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彼女の初恋の人

 



「 あら! 私の初恋はレオナルドじゃ無いわよ 」



「 えっ!? 俺だろ? 小さい頃に俺が大好きだと言ったよな? 」

 レオナルドの心外だと言う顔に、アルベルトがニヤリと悪い顔をする。

「 残念だがお前じゃ無いんだってよ 」

 ざまあみろだ!



「 レティは俺にも好きだと言って抱きついて来たぞ! 」


 キャアー………

 エドガー坊っちゃん!止めてー!

 エドガー!止めるんだーっ!

 殿下がーっ

 家人達や騎士達が頬を押さえる。



 レティが抱き付いて来ただと?

 怒りを堪えるのにワナワナしてるアルベルトを余所に、レティはニコニコと何だか嬉しそうである。



「 私の初恋の人は…… 」


 人は?

 皆がレティを注目をする。


「 それはポスコさんでーす! 」

 キャッと頬を押さえる仕草が可愛らしい。


「 誰だ!? ポスコって? 」

 アルベルトは聞いたことの無い名前だぞと、ラウルを見る。


 ポスコって誰?

 レオナルド坊っちゃんより良い男なのか?

 誰?

 ギャラリーがざわざわと騒がしくなる。



「 大好きだったの…… 」

 大……好き……だと?

 アルベルトは誰だか知らないポスコに悲しげな顔をする。


 もう無理です。

 リティエラ様……

 殿下が……泣きそうです。

 止めてあげてくださいーーっ!



「 ポスコって領地のシェフのポスコか? 」

「 そうよ……ポスコシェフが私の初恋の人よ 」

 思い出した様に言うラウルにレティが恥ずかしそうに呟く。


「ポスコシェフは何時も私にこっそりとおやつをくれたの 」

「 お前……もしかして……ポスコがおやつをくれたから好きになったのか?」

「 そうよ! ポスコシェフの作る料理は最高に美味しいんだもん! 」

 ポスコシェフの料理の味を思い出すように、うっとりと両手を胸の前に組む。



「 それで……ポスコは今もいるのか? 」


 ポスコシェフーっ!

 逃げて下さーい!!

 殿下に殺されますからー!!



「 いや……ポスコは引退している。先代からいるシェフだったから 」


 ジジイシェフか!?

 若いシェフじゃ無くてジジイシェフ……

 初恋って……ただ美味しく料理を作ってくれただけじゃないのか?

 殿下はジジイも許さないんだぞ。

 ポスコ! 良かったなー引退していて。

 ディオール家の家人達と騎士達は安堵した。



 アルベルトは取り敢えずはレオナルドがレティの初恋の相手じゃ無いと分かってホッとする。

 ずっと心が痛かったのだ。


 しかし……このお嬢さんはどれだけ食いしん坊なんだ?

 すっかり機嫌を良くしたアルベルトは嬉しそうにレティの鼻を摘まむ。

「 何? 」

「 僕も美味しい料理を作ったらもっと好きになってくれる? 」

「 ? ……もうこんなに好きなのに? 」

「 うん……もっと好きになって欲しいから料理を習うよ。レティ教えてくれる? 」

「 教えるのは良いけど……… 」


 2人はイチャイチャしだした。



 ラウル達はアホらし……と、酒を飲み始める。



「 殿下が料理…… 」

「 殿下程の人でも、好きな人にもっと好きになって貰いたいからって努力するんだ…… 」

「 殿下………カッコいいッス 」

「 メモします 」

 4人はアルベルトとレティを見ながらせっせとメモを書き始めた。


「 ケチャップ! お前ら……メモをしてどうするつもりだ? 」

「 後から報告書に書くんですよ 」

「 班長は知らないんですか? 殿下とリティエラ様の報告書は両陛下が直接ご覧になるって 」

「 第2部隊の連中が、報告書を書く事は緊張するって言ってましたよ 」


 普段の護衛は第2部隊の仕事である。

 書かれた報告書はクラウドの手から両陛下に渡されるのであった。


「 まさか俺の事まで書くんじゃないだろうな? 」

「 書くに決まってるでしょ? 」

「 ありのままを書く事が俺達の仕事です! 」



 俺も……俺も書かなきゃならないのか?

 両陛下がご覧になるなら書かない訳には行かない。


 グレイは頭を抱えた。





 ***




 泊まる部屋もカトレアの部屋に案内され、寝巻きも彼女の物を着させて貰う。


 天涯付きのベッドの上にそろりと寝転ぶ。


 レオナルドのお姉様。

 カトレア様ってどんな方だったのかと思い巡らす。

 外国で結婚してると言う事は……

 何処かでグレイ班長と悲しいお別れがあったと言うこと。


 駄目ね。

 聞いちゃいけなかったんだわ。

 辛い事があったかも知れないもの。


 カトレア様はこのベッドで人知れず涙を流したのかも知れないわ。


 恋人たちのお別れなんて……

 皇太子殿下と王女の婚約発表があった時でもあんなに辛かったのに……

 もしも今、アルからお別れを言われたら……

 多分耐えられない。


 そんな事を考えながらも、疲れていた身体は直ぐにうとうとし始めスヤスヤと眠りについた。



 レティは3度の人生でのアルベルト皇太子殿下と、今の皇太子殿下であるアルベルトとは全く違う人物として見ている。

 同じ人物である筈なのに、遠くから見るだけだった皇太子殿下と、自分に愛を囁いてくれるアルベルトはやはり何処か違うのであった。




 皇太子殿下と王女が華麗に踊る姿は何時もレティを苦しめる。

 自分が死ぬ時の夢より辛いのである。


 皇子と王女……

 何よりも相応しい相手。

 背の高い皇子と背の高い王女。

 美男美女が並んで立つ姿は眩しい程に見映えがする。


 2人は結婚する筈だった。

 それだけは紛れもない事実。


「 婚約を破棄する 」

 大好きな顔の(ひと)の大好きな声で告げられる冷たい言葉。


「 邪魔者は消えなさい 」

 殿下の腕に手を回し、しなだれかかる様にして勝ち誇った様に薄笑いを浮かべる王女。


 土下座をする私。


 2人が手を取り合って歩いていく後ろ姿に、行かないでと追い掛けるが、足が縺れて前に進めない。


「 行かないで! 」


 泣きながら目が覚めた。

 キョロキョロ見回すとカーテンの向こうは朝日の光でもう明るい。


「 夢で良かった 」

 心臓のドキドキが止まらなくて暫く胸を押さえる。


 グレイ班長とお別れしたカトレア様の事を考えていたからこんな夢を見たのね。


 すると、コンコンと誰かがドアをノックする。

「 はい 」

「 リティエラお嬢様?……良かった。もうお目覚めしてらしたのですね 」


 入って来たディオール家の侍女達がカーテンを開け、窓を開ける。

 微かに香る潮の香りにホーッっと息を吐く。


「 まあ! 凄い汗ですね? 寝苦しかったですか? 」

 そう言いながら彼女達は沐浴の準備をする。


 またお風呂に入れられた。

 お嬢様のお世話をするのが楽しいと、髪を乾かし可愛らしいイエローのワンピースを着せて貰った。


「 殿方達は朝の訓練に出向いてますよ。 リティエラお嬢様もお散歩がてらに覗かれては? 」

 レオナルド坊っちゃんも訓練に参加してますのよと彼女達はクスクスと笑う。


「 レオが? 」

 これは珍しい。

 是非とも見学させて貰わなければ!

 足が完治していれば私も参加したものを……


 治りかけの足に無理はいけない。

 ゆっくり歩くのには支障は無いが、騎士達の激しい訓練は止めた方が良い。

 そう……私は医者なのである。




 ***




 侍女達に案内をされ、訓練場にやって来た。

 訓練場からはヤーヤーと騎士達の声が聞こえる。



 ディオール家は海からやって来る侵入者から我が国を守る家である。

 隣国との国境を守るドゥルグ家の騎士達よりは圧倒的に騎士の数は少ないが、彼等は馬に乗る事よりも船に乗り船を操る事に力を入れている。


 海を見渡す為に、ディオール邸は高台に建てられ、その上には更に遠くを見渡せる物見櫓があって、騎士達は24時間警戒を怠らない。



 彼等は皇宮騎士団第3部隊。

 この第3部隊は地方の重要拠点に配属されている騎士団である。

 外国船が行き交う港のある皇都の街、南の海に面しているこのディオール領地や、北の山岳地帯近くにも配備されている。



 皇太子殿下はシルフィード帝国の最高指揮官である。

 その彼がいる事で騎士達の訓練は自然と気合いが入っている所に、若くて美しい皇太子殿下の婚約者がやって来たのである。


 可愛い……

 綺麗だ。

 美しい。

 騎士達は更にテンションが上がる。




 探さなくても直ぐに分かる圧倒的なオーラ。

 彼が誰よりも目を引くのはキラキラ輝く黄金の髪のせいだけでは無い。

 その醸し出すオーラが人々を引き付けるのである。



 騎士達の前に凛と立つその姿は誰よりも輝いている。

 あんな夢を見たからか切ない想いで涙が出そうになる。


 集中している彼の邪魔はしたくない。

 駆け寄って抱き締めて貰いたい衝動を押さえながら彼を見つめる。



 あっ!?

 そうだ! レオナルドを見に来たのだわ。

 彼はディオール家の嫡男として、リンデン爺から強制的に参加させられてるらしい。


 真剣を使っての訓練には、安全の為に騎士服か軍服を着用しなければならないと言う規則がある事から、アルベルトを始めグレイや同行した騎士達は皆が木剣での訓練である。


 いる。

 へぇ……

 やっぱりレオは格好良い。

 木剣を振る姿もそれなりに様になってる。


 お兄様……格好良い……流石ウォリウォール家の嫡男だわ。

 レティは、暇さえあればラウルに手合わせをしてくれとせがむ。

 嫌だ面倒くさいと言いながらも、何時も相手をしてくれる優しい兄なのである。



 レティに気が付いて手を振ってくるレオナルドを、真面目にしろとエドガーが木剣でこずいているのが可笑しくて、口を押さえてクスクスと笑う。


「 誰を見てる? 」

 汗を拭きながらやって来たのはアルベルトである。

 丁度休憩時間に入った様だ。


「 おはよ 」と、腰を屈めて頬にチュッとキスをしてきた。


 まてい!

 こんな皆がいる前でキスをする奴があるかい!

 それもここは訓練場である。


「 こんな所で止めてよね!! 」

 真っ赤な顔で抗議するレティに

「 僕らの挨拶だろ? 」……と、全く意に介さないアルベルトが憎らしい。


 今朝に見た、悲しい悲しい夢の事も忘れてプンスカ怒るレティの頬を、甘く蕩けるような顔をして皇太子殿下はつついていた。


 そんなイチャコラする2人を見た騎士達は……朝から悶絶する。

 2人のいる場所は、殺伐とした訓練場まで甘い空気が流れるのである。



 皇帝陛下と皇后陛下も仲睦まじい夫婦であるが、皇太子夫婦はそれ以上だと言う話は帝国民に周知されている。


 学園でもそうだったが、彼等のイチャイチャを見ると幸せになれると言う噂は今や帝国民にも広まっていた。





 そんな甘い甘い雰囲気の中……



 ラッパの音がけたたましく鳴り響いた。









誤字脱字報告を有り難うございます。

まだあるのか?

…と、かなり前の話からも報告があり情けなくなっております_(^^;)ゞ

感謝感謝です。


読んで頂き有り難うございます。

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