晩餐会で暴露
「 晩餐会だー! 」
「 肉だー! 」
「 お止めなさい! わたくしは息子を2人産んだ覚えはありませんよ 」
母は、私がデザインしたゆったりとしたドレスが気に入っていて、そのドレスを着る事で先程の怒りは少し緩和されていた。
父は、母が怒る時はとばっちりを受けない様にと、兎に角息を凝らして居ない振りを決め込む事が常であった。
お母様……お針子さん達を増員したので、しっかりと『 パティオ 』の宣伝をお願いしますね。
私もゆったりドレスに着替えて準備万端である。
漂ってくる美味しい匂いが腹の虫を刺激する。
控え室を出て会場に向かう。
何時もは舞踏会に使用されている皇宮の大広間である。
晩餐会が終わると、夜にはこの場で舞踏会もあるのでこの日は宮殿のスタッフ達はてんてこ舞いである。
スタッフに案内されて席に着席をする。
正面には皇族のテーブルがあり、そのテーブルの前に3列の長いテーブルが会場いっぱいに並べられている。
1番左端の列は大臣達や議員達の席である。
宰相であり貴族順第1位である公爵家のテーブルは、正面にある皇族のテーブルの直ぐ側である。
ウォリウォール公爵家の席の前の席には、順位2位の国防相であるドゥルグ侯爵家であるエドガー一家が座り、ウォリウォール公爵家の横には、順位3位の外務相であるディオール侯爵家であるレオナルド一家が座り、その後は順に順位に従って座って行く事になる。
真ん中の列は学者や医療関係者達が座る席で、その席も貴族の序列に従って席が決められている。
虎の穴にいる貴族達や医師会のメンバーが座り、ルーピンやシエル、ユーリ達一家がこの列にいる。
そして右側の列はシルフィード帝国で貢献して現役を引退した家族達が座る事になり、赤のローブの爺達がいればこの席に座る。
爺達はまだローランド国に居るのだが、爺達がいればさぞかし賑やかなんだろう。
皆が着席し大方の料理が並べられた頃に、ラッパが鳴り響き、「 皇帝陛下、皇后陛下、皇太子殿下がお出ましになられます 」の声とともに全員が立ち上がり頭を垂れる。
皇族の3人が各々の席に着く。
「 皆の者!杯を持て! 」
皇帝陛下の声と共に皆がグラスを手に取ると、スタッフ達が即座に酒を注ぐ。
「 新年を迎え、ここに一同が出揃った事に歓喜する、皆の功績が我が帝国の礎になる事と、皆の健康を祈念する……まあ、話しはまだしたい所だが、腹を空かせてこの晩餐会を楽しみにしてる者もおるでな…… 」
皇帝陛下がラウルとレティを見た……が、レティは並べられている料理に釘付けだった。
ラウルに横腹をつつかれ顔を上げると、皇帝陛下と目が合いニコニコと微笑まれた。
周りの者達は皇帝陛下の視線の先にあるレティを見ていた。
「 何? 」
キョトンとするレティ……
ルーカスとローズは苦虫を潰した様な顔をしていたが……
皇太子殿下はグラスを持ちながらクックと笑っていた。
「 今日は無礼講である! では……皆の者! 我が帝国の安寧と繁栄を願って……乾杯!! 」
「 乾杯!!! 」
シルフィード帝国がまだ小さな国であった頃は晩餐会は頻繁に開かれていた。
貴族達が国王に忠誠を誓い、国王がその功労を労う宴であったのだった。
それが平和の御代になり、今は1年に1度皇帝が高位貴族達を招いて集まる会が、この新年晩餐会となっているのである。
この日の、貴族達の注目は皇太子殿下の婚約者である、リティエラ・ラ・ウォリウォール公爵令嬢であった。
まだ、レティを見たことの無い貴族も沢山いた。
イニエスタ王国の王女との婚姻を蹴ることになった皇太子殿下の想い人に注視していた。
「 おお……聞きしに勝る美しい令嬢だ…… 」
「 殿下がご執心だそうよ 」
「 しかし……あんな小さな身体でお世継ぎを産めるのか? 」
「 まだ16歳……いや、うちの親戚の娘は15歳でももっとこう……… 」
やはり、皆の心配が世継ぎの事になるのは致し方の無い事であった。
皇族の席に座るのはたった3人なのである。
そして……
皇族の血を引く公爵家もレティが嫁ぐとラウル1人なのであった。
そんな心配を他所に、レティは良く食べた。
モリモリ食べていた。
「おお……公爵令嬢は良くお食べなさる、これなら…… 」
「 健康は問題無い様だな…… 」
小食である事が美徳とされてる独身の貴族女性達を他所に、レティの食べっぷりは気持ちの良いものであった。
美味しい~
高揚した頬を押さえていると………
視線を感じ……その視線の先には皇太子殿下がいた。
「 殿下! 美味しいですわ! 」
レティはアルベルトに思わず叫んだ。
周りがドッと笑いとざわめきに包まれた。
「 まあ……お可愛らしい…… 」と言う声もあるが……
「 食事中にはしたない 」
「 公爵令嬢ともあろう女性が……」……と、眉をしかめる輩もいる。
公爵令嬢として、完璧な所作とマナーで食事をしていても、愛する人に向けてのたった一言で非難される世界が貴族社会なのである。
余談だが……
こんな貴族社会で皇子様と平民の恋なんて成就される筈は無い。
クラウドがアルベルトの想い人が公爵令嬢だと知って、平民で無くて良かったと胸を撫で下ろした事があるのも、理解できる事なのであった。
可愛い……
「 たんとお食べ 」
……と、レティを見つめて、甘い声で言う皇太子殿下の顔は蕩けそうだった。
アルベルトは美味しそうに食べるレティを眺めながら、食事をしていた。
早くレティが横に来ないものかと……思いながら……
食事も終わる頃にはほろ酔い気分の輩が、あちこちに出向き色んな話をくっちゃべっている。
伝統のある無礼講の大宴会である事から、皇帝陛下の前でもこの日だけは皆リラックスしていた。
ローズは他のご婦人達の輪に行き、レティの思惑通りにドレスの話をしてくれていた。
ルーカスも前の席のデニスと話し込んでいた。
そこへ、グレイの父ロバートが酒ビンを持ってやって来た。
騎士団団長ロバートの登場である。
デザートを美味しく頂いていたレティはその顔を見た瞬間に席を立ち、身体がビシーッンとなる。
敬礼こそしなかったが……
3度目の人生で騎士であったレティは、君主である皇帝陛下や皇太子殿下には新人のレティが会う事は無かったが、団長には毎朝敬礼し絶対服従を誓い、過酷な訓練をしていたのであった。
「 やあ、君が殿下の婚約者殿だね 」
固まるレティにロバート団長が親しげに話し掛けてくる。
いかん……身体が反応してしまう。
そう言えば今の人生では初めましてだわ……
「 残念だよ、兄上ももっと早く教えてくれたら、君をうちの息子の嫁に貰えたのに…… 」
「 これ!ロバート! よさないか殿下の前で…… 」
デニスとルーカスが怪訝な顔をしている。
アルベルトはレティやラウル達のいる席にやって来た所であった。
「殿下、兄と宰相の間で、うちのグレイとリティエラ嬢の婚姻の話をしていたらしいんですよ……」
ほろ酔い気分で気持ちの大きくなっていたロバートが暴露した。
アルベルトは固まってしまった……
そして……
既に固まっていたレティは更に固まってしまった。
読んで頂き有り難うございます。




