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騎士─報告書

この話から騎士シリーズが始まります。

旅はまだまだ続きますので宜しくお願いします。

 


 レティ達の乗った馬車は次の宿に向かって夜道を走る。

 ナニア、ローリア、ジル、そしてレティ達4人は馬車に揺られ夢の中にいた。

 グレイとロンは馬車の左右に分かれ護衛をしながら騎乗して馬を走らす。

 道はガタガタだったが疲れきった彼女達はよく眠っている様だった。



 夜遅く馬車は静かにホテルに到着した。

 御者によってドアが開けられると……

 寝ていたナニアは飛び起きた。


 そして……ドアの前にいる皇太子殿下に……驚いた。


「 殿下!? 」

 すっとんきょうな声をあげ、慌てて皆の肩を揺さぶって起こす……

 レティを起こそうとするナニアにアルベルトは手を上にやり制する。

 そしてシーっと人差し指を口に当てた。

「 私が運ぶから…… 」


 丁度ドアの横にいたレティをお姫様抱っこをして馬車から連れ出すと、その振動にレティが目を覚ました。


「 ……アル? 」

 心地よい揺れとフワッと香る嗅ぎ慣れた香りに、自分を抱いているのはアルベルトだと思い安堵する。


「 起きちゃった? このまま部屋まで運んであげるよ…… お帰りレティ……」

「 ん……ただいま……今日ね、色々あったの…… 」

 そう言ってアルベルトの胸にモゾモゾと甘える様に頭を付けて来たレティが愛おしい……

 彼女の頭にそっとキスを落とす。


「 うん……聞かせて……」

「 私……医師の仕事が好きかも…… 」

「 そう…… 」

 満足そうに微笑んだレティにアルベルトはそれ以上は何も言わずに黙って彼女の部屋まで運んだ。


「 お風呂は1人で入れる? 女官を誰か呼ぼうか? 」

「 私がその女官なのに…… 」

 自分のお世話は女官の自分がしますと言って彼女は口を押さえてクスクス笑う。


 じゃあ、お休みと言ってアルベルトは眠そうなレティの頬にそっとキスをして部屋を後にした。



「 医師の仕事が好き……か……その様子だと鉱夫達は無事だったんだな……良かった…… 」

 レティからは薬草の香りがした。



 その日は夜も遅く疲れているだろうからと女官達や騎士達にも報告は明日の朝にする様にと指示を出した。





 ***





 ボルボン伯爵は今回の視察を甘くみていた。


 皇太子殿下の初の視察が自分の領地だと聞いた時には飛び上がって喜んだ。

 一度視察に来たら次は別の領地へ行くだろうから、当分は来る事は無いので、初の視察で不正を見抜ける程の力量は彼には無いと予測したのだった。


「 あんな何時も女に囲まれてニタニタしてる様な皇太子の視察なんか恐るるに足りんわい。ワハハハ…… 」


 晩餐会で皇太子の好みの女を適当に用意しとけば大丈夫だ!

 宰相の娘が婚約者らしいが……

 ちょっと歳がいっているが、うちの娘がお手付きになれば婚約を破棄させ、うちの娘が新たに婚約者になれば宰相よりも権力を持つ事も夢じゃない。

 ……と、皇太子殿下を馬鹿にし完全に高を括っていたのであった。



 今回の視察がルーカス宰相ならもっと慎重に隠したのだろうが……

 ルーカスは過去何度も貴族の不正を暴いたやり手であり、貴族達からは別名『尖ったナイフ』と呼ばれているとかいないとか……



 しかし……

 今回の視察にはルーカスの娘がいたのだった。


 彼女の茶番発言にムカッとした皇太子殿下は、端から疑いながら視察をした結果不正を暴き出したのである。


 まだ若く、特に女性から人気があるだけで、政治を担うにはまだまだだと思われていたアルベルト皇太子殿下の評価を、一段押し上げる事になる案件となった。



 鉱山の一件から次の視察である穀物収穫倉庫と帳簿を見ていた皇太子殿下から、穀物の収穫の不正をあっさりと見破られた。


 元々頭が良いアルベルトは数字のマジックなど、簡単に見破れるのである。

 ただ……

 最初から疑ってかかるのとかからないのでは、やはり短い視察では違った結果になった事だろう。


 昨夜の内にルーカスに届ける為に証拠の書類と報告書を持たせて騎士を走らせたので、直ぐに皇都の屋敷と領地の屋敷の両方に捜査の手が入る事になる。

 これを切っ掛けにしてまだまだ叩けば埃が出る事になるだろう。

 尖ったナイフのルーカスはこの切っ掛けを期待していたのである。



 当然ながら昨夜のボルボン伯爵邸での晩餐会は中止となっていた。



 報告書を書きながらクラウドは苦笑いをした。

 このボルボン伯爵の領地への視察はルーカスから提案されたものだった。

 彼はボルボン伯爵の不正や領地民主への圧政を予め知っていて、我々が試されたのだとクラウドは思った。


 クラウドはアルベルトの側近だが秘書官なので政治的な駆け引きなどはあまり得意では無い。

 アルベルトの御代にはラウルが宰相になって父親顔負けの手腕を発揮する事になるだろう。




 

 ***





 そして……

 昨日のレティ達一行の報告書がクラウドに上がってきた。

 相違や思い込みがあるといけないので報告書は各々が記入する決まりになっている。


 女官達の分は女官長がいる時は女官長が取り纏め、問題がある時だけ女官長からクラウドに報告されるが、今回は女官長がいないのでクラウドが直接読んでいた。


「 殿下、昨日の報告をお読みになりますか? 各々面白いですよ 」

「 ああ…… 」



 そして女官達のどの報告書にも最後にはレティの凄さを書いていた。

 ジルもそう書いていた事がクラウドは嬉しかった。



 ふむ……

 次の報告書は凄かった。

 レティの報告書だった。

 見やすく丁寧に簡潔に纏められ、その上に問題点までもを定義されている。


 特に医療については医師だからこその視点で書いていた。

 全ての医師の年に1度の研修の必要性。

 特に領地や地方の医師達の医療水準を調べて欲しいと書かれていた。


 そして……

 最後にあっかんべーをした似顔絵が……

「 殿下……リティエラ様はまだ怒ってますよ、早く謝って下さいね 」

 クラウドは笑いながらレティの報告書をアルベルトに手渡した。


「 全く……子供だなあ…… 」

 あっかんべーの絵を見ながらアルベルトは嬉しそうにした。

 そうだ……彼女は17歳の学生なのだ。

 可愛い筈である。


「 いや、殿下! 子供にはこれは書けませんよ……リティエラ様がやはり天才と言われてる事も分かる様な気がしますね 」

 騎士に薬師に医師と……本当に素晴らしい才能だと言ってクラウドはしきりに感心していた。


 アルベルトは医師の仕事が好きかもと言ったレティが、何処か遠くへ行ってしまうみたいで怖くて仕方が無かった。




 クラウドは騎士達の報告書を読み始めた。


「 ハハハハ…… ロンはリティエラ様のお腹の虫が鳴った事まで書いております 」

 昨日の大変さが手に取る様に分かる程に彼等は熱心に報告書を書いた様だ。


 グレイの報告書を見る。

「 あれ!? 」

 彼は簡単な流れと鉱夫の聞き取りしか記入していなかった。


「 おかしいですねぇ……グレイは何時も時間単位ごとに丁寧に報告書を記入するのですが…… 」


 他の者の報告書ではグレイはずっとリティエラ様の側にいた筈なんですが……

 リティエラ様の事は鉱夫を治療したとしか書いていないんですよとクラウドが頭を傾げる。


「 まあ、重要なのは鉱夫達の証言ですけどね 」

 クラウドはそう言いながらアルベルトにグレイの報告書を渡した。


 本当だ……

 レティと一緒にいた筈なのに……

 アルベルトも首を傾げた。




 ***




 馬で駆けながら馬車の窓から見えた彼女は眠っていた。

 あれ程の事をやり遂げるなんてとても思えない程の可愛らしい寝顔だった。


 ホテルに到着すると……

 殿下が玄関先に立っていた。

 無事の到着を告げると殿下は彼女を抱き部屋に運んだ。

 大事そうに……凄く大切な宝物を運ぶ様に……


 殿下は彼女の到着を外でずっと待っていたのだろう。

 グレイは馬の手綱を引きながら2人を見送った。



 この旅は……

 皇宮騎士グレイは切ない程に辛い旅を続けなければならなかった。






 


読んで頂き有り難うございます。

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