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軍事式典─挑戦の矢

 


 レティが戻って来ない。

 いくら何でも遅すぎる。

 護衛を付ければ良かったのか?

 周りにはこんなにも護衛騎士達がいるのに……

 トイレだからと躊躇してしまったのである。


 アルベルトはレティの護衛に女性騎士が必要だと改めて思った。

 因みに今いる女性騎士達は当然ながら皇后陛下の護衛をしているのである。



 レティ……

 アルベルトが立ち上がって彼女を探しに行こうとした時に。


 場内が一瞬にして静まり返ったのだ。

 異常な静けさに広場に目をやる。


 何だ?

 何が起きたのか?

 真っ直ぐ目をやった先に……馬に乗った少女がいた。


「 嘘だろ……? レティじゃないか……」

 アルベルトが最愛の彼女を見間違う筈は無い。


 観客は何が始まるのかと固唾を呑んで静かに見守っている。

 場内に緊張感が漂う。



「 はっ!」

 遠くで彼女の可愛らしい掛け声と共に馬が駆け出した。

 まるで霧の中を駆けて来る様な幻想的な光景が、真っ直ぐにこちらに向かって来る。



 凄い……

 駆けている馬の上にいる彼女は両手を離して弓矢を持ち、構えて狙いを定めている。


 馬は真っ直ぐに駆けて来る。


 パーン………

 放った矢は見事に的を貫いた。



 彼女が弾ける様な笑顔を見せると大歓声が沸き起こった。

 皆が大興奮になり彼女は誰だと騒ぎ、壇上にいる両陛下も驚きながら手を叩いて彼女を讃えている。


 馬の手綱を引き、笑顔の彼女がどうどうと言いながら馬の脚を止める。


 アルベルトは転がる様に壇上から階段を駆け下り、騎乗しているレティの元へ行った。

 彼女の手を取り馬から下ろすと愛おしそうに抱き締め、その小さな頭に唇を落とした。



 観客はその様子を見て、矢を射った彼女は皇太子殿下の婚約者だと悟った。


 するとキャアキャアとピンクの歓声が上がる。

 皆が口々に知ってる事を話し始める。

 確か公爵令嬢は学園で騎士クラブに入っているとか……

 そんな話題で持ちきりだった。



 次は皇太子殿下のデモンストレーションだ。


 レティを安全な場所に連れて行き、彼は聖剣を構え魔力を込める。


 聖剣から発動した稲妻は先程レティが射貫いた矢を貫通して的を破壊した。



 敵がガーゴイルなら……

 一撃で仕留められるかも知れない……


 レティは、ローランド国の王立図書館の本で読んだガーゴイルを仕留められる聖なる矢について調べていたが、そんな物は何処にも無くすっかり手詰まりになってしまっていたのだった。


 もしかして……

 聖剣から放たれる稲妻と矢が融合したら聖なる矢になる?

 アルベルトの放った稲妻を見て心が踊った。



 気付くともの凄い歓声が沸き起こっていた。


「 皇太子殿下万歳! 」

「 婚約者様万歳! 」

「 シルフィード帝国万歳 !」

 何時までも何時までも歓声が止むことは無かった。



 パレードが終わり壇上を後にする時にレティが別の方向を見ていた。

 彼女の視線の先を追うと……


 そこにはグレイがいた。


 すると……

 2人は親指を立てて讃えあったのである。


 何だ?

 グレイは知っていたのか?

 何故だ?

 何故俺でなくグレイなんだ?


 アルベルトは頭を鈍器で殴られた様な気がした。




 ***




「 イライラしてるぞ 」

「 嫉妬深い奴め 」

「 アルは俺らにも嫉妬するからな 」



 舞踏会で

 レティはウィリアム王子と踊っていた。


 アルベルトはラウル達と一緒にイライラしながらレティと王子の躍りを見ている。


 そう、皇太子殿下の婚約者であろうとも、他国の王子から手を差し出されれば断る事なんか出来ないのである。



「 リティエラ嬢、私と踊って頂けますか? 」

「 はい、喜んで 」

 王子が差し出した手にレティが手を乗せると、王子は彼女の手の甲に口付けをした。


 レティの腰をグッと引き寄せ、手を取りダンスを踊る。

 2人は案外(・・)仲良しである。


「 それで、俺の上に乗って欲しいんだよ 」

「 えっ!? わたくしがですか? 」

「 君は、やりたいって行ってたじゃないか? 」

「 やりたいけど…… 」


 2人はダンスを終えてアルベルト達の方に歩いてきた。

 何やら揉めている様だ。


「 殿下、王子殿下の上に乗って良いですか 」

「 皇太子殿下には悪いが、リティエラ君が俺の上に乗るのが一番良いんだよ 」

「 駄目だ、レティは俺の上しか乗っちゃ駄目だ! 」

「 私は誰の上でも構わないんで、兎に角やりたいだけよ 」

 レティは玉入れだけでは物足りなく、騎馬戦に出場したかった。


「 君達……聞きようによっては卑猥な会話になるから大きな声で揉めるのは止めたまえ 」

 ラウルが呆れた顔をしている。


 3人はスポーツ大会の騎馬戦で王子の上にレティが乗るか乗らないかで揉めているのである。

 昨年の騎馬戦でアルベルトの上にレティが乗った事から、レティが王子の上に乗るのが得策だと主張する王子であった。


「 絶対に駄目だ! レティは俺の上だけしか乗っちゃ駄目! 」

「 王子殿下、殿下が駄目だと言うからやっぱり乗れないわ 」

「 君が俺の上に乗れば、他の女の子達が争わなくて済むんだけどなぁ 」

「 諦めろ、レティを乗せるのも、レティに乗るのも俺だけだ 」


 最後の皇子様の言葉は何?

 会場の人々のダンボになった耳がチョッピリ赤くなった。



「 レティ、もう1度僕と踊ろう 」

「 はい、何度でも…… 」

 アルベルトとはファーストダンスを踊ったので2度目のダンスである。

 弓馬術が上手くいきレティは上機嫌だった。

 何度でも踊りたい気分だったのである。


 弓に興味を持ってくれる人がいっぱいになれば良いな……




 アルベルトはレティに聞きたいことがあった。

「 レティ、弓馬術をする事はグレイには言っていたの? 」

「 ええ、後は弓兵部隊の人達にもね 」

「 理由を聞いても良い? 」

「 カッコ良いじゃない? 」

「 それだけ? 」

「 ええ、それで皆が弓騎兵になってくれたら嬉しいの 」


 嘘は言っていない様だ。

 だけど……

 何故この計画を実行するのが俺では駄目だったのか?

 何故グレイだったのか?

 それを聞く勇気はアルベルトには無かった。



 しかし……

 何故レティが弓馬術が出来るのかは知りたい。


「君はなぜ弓馬術が出来るの? 」

「 それは……領地で…… 」


 彼女はそれ以降黙ってしまった。

 彼はそれ以上は聞かなかった。


 彼女は彼につく大きな嘘が辛かったのである。

 そして……

 彼は彼女がつく小さな嘘が嫌だったのである。





読んで頂き有り難うございます。

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