閑話─4年A組
皇子が入学して来られる。
ジラルド学園の学園長を初め先生達は、現皇帝陛下以来の皇子の入学に頭を抱えていた。
勿論、現役先生達全員が何十年も前の当時の学園を知る筈もなく、皇子とどう接するのが良いか……どう扱えば良いかを悩んでいた。
当時の先生達にお伺いを立てれば……
「 知らん 」「 忘れた 」と、全くの役立たずであった。
学園長達は、当時の学園長や先生達がいる虎の穴の赤のローブの爺達に聞きに行ったのだった。
この呆けた爺達がある美しい少女の出現により、やる気スイッチが入って他国へ視察まで行く事になるのはまだ少し先の話である。
皇子の遊び友達である、宰相、国防相、外相の息子を、護衛を兼ねて皇子と同じクラスに入れる様にと言う事だけが、皇宮からの要望であった。
彼等は当然ながら高位貴族である。
皇子と同じクラスにはやはり高位貴族の者を入れる必要性があった。
そして、特に気を配らなければならないのは女生徒だった。
実は、この年に入学する子息のいる貴族達から学園関係者に、皇子と同じクラスにする様に取り計らえと言う要請がいくつも来ていたのである。
特に、女生徒を持つ親からの要請は激しかった。
自分の娘が皇子に見初められるかも知れないのだから……
伯爵以上の爵位の令嬢から性格や様相などあらゆる事を想定して抜粋し、バランス良く入れたクラスが1年A組だった。
クラス編成が終わりいよいよ皇子が入学してくる事になった。
シルフィード帝国第一皇子アルベルト・フォン・ラ・シルフィード15歳。
キラキラした希望に満ち溢れている青年……いやまだ少年と言っても過言ではない程に、聡明で真っ直ぐな瞳を持つ眩しい程に美しい皇子様が入学して来たのである。
苦労してクラス編成に力を入れたが、学園側の誤算は上級生の女生徒達だった。
この皇子に上級生の女生徒達が色めき立った。
4年生にとってはこの1年が勝負なのであるから……
毎朝、毎休憩時間、毎昼休み、毎放課後、授業中以外の全てに皇子に張り付き、陰では爵位をひけらかしマウントの取り合いをしバトッているのである。
特に皇子のクラスは悲惨で、女生徒達は何をしても上級生達から目の敵にされていたのであった。
学園側も皇子自身も彼女達に注意をしたが、陰に隠れて虐めると言う事に歯車がかかるだけであった。
やがて皇子は2学年を迎える。
皇子は何も言わなかったが……
他国への留学が1年間に延長された事から、皇子が不快に思われていた事は間違いなかった。
皇子には快適な学園生活を送って貰いたいと言う願いも虚しく、完全なる学園側の失態だった。
そして……
1年間の留学を終えて皇子が帰国する事となり、学園側はまたあの状態になるのではと危惧していたが……
この年には、シルフィード帝国最高位の公爵令嬢が入学してくる事になっていた。
父親は宰相で名実ともに我が国最高位の令嬢である。
彼女がどんな令嬢なのかの情報が全く無かった事もあり、彼女の入学が吉と出るか凶と出るかが不安材料だった。
他の貴族令嬢を統率するか……皇子を巡って新たな争いを引き起こすか……
しかし彼女は公爵令嬢のイメージとは程遠かったのである。
庶民棟の生徒達の料理クラブに入部したりして、令嬢達のバトルに関係の無い場所に行ったのである。
そして……
皇子はそんな公爵令嬢を早々に見初めたのである。
これは学園側としては願ったり叶ったりで諸手を挙げて喜んだ。
我が国では誰もこの2人に横恋慕する事は出来ないのだから。
そして学園は皇子と公爵令嬢を中心に動き、皇子様と公爵令嬢の恋物語が生徒達の憧れとなり、平和が訪れ皇子も落ち着いて学園生活を過ごせる様になったのだった。
そんな苦労をした1年A組は4年A組となり、今、クラスの女生徒達は皇子と卒業プロムでダンスを踊っているのである。
皇子様は女生徒達と次々に踊りながら話した。
「 君達には迷惑を掛けた」
「 そんな事はありませんわ、皇子様と同じクラスで楽しかったです 」
「 君の1番の思い出は? 」
「 文化祭で優勝した事が良い思い出ですわ 」
「 このクラスで良かった事はあったか? 」
「 皇子様とラウル様達との授業が何時も笑いがいっぱいで楽しい思い出です 」
こんな言葉を交わしながら、皇子様は同じクラスの女生徒達全員と踊ったのであった。
皇子様と踊ると言う夢の様な想い出を作れた事で、4年A組の女生徒達の想いは報われた。
皇子様は2年年下の令嬢に取られちゃったけどね……
勿論、彼女達も皇子様に見初められたいと言う野望を持って入学して来たのである。
本日は2話更新予定です。
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