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4度めの人生は 皇太子殿下をお慕いするのを止めようと思います  作者: 桜井 更紗
第3章

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彼女の魅力

 


「 お兄様……お手洗いに…… 」

「 ん?……その辺でしとけ…… 」

「 出来る訳無いでしょ! 」

 夜明け前の薄暗い時間に、まだ寝ているラウルを引っ張ってレティは近くの民家に行った。


 皆はその気配に起きて2人の後ろ姿を見送る。


 ラウルに負けたのかと項垂れる皇子様。

 何時でも何でもレティの1番になりたい皇子様だ。

 いや……それは乙女心を分かってあげて欲しい。

 好きな(ひと)に、厠に一緒に行って欲しいとは言えない乙女心を。



 しかし……

 中々2人が戻って来ないので皆でゾロゾロと連れ立って様子を見に行く。


「 あっ! お前ら井戸で顔を洗え! 」

 ラウルが井戸で水汲みをしていた。


「 レティは? 」

「 あいつは朝飯を作ってるよ 」


 皆で洗面をさせて貰い、上半身裸になり濡らした布で身体を拭く。

 冷たくて気持ちが良い。


 ラウルを見ると主らしき60代位の男から、もう俺の息子だと肩を組まれて嬉しそうに言われているではないか。


 台所を覗けばレティは、この民家の奥さんと楽しそうにパン生地を捏ねていた。

 すると彼女も奥さんに私の娘だと言われている。


 出会って30分も経たないのに自分の息子や娘とまで言わせるこの兄妹の凄さに感服する。


 するとアルベルトに気付いた奥さんが顔を赤らめた。

 60代の女までも魅了する、この男の美丈夫ぶりも流石である。


「 世話になる 」

「 あらまあ……なんと素敵な殿方じゃねぇか? 」

「 ウフフ……私の婚約者なの…… 」

 あらあらまあまあと2人を交互に見て、お似合いだわねと奥さんは頬に手を当てる。


「 あんた達って何処かで見た様な気がするんだけどねぇ…… 」

 帝国には2人が頬を寄せあっている姿絵が出回っている。

 そう言う奥さんも実は2人の姿絵をしっかり入手し、寝室に飾っているのだ。


 だけど……

 目の前にいる2人が姿絵で見るしかない皇太子殿下とその婚約者だと言う事に結び付く筈はなかった。

 姿絵よりも遥かに美しい2人なのだから……



 お手洗いを借りたラウルとレティは、この民家の者と直ぐに仲良くなり朝食をご馳走して貰う事に。

 しかし、連れが8人もいると伝えると、大変だからレティが朝食を作ると言い出したのだった。


 騎士達皆でお礼にと薪割りをするのは当然の事で、皆は朝食が出来るまで薪割りをした。



「 まあ、貴族のお嬢さんなのに手際の良い事…… 」

 そこにある物は何でも使って良いよと言って、奥さんは部屋から出ていった。


 甲斐甲斐しく料理するレティを、椅子に腰掛けテーブルに肘を付いたアルベルトが楽しげに見ている。


「 腕前が上がったね 」

「 3年生ではね、ポトフとかシチューとかローストビーフとかの本格的な料理を習うのよ 」


「 本格的なんだ。嬉しいな……レティの料理を食べるのも久し振りだ 」

「 味見して! 」

 お玉でスープをお皿にすくい「はい」っとアルベルトに渡した。


 あっ……と少し躊躇ったのは、何時も毒見をされて来た立場なので、誰よりも先に味見をするのは初めての事だったから。


 レティはどう?どう?と尻尾をパタパタさせている。

 アルベルトがスープをコクリと飲む……と破顔した。


「 美味しい 」

「でしょ? でしょ?」と、レティは嬉しそうな顔をして尻尾をブンブン振る。


 彼女は何気に皇子様の初めてを演出する女……であった。



「 並木道が懐かしいよ 」

 2人の愛を育んだのは間違い無くあの並木道。

 レティだけでなくアルベルトにとってもあの並木道は大切な場所だった。


「 レティ、皇太子宮を改装する時に小さな台所を設置しようか? レティが何時でも料理が作れる様に…… 」


「 本当に!? 嬉しい 」

 2人が未来を語り合う。


 叶うことの無い未来かも知れない未来を。



 戻って来ない奥さんはレオナルドに魅了されていた。

 エキゾチックな顔立ちの彼は、女性達を喜ばすテクニックを持っている。

 ウィンクも巧みに歯の浮くような賛辞を述べて、洗濯をする奥さんを大いに喜ばせていた。


 こいつはこいつで凄いのであった。




 ***




「 俺、感激っス……リティエラ様の手料理を食べられるなんて 」

「 学園で料理クラブに入っているとか…… 」

「 可愛いですよね~リティエラ様…… 」

「 俺もあんな可愛い婚約者が欲しいぞ~ 」

 ケチャップ、サンデイ、ジャクソン、ロンが鼻の下を伸ばして、レティの作った朝食を食べている。


 レティの焼いたパンは柔らかく、野菜スープも文句無しに美味しかった。



「 あっ! 班長! 俺の弓矢の腕が上達したら俺が学園の騎士クラブへ行きますからね 」

「 駄目だ、俺がいく! 」

「 班長は色々と忙しッスからね。俺ってなんて良い部下なんだろう 」

 ……と、皆が弓矢に興味を持ち始めた。


「 馬鹿な……弓矢の指導は団長から正式に指示が出ているんだから俺しか行けないんだよ 」

 グレイが言うと、そんな~っと皆は項垂れる。


 この5人はレティの3度目の人生で、騎乗弓兵部隊……弓騎兵として一緒に訓練をし、ガーゴイル討伐に向かった仲間である。


 レティがまだ騎士養成所にいる時に、力の無い彼女に弓矢の道を勧めたのはグレイである。

 騎乗弓兵部隊は、レティが騎士団に入隊すると同時に、グレイがレティの為に設立した部隊であった。



 4度目の人生ではレティは騎士にはならない。

 しかし……

 皆が弓騎兵になるべく道を歩き出していたのである。




 ***




 レティは朝食のお礼にと背中に背負ったデカイ顔のリュックから、虫除けの薬剤を取り出し夫婦に渡した。


 少しづつ焚き火にくべるとひと夏は利用できると説明する。

 この地方には毎年毒虫が発生するので困っていると言って、夫婦は大層喜んだ。

 昨夜、レティがこの薬剤を出して来なかったら、全員が毒虫にやられていただろう。



「 効き目は確かだが、臭いがえげつないぞ 」

 と、匂いにことさら敏感なレオナルドが顔をしかめた。


「 匂いか……まだまだ改良しなきゃね 」

 レティは虎の穴の薬学研究員である。



 老夫婦に別れを告げ一行は野宿をした場所に戻る。





「 えっ!? 」

「 何で!? 」

「 嘘だろ…… 」



 そこにある筈の馬車が無かった。











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