

 何故ならここにある矢は僅か8本。

 1本も無駄に出来ないのである。

 2人でどのタイミングで魔力を融合させるのかを打ち合わせをする。



「 殿下! 殿下の魔力で感電させ、海に落とせばドラゴンだって窒息死するのでは? 」

 タリスが遠くドラゴンを見据えながら海を指差す。


「 それではドラゴンの血を採取出来ないわ! 」

 ドラゴンはここに落とすのよと、レティは砂浜の窪みを指を指す。

 先程騎士達が掘った穴だ。


 それでグレイ班長が致命傷を負わす。

「 ねっ? 」と木にいるグレイに手を振る。


「 ドラゴンの血より、グレイの命の危険の方が…… 」

「 ドラゴンの血は万能薬で、沢山の人の命を救えるのよ 」

「 しかし…… 」

「 大丈夫よ! グレイ班長の腕なら絶対に仕留められる! 」


 レティはグレイの剣に絶対的な信頼を持っている。

 グレイ班長は私の自慢の師匠なんだから。


 キラキラした目で見てくるレティに、グレイは破顔して大丈夫だと親指を立てる。



 アルベルトがレティの頭に唇を落とす。

 グレイはアルベルトが最も信頼している騎士である。

「 グレイなら絶対にやってのけるよ 」


 グレイは魔獣を斬った事は無い。

 先程までの手の震えが、レティとアルベルトの言葉で嘘の様に止まった。

 大丈夫!俺ならやれる。

 お2人の信頼を決して裏切りはしない。



「 今回は聖剣じゃ無いからあの時程の威力は出ないかも 」

 あの時とは軍事式典のデモンストレーションの時の事である。


「 聖剣と普通の剣とはやっぱり違う? 」

「 うん……何だろうな、上手く説明出来ないけど、聖剣は……少しの魔力で凄まじいパワーが出るんだよ 」

「 聖剣って凄いんだ 」

「 ただの式典用のお飾りかと思っていたんだけどね 」


 話してる内にどんどんとドラゴンの形が大きくなってくると、馬も恐怖を感じるのかさわさわしている。



『ドラゴンには赤、青、黒の種類があり、赤のドラゴンは火を吹き、どのドラゴンよりも狂暴である。』


 多分、サハルーン帝国で暴れたのは赤だ。

 赤なら血を諦め………海に沈めなければならない。


 どんどん近付いてくる。

 赤か………?



 黒だ!

 良かった黒のドラゴンだ。



「 今からドラゴンの討伐を行う! 我が家族、我が街、我が帝国を守る為に何としても狩らねばならない! 必ずやここでドラゴンの首を打ち取る! 」


「 おーーーっっ!!!! 」


 騎乗した皇太子が腕を高らかに突き上げると、騎士達は雄叫びを上げ、邸宅の方からも歓声が上がった。

 避難してきた領民達も高台にある邸宅の庭から固唾を呑んで見ているのである。

 心を1つに。




「 アル。 私が矢を射たら魔力をお願い 」

「 俺は何時でも準備オッケーだ 」


 アルベルトの稲妻はそれ程距離を出せない。

 レティの放つ矢も威力は無くやはり距離は出せない。

 しかし2つが融合すれば………



「ングァァァァオ」

 ドラゴンが口を開けて叫び声を上げた。

 その裂けた口、声の恐ろしさに人間だけじゃなく、馬も怯える。


 馬がブルブルと鼻を鳴らし後ろに下がるのを、アルベルトが手綱を引き宥める。

 アルベルトは馬の扱いも抜群に上手い。


 皆も恐怖に戦く。

 怖い。

 怖い。

 怖い。

 本当にこんな奴を我々が倒せるのか?

 逃げ出したい。

 逃げ出したい。



 すがる思いで殿下を見たら……


 馬の上で2人は……

 キスをした。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 流石のこの2人! 色んなことを裏切りつつ期待を裏切らない! 嗚呼待たるるかな、以下次号!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ