女官─疑惑
皇太子殿下御一行様は昼になる頃にはレストランに到着した。
旅は予定通りに順調に進んでいた。
レストランは貸し切りであった。
今度こそは殿下に拉致され無い様に警戒しながら、女官さん達の後に付いていく。
彼女達は、ナニアさんとローリアさん、エリーゼさんとサマンサさんの2手に別れて行動をする。
レストランの支配人に到着した事を告げ、ローリアさんチームは厨房に行き料理をチェックし出した。
何と、ここで彼女達は毒味をするのである。
ナニアさんとローリアさんは並べられている全ての料理を食べ、毒味だけでなく、腐ってはいないのかとか妙な物が入っていないのかをレシピを見ながら入念にチェックを入れていく。
私は……
美味しそうなご馳走にお腹の虫が暴れだした。
その毒味……私がしても宜しくてよ……とは言えない……
じっと料理を見ていると……
「 リティエラ様のお料理は殿下の分と一緒にお運びしますからね 」
ええ!?
とんでもない!
私は女官として来ているので食事も皆さんと一緒に食べますからねと言った。
「 それでは殿下が…… 」
「 大丈夫です、先程言い聞かせましたから 」
殿下には食事は女官の皆で取る事を言っていた。
皆はあらあらお仲が宜しい様ですね。と言ってクスクスと笑った。
エリーゼさんとサマンサさんのチームの所へ行くと、殿下の座る席のチェックをしていた。
騎士達と分担してレストランの中に怪しい物が無いかを、椅子やテーブルの裏まで徹底的に調べている所だった。
私も何かやらなくっちゃ!
……と、椅子の下をチェックする……
慌てて騎士達が私を止める。
「 リティエラ様は殿下の所へ、もし何かあれば危ないですから 」
「 リティエラ様はこちらへ 」
エリーゼさんは私の手を引っ張り無理やり殿下のいる部屋に連れて行く。
「 私も何か仕事を…… 」
「 駄目です 」
揉めながら殿下の居る部屋に入って行くと殿下はクックと笑う。
ここにはレストランの支配人達も居るので、女官の制服を着た私は黙って部屋の隅に立った。
殿下の他に、クラウド様と侍従さんとジルさんも居た。
支配人は私を舐め回す様にじろじろと見てくる。
何?
気持ち悪いわね!
何なのこの眉毛ボーンのオッサンは……と、睨み返していると……
「 グレイ! レティを女官達の所へ連れていけ!」
「 はっ! 」
あれ?もう排除された……
私ってもしかして凄く邪魔じゃない?
「 グレイ様、私は皆の邪魔をしてますか? 」
「 そんな事はありませんよ、あの支配人がやらしい目でリティエラ様を見ていたので殿下が嫌がったんですよ。私もぶん殴ろうかと思いましたから 」
「 じゃあ、私があの眉毛ボーンを一発ぶん殴ぐれば良かったわね 」
レティが腕をグルグルと回しながら言うとグレイはクックックと笑った。
皇太子殿下が不快な顔をしたので、支配人がバツが悪そうに大きな声で笑いながら言う。
「 いや~女官に凄く綺麗なお嬢さんがいて見とれてしまいましたよ~ハハハハ もしかしてあの女官は殿下のお気に入りでしたかな? 」
「 支配人! 殿下に無礼な事を言わない様に…… 」
クラウドが怒りを露にする。
ん?図星か?それとももうお手付きなのか?
「 冗談ですよ! さあ、我が店の料理を堪能して下さい 」
支配人はキモい奴だったが料理は美味しかった。
レティは女官達と一緒に食べていた。
女官達はレティの考えには本当に驚いていた。
自分達と一緒に食事をするなんて……変わった公爵令嬢だと思った。
そう、レティはただの公爵令嬢では無いのだ。
『同じ釜の飯を食う』
3度目の人生で騎士だった彼女は、それの大切さと必要性を知っていた。
「 あの……ジルさんは何時もあんな風なのですか? 」
皆は目を合わせ頷き合う。
「 何時もあんな感じよ 私達とも必要な事は以外は話さないわ 」
「 平民だからって言われたら……私達も何も言えなくなるのよ 」
「 クラウド様が目を掛けてらっしゃるから…… 」
「 彼女は特別なんだそうですよ 」
どうやら普段からかなり不満がある様だったが、そこは大人の女性であるので、それ以上は私には何も言わずに次の話題に花を咲かせた。
彼女を見ると……
殿下のテーブルの側のテーブルで侍従と2人で食事をしていた。
殿下はクラウド様と食事中であった。
何だかな~
すると殿下と視線が合った。
殿下は私にウィンクをして来た。
もう、殿下を見てるんじゃ無いのに……
すると、私の後ろでレストランのスタッフが、
「 皇太子殿下が、私にウィンクをしたわ 」
これはお誘いよ、どうしましょう……この後、伽に呼ばれるかしら?とキャアキャア騒いでいる。
もう!! どうするのよこれ……
「 違います! 今の殿下のウィンクは視力調整です。殿下は疲れ目を慣らす為にウィンクをなさるのです。パチパチと……もう見事な程に激しくパチパチと…… 」
もう、滅茶苦茶な言い種を並べ立てる。
「 なぁんだ……そりゃあそうよね皇太子殿下には最愛の婚約者がいるのですものね 」
「 その通りでごじゃりまする。」
彼女達に丁寧に礼をする。
わたくしは優秀な女官ですから殿下をお守り致しますわ。
女官さん達や護衛の騎士達が大笑いをしていた。
***
「 何だか楽しそうだったね 」
馬をブラッシングしていると殿下がやって来た。
今は食事の後の休憩時間をそれぞれ過ごしている。
何か自分にも仕事は無いものかと騎士達の馬の手入れを手伝っている。
「 殿下! わたくしにウィンクするのは止めて頂きたいわ! 」
「 どうして?」
先程の女性スタッフの勘違い騒動を説明すると、殿下はケラケラと笑い出す。
「 視力調整とは……よく思い付いたね 」
「 笑い事じゃありませんわ 」
「 分かった、次からは後ろに誰も居ないのを確認するよ 」
「 大体ウィンクをする意味が分かりませんわ! 」
「 離れているけど、大好きだよと言いたいからするんだよ 」
アルベルトは甘~い顔をしてレティの顔を覗き込む。
レティは……あら!そうなのと照れていた。
「 レティ……少し歩こう 」
そう言って殿下は私の手を取った。
2人で手を繋いで歩くのも久し振りだった。
木陰の間をそよそよと風が吹き、木々の緑が目に優しい。
休憩中の騎士達がワイワイと騒いでいた。
2人は足を止め何だろうと見る。
グレイが弓矢で何かを狙っていた。
キャー!!
レティの目の色が輝く。
グレイ班長の腕前が見れる……
命中した物は蜂の巣だった。
彼女はキャーキャーと手を叩き喜ぶ。
騎士達も騒いでいた。
「 嬉しい? 」
「 ええ、グレイ班長は弓の天才だから…… 」
そう……
あんな風に美味しそうな木の実を弓矢で落としてくれて……2人でこっそり食べたっけ……
レティは懐かしい思い出に耽る。
まただ……
またレティは遠くを見る。
何故そんなに愛おしそうにグレイを見るのか……
君にとってグレイは一体何なんだ?
「 行こう 」
アルベルトはその場から逃げる様にレティの手を引っ張る。
えっ!?
あの蜂の巣が欲しいんだけれども……
後でグレイ班長に貰いに行こう。
レストランに戻って来ると……
直ぐに、ジルが殿下に笑い掛けながら掛けよって来た。
「 殿下! 明日の……… 」
ジルはレティが一緒だと分かるととたんに無表情になり、口をつぐむ。
「 じゃあレティ、仕事の打ち合わせがあるから、君は女官達の所へ行っといで 」
「 分かった 」
ジルはレティに一礼をして殿下の後を付いていく。
その途中で殿下に話し掛け、2人で笑顔を交えて話をしながら別の部屋に消えて行った。
ポツンと1人残されたレティは思った。
なぁんだ……
やっぱりちゃんと話せるし笑えるんだわ。
………殿下だけには……
もしかして……
彼女は殿下の事が好き……なの?




