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騎士─手折る花

 


 4日目の朝、まだ夜も明けて無い暗い時間に皇太子殿下御一行様は出立した。


 次の訪問先はドゥルグ侯爵領地へ……

 エドガーとグレイの領地でもある地へ向かう。


 シルフィード帝国3大貴族の1つである騎士の家系のドゥルグ侯爵家は、まだ帝国が小さな国だった頃から真紅の軍旗を掲げ、主君の為なら己の心臓を刺されても前に突き進んだと言う、忠義や忠誠心が鎧を纏っている様な家系である。


 ドゥルグ家は、エドガーとグレイの祖父であるバークレイ・ラ・ドゥルグ侯爵が未だに現役当主として領地に君臨している。


 今回の旅の目的は温泉施設の視察だけでは無く、ドゥルグ家の領地と、ドゥルグ侯爵家の親戚筋であるマイセン辺境伯の領地への訪問もあった。


 ドゥルグ侯爵家の領地がある更に西の地には、陸続きにある大国タシアン王国がある。

 この大国との国境を守っているのがマイセン辺境伯である。


 カルロス・ラ・マイセン辺境伯……

 先帝が崩御した際に、政変で弱体化したシルフィード帝国を狙って、隣国タシアン王国が進軍の準備に入ったと第一報が伝えられた。


 その時……

 彼の持つ私兵とドゥルグ家が指揮を取る国境警備隊が全軍出動で国境に並び立ち、新皇帝の即位の儀式が終わり、新政権を発足させるまでの三日三晩……

 真紅のドゥルグ家の軍旗を掲げ、進軍を許さず、一睡もせずに国境を守り抜いたと言う他国も恐れる豪傑である。





 ***





 レティは休憩タイムに入ると、騎士達から薬草を摘んできて貰っていた。


 これは薬師としては美味しい旅だった。

 いく先々で色んな種類の薬草があるのだ。


「 レティ! 」

 うわ~殿下だわ……

 今日は朝から目を合わせていない。

 また皇子様全裸御輿が担ぎ上げられたらたまったもんじゃない。


「 どうして今日は目を合わせてくれないのかな? 」

 手を繋がれた。

 だけど……

 目は合わせない。


「 こら! 」

 顎を捕まれ無理やり顔を向けさせられるが………それでも頑張って殿下を見ない。


「 僕を見ないとチューするぞ! 」

 ムカつく~!

 そう言えば言うことを聞くと思って!

 良いわよ見てあげるわよ!と唇を噛んでアルベルトを睨む。


 睨み合う皇太子殿下と婚約者の公爵令嬢。


「 アルのせいで昨日は眠れなかったんだからね! 」

「 仕方ないだろ? お風呂に入ってたんだから…… 」

「 何で裸で出てくるのよ! 」

「 お風呂は裸で入るもんだろ? 」

「 恥ずかしいから裸って言わないでよ! 」

「 君が言ったんだろ? 」


 朝から2人で恥ずかしい話を大声でギャアギャアやっている。




 その、イチャイチャしている様にしか見えない2人から少し離れた場所の木陰で、昨夜の護衛の当番だったグレイとジャクソン、ケチャップ、ロン達が寝転んで休息を取っていた。



「 成る程……リティエラ様は殿下の裸を見たんだ……」

 昨夜、アルベルトの部屋の前で護衛をしていたサンデイが上半身を起こしながら頬を赤らめた。


「 お風呂から出て来た所なら……全裸?」

 うわ~っとロンが赤くなって頭を押さえてゴロンゴロンと地面を転がる。


「 殿下の腹筋は凄いぞ……リティエラ様はあれを見たんだ…… 」

「 あの腹筋は………俺も惚れてる 」

 サンデイが言うとジャクソンがうっとりとして呟く。


 アルベルトは騎士団第1部隊である彼等と、毎朝一緒に訓練をしていたので彼等とは裸の付き合いなのである。


「 いやいやいや……全裸なら……ジュニアも……痛てーっ!! 」

 ロンは頭を押さえて踞る………グレイに殴られたのだ。


 踞るロンを横目にサンデイが言う。

「 はぁ……可愛いよな~リティエラ様……俺もあんな婚約者が欲しい… 」


「 そう言えば……グレイ班長は婚約者はいないんすか? 高位貴族なのにいないって事はないですよね? 」

 ケチャップが踞るロンに腰掛けながら尋ねた。

 重い~とロンがケチャップをはね除ける。



 グレイは空を見上げ呟いた。

「 婚約者になっていたかも知れない女性(ひと)はいた……らしい…… 」





 ***





 アルベルトとレティは手を繋いで朝の林の中を散歩をしている。

 喧嘩をしていてつーんとしていても、手はしっかりと繋いでいる所がこの2人の可愛い所である。



「 あっ! 」

 アルベルトは道端に咲く花を手折って無言でレティに渡した。


 夏の朝に咲く小さな紫の花だ。

 レティの瞳と同じ色の花……


 シルフィード帝国では男性が女性に花をプレゼントするのは求愛の意味を持つ。


 アルベルトに花をプレゼントされたのは初めてだ。


「 仲直りしよ?……ごめん……こんな道端の花で……次は…… 」

 レティはアルベルトに抱き付いた。


「 有り難う、嬉しい 」

 背の高いアルベルトに腰を屈める様に言うと……

 彼の頬にレティが嬉しそうにキスをした。


 ええ!?

 自分からキスなんて滅多にしてくれないのに……

 花が……そんなに嬉しいんだ。


 嬉しそうに花を見つめるレティ。

 こんなに喜ぶのなら……

 何でもっと早くに花を贈らなかったのかと悔やむ。


「 次はもっと豪華な花を贈るよ 」

「 この花が良いの! 」

 レティはこれが嬉しいのだと首を横に振る。


 嬉しい……

 




 ***




「 俺はリティエラ様に診察をして貰いたい 」

 ケチャップが真面目な顔をして言う。

 おう!

 皆が同調する。


「 教会でリティエラ様に診察されてる小僧の顔を見たか? 」

「 ああ……俺はぶん殴りたいと思ったね 」

 奴は顔を赤くしながら俺らを羨ましいだろうと言う顔をして挑発してきた!

 ガキのくせに……

 遊んでる時はリティエラ様に抱き付こうとしてたから、俺は首根っこを引っ掴んでぶん投げてやった! ざまあみろだ!


 ………と、彼等の大人気ない話は続く……



「 俺は……診療所で針と糸を持って人を縫っていたリティエラ様の白い小さな手……俺も縫って欲しいと思ったね 」

「 俺はあの小さな白い手でペタペタ触られて診察をして貰いたい 」

 ケチャップとロンが真剣な顔をして話している。


 痛て!、痛い!……と、頭を押さえる彼等……

 ケチャップとロンはグレイに殴られていた。


「 不敬な事を言うな! 」



 あの日……

 グレイは報告書にレティの事が書けなかったのだ。


 あの日の彼女には圧倒された。

 病人にも怪我人にも年上の医師にも怯むこと無く戦ったのである。

 胸があんなにときめいたのは生まれて初めての事だった。

 彼女の真剣な横顔……

 怒る彼女の瞳……

 封印していた想いが溢れだした。


 その彼女を思い出しながら報告書を書くなんて事はとてもじゃないが出来なかった。


 封印しなきゃならない想いが彼にはあるのだ。

 絶対に誰にも悟られてはならない想いが……



 グレイは立ち上がってレティが摘んで欲しいと言っていた薬草を探して手折る。


「 あっ! 班長ずるい!自分だけ凄く薬草を摘んでるーっ! 」

 目ざといサンデイが俺も負けないと薬草を探しだした。


「 駄目ですよ、リティエラ様のキスは殿下にだけですよ、痛!? 班長ーっ! 痛いじゃないですかーっ!! 」

 ジャクソンは洞察力に優れている騎士だった。


「 煩い! 」

 グレイはジャクソンをぶん殴っていた。



 君に花を贈る事は出来ないから

 俺は薬草を送ろう……

 君が俺だけに笑顔を向けるその瞬間が何より愛おしいから……





 ***




「 あら? 可愛らしい花ですねぇ…… 」

「 殿下から貰ったの…… 」


 休憩が終わって次の場所を求めて走る馬車の中で、花を眺めながらレティは嬉しそうに言う。


「 まあ! 素敵! 」

「 リティエラ様の瞳の色の花ですね? 」

「 殿下もお可愛らしいことをなさるんですねぇ…… 」


「 可愛い花ですね 」

 少しずつ皆と話す様になって来ていたジルは、レティが大事そうに持っている紫の花を見てそう言った。


「 実は……殿下から初めてお花を貰ったの…… 」

「 まあ!? 初めてプレゼントしたお花がこれですか!? 」

「 殿下も……もうちょっと…… 」

「 良いのよ、この花が嬉しいのだから……この花は押し花にして大切にします 」


 まあ……なんとお可愛らしい……

 彼女達はレティの初々しさにほっこりと癒された。



 それからは、彼女達の旦那達から初めて花をプレゼントされた時の話に花が咲いたのであった。



 馬車は次の目的地までカラカラと走る。







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― 新着の感想 ―
[良い点] 大変です! 殿下のジュニアが気になって仕方ありません……(爆) 腹筋も気になるけど*﹢.'*+笑 今まで、そういえば?花束なども送っていなかったことに驚きですw(゜o゜)=3 グレイ様…
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